ナチュラルメディスン 30
2004.05.01 [Sat] 17:29

『もっと病人に注目せよ!』

近頃、書店で目に付くのが「健康」や「ダイエット」に関する本である。健康関連の本では免疫学を筆頭に、自然治癒力や代替医療、自然医学がにわかに注目を集めている。現代の日本の医療状況は、まさに危機的な様相を呈し、増大する国民医療費、問題の多い介護保険、多発する医療事故、先端医療によって揺らぐ生命観など、大きな変革の時期を迎えているようである。

元来、人間の体が病気になるまでには長いプロセスがあり、あるポイントを越えると現代医学でしか扱えない領域となるが、それまでの段階では本人がいくら訴えても病気として認知されない。人間の自然治癒力が完全無欠ならば病気にならないはずなのに、現実には病気が蔓延しているのは、生活の至るところに本来の自然治癒力を損なう原因が存在しているからである。

このような医療の現状をふまえ、改めて古代の偉人・ヒポクラテスの教えに目を向けてみたいのである。もともと医療の出発点には二つの方法があった。ひとつはエジプト医学の伝統を引き継ぎ、病名をつけて外科的な処置を得意としたクニドス学派、もうひとつは診断に重きを置き、内科的アプローチと食餌療法を得意とするコス学派である。

両者は医学史上、互いに主導権を争っていたが、前者が西洋医学の発端となり、後者が自然医学の発祥となったと言われている。しかし、更に科学的な考え方をしたヒポクラテスは「医学の出発点は診断にある」と提唱し、食餌療法や薬物療法と並んで、外科的治療もまた医療の一部でしかないと位置付けていたのである。これが科学的な根拠に基づいた「自然医学」のはじまりとなったのである。

ヒポクラテスはまず患者の隣に腰をおろして話しかけ、目、皮膚、耳、額、呼吸、心臓などの生理機能を観察し、診断を通して病気と治療の基を探ろうとした。患者の隣に座って望診や問診をするのが「クリニコン」であり、これが臨床医学の起源に当たるものとして、その後転じて「クリニック」という言葉が定着したのである。

毎朝、ヒポクラテスが患者の病床を見舞うやり方は、大学や病院の朝の回診という形で現代にも伝わっている。回診を通じて診断と医学の実地教育を弟子たちに教えるというのは、医学の父・ヒポクラテスのイメージにふさわしい方法と言えるのではないだろうか。

大自然は、季節というエネルギーの変化を通じて植物界、動物界に影響を与えている。例えば、春と夏は人間の四肢を活発にしえ肉体を発達させ、秋と冬は脳を活発にして心と精神を発達させる。また春夏秋冬の旬の食材は人間に必要な栄養素を与える。つまり自然の変化を素直に受けた食生活をしていれば健康を保てる可能性も高くなるのである。

人間の歴史は、病気の歴史であるとも言われている。いかに医学が進歩したとしても病気を全滅させることは不可能である。だからこそ病気にだけ注目しないで病人に注目し、臨床を重視した治療と医療教育が必要とされるのである。

ヒポクラテスは「もっと病人に注目せよ」と言う言葉を残している。現代日本の医療問題を解決する方策の鍵は、全てヒポクラテスの中にあると言っても過言ではない。「超一流の医学と二流の医療」と言われる現状から脱却するために、医療者はもう一度ヒポクラテスの言葉を真摯に受け止めて、医療の原点に立ち返るべきではないだろうか。

健康コラム