失われた国の奇妙なロック

October 10 [Sat], 2015, 0:59
50年くらいで無くなってしまった国、
ドイツ民主共和国。通称「東ドイツ」。

東ドイツというと真っ先に思い出すのはマエストロ、フランツ・コンヴィチュニーとライプツィッヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団で、ロックではないし、東欧のロックに触れ始めた頃もなかなか食指が伸びず。

20年近く前のレコード屋時代にようやく東ドイツの音楽に触れ始めたが、その印象は果たして良いものではなかった。

一年前、ポーランドのDJユニット、「Soul Set」のトークイベントの記事でも触れだが、長らく私は共産圏のレコードはRIAA規格とは別規格に準拠していて、東欧のレコードをそのまま今のオーディオで再生してもきちんとした再生が出来ないという考えを持ってきたが、それは西側の恵まれた環境から見た現実に則していないと考えを改めた。
レコードが残っているだけでもありがたく、マスターテープは上書きされるのが当たり前。ポピュラー音楽のレコード化作業での再生カーブなんて誰もきちんと管理していないのだと気づくとレコードから出てくる音を素直に受け止めるようになった。

共産圏のロックは政治や社会が生み出した「畸形」を孕んでいる。
さきほど触れた聴感上の「オーディオ的畸形」のほかに、ポーランドのミュージシャン達が垣間見せる「自由への渇望」であったり、極度の情報不足や情報操作によるヘンテコさだったり、深刻な機材不備によるやりくり加減だったり、このあたりが辺境地音楽の面白さだと思う。
「顕著なもの」も良いが、「ちょっと聴くと流せるが、なんとなくオカシイ」音楽も捨てがたい魅力を持つ

私にとって最も衝撃的な東ドイツのロックバンドは「Puhdys」である。
Puhdysは日本ではほとんど知名度は無いが、現在も存続する東ドイツの国民的ハードロックバンドである。
Puhdys - Jodelkuh Lotte


Puhdys(プーディーズ?)。。バンド名の響きもなんとなくヤバそうだ。

1975年発表のセカンドアルバムだが、この意味なくポップなジャケットもヤバい。
なによりヤバいのがB-1に収録されたこの曲である。
なにやらアナウンスが入ったかと思うと、モ〜〜〜ッという牛の鳴き声とドラム&ギター、ブチギレそうなテンションで俄然歌詞が気になるヴォーカル、とりあえずヨーロッパ人の引き出しの中でなんとかしようとした感漂うヨーデル(フォーカスの「悪魔の呪文」もヨーデルだが、やはり一種の畸形ロックだと思う)。極めつきは途中でいきなり演奏がいきなりストップし、ヘタクソなクラリネット一本になる部分だ。
初めて聴いた時は「ツボにはまる」という言葉がピッタリ来て、腹がよじ切れてしまうのではないか思うくらい爆笑した。
その後もサイレンが鳴りまくり、語りなのかアジなのかが入ってくる。明らかな「詰め込みすぎ」だ。音楽のわりにメンバーのテクニックが妙に安定してるのも共産圏っぽい。
曲名も調べてみると「Jodelkuh Lotte」Jodelがヨーデルでkuhはカウ(牛)。「ヨーデルを歌う雌牛のロッテ」といったところか?
これが「国民的ハードロックグループ」だとすると、東ドイツ国民にとって「ロック」とはこのような認識のものだったのか?セックスもドラッグもイデオロギーもアートも制限あるなかでの「ロック」とはこのようなものだったのか?

ちなみに今のところ未所有。そんなにレアなレコードではないのだが、誰も探していないのせいかなかなか出てこない。
笑いたくて買うようなもので、そんなにお金も出したくないから、気長に探しているところ。

東ドイツは共産圏なので、レーベルが国営である。
コンヴィチュニー指揮のゲヴァントハウス管弦楽団のレコードをはじめ、クラシックはETERNA、ロックやポピュラー音楽にはAMIGAというレーベルが存在するのみ。
90年代末にはベルリンのレコード屋に二束三文で膨大な旧共産圏のレコードが置かれていて、誰も見向きもしなかった。
西ベルリンのヴィルマースドーファーにあった2x2(ツヴァイ ・マル・ツヴァイ)はドイツ全土でも屈指の在庫量を誇るレコード屋だったが、奥のウェアハウスには膨大なAMIGA盤が無造作に並べられていたし、東ベルリン側にあった店は90年の東西ドイツ統一以前の雰囲気を多分に残していたが、やはりAMIGA盤がゴミのように積み上げられていた。あのおびただしいレコードは今はどうなったのだろうか?

そうだ。そもそもPuhdysは話の前振りだった。
というわけで閑話休題。

東ドイツは見るべきバンド、ミュージシャンは多くはない。
ざっとStern Combo Meissen、Uve Schikora Und Seine Gruppe、Electraあたりが思い浮かぶが、ここに紹介する「LIFT」も「どこかヘンテコなプログレ」のひとつだと思う。


Lift『S?T』 DDR AMIGA 8 55 550
特徴を大雑把にまとめると
@歌詞がドイツ語
A大作指向が感じられる
Bメロトロンを多用している
C西海岸風なコーラスが入っている。
D曲調が明るい。
Eテクニックが安定している。

パッと聴いた印象ではとにかくBのコーラスがジャマなくらい爽やかだ。

例えばフロイドが「ザ・ウォール」でビーチ・ボーイズのブルース・ジョンストンが参加しているのを観てもプログレとコーラスの親和性が必ずしも低くないはずだが、こと「LIFT」に関して当てはまらないようだ。

さらには@にあるように歌詞がドイツ語なので語感が固く、すごくバランスが悪い。

この他気づくのは、あまりコンプレッサーがかかっていないのか、音質は結構良いこと。
よって低域が異常に入っていて、音にパンチがある。
なんだか完成前のデモテイクを聴いているようだ。

おそらく厳格なRIAAカーブに準拠していないだろうから、ロシアの「MELODIA」やルーマニアの「Electrecord」よりはマシだが、それでもなんとなくオカシイ。

総合的には所謂「B級プログレ」的楽しみ方なわけだが、1975年と言えば西側諸国にプログレッシヴ・ロック・ムーブメントが起こり、お隣の西ドイツではタンジェリン・ドリームが「フェードラ」で世界進出を成し遂げたころ。
情報統制の下、どうにかして西側の音楽の情報を得、貧弱な機材と当局の監視の目をかいくぐり、どうにか見よう見まねでプログレを作り上げたのだ。
それが証拠にジャケットはドイツ語表記なのに、レーベル面はなぜかキリル文字表記されている。
これは体制がソ連の影響下にあったと推測するのは決してうがった見方ではなかろう。
共産圏から見ると、そもそもロックとは第二次世界大戦後に敵国で生まれた敵性音楽だったはず。
そう考えると、もっと愛されてしかるべき音楽ではなかろうか。
結果として「プログレ」という音楽ジャンルがもつ許容度の広さまで改めて証明してしまったような気さえする。

国民的自動車「トラバント」の車体がボール紙で出来ていたという伝説のある国、東ドイツで苦心惨憺の末に生まれ、異質なモノを詰め込こみすぎて異形の音楽へと変質した「LIFT」のファーストアルバム。

物好きでつきあいのいい方限定で、お薦めしたい一枚だ。
(一般にはお薦めできないって言ってるようなものか...)



ちなみにYOUTUBEは音質がよろしくないです。
レコードの方がすっとよいので。念のため。
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情報ありがとうざいました。知りませんでした。クラシックのETERNA盤のレコードを聴くと相当音がよさそうです。RIAAカーブさえなければ音が良かったのですね。
特にフェーダーやインプットトランスとか品質がすごく気になります!

by geppamen October 10 [Sat], 2015, 21:12

東独国営放送の音響機材群はその抜群の性能と音楽性からベルリンの壁崩壊時に西側に流出した際に欧米のレコーディングおよびマスタリングのエンジニアの間で激しい争奪戦になったということはご存知でしょうか?

by inikun9 October 10 [Sat], 2015, 7:03
P R
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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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