まだ見ぬまちへ−石巻・小さなコミュニティの物語

2018年03月 04日 (日) 19:43
作品名『 『まだ見ぬまちへ−石巻・小さなコミュニティの物語』
ジャンル 映画
観覧日 2018年1月24日
会場   中野zeroホールに出向いた。

 あっという間の2時間25分だった。ドラマティックな展開がまったくないドキュメンタリーをのめり込むように見ていた。なぜこんなに引きこまれていったのか?映画に出ていた人たちといつのまにか一緒に息をしているようにして見ていたからだろう。この自然さは作り手と撮られる側の間で長い間熟成されてきた関係から生まれたものだ。その自然さがこの映画の語り口になっている。家庭菜園をしながら、新たにやってくる住民たちとうまくやっていけるという心配をつぶやく場面、仮設住宅で亡くなった奥さんのことを淡々と話す老人のところに、孫から電話がかかってくる場面、そうしたひとつひとつのシーンの背景に、自然な営みがある。それがとても身近に感じられた。こうした自然さに誘われて、銀幕の向こうにある世界に入りこみ、なかで起きていることにいつの間にか入り込んでいた。
 私が「石巻学」という雑誌をつくろうと思ったのは、津波が共同体を根こそぎ奪ってしまい、そこにあった歴史や文化の記憶までも消えようとしていることへの危機感からだった。なんとかしてその記憶を掘り起こして、未来につないでいきたいと思った。この映画に出ている人たちは、記憶を掘り起こすだけでなく、また新たな街、共同体をつくろうとしている。声高に絆や復興を訴えるのではなく、身の回りの小さなことをひとつずつやって進んでいく。その根元にはここで亡くなった人たちへの鎮魂の思いがある。毎年行われている慰霊祭で年ごとに新しい住民が増えていくなか、毎回工夫しながら亡くなった人たちへの思いを寄せる。そこから「まだ見ぬ街へ」人びとは思いをつないでいく。新しく町内会の会長になった本間英一さんがセレモニーの時、自らマイクをとって「夜明けのうたよ わたしの心の きのうの悲しみ流して おくれ」と『夜明けのうた』を歌うシーンには思わず涙が流れてしまった。本間さんの「まだ見ぬ街」への思いがひしひしと伝わってきた。
 6年半の歳月の中で、確実に風景は変わっていった。あの生き残った二本松はこの間に確実に朽ちようとしている。しかしその根元ではまた新たの苗が育とうとしていた。それが自然というものなのだろう。津波は根こそぎ共同体を奪おうとした。それは自然から人間につきつけられた挑戦状なのかもしれない。それに対して高い防波堤をつくることだけでは、人間は自然には勝てないだろう。自然からの挑戦に対してこの映画に登場する人たちは、共同体を作ることで答えようとしている。その時の武器は共に生きようとする志、そしていままで人間が生きるなか培ってきた知恵である。この映画はまだ見ぬ未来への希望をも描いているのだ。
  • URL:https://yaplog.jp/deracine/archive/5299
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