私のアンソニー・ムーア考

April 21 [Sun], 2013, 22:00
アンソニー・ムーアが1976年に発表した7インチ「Catch A Falling Star」を購入。
私はあまり特定のアーティストをコンプリートしたいと思わない方なのだが、アンソニー・ムーアはコンプリートしたいと思う数少ないアーティストのひとりだ。よって、あまり探している人がいない割にレアなこの7インチが入手できたのは誠に喜ばしい。

1976年に制作されたアンソニー・ムーアのソロアルバム「OUT」は実際にジャケットと音盤まで制作され、V2057の番号まであったのに発売直前にお蔵入りとなった作品だ。

Anthony Moore『Out』 UK VIRGIN V2057

発売予定であったことを物語るように私はプレス配布用のジャケットのカラーコピー、資料、カセットを所持している。

お蔵入りとなった「OUT」は制作は20余年を経て突如として1997年にヴォイスプリントからCDでジャケットを替えてリリースされる。

写真は数年前にオークションで落とした、当時プレス関係者の間に出回った作品リリースに先駆けて配布されたカセットテープとジャケットのカラーコピーである(これが決してお安くはなかったが。。)。
後にロックマガジンの阿木謙氏が雑誌やブログ等で紹介していることも一部の人々の間で知られている。

そんな「OUT」に収録されるはずだった2曲が2枚のシングルとしてリリースされている。
1枚は
Slapp Happy Featuring Anthony Moore『Johnny’s Dead』 UK VIRGIN VS 124
そしてもう一枚が前出の
Anthony Moore『Catch A Falling Star』 UK VIRGIN VS 144
である。


スラップ・ハッピーとヘンリー・カウのコラボレーションが解消された時、ダグマーがヘンリー・カウに残ったため、スラップ・ハッピーは実質解散状態となるわけだが、スラップ・ハッピー名義の方がムーアのソロより売れるという見込みがあったのが、『Johnny’s Dead』は「Slapp Happy Featuring Anthony Moore」のクレジットとなっておりムーアがヴォーカルをとっている。B面もムーアが歌うスラップ・ハッピーの『Mr. Rainbow』をなっている(アルバム未収録)。同曲の中間部分で聴ける女声コーラスは、私はダグマーのものだと思っているがクレジットがなく、違うかも知れない。
『Catch A Falling Star』の方はペリー・コモ等で知られる、あのスタンダード・チューンである。
B面は『Back To The Top』。こちらもアルバム未収録。
ちなみに音的はいずれも「OUT」の作風に沿ったポップチューンである。

私はアンソニー・ムーアという人になぜか非常に惹かれる。
なぜだろう?
スラップ・ハッピーが好きな人は世に少なくないが、その多くがおそらくダグマー・クラウゼのヴォーカルだったり、ピーター・ブレグヴァドの詩の世界だったり、あるいはバックを務めたファウストとの化学変化で出来上がった摩訶不思議な音世界であったりする。

だが昔から、私はスラップ・ハッピーの中でも比較的目立たない「アンソニー・ムーア」が気になって仕方がない。
そんなに多くの作品を発表している人ではないのだが、何だか私のテイストに合うような気がするのだ。
こんな人あまりいないと我ながら思うのだが(笑)、「マイ・ベスト・アンソニー・ムーア」を作ってみると。。。

@「Pieces From The Cloudland Ballroom」
A「Slapp Happy」(ヴァージンから出たファーストアルバム)
B「Sort of」
C「Flying Doesn't Help」
D「Secrets Of The Blue Bag」
次点「Out」「Acnalbasac Noom」

といったところだろうか。
一般に最も評価が高い「Acnalbasac Noom」が次点扱いになっているところがポイント。


@Anthony Moore『Pieces From Cloudland Ballroom』 GERMANY POLYDOR 2310 162
はファースト・ソロアルバムだが、アンソニー・ムーアの最大の野心作と言えるだろう。
音的には実験音楽だが、特にB面はファウストとの共通性を持ちつつミニマル&ドローン的要素が顕著で極めて興味深い。
Aは多くの人が愛してやまないファウストがバックを務めた「Acnalbasac Noom」に対し、ほとんどがムーアの主導によって作られ、ファウスト色が全く感じられないポップソング集に仕上がっている。
各曲が曲調もタンゴ、ボサノヴァ、ポップス等様々で、そのいずれの曲も、いちいちアレンジをガラリと変えているので、ヴァリエーション豊富で瞬く間にアルバム1枚聴き通してしまう。
まさしくムーアの才気煥発とも言える究極的なアルバムだと思う。
B「Sort of」はスラップ・ハッピーの最初の作品でファウスト色が強い。まだまだ、ダグマー以外にピーターがヴォーカルをとる曲も多く、3人の才能の融合が完成途上にある作品。それゆえなんとも言えない哀愁があり、ノスタルジー溢れる作風に仕上がっている。
Cはなぜか一般に評価の高くないアルバムだが。個人的には大好きなアルバム。ほぼ自主制作で発表された本作は時代を象徴し。これ以降のニューウェイヴよりの一連の作品へのターニングポイントとなった作品。興味深いのはスラップ・ハッピー/ヘンリー・カウの「WAR」をノイジーなオルタナティブ系サウンドでセルフカバーしている点。
よく聴くと、メロディラインそのものは実はオーソドックスなのだが、ノイジーなアレンジがオルタナティブ色を出しているところは、実はスラップ・ハッピーのヴァージンからアルバムと実は共通しているということに気づく。この前後にかのディス・ヒートのファーストアルバムのプロデュースを手がけていたことも忘れてはならないだろう。

DAnthony Moore『Secret Of Blue Bag』 GERMANY POLYDOR 2310 179
は@に続くムーアのドイツ・ポリドールから発表された実験音楽作品第二弾。レコード片面にわたり、ドレミファソを延々ピアノやヴァイオリンで引き続けるという人をくったような作品だが、このへんは実験音楽やポップソング、演奏技術にアンチな対する考え方が実にムーアらしいではないか。

次点としてようやく「OUT」を挙げさせて頂いた。

本作を考えるにあたり、1976年という時代背景を無視するわけにはいかなだろう。
パンク・ムーブメントが始まり、ヴァージン・レーベルの方向転換するタイミングにあたり、たいしたことはなかったであろうスラップ・ハッピーのネームバリューも使いつつ、アメリカ流行しつつあったAOR的音作りにも通じる音作りではないかと思う。
ムーアが自らヴォーカルをとっているが、歌だけとると悪くない感じだが、ポップソングを歌ってある程度人気を得るには少し「華」が無い感は否めない。
先行リリースの『Johnny’s Dead』も売れなかったようだ。
というのも、イギリス人の友人の思い出話として聞いたのは、Vernon Yardにあったヴァージンのオフィスの前に、『Johnny’s Dead』のシングルがまとめて捨てられているのを見たことがあるからだ。
ムーアの才能から考えるともっと色々できただろうに、見るからに中途半端なポップソング集になってしまったのは、やはり当時の音楽シーンを巡る背景を考えるとやむを得なったのかもしれない。
結局、レコードもプレスされジャケットも出来上がった後にお蔵入りしたのは、時代的に微妙な出来の作品が発売時期を逃したということだろうと推測できる。

しかるにしばらく年月を経過して改めてこの「OUT」を聴いていみると、これはこれでなかなかいアルバムだ。
多くの音楽を聴いた耳で語ると、凡庸であると言うこともできるかもしれないが、余計な偏見や、「ロックはかくあるべし」という余計なてらいを捨て去れば、これはこれで愛すべき音楽なのではなかろうか。ムーアならもっと色々できたとは思うが、実際に彼はこの「OUT」の怨念を晴らすべく、かどうかは知るよしも無いが、その何年後かに、かれの才能と時代を折り合わせた渾身の一作「Flying Doesn't Help」を発表することになるわけだ(自主制作だからさほど注目されなかったが)。

最後に、ムーアをとりまく思い出話をひとつふたつ。。

1987年にロンドンのレコメンデッドレコーズに滞在していた時に、友人だったスタッフの協力でダグマー・クラウゼの家を訪問したことがある。たしかダグマーはその時ケヴィン・コインとの共作「Babble」のプロデューサーのボブ・ワードと暮らしていたと思う。
ひとしきり話を終えて帰ったところで、そのスタッフを話をしながら、自分がアンソニー・ムーアのファンであることを話すと、彼は「よかったら電話してあげるから話してみるかい?」と言ってくれた。だが同時に彼は「彼はとてもeloquentだよ」と少し眉をひそめながら言っていた。そのスタッフはとても良い人で当時の私でも「eloquent」があまりいい意味ではないことは知っていたので、話すときっと失望するよという意味だろうなと悟り、せっかくの申し出を遠慮した思い出がある。
当時は若かったので、時間なんて無限にあるくらいに考えていたわけで、今にして思うとずいぶんともったいないことをしたと思うわけだが、これはこれで美しい思い出のひとつではある。

最後に下らない思い出も加えておこう。
「OUT」を初めて聴いたのは実はヴォイスプリント再発のCDではない。80年代後半音楽活動をしていた時、ちょっとした縁があって「OUT」の音源を持っているという京浜兄弟社の岸野雄一氏にコピー(当時はカセットテープ)をもらった。この次点で『Johnny’s Dead』のシングルは聴いてはいたが、アルバム全体を聴いたのはこの時が最初である。実はこの時のテープ、最初の部分30秒くらいにクィンシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」が入っていた。「やれやれ、間違えたのか、つかまされたのか」と思ってガッカリするや、やがてフェイドアウトして「OUT」が始まった。
このテープが岸野氏の性格を表していて面白いと思うのだが、おかげで私の頭のなかでアンソニー・ムーアとクィンシー・ジョーンズはセットになっているのだった(笑)

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突然ご連絡すみません。アンソニームーアさんが昨日からいらっしゃっており
我々と展覧会、ならびにご好意でちいさなコンサートを開きます。
もしお時間がありましたら遊びにきていただければとおもいます。
場所は後楽園の駅のそばでデザイン小石川というところです。
どうぞよろしくお願いします。 芦沢啓治

by Keiji Ashizawa October 21 [Sat], 2017, 11:47
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40代は第2の思春期なのだそうです。思春期に惹かれたものをもう一度ひっぱりだしてきて後生大事に整理を始める今日この頃。プログレを中心としたアナログレコード集めに人生の貴重な時間を費やすささやかな記録です。
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