Jaak Jurisson。辺境音楽の愉しみ。

June 22 [Thu], 2017, 21:17
先日、懇意にさせていただいている同郷のfacebookの友人が上京するとのことで、音楽の同好の士たちが集まる機会を持った。
Facebookのオフ会でもあったので今回お初の方もいらっしゃったが、みなさんいい年齢で節度がありつつも大いに盛り上がった。
おっさん同志の会話はどうしても不便な時代の音楽探求で盛り上がりを見せてしまう。そんな話は若い方にはさぞナンセンスで退屈だろう。

昨今若い方から思いもかけないような言葉をかけられ、価値観の違いに愕然とさせられることある。例えば最近の人はテレビを見ないという話から「だってテレビって途中から始まるからワケわかんなーい」という発言などかなり衝撃的でまさしく「その発想はなかった」と驚かされる。そんな発言のうちのひとつが「Youtubeの無かった時代はどうやって音楽を探して買ってたんですか?」というもの。

その問いに対し、なかば「フザけんな」的な勢いで「雑誌の記事読んだり、広告のうたい文句読んだり、ジャケだけ見て想像したりして買うんだよ!」と答えてしまうのだが、考えてみるとプログレファンのなかには、メインストリームに背を向け情報の無い方、無い方、道なき道、そして辺境の地へと目指す人々がいたことを思い出した。
彼らはどうやって情報を得ていたのだろう?
ネットの無い時代、もちろん雑誌には載っていない。店にも売ってない。どこを探しても情報なんか無い。
そんなバンドの作品をどうやって知るのか?
今にして思うと、実に不思議だ。

実はそれらはごくごく一部でやりとりされる「通販リスト」のおかげであった。

リストを発行する辺境プログレディーラーたちは、ファックスさえなかった時代に海外のディーラーとの文通や取引の中から激セマ情報を仕入れ、それらをやれ「アルゼンチンのイエス」だの「トルクメニスタンのマグマ」だの「ベラルーシのニュー・トロルス」だの「キューバの至宝」だのと言って紹介する。辺境地コレクターたちは音を確かめようもなく、そのわずかな一文を頼りに想像を膨らませ、チャレンジ的買い物をするのだ。

こう書くと辺境プログレディーラーは悪徳業者のように聞こえるが、まだ共産圏が鉄のカーテンも向こう側、南米は軍事政権の支配下だった時代に、細い情報の糸をたぐって玉石混淆の品々を仕入れていたのである。今と違ってブレトンウッズ合意以前だから為替レートも今よりはるかに円安で仕入れに厳しい状態。買い付けだって航空券はオフシーズンでも今の3倍近くした時代に現地に飛んでいたのだ。
そのうち多くにはいわゆる「スカ」も含まれていたが、中には英米では生まれない素晴らしいものも含まれいた。

そもそも、人は辺境に何を探しに行くのだろう?
世界各国にばらまかれたプログレッシヴ・ロック・ムーヴメントの果実を探しているのか?
当然、それもあるだろう。
テレビ番組のタイトルではないが「世界の国で発見!こんなところにプログレが」的に、プログレはどこまで伝わったのかをコレクションしているという喜びもあるだろう。

だが私は、その醍醐味は「未知なる価値観との遭遇」にあると思う。

以前紹介した今は存在しない「東ドイツのロック」を紹介したが、(http://yaplog.jp/geppamen/archive/1482)限られた情報の中、西側のロックの模倣を当局の規制を逃れながら、かつ極端な情報不足とローカリズムが合わさった「ヘンテコ・ロック」は、結果的にある意味「反様式美」的なものとなり結果的にプログレッシヴなもになってしまったりする。

今回紹介するこのバルト三国のひとつ、エストニア出身のJaak Jurissonは冒頭に触れたオフ会の席でかつての辺境プログレディーラーに冗談半分に半笑いで紹介されたアイテムである。
エストニアと言えばRujaやIN SPE等、シンフォニック系のバンドが思い浮かぶが、Jaak Jurissonはそれらとは全く異なる「曰く言い難い」音楽だ。
そして「曰く言い難い」ものは得てして「プログレ」とされてしまう。

物好きな私はひとたまりもなくこの「曰く言い難い」レコードを気に入り、さっそく探しだして取り寄せてしまった。



1984年旧ソ連メロディア・レーベルから出た4曲入り33回転7インチ。

まずジャケットがヤバい。ヤバすぎる。
誰だ?このおっさんは?

デカめのメガネをかけ口髭をたくわえた七三分けの若いのか年配なのか判別しづらいごく普通の男の免許証だか証明写真のようなジャケット。
先日の集まりの中でも、このレコードはせっかく買ってもジャケットのせいで聴くのを後回しにしている方もいらっしゃった。

これ見てジャケ買いするやつは地球上にひとりとしていないだろう。

いまはよくしたものでこんな辺境音楽も世界の誰かが発掘済みでYoutubeにアップされている。とりあえず内容をチェックしてみよう。

収録曲を聴いてみて思うのは「なにやら妙な音楽」という印象である。
パッと聴くとAORのような体裁の男性ヴォーカルものなのだが、通常メロディ構成はAメロ/Bメロ/サビとなるものだが、なにやらとりとめなく印象に残りにくいグネグネとつかみどころのないメロディ、どことなくヘンなコード進行に、ごく普通のおっさんの歌が出てくる。とても「口ずさむ」ようなシロモノではない。と思ったら突然ブレイクが来て中世的なメロディラインのリコーダーパートが飛び込む。メロディとメロディのつなぎも何やら突拍子が無い。



何なんだ、これは!?

まあ東欧のスティーリー・ダンと言えば言えなくもないが、コマーシャリズムと無縁な地で生まれたこの音は当たり前だがスティーリー・ダンとも全く異なる。
ジョン・グリーヴスのソロ「Accident」のタッチにも似ているが、グリーヴスはややイジワルな感じが見え隠れするのに対し、こっちは天然というか大真面目な感じだ。


ビートも「もっさり」していて妙だ。
下手なのか、わざとなのか、ニック・メイスンばりに32分の1拍遅れで入る引きずるようなドラムて、時として決めが変則的。
あえて近いものと挙げるとしたらスパークスかな?
キーボードの味つけは「トリック・オブ・ザ・テイル」「静寂の嵐」時のジェネシスのようでもあるが、ハッキリ言って遠く及ばない。
そしていずれの曲も「えっ?終わり?」といった感じの唐突な終わり方。

全体を通じてのぼんやりとした印象は「気持ち悪い」だ。

スティーリー・ダンとスパークスとジョン・グリーヴスとジェネシスを足して辺境風味で割った音楽か?
字面だけ見るとかなり凄そうだ。だが本当はこれをスゴイと最初に思った人こそ本当にスゴイ。

もう針を落としたらハラハラ、クスクス笑いながら聴く感じで、ジャケットの写っているJaak Jurissonの顔を見ながら頭の中をあれこれ想像してしまう。
いや、Jaak Jurissonは意外と大まじめに作っていて、それをニヤニヤ笑いながら聴いている私こそ、底意地の悪いヤツだ。
情報の少ない辺境の地での音楽への欲求が地域の価値観の結合し、畸形ロックを生み出したとすれば、それは異端キリスト教的のようでもある。
辺境マニアはもしかすると恵まれ状況下では決して生まれないそのエネルギーに触れたいというのが最大の動機ではなかろうか。

今は大した世の中で、Jaak Jurissonについては検索すると情報がいろいろとヒットする。
未だに活動中のようで、「Veskimees」という曲が有名らしい。

また2015年には新作が出ていてこちらで試聴できる。
https://soundcloud.com/froteerecords/jaakjurisson
2015年に公開された『1944 独ソ・エストニア戦線』という映画の音楽を担当したとある。エストニア映画としては記録的なヒットだったそうなので、もしかしたらエストニア国民の間では有名な人なのかもしれない。戦争映画か。。見てみたいものだ。

以前、スロヴェニアのブルドーザー(http://yaplog.jp/geppamen/archive/1462)も辺境畸形ロックの極北として紹介したが、このJaak Jurissonもメロディア盤の音の悪さも手伝って辺境畸形ロックの名盤として認定させていただきたい。
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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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