POLISH FUNK RECORD JACKET ANTHOLOGY

October 31 [Fri], 2014, 21:56
ポーランドはワルシャワで活動してるDJコレクティヴSoul Serviceの来日と共に渋谷のHot Buttered Clubで開かれていたイベント、POLISH FUNK RECORD JACKET ANTHOLOGYに行って来た。

イベントは10月28日〜10月31日までの期間開催されていて、写真のようにポーランドのジャズファンクやプログレを中心としたレコードのジャケット展の体を成している。ジャケットのフレームにはQRコードがあって、読み取ると音楽サイトへ飛んで音が聞けるようになっている。


面白い試みだ。

特に29日はSoul Serviceのトークセッションと聞き、「これは一見の価値あるに違いない」と感じ「ちょっと行ってみるか」的な感覚で行ってきた。

これまで、ポーランドの音楽はレコード屋時代から接する機会が多かった、特に1999年から2001年頃はポーランドのサバービア、ジャスファンク系レコードが人気だったこともあり、認識を深めることができた。

結果として、ポーランドだけではなく旧共産圏の音楽に時代背景を含めて興味が再燃いていたところだったので、トークを楽しみにして行ったところ、正に今聞きたかった話が満載で、大収穫のイベントとなった。



話の要旨をまとめると。。。

@社会主義政権下ではロック、ジャズなどの音楽は概ね「検閲」を受けていた。自由は制限され、音楽が発表されるためには、当局の許容範囲での表現に止められなければならなかった。

A90年代終わりから数年にわたり、ヨーロッパのジャズ系DJの間でノヴィ・シンガースをはじめとするポーランドのジャズブームが起こったが、実のところ60〜70年代のリアルタイムでは「ポーランド・ジャズファンク・シーン」なんてものは存在しなかった。

Bポーランドのジャズファンクは経済的な制限の上で限定的に発展した。例えば、
●一度録音したマスターテープは、レコードをカットしたら消去して次の作品を録音するので、マスターテープが残っていない(60〜70年代のNHK放映の番組みたいな話)。
●マルチトラックレコーディング設備が少なく、したがって殆どの作品が一発録りだった。よって仮にテープが残っていても「リミックス」ができない。
●生産コスト削減の為、80年代以降、レコードの原材料に石炭を混入した粗悪品が流通した時期があった。
そのため後のプレスほど音質が悪い。またレコードはレーベル面の紙代をケチるなど細かい部分で涙ぐましい努力と知恵があった。

Cミュージシャンには当局から「音楽ライセンス」が発行されていた。これが無いと国内の音楽フェスなどには出演できない。ニーメンのような著名なミュージシャンでも発行されなかったケースがある。

話の趣向が少し変わるが、ちょっと面白かったのが、2000年ころDJたちの間でもてはやされた、Grupa ABC「 Za dużo chcesz」について。Grupa ABCはテレビの公開オーディション番組でできたバンドで、視聴者のお葉書による投票でメンバーが決まったのだそうだ。

FOX TVのオーディション番組や、古くは浅草橋ヤング洋品店みたいだ。
ちなみにソウルフルなヴォーカルを聴かせるソロでハリーナ・フラコスヴィアックは数多くの作品を発表している「ポーランドの和田アキ子」(失礼!)だが、二作目と三作目ではあのSBBをバックに従えてプログレファンにもうける作品を発表している。

その他、イベントに来ていた同年代のポーランド人との話の中でも興味深い話がチラホラ。
ミュージシャンやアーティストは監視の下に生きてきた一般市民にくらべて、音楽制作を通じて海外に行くチャンスがあったので、西側諸国の風に触れることができる羨ましい存在だったとか、ポーランド人の一般家庭にはレコードプレーヤーなんてなくて、いわゆる一部特権階級の持ち物だったとか。

道理で東側のレコードは中古盤で見つかったとき、盤はミント状態でジャケットがボロボロのものが多いわけだ。

Soul Serviceの口から語られる言葉は、社会主義体制下のポーランドのミュージシャンがいかに貧弱な設備、制限された表現、限られた予算と時間の中で作られたものかを切々と語る。
そんな中で制作されたポーランドのサバービア、ジャズファンク、プログレが西側諸国にくらべ如何に「切実な」希求によってもたらされたものかが伝わってくる。

我々はなんと恵まれているのだろう!

トーク終了後の質疑の時間、私は積年の疑問をぶつけてみた。

それは社会主義体制下のレコード再生の規格についてだ。

70年代以降のレコードはRIAA(Recording Industry Association of America)の定めた規格によって作られている。

レコードは塩化ビニールという固体に記録するため、カッティング時に、低音域を減衰させ高音域を強調して記録し、再生時に記録時と逆の周波数特性をもつ補正増幅器、すなわちイコライザアンプ(RIAAイコライザー。アンプのPHONO端子内の回路のこと)を通して再生することで、再生される周波数特性が平坦になるような手法を用いている。
この時の高域、低域の増幅・減衰の規格を今の統一基準に定めたのがいわゆる「RIAAカーブ」である。

RIAAカーブは1950年代に確率した。しかるに60年代末までは、デッカのFFRR(ローリング・ストーンズのオリジナル盤などにある耳のマークがこれ)をはじめとする異なる規格が林立し、レコード会社によってまちまちの規格でカットされている。
たとえばクォード22のようなアンプでは、この各社まちまちの再生規格を選択して最適な再生ができるよう、スイッチが付いていた。

つまりレコードの再生規格は米ソ冷戦時代に出来上がったものなのだ。

ならば、東側のレコードの再生規格はどのようなものだったのか?

少なくとも冷戦下にRIAAを倣って製造したとは考えにくい。

もし、マスターテープに次々上書きしていたのだとすると、当時の音質を最も当時のままに伝えるであろうレコードの再生規格を入手し回路を自作すると、当時のありのままの音が再生できるのではないか?

私は長らくそう考えてきた。

なぜなら特に旧ソ連のメロディア盤にその傾向は顕著だが、その他の東側のレコードはどれもこれも西側諸国のそれとは明らか違う音がするからだ。

場の空気も顧みず、私は思いきってこの質問をぶつけてみた。

だが、答えは「わからない」だった。

考えてみると当然だ。

Soul Serviceは私より若いし、純粋な音楽愛好家だ。
わからなくても無理はない。

だが、Soul Serviceの答えの中で、考えさせられたのは「録音時には西側のような優秀な技術者やオペレータはいなかった」という言葉だ。

機材だって正しく使われた保証なんてないのだ。

そうだ。再生規格がどうのこうのなんてちゃんと管理させていなかったんじゃないか?
それどころか、制限の多い環境でどうにかメディアまで落としてくれた貴重な音源じゃないか。

我々は先人の残してくれた音源に対し敬意を以て接するべきなのだ。

そう考えるといままでの疑問や自説が急にどうでもよくなった。

最後のSoul Serviceが締めくくったミハル・ウルバニアクの言葉が象徴的だ。

「マイルスやコルトレーンにあはドラッグがあったが、我々にはアルコールしかなかった」

ミハル・ウルバニアク、ズビグエニフ・ザイフェルト、ヴウォヂミェシュ・グルゴフスキ、チェスラフ・ニーメン等、先人たちの努力に敬意を払いつつ、情報が少ないが故に出来てしまう「トンデモ音楽」のご愛敬も含めて楽しんでいければと思った夜だった。
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ちんたろ男さん、レス遅れてすみません。
SBB、「シレジアン・ブルース・バンド」でしたっけ?
テクニカルだし、素晴らしいバンドです。

ニーメンはたくさんの作品を出してオランダなどでもLPを発表してたりするわりに、「音楽ライセンス」が支給されなかったというエピソードがあるくらいですから、西ドイツでLPを出していたSBBももしかすると国民の支持とは別に、当局から疎まれていたかもしれませんね。

DJたちは、「ポーランドにジャズ・ファンクのシーンなんてなかった」と強調していたので、今も昔も「ポーランドはファンク」ってのは私たちの幻想かもしれません。

ただ、この日50過ぎのポーランド人女性と席が隣通しだったのですが、彼女は若かりし日にスカルドヴィエというプログレ系のバンドのライブに行って握手とサインをもらったという話を嬉しそうにしていたので、シーンとは別に人々の音楽に対する愛は深かったのだろうと思います。

by geppamen March 10 [Tue], 2015, 13:46

こんにちは。ちんたろ男です。ポーランドのプログレがフールズメイトだかマーキーだったか忘れてしまいましたが、初めて紹介された時はとても驚きましたし、強烈に興味がわきました。プログレのトレンドもヨーロッパからさらに拡大し、辺境ロック化し始めていたように思います。ちんたろ男は割りと入手しやすかったSBBが気に入りました。アナログレコードからCDの時代に入ってSBBの作品は再発をはじめ、新譜やDVDまでやたら発売されましたので、意外に国民的バンドだったのでしょうか。彼らの演奏を聴いていると、そのカテゴリーにとらわれない表現力に驚かされます。しかもとてつもないテクニシャン。私が彼らに強烈に惹かれるのは“禁欲的な音”です。クールと言うか冷静と言うか、どんなに演奏が白熱しても、常に体温は若干低めといった感じが、たまりません。それにしてもとてつもない数のスタジオ作とライブを出してますね。知りませんでしたが、今、ポーランドはファンクなんですか?なんだか自分のイメージとは真逆でビックリしました。

by ちんたろ男 January 17 [Sat], 2015, 20:23
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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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