TくんとHくん

July 28 [Sat], 2012, 2:00
事の発端は、大学4年時に地元で開かれた同窓会で再会したTくんとうっかりやっちまったことであった。

東京に戻った後もずるずるとやっちまっていたのだが、ある日突然Tくんからの連絡が途絶える。
メールも電話も返ってこない。しかしこっそり調べ上げたmixiにもTwitterにもFacebookにも、彼はしっかりログインしていた。
無視されている……!
わたしは彼の急な変化の理由が分からず、一人でウイスキーのボトルを空けてゲロゲロ吐きながら泣いた。

Tくんは大学4年の2月の時点で就職が決まっていなかった。彼が悩んだ末下した結論は「オーストラリアへのホームステイ」であった。
最初は「おれ、就職しないで留学するんだよね」と言っていたのが、よくよく話を聞くと7割観光みたいなホームステイだと判明。大学に通うわけでも何でもなく、現地では「何かボランティアとかする」とのこと。

彼の将来設計のあやふやさと社会をベロベロになめた態度にさすがにちょっとヤバいにおいを感じ友人に相談したところ、全員が口を揃えて「やめとけ」と言った。
しかし反対されると燃えるという分かりやすい恋愛キ○ガイであったわたしはどんどんTくんにのめりこんだ。しまいには貯金してオーストラリアに行って一緒にコアラを抱く妄想に勤しんでいた。

数日間酒に溺れた末、わたしは思い切って親友のHくんにTくんのことで聞きたいことがある、と電話をしてみた。事の成り行きで数日後、Hくんと家の近所でご飯を食べることになった。

全く土地勘がないのになぜか主導権を握りたがるオラオラ系のHくんのチョイスで、店員も客もインド人しかいない狭いインド料理屋に入った。母国にいながらにして完全なるアウェイ。CoCo壱でいいのに。

わたしはインドのおじさまたちの「あいつら何でいるの」的な視線を感じながら話を切り出した。

「実はTくんと2人で会ったりしてたんだけど、最近急に連絡がこなくなって……」

「え? T? あいつ彼女いるじゃん」

話は2秒で終わった。

ご飯が喉を通らなくなったわたしはカレーをほぼ残して店主に謝りながら店を出た。

そして気付くと自宅のベッドで裸になっていたのである。

いや別にその間気を失っていたわけではない。
Tくんには長らく付き合っている歳上の美人な彼女がいること、わたしの名前がTくんの口から発せられたことは1度もないこと、わたしのような半ストーカー女はTくんが最も苦手とするタイプであることなどをHくんから聞かされ、悲しみのあまりアホほど酒を飲んで酔っ払ったところにHくんからセックスオファーを受け、やけっぱちでそれを了承したのだった。

しかし酔いが覚めてくると、Hくんは全然好みじゃないし、ギターの形の錆びたピアスを片耳にだけするというなかなかエッジのきいたセンスをしていたし、ちょっと腹出てるしで、もう全然少しもやる気が出なかった。

わたしは適当に気持ちいいふりをしてさっさとイッてもらおうと思い、なぁなぁの演技を開始した。
しかしHくんが我が校きってのヤリチンであることをわたしは忘れていた。
わたしのような者に欺ける相手ではなかったのだ。

天井を見つめながら完全なる棒読みであんあん言っているわたしの左頬に突如衝撃が。Hくんがわたしにビンタをくらわせたのだった。

Hくんは鬼の形相で「正座しろ!」と言った。わたしは「親父にもぶたれたことないのに〜!」と思いながら全裸のままベッドに正座した。

「おれはちゃんと事前にお前の意思を確認したしこれはれっきとした和姦なのに、お前のその無理矢理やられてますみたいな態度は何だ。やると決めたら双方がお互いの快感の為にきちんと努力するのが筋だろう。お前にはセックスをする資格がない」
というのがHくんの主張であった。

「わたしにはセックスする資格がありませんって言えよ!」と謎の復唱を要求され、何かもうめんどくさかったのでわたしは「わたしにはセックスする資格がありません」と言った。何だこれ。

「あと単純にセックスが下手くそすぎる、紙とペン持ってきておれが今から言うこと全部メモれ」

わたしは全裸のままレポート用紙とボールペンをとりに行き、再度ベッドの上に正座した。

そして男性を、というかHくんを快感に導く為の講義をみっちり受けた。
わたしは久しぶりにクソ真面目にノートをとった。
次第に変なテンションになってきて「なるほど!なるほど!」とか「勉強になるー!」などとHくんを持ち上げた。Hくんは機嫌を直し、一発ヤった後ごふーごふーとダイナミックにいびきをかきながら寝た。

Hくんにベッドを占領されたので冷たい床で眠りながら、わたしは自分ちなのに床で寝てるのウケるー! と思っていた。完全にテンションが変になっていた。

ウケるーウケるー、と小声で繰り返しながら考えた。
ブスでスタイルも悪くてストーカー気質でセックスも下手だったら多分今後誰にも好かれないだろう。顔も体型も性格もどうにもできないけどセックスは上手になれるかもしれないから、頑張るべきかもしれない。

わたしは射し込んで来た朝日の下でメモを読み返し、イメトレを重ねていつの間にか眠りに落ちた。

起きるとHくんはいなかった。

その後わたしは技術向上の為に努力を重ね、現在に至る。

セックスなんて相手と時と場によるもので、技術の絶対的な評価なんてなく、上手いとか下手とかいう概念の存在自体が怪しいということは、Hくんは教えてはくれなかった。
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