ハンガリーからオーストラリアへ

November 10 [Sat], 2018, 23:15

Syrius『S/T』 AUS SPIN SEL-934377
ハンガリーのプログレッシヴ・ロック・グループ、シリウスのファーストアルバムの初版。

このアルバムに出会ったのは1990年代後期、西新宿でレコード屋をしていた頃だ。その頃まではSBBなどを一部を除き、東欧のロックに積極的に興味を持つことも無かった。最初に聴いた東欧ロックはキング・レコードのユーロピアン・ロック・コレクションで国内盤として発売されたハンガリーのオメガ「ガマポリス」で、当時の印象は「なんとものんびりとして緊張感の薄い、かといって牧歌的魅力があるわけでもない音楽だなあ」といったものだったと思う。確かさっさと売却してしまったはず。

それがレコード屋稼業を始めるにあたり、ベルリンでは安くでゴロゴロしていた東ドイツやポーランド、チェコ、ハンガリーのレコードをまとめて買ってきて聴いみてみたわけだが、(今聴くとそんなことは全然ないのだが。。)当時の耳ではどうにも西欧のグループにくらべ陳腐で野暮ったいものばかりで、「これは!」というものに出会うことは極端に少なかった。特に東欧のレコードはロシア盤やルーマニア盤を筆頭に録音がヘンものが多く、文字通り「音で勝負」できないものばかりだという印象だった。このへんはレコードの再生カーブがRIAA(Recording Industry Association of America)規格はでないだろうと想像していたし、適正カーブの資料も手に入れるのは絶望的だったので、半ばあきらめざるとえなかった。

そんな東欧ロックのなかで数少ない発見がこのシリウスのファーストアルバムだった。

Syrius『Az Ördög Álarcosbálja = Devil's Masquerade』 HUN PEPITA LPX 17439
当時は情報が無く、当然これがオリジナル盤だとばかり思っていたが、後にこれはセカンドプレスで初版はオーストラリア盤だと聞き、俄然興味が湧いた。さらにはオーストラリア初版のジャケットの装丁が特殊との情報でどうしても欲しくなった。

音楽的にはオルガン、ピアノのキーボードにギター、サックス、フルートのアンサンブルにBS&Tのデビッド・クレイトン・トーマスばりのしわがれ声ヴォーカルが載るもの。音楽的にもBS&T的なジャズテイストが感じられる。ところがこれが変拍子が加わりプログレに仕上がっている。ヴォーカルこそ大きく異なるが(まあそれでは意味ないかもしれないがww)リズム・セクションの重さも相まって中期VdGGの音楽に近い。しわがれ声のヴォーカルも得意ではないが、聴き慣れるとハマってくる。

それにしてもこのオーストラリア初版のジャケット、パッと見ると完全にダサいのだが、なにを考えたのかグループ名「syrius」が印刷されているのはアウタービニール。


発売元のSPINはビージーズのオーストラリア時代のレコードをリリースしているレーベルで、それなりにお金があったのだろうか? その割には本作は極端にプレス数が少なく、発見されてもこのアウタービニールが紛失して何のレコードかわかならくなっているものもあるそうだ。

完品は市場に出ると中々の高価格で取引されることが多い。
このアルバムをdiscogsで検索するとレーベルのカタログ請求シートのようなものの写真が写っているが、今回入手したこの品にも同じくそのプロモーションシートが付いていた。

もしかしてプロモーション用途に毛が生えたくらいしたプレスされなかったのかもしれない。

ハンガリーPEPITA盤も、盤が分厚くて音質もまあ悪くないが、オーストラリア初版の生々しいスタジオの空気感を伝える音を聴くとちょっと元に戻れない。優れた内容に変則ジャケットも加われば正真正銘「プレミア盤」の風格だ。

それにしてもハンガリーのバンドがなぜオーストラリアでデビューアルバムをリリースしたのだろう?
「Made in Hungary: Studies in Popular Music」という電子書籍にはSyriusのことがちょっと書かれていて、本作のリーダー格Miklós Orszáczky(後のJackie Orszaczky)によれば、グループは1962年から母国ハンガリーで活動していたがレコードを制作することができず、機会を求めてオーストラリアに渡ったのだそうだ。鉄のカーテンの向こうから新天地を求めて渡った先がなぜオーストラリアだったのだろう?1971年、Syriusは願い通りオーストラリアで本作を発表し、同年ハンガリーに戻ったそうだ。翌1972年ハンガリー国内のファンの為にPEPITAから同内容のレコードもリリースされたが、結局Jackie Orszaczkyは再びオーストラリアに渡る。
「ハンガリー動乱」が1956年。「プラハの春」が1968年。
1971年のSyriusのオーストラリア行きは帰国できているので、「亡命」のようなもではなかったということだろうか?
ミュージシャンが鉄のカーテンを越えるのは大変なことだったのではないだろうか?

シドニーに移住したJackie Orszaczkyは1975年にはプログレッシヴな大傑作「Beramiada」を発表。本国に残ったメンバーたちは1976年にセカンドアルバム「Széttört Álmok(愚かな夢)」を発表する。こちらはファーストからプログレテイストが抜かれたものだが、グルーヴィーで悪くない作品。後にジャズ系DJたちに発掘されクラブでプレイされることになった。

ちなみにJackie Orszáczkyは1997年に大ヒットしたSavage Gardenのデビューアルバムでストリングアレンジメントを行っており、このアルバム中のヒット曲「I Want You」は最近ではTVアニメ『ジョジョの奇妙な冒険 ダイヤモンドは砕けない』でも流れたので馴染みのある方もいることだろう。


そして恐るべきことにSyriusの映像がYoutube上にあった。


こうして見てみるとBS&T、Jackie Orszaczkyが影響を受けたというザッパ、そしてVdGGと、そのいずれからの影響も感じさせるような気がする(年代的にはVdGGは同時くらいなので偶然だろう)。
特に頭を振りながらトラディショナルグリップで叩くドラミングはガイ・エヴァンスを思い出す。

今一度、Syriusが見直されてもよいのではないかと思う今日この頃なのである。

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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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