地図から消えた島々

2018年12月 25日 (火) 13:12
書名 「地図から消えた島々」
著者 長谷川亮一 出版社 吉川弘文館 出版年 2011

NHKBSの漂流をあつかっているドキュメンタリーの第三弾がグランパス島を求めるものだったが、それはこの本をヒントにしていたのだろう。かつて冒険家たちが幻のように見たか、あるいは伝説のなかで伝えられた島が太平洋にどれだけあったのかということに驚く。ほとんどは存在さえしなかったものなのだが。どこかそこにロマンを掻き立てるようなものがある。ただこの本で紹介されているこの幻の島を探しに航海に出た日本人たちは探検家というよりは、ほとんど山師である。それもまったく志のない金の亡者ばかりである。こうした連中が南洋に群がり、アホウドリを全滅させようとしていたことを考えるとぞっとするばかりである。ロマンを掻き立てるようなタイトルであるが、なかで描かれているのはなんともロマンとは無縁の、がっかりするぐらい志のない、金の亡者たちばかりであった。

シーボルト事件で罰せられた三通詞

2018年12月 25日 (火) 12:40
書名 「シーボルト事件で罰せられた三通詞」
著者 片桐一男 出版社 勉誠出版 出版年 2017

シーボルト事件で連座された三人の通詞馬場為八郎、吉雄忠次郎、稲部市五郎が処罰されたのちの処遇を追ったものだが、中心は馬場為八郎である。彼が秋田の亀田藩に永牢されるのにあたって、莫大な荷物を持ち込むことを許され、しかも現地では洋学を地元の人たちに教えていたことを現地を訪ね発見した成果をもとにしている。亀田に馬場の資料があるのは周知のことだし、それを殊更発見などと言われてもなという気がする。シーボルト事件に連座したものの、その洋学の知識を惜しむ幕府側のなんらかの忖度があったのではないかということになるのだが、それは洋学研究者としては強調したいということなのだろう。自分にはこの通詞という役職の者たちが、どこかゆるいというか、甘えの構造をずっともっているのではないかというのが気になっている。自分たちでは何も決められない、オランダか幕府のどちらかの言うことを聞くしかない、ただ言葉はできるという、いまの官僚たちとよく似ているのではないかという気がする。
レザーノフの日記を読んでいて気になったのはレザーノフが描くこうした通詞たちの姿であり、その中でも本木庄左衛門と馬場為八郎は特に気になっていた。レザーノフの長崎滞在中の出来事についていつかしっかり書きたいと思っているので、その時の馬場為八郎を描くときに参考になればと思って読んだ。シーボルトに夜食のパンをねだる馬場の手紙が紹介されていたのはとても参考になった。官僚としての未来がなくなったとき、オランダ語の知識を人に教えようとしたのではないか、そんな気がする。人なつこい人であったような気もする。いま連載中の「善六ものがたり」でも馬場為八郎には登場してもらっている。弟の佐十郎も気になるが、彼は一種語学の天才であり、官僚的感覚は持っていない、純粋な語学屋だったのではないだろうか。

田渡と父・豊の「生活の柄」

2018年10月 22日 (月) 19:11
書名 「田渡と父・豊の「生活の柄」」増補改訂版
著者 本間健彦  出版社 社会評論社  出版年 2016

このところ田渡が気になってしかたがない。自分の生き方をある意味貫き通して生き、旅先で死んだ詩人、死の直前に撮影されたライブのドキュメンタリーを見たことから、彼のCDを買って聞いたりしている。だから早稲田図書館で何の目的もなく棚を見ていたときこの本か目に飛び込んできたのだろう。とてもいい本である。なにより田渡という歌手が誕生するその基盤が父親との生活にあったという視点から、父・豊の生き方をじっくり追っている。地方の金持ちの家に生まれながら何もかも失い、妻まで失い、何のあてもなく50過ぎて子ども4人連れて東京に行くという無茶苦茶な道を選んでしまうこの父親あっての渡なのだと思う。この父親の生きざまを見ているとどうしても思い出してしまうのが、長谷川濬のことである。満洲から帰って来て、健康を害し、貧乏を余儀なくされ、前向きに生きようとしていた、でもそれが世間的には無茶苦茶な道を歩くことになる濬の生き方と重ね合う。これだけ貧乏させられながら濬の子どもたちが父のことを悪く言わない、それどころか貧乏でも心は豊な生活だったと振り返っていたのを思い出す。渡もまた父のことを決して悪く言わず、愛着をもって振り返る。渡がフォークシンガーとしてピート・シンガーやウディ・ガスリーなどに惹かれ、そのためにフォークを歌いたいと思う根っこには父との貧しい生活の実体があったのだ。だからこそ彼の歌は芯があるのだと思う。その根っこをしっかりと描いたことにこの評伝の優れたところがある。また渡ちゃんの歌が聞きたくなってきた。この前買ったCDはオムニバスアルバムだったが、もっともっといろんな歌が聞きたくなった。

風の演劇

2018年10月 07日 (日) 20:01
書名「風の演劇」
著者 内田洋一 出版社 2018  出版社 白水社

若い頃わりと芝居を見ているほうだったのに、なぜか別役実はスルーしていた。阿佐ヶ谷に住んでいたころ、よく一緒に飲んだ友人が劇団員で別役の芝居を演じていて、飲むと電信柱の話をしていたことぐらいが自分と別役をつなぐ回路だったような気がする。劇とは離れて六文銭の歌が自分にとっては別役実と一番近しいものだったうな気がする。「雨が空から降れば」はいまでも自分の好きな歌のベスト10に入るし、十八番のひとつである。それぐらいのつながりしかなかった。「満洲浪漫」という長谷川濬の伝記を書くとき、長谷川の満洲時代の親友が別役実の父別役憲夫だったことで、一度お話を聞かせてもらった。親切に取材に応じてもらった。その時持参した別役憲夫の書いたエッセイのコピーを差しあげたらとても喜んでいた。この内田の評伝を読むと劇作家別役実の原点は満洲にあり、それから引き揚げてきてからのデラシネ生活が彼のつくるドラマの原点にあることを知った。満洲、引き揚げ、そして学生時代の政治活動などをしっかりと丁寧に描き込んでいるから、本筋の時代の演劇と別役実が書き続けてきた戯曲の織りなす戦後演劇絵巻のようなものが見事に浮かび上がったと思う。自分は別役実に対して、あるいは別役や鈴木忠志以降の日本演劇に正直あまり関心がない、そんな人間にもこの評伝はとても面白く読めた。評伝を読んで、その人の書いたものを読みたくなるようになったら、その評伝は間違いなく成功したといえる。この評伝を読んで自分はすぐに別役の戯曲を借りてきた。「不思議の国のアリス」と「空中ブランコのりのキキ」、サーカスに関係している。そう六文銭の別役が作詩した歌によくサーカスのことがでてきた。これも風と関係するのだろうか・・・・

石ノ森章太郎の青春

2018年09月 26日 (水) 9:46
書名 「石ノ森章太郎の青春」
著者 石ノ森章太郎 出版社 小学館(小学館文庫) 出版年1998

宮城県登米出身の石ノ森章太郎の少年時代を回顧した自伝。王子に行ったときにふと立ち寄った小粋な古本屋さんで購入した。日テレで彼の少年時代をドラマ化したのを見逃していたこともあって手にした。祖母や母、姉との交流が生き生きと描かれる。なにより小さい頃は作家を志望していたという著者の文章のセンスが光っているのは行事と題された章、正月から年の暮れまでの登米の行事が見事に描かれていた。月見の時のこととか、羽衣とんぼを追ったときのこと、10年ぐらいの年の差だと思うが、仙台の追廻というところで過ごした濃厚な少年時代のことと重ねあわせながら読んだ。行事自体はさほど変わらなかった。それを楽しみにしていたことも思い出した。登米にあった映画館の話も面白かった。まだ登米には行ったことはないのだが、今度行ってみようかと思わせてくれる本であった。

唐牛伝

2018年09月 20日 (木) 6:02
書名 「唐牛伝」
著者 佐野眞一 出版社 小学館 出版年 2016

スキャンダルのあとの再起第一作となった評伝。まえがきでタラタラ弁解というかこの書にかける意気込みを書いているが、このなんとも自分に対しての饒舌なのは相変わらず、ドラマをむりやりつくりあげる書きぶりも相変わらずであったが、60年代安保世代のその後をつきとめようという本書への意図はよくわかるし、それはいままで欠落していた視点でもあるし、よく追っていると思う。力作である。それは60年代安保運動の中心になった人物のその後を丁寧に追いかけてできたものだと思う。ただ肝心の中心人物である唐牛の評伝となると、何度も唐牛らしいというフレーズがでてきて、エピソードもでてくるのだが、それによって唐牛の人間像が浮かび上がるかというと、そうでもない。あまりにもスケールの大きな生き方で捉えきれなかったということなのか?私が本書を読もうと思ったのは、私がただひとつ知っている私というか神彰と唐牛健太郎との接点について本書が触れているかどうかだったのだが、これについて言及はされていなかった。もしかしたら取材はしていたのかもしれないが、書くなかで落としたのかもしれないが・・・同じ函館生まれの神彰とおよそ10歳違う唐牛が、神の興した会社で働いていた函館出身の女性の世話になっていたというのだが・・・著者は唐牛という人間を語るとき私生児であったことをかなり大きな要素として見ているが、もうひとつ函館という風土、そしてその人脈も重要な要素であったのではないかと思う。

横浜・野毛大道芝居の日々

2018年09月 10日 (月) 6:16
書名 「横浜・野毛大道芸の日々」
著者 野毛風太郎   出版 山中企画  発行年 2018

一気に読んだ。11回にわたる大道芝居の中身をさまざまな証言をおりこみながら、振り返るのを柱に、いい出しっぺの福田豊の前口上があって、最後は座長の高橋長英が締める。この構成がよかった。フラスコという稽古場があって、野毛という飲み屋が集まったところに誰か誰かを引き込み、そして大衆演劇をやるというのがいい、なによりみんな楽しそうである。平岡さんや荻野アンナさんなど著名な作家さんが出ているのも笑えるのだが、やはり素人さんたちが関わり、最初はそうでもないのにどんどんはまっていく姿がおもしろい。こうしたひとり高秀元市長のエピソードには笑い、ちょっと涙ぐんでしまった。大道芝居の面白さは、馬鹿馬鹿しいほど面白いことを馬鹿馬鹿しい人たちが一生懸命演じているそのなんともいえないエネルギーである。そのエネルギーを支えていたものそれはみんなばらばらでいいんだよ、ただ座長がすべての決定権をもっているということをみんなが了解することだった。これはいろいろな意味でひとつの組織論としも有効なのではないだろうか。
最初の公演に誘われたのに断ってしまったことをいまでも後悔している。現実に参加は難しかったとは思うが、やはり役者として参加できなかったことはほんとうに悔しい。これだけ楽しいそして馬鹿馬鹿しい、熱気ある人たちのつくる渦中にいなかったのだから。ただひとつだけ出演者やスタッフになれなかった自分が自慢に思えることがある。第一回あの路上でやった公演を一千代の中という一等地から全編見ていることである。そして隣には種村季弘さんとと田之倉稔さんがいたのもいい思い出だった。仲間にはなれなかった自分はこの時の思い出をこの書の中で書いている。

白鳥

2018年09月 07日 (金) 18:31
書名 「白鳥 ものと人間の文化史161」
著者 赤羽正春 出版社 法政大学出版局  出版年 2012

このところ渡り鳥が気になっている。もちろん住んでいる横浜では見ることはできないが、実家がある仙台の七北田川には白鳥が冬に渡ってくる。この白鳥にまつわる神話を日本、シベリア、中国、ケルトと結びつけながら、その根っこにあるものを横断的に見ていくという魅力的な本。シベリアの僻地にまで実際に行って土地の人々を訪ね、神話の根源にあるものを探るというその探求の志には頭が下がる。ただ論述が堂々巡りしているような気もした。神話、民俗をつないでいきながら、実際の白鳥の渡りについても詳しく見ていっている。自分にはこちらの方が興味がわいてきた。シベリアから渡ってくる白鳥たちが立ち寄る屈斜路湖には行ってみたいとも。

横浜港ものがたり

2018年08月 30日 (木) 18:18
書名 「横浜港ものがたり」
著者 志澤政勝  出版社 有隣堂  出版年、 2015年

横浜港を舞台にした小説を17選び、作品を論じるというよりは横浜港の移り変わりをエッセイ風に描く。
ひとつひとつがあっさりしすぎで読みごたえはない。ただ横浜をマカオのような港町にしようという動きがあり、その中で冨岡に水上飛行機の基地をつくろうという計画があったこと、三島由紀夫の「午後の曳航」の中に冨岡の丘がでてくるということを知った。

ハックルベリー・フィンの冒険

2018年08月 18日 (土) 19:03
書名 「ハックルベリー・フィンの冒険」
著書 マーク・トウェン 翻訳 柴田元幸  出版社 研究社 出版年 2017

いまさらなのだが、柴田さんの新訳ということで読むことに。言語のもつニュアンスを伝えたいという思いの訳だったのだが、最初はなかなか文体になじめずに何度か頓挫してしまったが、ジムとふたりで筏で河を下っていくあたりから俄然面白くなり、久々に小説を読む愉しさをじっくりと味わうことができた。それにしてもハックリベリーの悪童ぶりには驚いた。親も親なのだが、自分がいかにも殺されたようにして逃げ出すのだからたいしたもんである。興味深かったのは説教師の存在。ハックルと旅を共にする詐欺師たちが巧みに演じて、それに人が集まったりしているわけで、集団で動いていくこの時代の大衆の怖さみたいなものを感じる。こうした客を相手に渡米した明治のサーカス芸人たちは芸を見せていたのかとも思う。畏友三原文がマーク・トウェンと明治のサーカス芸人たちのことをかぶらせてなにかに書いていたような気がする。なんとなくその気持ちがわかるような気がする。
挿絵も楽しかった。たまにはこうした古典を読むのも悪くない。
クマのイチオシ
東映映画「鯨と斗う男」をみんなで見よう!

「鯨と斗う男」上映プロジェクト

寄付金募集!
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今度の桑野塾は、クレズマー・リターンズ!
第52回桑野塾

●「ゲットー蜂起75周年のワルシャワ・ユダヤ音楽祭レポート!」大熊ワタル&みわぞう(ジンタらムータ)

2018年11月24日(土)
@早稲田大学33号館231号室

★詳細は桑野塾Webサイトで!


アートタイムズ最新号!

アートタイムズ11号
『タキエさんがいた!』

デラシネ通信社 / 2014年4月25日発売
ドイツの肝っ玉母さん
ルジチカ多喜枝の生き方

ちょっと信じられないような、愛と豪快さに満ちた人生!


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