『ガールズ&パンツァー 劇場版 GIRLS und PANZER der FILM』 感想

December 08 [Tue], 2015, 19:34
 
 日曜にようやっと観に行けました

 注:以降ネタバレ有り

 
 2012年の秋クールに放映され、放送中にどんどん人気を博し大ヒットを記録したアニメ、『ガールズ&パンツァー』
 放送中に納期に間に合わず総集編二回を挟んで翌年に11、12話を放送という大失態はあったものの、単純明快ながら縦軸で成長をしっかりと描いていくストレートな面白さと緻密な戦車や風景の描写が受け、舞台となった茨城県大洗市が観光で賑わったりするなど一大ムーブメントを巻き起こした作品である。

 
 昨年にはOVAとして、本編では尺の都合で結果のみが提示されたアンツィオ高校との全国大会二回戦を描いた『これが本当のアンツィオ戦です!』が発売されたが、本編の『その後』は円盤特典OVAやドラマCDなどでちょこちょこ描写されていただけであった。
 今回の劇場版は、満を持してその『その後』ががっつりと描かれるというところがまず一番の見どころであろう。


 大まかなあらすじとしては、全国大会優勝後のエキシビジョンマッチを終えた大洗女子の面々が廃校が決定したことを知らされ、それを正式に撤回するために大学戦車道の選抜チームと対決するというものだ。
 今作のテーマの一つとして、『テレビシリーズの描写の否定を交えつつ、キャラクターの成長と多数の戦車の活躍を描く』というものがあるという印象を私は受けた。
 
 
 テレビシリーズの奮闘は「優勝すれば優勝校を廃校にはしないだろう」という杏のアイディアに端を発し、最後は戦車道履修者が一丸となって試合に臨み、優勝したことで「これで廃校にならずに済む!」と歓喜するところで終わるという流れになっている。
 つまるところ、テレビシリーズの物語の『ゴール』だった『廃校の撤回』が無くなるというところがまずテレビシリーズの否定であり、これはかなり大胆な試みだというのが正直な感想だ。
 「あれは口約束で確約ではない、廃校は繰り上げで8月31日付け」と聞かされた時の大洗女子の面々の「私たちの戦いは何だったんだ」という反応は、それを如実に表している。
 
 今作では冒頭に『3分間でふりかえるガールズ&パンツァー』なるテレビシリーズのおさらいコーナーがあり、視聴済みの人にも未見の人にも優しい仕様となっている。
 だが、当然と言えば当然だが今作はテレビシリーズを見ていること前提の小ネタが多く含まれている。
 
 序盤の大洗女子学園&知波単学園VS聖グロリアーナ女学院&プラウダ高校のシーンでは、
 
 ・黒森峰相手に仕掛けた分断戦法が通用しない
 ・ウサギさんチームが最終回でとった接触戦法がノンナには通じない
 ・最終回同様に丸山ちゃんが何か言おうとするも「ちょうちょ……」ととぼけた一言で敗北につながる


 と、最終回での奮闘を『否定』するとも取れるシーンが差し挟まれている。

 だが、この『否定』『肯定』と表裏一体の形をとっている。
 いくつかの事象を『否定』しつつも、積み上げてきた物語そのものは否定せず、むしろ肯定しさらなる成長を描き出す材料となっているからだ。
 今作において最大の『否定』である『廃校の決定』
 これは、今度こそ廃校を覆すための杏の奮闘、しほや蝶野教官ら戦車道連盟側のはたらき、今作の見どころである『各校の連合チーム』の結成、そして大洗女子一同の頑張りを描くための材料として非常に良い働きをしている。
 テレビシリーズの物語を通じてみほを中心に突き進んでいった大洗女子の頑張りが皆の心を動かし、絆を形作ったということが確かに証明される『肯定』であると言える。
 
 前述の丸山ちゃんの「ちょうちょ……」も遊園地での観覧車の一件を踏まえれば、テレビシリーズの否定でありつつ終盤で成長を見せる為の材料であると言えよう。


 もちろん否定と肯定の表裏一体ばかりではなく、シンプルに目に見えて解るキャラクターの成長や、テレビシリーズを見ていれば思わずニヤけてしまう小ネタも用意されている。
 本編ではあまり活躍できなかったアリクイさんチームの活躍、桃ちゃんの初撃破などは見ていて微笑ましい成長の描写だった。

 小ネタに関しては、「肴屋本店」に戦車がまたも突っ込み店主のおじさんが歓喜するシーンはその最たるものだ。

 
 「うちの店がァ―ッ! ……これで新築できる!」
 「いいなあ〜」
 「うちにも突っ込まねえかなあ」

 
 という3話でのシーンは、
 「戦車道は人々に好意的にとられている」
 「戦車道で損壊した建物は戦車道連盟から保障がある」

 と、世界観を提示する上で短いながら重要な役割を担っていた。
 
 その前提条件がある上で見ていると、

 「よっしゃあー!」
 「またかよ」
 「いいなあ、お前のところばっか」


 という今作のシーンは非常に楽しめる。しかも今度は半壊どころかほぼ全壊しているから尚更だ。


 「何で解るの?」
 「……また盗聴?」
 「アリサさんってカレシのことも盗聴してそうだよねぇ〜」
 「それでタカシさんにフラれたんだぁ」
 「まだ告白しても無いのにフラれるもなにも無いわよ!」

 
 というウサギさんチームとアリサの会話も笑わされた。

 
 6話でアリサがすっかり狼狽し「何でタカシはあの娘のことが好きなのよぉ〜」と嘆くシーンは屈指の迷シーンであり視聴者の印象にも強く残っている為、今作でいじりとしてこれを持ってきたのは正解であったと言えよう。
 「また盗聴?」の一言で見る側にサンダース戦を思い起こさせることから始めているのも好印象だ。
 
 
 カルロ・ヴェローチェで駆け付けた際にペパロニが発した「今度は間に合って良かったッス!」も個人的にはお気に入りだ。
 OVAで「何故アンツィオだけ決勝戦の応援に来なかったのか」が後付けながら明かされたあのシーンを思い出してクスッと来る。


 また、既存の設定から更なる掘り下げも行われている。
 テレビシリーズ、各種コミカライズでも「伝統的な武芸」ながら流派が西住流しか登場していなかった戦車道であるが、今作では満を持して「島田流」の家元とその息女が登場している。
 戦車道連盟の理事長の登場によって、戦車道の文化としての体系化がより解り易くなっているのも良ポイントと言えよう。 
 選抜チームを通して大学戦車道、そしてニュース記事のみではあるが社会人戦車道の存在も示唆されているのもそれに拍車をかけている。

 
 西住殿のお気に入りのぬいぐるみ、「ボコられグマのボコ」もまさかの掘り下げが為されている。
 ボコミュージアムの一連のシーンはディズニーランドのパロディなども含めて見る側を笑わせてくれる良いシーンだが、同時に今までの解釈と少し違ってきたなと思うところもあった。
 「女の子ってヘンなもの可愛いって言ったりするよなー、スポンジボブとか」と、西住殿のボコ好きは割と普遍的なセンスの上に成り立っているものかと思っていたが、ボコミュージアムのシーンにおいて他の面々とのテンションの違いが描かれたことで「西住殿のセンスがズバ抜けて変」という印象を見る側は受ける。
 「戦車戦においては凄いけどそれ以外はフツーの女の子」という「西住みほ像」に大きな変化をもたらすシーンであった。
 

 ガルパンと言えばやはり戦車戦の緻密さであるが、今作では劇場版ということもありその迫力も当然ながら増していた。
 今作において「短期的に大洗女子に転校してきました」という建前で聖グロリアーナ女学院、サンダース大付属高校、アンツィオ高校、プラウダ高校、黒森峰女学園、千波単学園、継続高校が力を貸すのは、前述の通りみほ達が築いてきた絆を示すと同時に、テレビシリーズに登場した主な戦車を登場させるという意向もあったのだろう。
 各国の戦車が入り乱れた連合チームは、まさに夢のような構図を描き出している。
 
 それでいて、今作で新たにガルパン世界での雄姿を見ることの出来る戦車も多数登場している。
 ぎりぎりWWU世代の戦車である(戦車道は公式規定によりWWU世代までの戦車でなければ使用できない)センチュリオンを対戦相手である大学選抜チームの車両として持ってきたのは良いセンスだと素直に感心した。
 今までの対戦校もクルセイダーやU号戦車など、大洗女子と違い保有戦車の台数の違いを見せる意味で新しく戦車を登場させているのも面白い。

 
 そして文科省がぎりぎりで認可した、という触れ込みでカール自走臼砲後期型を持ってきたところは唖然とした。
 自重の重さ故に自走する場合超鈍足(自重が120トンもある為に時速10キロメートルほどでしか走れない)なカール自走臼砲は殆ど固定砲台と変わらず、はっきり言って戦車道向きとは言い難い。何より、砲弾の威力は劇中で見た通りだ。
 メタ的に見ると、劇場ならではのダイナミックな絵作りをする役目を担っていると考えられる。

 何より、度々話題になってきた『センシャラウンド』が今作では劇場版であることを活かし超ド迫力で楽しめる仕様となっている。
 観ていくうちにだんだんと耳が慣れてくるので、やはり印象に残るのは最序盤のエキシビジョンマッチのシーンだ。
 砲弾の音、装甲のぶつかる音、建物の壊れる音など、「音」の表現のこだわりを感じるためにも、やはり一度は劇場に足を運んでほしい。


 ガルパンの特徴の一つは、大洗女子のチームの面々、他校の生徒などの「キャラクターの多さ」がある。
 今作でも新キャラクターとして

 ・島田愛里寿(大学選抜チーム大隊長、島田流家元の息女)
 ・メグミ(大学選抜チーム中隊長)
 ・アズミ(大学選抜チーム中隊長)
 ・ルミ(大学選抜チーム中隊長)
 ・島田千代(島田流戦車道家元)

 ・ローズヒップ(聖グロリアーナ女学院生徒、クルセイダーMk.V車長)
 ・クラーラ(プラウダ高校生徒、T-34/85車長)

 ・西絹代(知波単学園戦車道チーム隊長)
 ・福田(知波単学園生徒、九五式軽戦車車長)

 ・ミカ(継続高校戦車道チーム隊長)
 ・アキ(継続高校戦車道チーム隊員)
 ・ミッコ(継続高校戦車道チーム隊員)

 ・戦車道連盟理事長


 が主に登場している。
 
 
 まず目を引くのは、今作において対戦相手を務める大学選抜チームだ。
 隊長を務める島田愛里寿は幼いながら飛び級で大学選抜チームを指揮しているが、これはキャラクターのバランスを重視した結果であると考えられる。
 ガルパンはメインで活躍するキャラクターはほとんどが高校生であり、それより上や下の年齢のキャラクターは数えられるほどしか登場しない。
 特に下の年齢のキャラクターはぱっと思いつく人物がいないほどだ。
 それ故に、愛里寿は立ち位置として『戦車道で活躍する高校生未満のキャラクター』を登場させ戦車道の描写の多様性を見せるための材料としての役割も担っていたのだろう。
 西住殿同様にボコが好きという一面はあったものの、彼女の内面はもう少し掘り下げればもっと深みが出たのではないかと私は考えている。

 
 なおかつ、大学生メンバーを登場させることによって、今まで登場していた高校生以上のキャラクターとはまた違った側面も描き出されている。
 今まで登場した高校生以上のキャラクターはほぼ親族や社会人であり、「年上だけどそれほど変わらない」というラインに位置する大学生というポジションは非常に新鮮だと言える。
 だが、やはり彼女たちも全体的な掘り下げは浅かったため、もう少し心情であったりそれぞれの連携を見せてほしくもあったというのが私の感想だ。

 
 今まで関連書籍などで存在が示唆されていた知波単学園の隊長・西絹代も遂に登場した。

 
 テレビシリーズでは知波単学園は黒森峰にボコボコにされたこのシーンのみの登場だった為、ライトなファンの方の中には忘れてしまっていた人もいるだろう。
 今回は『雪の進軍』をバックに突き進んだり、メンバーの髪型や容姿、突撃中心の戦法、伝令の不備などから『日本軍モチーフの学園』という点が掘り下げられておりかなりキャラが立っている。
 
 
 一方で、キャラクターは完全新規に登場しているのが継続高校だ。

 
 継続高校はテレビシリーズではトーナメント表で名前のみ登場し、OVAでは「継続高校は隊長が優秀で強い」という会話が成され校名のみがちょこちょこと登場している状態であった。
 今作ではフィンランドの民族楽器、カンテラをミカが弾くなどフィンランド軍モチーフの高校であることが知波単同様に掘り下げられており、頑丈なフィンランド戦車のBT-42を駆使してカール自走臼砲後期型との戦いで活躍してくれた。
 だが、他の学校が大洗女子との戦車戦で絆を築いていったことを考えると、エキシビジョンマッチを見ていたとはいえ殆ど関わりのない彼女たちが力を貸すのは若干不自然だったという気もする。
 
 
 新キャラクターは勿論だが、今作はテレビシリーズに登場したキャラクターはモブと言えるようなキャラクターまで再登場している。
 
 
 前述の大洗の人々もそうだが、今回一番意外だったのは9話の回想シーンにちょこっとだけ登場した文科省の役人の登場だろう。
 今回は「優勝したら廃校撤回というのはあくまで口約束であり、廃校は決定事項」とメインキャラクターに苦難を突き付ける『敵(かたき)役』としての立ち位置を彼が担っていた。
 超強豪である大学選抜チーム相手に殲滅戦という苦難を突き付けつつも、大洗女子に各校が転校してくるという事態に裏をかかれ、それでもカール自走臼砲の使用を認可していたことで一時は勝敗が解らなくなったりと場の流れを描き出す上で非常に美味しいポジションであったと言える。
 今作において最大の掘り下げを行ってもらったキャラクターは彼であったと言っても過言では無い。

 既存キャラクターに関しては少しばかり上で述べたが、上で挙げた成長という点以外にもそれぞれの関係について更なる進展や掘り下げが為されている。
 廃校が決まり荒れるそど子に対する麻子であったり、みほとまほの姉妹の繋がりなどはその最たるものだろう。

 今回は大洗女子連合チームの作戦会議において各校の隊長が顔を合わせるというオールスター的な展開も用意されており、今までに無かったそれぞれの会話が非常にワクワクさせられる。
 「好きな食べ物と作戦名は関係ないだろう」と諭した後に、オペラの名前を作戦名につけようとするどこかズレたまほが見れるのも新鮮だ。

 
 ラストは大洗女子の勝利で物語が終わり、各校が帰路につくところでエンディングテーマとクレジットが流れ、再び学園艦に帰ってくるところで〆となる。
 テレビシリーズの最終回でも感じたのだが、ガルパンは「終わり」のポイントを敢えてぼかして描いているという印象がある。

 テレビシリーズのラストシーンは
 
 
 「帰ったら何する?」
 「お風呂入って」
 「アイス食べて」
 「それから……」
 「戦車乗ろっか!」
 「うん!」


 と、「女の子の日常の中の要素として戦車がある」というコンセプトをはっきりと描きつつ学園艦を目指すところで〆となっていた。
 学校に戻ってきてからのそれぞれの喜びようなどを描くまででラストにすることも出来たのだろうが、「敢えて」それをぼかすことによって、彼女たちがこれから歩く輝かしい未来を見る側に想像させるという手法を取っているのではないだろうか。
 となると、劇場版でも連絡船から学園艦が見えたところがラストカットというのもまたそういう手法であると解釈できる。
 

 長々とした文章になったものの、それは今作がそれだけ語るポイントの多い良映画であった証拠であるとも言える。
 前述の通り、あの迫力の音響効果や絵作りは是非とも劇場に足を運んで御覧になっていただきたい。
 

 おまけ
 
 ※自作SSと今回の劇場版の関りについて。ほぼ自己満ですので反転しておきます

 今作では今まで想像するしか無かった「作中での時間経過」が明言されている。
 「西住殿が転校して来たのが桜が咲いてるから4月として、大体決勝戦までで6月末か7月頭かな」と考察し、私は仮面ライダーディケイドとのクロスオーバーである『戦車ライダー、登場です!』を執筆した。
 劇中で「決勝戦から夏になるまであっと言う間だった」「梅雨が明けて夏に入った」という描写を入れて、季節を明確に「決勝戦が終わった後の夏」と設定したのである。
 今回、映画でエキシビジョンマッチが終わった後に「あと一週間で夏休みが終わって新学期」という台詞があったことで、この考察は図らずも当たっていたことになる。

 決勝戦
 ↓
 (戦車ライダー、登場です!)
 ↓
 ドラマCD第三弾『あんこうチーム訪問します!』
 ↓
 劇場版


 という風に偶然ながらも時系列で綺麗に繋がったのは、密かに嬉しく思ってしまった。

 
 また、今作の「各校が力を貸す」という展開は実は『戦車ライダー〜〜』の最初期のプロットに書いていた展開であった。
 だが、「学校を守る為の”本当の”戦い」という面でどちらかと言えばお祭り展開であるそれをやると若干クドくなる気がしたのと、大洗女子のメンバーに絞って描きたいと考えたこと、執筆を始めた2013年8月にはまだアンチョビのキャラクターが漫画版でしか解らなかったことから割と早めに没にした展開でもある。
 劇場版で違和感なく各校が力を貸す流れを見て、「やっぱり本家本元にゃあ敵いませんわ」と実感させられたのは言うまでも無い。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:度近亭心恋
  • アイコン画像 性別:男性
  • アイコン画像 誕生日:1992年7月13日
  • アイコン画像 血液型:AB型
  • アイコン画像 現住所:福岡県
  • アイコン画像 職業:会社員
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特撮・アニメ好き。SSも書いてたりする。
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