ハックルベリー・フィンの冒険

2018年08月 18日 (土) 19:03
書名 「ハックルベリー・フィンの冒険」
著書 マーク・トウェン 翻訳 柴田元幸  出版社 研究社 出版年 2017

いまさらなのだが、柴田さんの新訳ということで読むことに。言語のもつニュアンスを伝えたいという思いの訳だったのだが、最初はなかなか文体になじめずに何度か頓挫してしまったが、ジムとふたりで筏で河を下っていくあたりから俄然面白くなり、久々に小説を読む愉しさをじっくりと味わうことができた。それにしてもハックリベリーの悪童ぶりには驚いた。親も親なのだが、自分がいかにも殺されたようにして逃げ出すのだからたいしたもんである。興味深かったのは説教師の存在。ハックルと旅を共にする詐欺師たちが巧みに演じて、それに人が集まったりしているわけで、集団で動いていくこの時代の大衆の怖さみたいなものを感じる。こうした客を相手に渡米した明治のサーカス芸人たちは芸を見せていたのかとも思う。畏友三原文がマーク・トウェンと明治のサーカス芸人たちのことをかぶらせてなにかに書いていたような気がする。なんとなくその気持ちがわかるような気がする。
挿絵も楽しかった。たまにはこうした古典を読むのも悪くない。

風媒花

2018年07月 27日 (金) 8:55
書名「風媒花」
著者 武田泰淳 出版社 講談社(文芸文庫) 出版年 1989

一通り武田百合子を読み終え、いくつか武田泰淳のも読みたいものが出てきた。一番気になったはモデルとして武田百合子とさらに百合子の弟もでで来るというこの小説。中国文化研究会のメンバーの人物を描いていくなかでの戦後の中国をめぐっての思想上の問題、主人公のエロ作家と無垢な魂と快楽をもとめる肉体をもつ蜜枝の男女の関係を、蜜枝の弟の女や初恋の男ももつれさせて描く恋愛の問題、血の問題なども織りまぜながら濃厚で骨太な小説空間を堪能させてもらった。武田泰淳なかなか面白いではないか。他のも読みたくなってきた。

日本幽囚記W

2018年07月 19日 (木) 15:57
書名 「日本幽囚記W フヴォストフとダヴィドフの航海」
著者 V.M.ゴロヴニン 編訳 斉藤智之 出版社 斉藤智之  出版年 2018

江戸時代サハリンやエトロフ、利尻を攻撃したフヴォストフとダヴィドフは、侵略者のように扱われ、特に日本では評判が悪い。最近訳が出たラングスドルフの航海記を読んでとても違和感を感じたのは、このふたりを素晴らしい航海士と高く評価したことである。そんなときこの本が机の山から出てきた。底本となったのは、一次資料というわけではなく、劇作家が航海記をもとに書いたものである。それを編者が日本で出ている資料を引用することで、さらにふたりの行動をたどっている。こうしてみると、確かにオホーツクで逮捕されているが、これは彼らが日本でやったことが原因というよりは、ブハーリンという悪辣代官が仕向けたことであり、ロシア政府もこの逮捕については認めているわけではないということが事実として浮かび上がってくる。それを証明するのが彼らが無事にサンクトに戻り、咎められることもなかったということである。レザーノフの命令の不明確さも相まって、彼らの行動は一概に悪辣な海賊行為と断定するわけにはいかないようだ。
フヴォストフとダヴィドフの行動についてはいくつか学術論文もあるが、一般書としては本書が唯一と言っていいだろう。その意味では貴重な訳業といえる。

富士日記下

2018年07月 11日 (水) 15:35
書名 「富士日記(下)」
著者 武田百合子 出版社 中央公論社(中公文庫)  出版年 1981

あとまもなく終わるとわかってから、だんだん愛おしくなって、読み終えたくないという気持ちになってしまった。こんな読書体験はいままであまりない。日記の間隔が下巻になってからどんどん空いてくるのは武田泰淳が病気になってからだ。中巻までずっと武田家の一員のようになって過ごしてきた時間が途切れ、武田の容体が気になってくる。病気のことを語り合う武田と大岡の話しをそばで聞いている夫人ふたりが大笑いするという描写があるが、なんとなくほろっとしてしまった。こうした死をある程度認識しながら、病を話しの肴にして、笑うという中に、この作家たちのもつ強靱さを感じる。なんとか病気の泰淳を支えようとする気持ちが大げさな表現でなく、せつなく語られるのでそれもまた胸にしみてくる。死を目前した泰淳が病床で缶ビールを求める場面には泣けてきた。
ほぼ1カ月ほどかかって読んでいたこの「富士日記」。しばらく富士日記ロス状態になってしまうのではないかと思う。
これで武田百合子の残された全作品は読んだことになる(たぶん?)。弟さんと知り合いになって始まった百合子読書もこれで終わりだ。近々弟さんとお目にかかって、百合子さんのことをめぐって話したいと思っている。一回目の時はこちらがあまりにも百合子さんのことを知らなさ過ぎた。弟さんも呆れたことだろう。今度はいろいろと聞いてみたいこともある。面白いな、武田百合子、そして武田泰淳。

「富士日記」中

2018年07月 03日 (火) 10:45
書名 「富士日記」中
著者 武田百合子 出版社 中央公論社(中公文庫) 出版年 1981

通勤時に読んでいるのだが、上巻よりますます笑ってしまう回数が多くなってしまった。百合子さんの文章は短いセンテンスで人を哄笑させる力がある。思いがけず吹き出すことが何回もあった。中巻の底流を流れているのは愛犬ポコの死。あっさりと死を書き留めているのが、随所にポコが現れる。失ったものへの哀しさがしみわたる。近所に大岡昇平が別荘を建てたことでこの交流もにぎやかに語られる。気の使い方が面白い。
この巻の最後は竹内好と三人のソ連旅行に旅立つ前まで。この旅行についてさりげなく語る文章がとてもしみじみとして良かった。

富士日記

2018年06月 24日 (日) 6:12
書名 「富士日記」上
著者 武田百合子 出版社 中央公論社(中公文庫) 出版年 1981

武田百合子の弟さん修さんと出会って、娘さんの花さんにも会わしていただいてからはじまった武田百合子の本を読み始めた。順番が違うと思うのだが・・・まあいい。いよいよ最後、「富士日記」を読み始める。富士山麓に山小屋(別荘)をつくって住み始めた昭和39年夏から41年9月まで。武田家3人の山小屋通いのペースがあるのだが、それに次第に慣れてきて、途中からこの生活のリズムが乗り移ってくる感じにまでなっていた。とにかく面白い。百合子さんも相当面白いが、武田泰淳もかなり面白い人であることかよくわかる。どことなく可愛いところがある。きっと埴谷雄高とか竹内好とか、途中から近所にすむことになる大岡昇平から愛されていたのだろうと思う。
この上巻の圧巻は車のホイールがトンネルの中で外れたのを、泰淳が危険も省みず、道の真ん中を歩き、通行する車からクラクションを鳴らされながら、探しにいくところだった。ちょうどこの前まで喧嘩のようなこともあったので、これを止める百合子さんは必死になって謝る、すごい夫婦だなと思う。そしてだから一緒になったのだろうなと思った。

カルピスをつくった男三島海雲

2018年06月 14日 (木) 22:50
書名「カルピスをつくった男三島海雲」
著者 山川徹  出版社 小学館  出版年 2018

力作評伝である。カルピスをつくった男三島海雲については、まったく予備知識がなかった。なかなか興味深い男である。浄土真宗の寺の子として生まれた男が仏教を学び、そして大陸に渡り、商売をするなか、モンゴルに行き、そこで乳酸品と出会い、カルピスをつくるヒントを得る。カルピスの原点となったこのモンゴルでの三島のたどった足跡を実際に自分の足でたどることによって、この評伝は奥行きの深いものになった。著者自身の三島と出会うきっかけも巧みに引き出しながら、大陸時代のロマンが、この評伝を通じて著者が訴えたいテーマの底流をつくっていく。きわめてユニークな経営者であり、これを評伝としてとりあげたいと思う人は多いだろう。日経新聞の私の履歴書の延長上の評伝にすることはさほど難しいことではない。著者はそんなことには興味はなかったはずだ。自分の青春の決断とクロスするモンゴルでの三島の放浪に揺り動かされた評伝とするために、モンゴルでの取材は非常に効果的だったと思う。評伝をいくつか書いてきた自分の経験から言うと、すでに本人から取材できないという人物を書くとき、なにか核となる本人が直接書いたものがなによりも重要になってくる。「海を渡ったサーカス芸人」では澤田豊が南米で語った自分の半生のブラジルの日本人新聞の連載記事、「シベリア漂流」では玉井喜作が残したシベリア横断の時の手帳、長谷川濬が残した回想メモなど、それが核となる。それと同じようなものが三島海雲記念財団が持っていた膨大な三島のメモだったと思う。この資料を丁寧に見ていくことで三島の大胆な発想の根元に近づけていけたのではないかと思う。
もうひとつ重要なことは三島が追いかけた企業理念、金儲けが目的ではなく、国民の利益になるようなもののためになにかしようという志、それをいまの人はどうとるのだろうかという問いかけを秘めていることである。かつて日本の企業は金儲けを目的するのではなく、社会奉仕ということも視座においていた。その愚直なまでの奉仕性を、いまの人たちはどう見るのだろうか。下手すれば「ダサーイ」という若者たちもいるのではないだろうか。でも企業が社会に貢献するという姿勢が貫かれている、このことはとても深い意味をもっている。
ライターで長年やってきた著者だけに取材力とそのフットワークの軽さで対象に迫っていく。ひとつもっと読みたかったなと思ったのは、息子との葛藤劇である。息子がカルピスに対する限りない愛をもっていたということをもっと掘り下げるとこの父と子の葛藤の真相が見えたのではないだろうか。

戦国日本と大航海時代

2018年06月 09日 (土) 12:55
書名「戦国日本と大航海時代−秀吉・家康・政宗の外交戦略」
著者 平川新 出版社 中央公論新社(中公新書) 出版年 2018

石巻若宮丸漂流民の会副会長をつとめる平川さんの新著。いまは宮城学院大学の学長ということでお忙しいのではと思っていたが、従来の研究を深化させていたようだ、やはりたいしたものである。
内容も平川さんらしく世界史の中に日本史のさまざまな出来事をはめこみ、よりダイナミックに歴史の動きを見ているので、歴史人気番組の歴史ミステリアを見ているような感じだ。キリスト教の布教という名のもとにあわよくば日本を占領しようとしていたスペインやポルトガル、それを利用するなかで、世界侵略を真剣に考えていた秀吉、そして後から日本にやってきたプロテスタントのイギリスやオランダが巧みに家康に近づき、スペインやポルトガルを排除させたり、そして政宗はどんな意図でメキシコ、スペインに支倉常長を送ったのか、布教に反対だった家康がなぜそれを許したのかなど、この時代のさまざまな謎に対して明確に答えていく。これがなによりも本書の魅力である。

演技する道化

2018年06月 09日 (土) 12:25
書名 「演技する道化 サダキチ・ハートマン伝 東と西の精神誌」
著者 田野勲  出版社 ミネルヴァ書房  出版年 2018

タイトルに惹かれて読むことになった。長崎で日本人の母とドイツ人の父の間に生まれ、14歳でアメリカに渡り、その後ホイットマンやホイッスラーと交流をもち、美術史や写真の本を出すほか、映画にも出演、戯曲も書くなど幅広い活動をしたという序章を読んで、期待はしたのだが、正直凡庸な内容にがっかりさせられた。ハートマンが残した作品を読み、それによってその活動を追った労作なのだが、ハートマンという人の全体像が見えてこない。ただ東と西の融合を目指していたというだけでは、やはり全体像を見ることは難しい。この人物自体が活動範囲は広く、さまざ一流な芸術家と交流があっただけで、実は中身があまりない人だったからなのだろうというのは言い過ぎか。

道の向こうの道

2018年06月 01日 (金) 15:28
書名 「道の向こうの道」
著者 森内俊雄   出版社 新潮社 出版年 2017

著者の森内俊雄は、早稲田大学文学部露文科の出身。私の先輩にあたる。そして私の恩師水野忠夫氏は一年下になる。この小説では森内の4年間のこの露文時代のことが濃密に語られている。それがなによりも興味深かった。李恢成も出てくるほか、一緒に学んだ同級生たちのことがこと細かく語られている。残念ながら水野先生はこの中には登場してこなかった。それにしても。同人誌のようなものをつくっていたり、私たちの頃とはずいぶん違う活気があったようだ。最初の授業で「いいかね、きみたち。露文科の学生になったからには、もはや就職はあきらまえたまえ」といきなり宣告されていたらしいから、就職するよりいかに生きるかということを自問しながらの大学生活になる。いかに生きるかということでは自分も学生時代にそれなりに考えてはいたような気がするが、ここで描かれているように哲学書を漁り、聖書を読み、これほどまでに真摯に自分の生き方と向き合うことはなかったと思う。1956年という時代の影響もあったのだろうか。
80歳のいま、羽田空港を離陸する飛行機を見に、城南島海浜公園に妻と一緒にいくところからこの小説ははじまる。離陸する飛行機を見ながら、「サマリョート・レチット・ナ・ユーク」とロシア語をつぶやくところから、過去の大学時代のことが呼び起こすことになる、この出だしが秀抜であった。ここに引用されている大森壮臓の「過去というものは、思い出す限りにおいて現在である」という言葉通り、思い出すかぎりにおいての現在を、著者はこの小説の中で生きている。そうした過去を持っているということはある意味素晴らしいことだと思う。
とても心にしみる小説だった。表紙の絵は同級生佐々木荘六が描いたもの、これもなかなか味わいのある絵であった。

クマのイチオシ
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「鯨と斗う男」上映プロジェクト

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