二期会「金閣寺」高田版解説!

February 13 [Wed], 2019, 22:32
二期会オペラ「金閣寺」がついに開幕!宮本亜門さん演出、マキシム・パスカルさん指揮の下、満を持して本番に向かう。


実は僕は「金閣寺」という作品に出るのは2回目。1回目は2015年に神奈川県民ホール(田尾下哲演出・下野竜也指揮)で。その時にも解説を書いたのだが、三島由紀夫ファンであればあまりに有名なこの作品も、一般の方には難解で読みにくい作品かも知れず、せっかくのオペラ公演に向けて少しでも手引きになればと思い再び解説ブログを書きたいと思う。オフィシャルなものではないのでかなり僕の主観に拠っている部分があるけれど、そこはご愛嬌という事で…。(ちなみにかなり長文。。)
原作に当たる部分は前回のものを再掲しつつ、今回の出演者の部分や演出などは相違点として新たに書いていきたい。

まずあらすじであるが、難解と言われている金閣寺、内容自体はそれほど難しいものでは無い。

簡単に書くと、「吃音(どもり)のコンプレックス(オペラ版では腕の不自由)を持った田舎出身の青年が、様々な出来事に出会うたびに詰め将棋のように追い込まれていき、その問題の根源を美の象徴である金閣寺に求め、「金閣寺は燃やされねばならぬ」という結論に至る」。という物語である。

て、簡単すぎるか、、(笑)

では、まずは登場人物と歌手たちの紹介したい。

これであらすじの半分以上は内容もカバーできるかと思うので鑑賞の手引きにどうぞ。


***

溝口(宮本益光・与那城敬)



田舎(丹後半島)の小さな寺の息子として生まれる。
小説では吃音のある少年。オペラではこの吃音が手の不自由に置き換えられている。
吃音というのは現在の医学では見解が異なってきているが、この当時は精神が起こす現象だと考えられていた。
溝口は人と話すとき、人に自分の感情を伝えようとするときどうしても言葉が上手く出てこない。
しかし、「お経を読むとき」「独り言を言う時」「英語をしゃべる時」などは吃音が治るのである。
それに「尺八を吹くとき」もスムーズに息が出る。音楽では淀まない。
(従ってこの吃音は溝口のアイデンティティそのものでもあるが、オペラでは手の不自由となり、扱いが難しいところ。今回の亜門演出では、手の不自由は先天的な身体の不具ではなく、精神から来ている不自由という解釈で進む。)
会う人皆からこの吃音をからかわれれ、溝口はコンプレックスに満ちた、弱い精神の持ち主として成長する。
彼は父親から「金閣ほど美しいものはこの世にない」と言われて育つ。
なので彼の中に金閣は永遠の美の象徴として強く存在することになる。
実際の金閣を見たとき、自分の想像があまりに美しすぎたため、なんだこんなものか、と思うのだが、それでも象徴としての金閣が消えることは無い。消えるどころかその存在はどんどん大きくなり、溝口の行く先々にその美しい姿を現し、人生と溝口を隔てていくのであった。
金閣があるうちは永遠に自分は自分を解放できない。「金閣は燃えねばならぬ」という考えにいたり、実際に火をつける。

モデルは実際に1950年に金閣寺を燃やした青年。彼は金閣寺に放火し、自らも毒を飲んで自殺を試みたが死にきれず逮捕された。
小説でも自死するための毒は出てくるが、それは使われることは無い。
金閣が炎に包まれるのを見て溝口は「生きよう」と思うのだ。しかし今回のオペラでは…見てのお楽しみである。

この非常に難しい役を宮本益光さんと与那城敬さんが演じる。
前半も後半も、一度舞台に出てきたら最後、なんと幕が下りるまで一度も袖に引っ込まない!
2時間、文字通りの「出ずっぱり」なのである。
音も難解である上にこのでずっぱり、そして溝口という精神的な役を演じる「役者」としての能力も要求される、ものすごく大変な役である。
この作品のど真ん中に溝口がいて、そこに現れる登場人物たちが溝口に一太刀ずつダメージを与えていく。一つ一つのシーンが溝口の精神を追い詰めていくのである。
なおこのオペラは大きく言うと「溝口の独白」という形で進む。(時々「声」との対話がある)今回の亜門さんの演出では、これが「溝口の回想シーン」ということで進んでいく。
したがってそこに現れる風景や人物たちは現実と言うよりは溝口の記憶の中の風景であり、溝口の目を通して思い出された世界だという事を頭に入れておきたい。

その回想シーンの中の溝口を、今回の演出の肝であるヤング溝口が演じる。もしかするとこのオペラの主役は彼らかも。
彼らは少年時代の溝口を演じ、ある時は溝口の葛藤する内面を、またある時は彼のコンプレックスそのものを体現する。

ヤング溝口を演じる前田晴翔君は大人気ミュージカル「ビリーエリオット」で主役を演じた逸材!恐ろしい美少年である上にダンスもキレッキレである。22日と24日には東京文化に彼のファンが大挙して押し寄せてくれるらしい。楽しみ!もう一人のヤング溝口木下湧仁君もライオンキングやアニーに出ている超実力派。二人とも中2にしてすでに思い切りプロフェッショナルである。

そしてアダルト溝口を演じる宮本さんと与那城さんは、美声はもちろん、オペラ界を代表する演技派歌手でもある。その芝居は亜門さんをして「オペラではなく演劇を見てるようです」と言わしめるものだ。
宮本さんは時々ご一緒させて頂いたり、舞台を拝見したりしているが、つねに「進化している」、と思わせてくれる歌い手である。いつも躍動感に満ちていて、高みを目指していて、少し上の先輩にこういう人がいると、自分も止まったら終わりだな、と感じさせてもらえる。3年前とはまた味の違う溝口を見せてくれる事だと思う。
与那城くんは近しい友人でもあるが、声と役作りの独自の魅力は誰にも真似できないものがある。
作品に対していつも自分の中に決然とした答えのようなものを持っているように見える。
ちなみに与那城君は同じ三島原作の「鹿鳴館」というオペラにも出演していて、その中に「芸術には復讐の匂いがする」という言葉があるそうで、それを前回教えてもらって、良い言葉だなぁと思った。
与那城君も「分かる気がする」と言っていた。
この金閣寺にも通じる言葉だと思う。うん。芸術には復讐の匂いがする。

このタイプの異なる二人の溝口は両日とも必見。是非お楽しみに!

***

有為子(冨平安希子・嘉目真木子)




溝口の初恋の人。
目を引く美しさを持っている。
ある日溝口は有為子に想いを打ち明けようと、自転車でやって来た彼女の前に飛び出る。
喋ろうとするのだがいつものごとく言葉が出ない。
有為子には「どもりのくせに」と馬鹿にされ、溝口は恥をかく。
誰より見られたくない有為子に失態を見られてしまい、溝口は有為子を憎む。
死んでほしいと思うくらいに憎む。(ということはそれほど好きなのであるが。)
そして死んでほしい、という願いはほどなく現実のものとなる。
有為子はある脱走兵と恋仲になるのだが、それが憲兵に見つかってしまい、有為子は彼を逃がそうとするが、逃げられないと思った脱走兵に心中的に銃で撃たれてしまうのだ。
有為子は永遠に届かない存在となるが、溝口の中にその刹那の有為子の美しさはずっと残る。

この美しい少女を嘉目真木子さんと冨平安希子さんが演じる。
二人とも本当に美人さんなのだが、有為子の透明感もまたピッタリ。
嘉目さんは先のフランス公演でも日本から参加。
以前から美しい人だが、最近一段と優しい表情が魅力的になった気がするし、本当に細かい芝居、仕草が素晴らしい。
舞台上で自転車に乗るというレアなシーンも見逃せない。ちなみに冨平さんは人生であまり自転車に乗ったことが無くて今回の為に猛練習(笑)日本人離れした目鼻立ちの美しさも出色!
有為子は歌うところは少ないが(というか女性キャストの歌う量は総じて少なめ。三島の想いを反映してるのかな?)
存在感はたっぷり。
この二人はクロスキャストとして「女」役も演じる。その演じ分けにも注目!

***

父(星野淳・小林由樹)




溝口の父。田舎の寺の住職。金閣を誰よりも愛する。
病気になりある日吐血をして死ぬ。
自分の死期を悟っていた彼は、自分の愛する金閣に息子を預ける。
一見情けないようにも見えるが、溝口は彼のことを愛していたんだろうなぁと思う。
この父役を星野さんと小林さんのお二人が演じる。
お二人とも普段はダンディキャラだけれど、病弱で気弱で、でも溝口を愚直に愛する父親をを見事に演じる。
あと咳をするシーンが多いのだが、お二人ともお上手。
インフルエンザが気になる時期なのでなんとなくドキドキ(笑)
あ、それと父の役は理由は良く分からないがやたらと高い音が出てくる。テノールのような音域の部分もあって、バリトンでこれを歌うのは至難の業だと思うのでそこも必聴!


***

母(腰越満美・林正子)




溝口の母。息子に大きな希望を抱いている。父の寺は父の死後人の手に渡ってしまうので、溝口が金閣の住職になることを夢見ている。
溝口が「母を醜くしているのは、…それは希望だった。頑固な皮ぜんのような希望、不治の希望であった」と言っている。希望とは言い方を変えれば欲望だ。
溝口は13歳のある日、自分の母の浮気現場を見てしまう。
父も自分も傍に寝ている状態で、母は親戚の男と情事をしているのだった。
溝口は息が止まるほどに驚く。が、その目に覆いがかぶさった。それは父の手であった。
父は母の浮気を目の当たりにしながらそれを黙認し、息子の目を塞いだのだった。
なんとも切なくショッキングなシーンであるが、これはもちろん溝口にとっては強烈なトラウマとなる。
「女」というものに嫌悪と憧憬を抱かせる出来事であった。

この母の役を腰越さんと林さんという美女が演じる。
「炎上」などの映画でも、この母はどこにでもいるおばさん、みたいなイメージで描かれているが、今回のお二人はとてもお美しい。お二人とも普段はけっこうサバっとされているのだけど、ひとたび舞台に立てば女優の色気を放つ。さすがだ。

***

若い男(高田正人・高柳圭)




その母の浮気相手。
原作には「若い」という形容詞はついておらず、仕事に失敗したただのダメ男なのだが、オペラには「若い」と付いているので、若々しさが求められているのだろう。
亜門さん曰く「とにかく性をむさぼる男、ウナギとか食べてギラギラして!」というわけでプライベートはおいといてギラギラできるように頑張りたい。ダブルの高柳圭君は僕と違って本物のイケメンなので見ている方は感情移入しやすいと思う(笑)

***

鶴川(加耒徹・高田智士)




溝口の友人。溝口と同じく金閣で門弟をやっている。
原作では明るい男だが、オペラ版ではゲイの要素が強く溝口に恋心を抱いているようだ。
原作では唯一溝口の吃音をからかわなかった男で、そんなこともあり溝口と交友を深める。
一見明るいがその内面には闇があるようで、原作では恋愛のもつれから自殺してしまう。
オペラでも自殺することは変わらないが、こちらは溝口に嘘をつかれたことで自死する感じなのかな?
僕にはイマイチ分からない部分。
そして意外なことに後に説明する柏木とも強い関係を持っているのだった。

まぁとにかくこの人はこの人で屈折しているのだが、それを加耒君と高田君が演じる。加耒くんはイケメンなんだけど、この役をやっているときは不思議な不気味さがあってとても良い味を出していると思う。(HPの動画を見てみると分かるかと)。あと、とにかく歌が上手い。個人的には今の30代のバリトンでも抜きん出た存在だと思う。この人と宮本さんの(声の)絡み合いは必聴。普通あまりバリトン同士の2重唱って聞けないし。
一方の高田君はおおらかで少し健康的な感じ。ぼく的には原作の鶴川にどこか近い感じがある。
あと僕と名字が同じなので、結構な確率で「高田さんの弟さんですよね」と言われるのだが、兄弟ではない。僕は一人っ子だし、彼にはバリトンのお兄さんがいて、ドイツで活躍するこれまた素晴らしいバリトンである。

***

柏木(樋口達哉・山本耕平)




溝口の大学の悪友。
足に障害を持っている。
しかしそれをコンプレックスには思わず、むしろそれを武器に女を口説く。
「認識こそが世界を変えるのだ」と言う。
ものすごーく平たい言い方をすると、幸せは自分の心が決める・みつを、みたいな意味なんじゃないかと思う。
同じ世界を自分の認識によって違う世界にすること。その力を柏木は持っている。
溝口はそこに憧れもあり、柏木に魅力を感じていく。
しかし溝口は金閣を燃やすことを決意した時、「世界を変えるのは行為」だという結論にいきつく。
認識では世界は変わらないのだ、と。
逆に言えば認識で世界を変えるほどの強さを溝口は持っていなかったことになる。
ちょっと難しいけど、この議論は金閣寺の重要なテーマだと思う。
溝口は「金閣を燃やす」という「行為」によって世界を変えたのだし、そうすることによってしか世界を変える術を見つけられなかったのだ。
個人的には人生にはそのどちらも必要なのだろうと思う。
世界を行為によって改革していく強さも、世界を受け入れ自分の中で変容させていく力も、半々ではないだろうか。

さて、この強烈な個性を持った役を樋口さんと山本君が演じる。普段は二人ともめちゃめちゃ王子なテノールなのだが、こういう屈折した役もうまいんだなぁ。新たな一面を垣間見ることができます。個人的には宮本さんと樋口さんの絡みって初めて見る気がするので超新鮮!以前この二人とは二期会のこうもりでご一緒してるのだけど、その時もこの二人の直接の絡みはなかったはず。必見!
あと、山本君はこの役をやるにあたって本当に尺八を吹けるようになった。すご!
彼は凝り性というよりは実に様々なことに広く深く好奇心を持って取り組んでいて、年下ながら尊敬に値します、ほんと。

ちなみに亜門さん曰く「三島はこの溝口・鶴川・柏木の3人に自分の姿を溶け込ませました。コンプレックス、弱さ、良家の坊ちゃんであること、それを凌駕する強さ、知性、彼を形作った様々な色を、この3人がそれぞれに持ちあっているわけです」とのこと。なぁるほどである。

***

女「嘉目真木子・冨平亜希子」




原作ではちょっと有為子似の女と書かれている。
自分の恋人が出征する別れの日に、彼のお茶に自分の母乳を入れて送り出す、というエロティックで神聖な光景に溝口が出くわす。
女の恋人は戦争で他界。そしてこの恋人との子供は死産であった。その後、その反動からか男に軽い女となり、柏木の女になる。柏木の足に憐憫を抱いたのか、あるいは自分と同類だと思ったのか。
柏木は溝口が童貞だと知ると、一計を案じ、溝口が童貞を捨てる相手としてこの女をあてがうが、事に及ぼうとした刹那、溝口のまぶたの裏にあの金閣が姿を現す。きらきらと美しい金閣の前に溝口は不能となり、女に笑われてしまう。
溝口の中には童貞コンプレックスというのも少なからず有るんだと思うけど、そのコンプレックスから自由になるチャンスを、またも金閣によって阻まれてしまう。

これまたエロティシズムの漂う役だが、普段は明るくて健康的な二人が、舞台に立つと色気と凄みが一気に舞台に溢れる。本当に皆さん役者です。美しいシーン。

***

娼婦(郷家暁子・中川香里)




ある日金閣にアメリカ軍人と娼婦のカップルがやってくる。
娼婦はアメリカ軍人の子供を妊娠しているが、彼は子供は欲しくないのだろう。
溝口が二人の金閣観光を案内していると、軍人と娼婦はひょんなことから口論となり、娼婦を地面に倒してしまう。
そして溝口に「その女の腹を踏め」と命じたのだった。
溝口は言われたとおりに腹を踏む。グニャリとした感覚が靴の底に押し返される。踏んでいるうちに溝口は得も言われぬ快感を感じたのであった。
GIは溝口に礼として煙草のカートンを渡して去っていく。
この行為により娼婦は流産。後日慰謝料を金閣の和尚に払えと談判に訪れ、溝口のしたことが皆の知るところとなる。ここから溝口の寺での立場はどんどん悪くなっていった。

この娼婦の役を演じる二人であるが、褒め言葉になるか分からないが、このパンパン姿が異常にはまっている。郷家さんは普段から色気のあるキャラで(笑)そのまま行けそうだし、(いやきっと頑張って役作りもしてるでしょうけど)、中川さんは普段は清潔キャラですが、髪型によってはすごく派手になったりもするんですよね。ほんと女の人ってのは良く分からない深みがあります(笑)

***

道詮和尚(志村文彦・畠山茂)




金閣の住職。権力者である。
一時は溝口を自分の後継ぎにと考えたこともあったようだが、娼婦を流産させた事件辺りからその意思をなくす。
さらに自分が愛人(遊郭の女)と歩いているところを溝口に見られ、溝口への愛情をまったく感じなくなるばかりか憎むようになっていく。
「自分は金閣の住職になれない」
この事実は彼の人生を決定的に蓋するものとなった。最後の希望の光が閉ざされた。
この和尚との関係はこの物語の中でも非常に重要。
志村さんはこの役がぴったりで(というかどんな役でも志村色にしてしまう才あり)、フランス公演でも和尚を演じ、この悦楽な生臭坊主を世界に広めて下さった!笑
畠山さんは二期会のありとあらゆる脇の役を網羅していて、その分野では右に出るものなし。

***

さて、物語はなんとなーく分かっていただけたかと思うが、三島の金閣寺を語るにあたって、あらすじを記すことはあまり意味がないだろう。(時間はかかったけど)
この小説の魅力は、ストーリーそのもの以上にその言葉にある。
僕が三島由紀夫の「金閣寺」を初めて読んだのは確か高1の時だった。
当時の僕にはこの作品は難しく、1ページに1つは知らない単語があり、それを辞書で引きながら少しずつ読み進んで読破した時は嬉しかったものだが、それは内容を味わうというよりは通らねばならない難解な純文学の門を何とか通ったという喜びだった。

今回「オペラ金閣寺」をやるに当たって改めて小説金閣寺を読み返してみたが、やはり金閣寺というのは三島の作品群の中でも難解な部類に入るものだと思う。特に後半は溝口のドロドロとした思念の沼の中を泳いでいるような、光の見えない道を歩いているような、非常に精神力を必要とされる作品である。
しかしその中に、三島の幾千という宝のような言葉があり、その言葉の中を歩いているとだんだんとその芳醇な果汁を浴びる喜びに目覚める。三島の言葉の才能とセンスに身を任せる喜びがある。

金閣寺のオペラがあると聞いたときに、あの「言葉」たちによって形作られた世界を、どのように表現するのだろうかと思った。
この小説を2時間のオペラにするには、その命とも言うべき三島の言葉を、幾千となく削らなくてはてはならない。
ではその失われたものを補完するものは何か。
それは「音楽」と「声」である。
三島と生前親交の深かった黛敏郎(僕たちの世代には「題名のない音楽会」の司会と言った方がピンとくる)の音楽が、三島の言葉を音楽で奏でる。
黛の音楽はドイツ表現主義の流れを汲んでいるだろう。とか言うと難しそうだけど、
ようはロマン派の聞きやすい美しい音楽とは対極の、不協和音を多く用いた難解な音進行の音楽ということである。
しかしながらこの音楽が「金閣寺」の持つ温度と非常に相性が良い。

以前どこかにも書いたが、クラシック音楽は20世紀に入ってその可能性を大きく広げた。
それまでのオペラは多くは恋愛に題材をとっていた。
乱暴に言えばロマン派くらいまでは美しい音楽で「あなたー愛してるわー」とか「裏切ったなー死ねー!」とか歌っていれば、まぁまぁ事足りたのである。
しかし20世紀に入って、音楽家たちはもっと人間の内面を描きたいと思った。
人間の中にある「黒いドロドロとしたもの」「汚いけれど人生の中で向き合わなくてはいけないもの」
そういうものを音楽で描こうとしたのである。
こういうものを表現するにはいままでの作曲手法では道が足りなかった。
そこで多くの作曲家たちが実験的にいろいろな技法を編み出し始めたのである。
リヒャルトシュトラウス、シェーンベルク、ベルクなどから始まり、さらに音楽は解体され、ブーレーズやシュトックハウゼンなどの現代音楽に道を広げた。
「金閣寺」を作った黛敏郎はこういった作曲家たちに造詣が深く、特にラヴェル、ストラヴィンスキーを愛したらしいが、この作品にもその時代の影響が見て取れる。
そしてこの音楽は、三島の「金閣寺」ととても相性が良いのである。
その音楽は溝口の感情のひだを描く。どこにもいけない精神の袋小路を描く。
溝口だけでは無い。鶴川や柏木、父や母、この小説に出てくる人々はどこか歪んでいる。
それを黛の音楽がこれでもかというほどにえぐる。
前回の日記にも書いたが、僕にはこれがそれほど特殊な世界には見えない。
世界はそもそも歪んでいるのだ。あなたも私も歪んでいるのだ。この話は、明日の自分に起こりうるかもしれない話だと思う。

例えば、このオペラの終盤にこんな言葉がある。

「人間たちよ、僕の心を見てみよ。僕は君たちが考えている僕とは違うのだ。」

この言葉、僕たちもこんな風に思ったことは無いだろうか。
僕はそんな人間じゃないのだ。
自分は誰にも理解されない。
私にしか分からない、みんなの知らない自分がいるのだ。
他人はおろか家族や恋人も分かってくれない、本当の自分が在るのだ。
それはもっと尊くて、純粋で、価値のあるものなのだ。
どうして誰も本当の自分を見つけ出してくれないのか。

そんな風に叫びたくなったことは無いだろうか。

主人公の溝口もそうである。

「自分にはもっと意味があるのだ。」
「この世のどこかに、まだ私自身の知らない使命が私を待っているのだ。」

しかしそれは結局誰にも理解されない。
声は言う。

「お前の心を覗いたところで意味なんて無いのだ。お前がどういう人間なのかは全てお前の顔に表れているさ。」

その絶望を僕たちはどこかで経験しているんじゃないだろうか。

***

さて、まだ書きたいことがあるのだけれど、ここから先は劇場でのお楽しみという事で、
2月22日〜24日、東京文化会館でお待ちしております〜〜!!^^

上演の詳細はこちら→二期会HP金閣寺


そしてチケットはdachon55@yahoo.co.jpまで是非!!


あ、最後になりましたが、合唱の皆さんも必聴必見!

ではでは〜!!

  • URL:https://yaplog.jp/dachin55/archive/655
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じゅん
初めまして。観に行くにあたり少し予習をと思い解説を探していたらこちらに辿り着きました。見つけられて良かったです。
チケットもお願いすることができるのですね…次回はお願いしようと思います。
楽しみにしてます!
February 22 [Fri], 2019, 12:29
真緒ママ
久しぶりの更新嬉しいです!お忙しい中、読みごたえのある解説、大変でしたでしょう。ありがとうございます。分かりやすくて楽しみ倍増、観劇の日を心待ちにしております。娘も参戦致します〜ストーリーも音楽も難解でしょうが、皆様のエネルギーと音楽の渦に飲み込まれてしまえ〜と思っています(笑)
高田さんのギラギラシーン、どう思うかな?(笑)

February 16 [Sat], 2019, 12:34
さとみ
楽しみにしています〜♪
今回は加耒さんもいらっしゃるので昨年以上に楽しみ(笑)
February 14 [Thu], 2019, 12:53
プロフィール
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  • アイコン画像 性別:男性
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高田正人

プロフィール

東京芸術大学声楽科卒業。
同大学院修了。
二期会オペラ研修所第48期マスタークラス修了(修了時に優秀賞及び奨励賞受賞)。
イタリア政府給費生、および国際ロータリー財団奨学生としてイタリア、G・ニコリーニ国立音楽院に留学。
2009年より文化庁新進芸術家在外研修員としてニューヨークへ留学。
P・ヴァレー、M・グロッピ女史、F・ダルテーニャの各氏に師事。
小澤征爾音楽塾「カルメン」(特別演奏会)、二期会公演「仮面舞踏会」、宮本亜門演出「椿姫」、文化庁新進音楽家育成公演「ポッペアの戴冠」等、数多くのオペラに出演。サイトウキネン「サロメ」、東京オペラの森「エフゲニー・オネーギン」(小澤征爾指揮・ウィーン国立歌劇場共催)などではカヴァーを務め特別公演に出演。
NYのカーネギーホール・ヴァイルリサイタルホールを始めミラノ、ヴェローナ、ピアチェンツァ、台湾、ニューヨークなどでコンサートに出演。
二期会会員。
さらに詳しいプロフィールは
→こちら

お問い合わせ: 
dachon55@yahoo.co.jp



*****



《今後の出演予定》



*****



*****

2016年12月3日(土)(宇都宮)

宇都宮第九合唱団
ベートーヴェン 交響曲第九番ニ短調
op.125 「合唱付」



会場/栃木県総合文化センター
メインホール
PM6:00開場 PM6:30開演

指揮/三ツ橋 敬子
ソリスト
ソプラノ:小高 史子
メゾ・ソプラノ:磯地 美樹
テノール:高田 正人
バリトン:青山 貴

管弦楽/日本フィルハーモニー交響楽団
主催/宇都宮第九合唱団

入場料(全席指定)/S席 6,000円/A席 4,800円/A席学割 1,500円(高校生以下)



********


2016年12月8日(木)(熊本)
がんばろう!! 音楽のチカラ 復興コンサート 
平成音楽大学2016「華麗なる音楽の祭典」



T.卒業生によるオーケストラとの共演
◆クラリネット小協奏曲 作品26/C.M.v.ウェーバー

U.マリンバ協奏曲
◆マリンバ協奏曲/J.サルミエントス

V.独唱・合唱・オーケストラ
◆ピアノ・合唱・オーケストラのための合唱幻想曲 作品80/L.v.ベートーヴェン
 
◆熊本城築城400年記念オペラ −我が熊本の誇り”熊本城”を讃えてー
オペラ「南風吹けば楠若葉」より/出田敬三
第2幕 お藤・五郎の二重唱「夢のようなこの幸せ」
第3幕 フィナーレ”南風吹けば楠若葉”

熊本県立劇場コンサートホール
開場/18:00 開演/18:45


******

2016年12月11日(日)(埼玉)
坂戸第九を歌う会 第29回定期演奏会
ベートーヴェン 第九交響曲
モーツアルト キリエニ短調KV341



坂戸市文化会館
午後3時開演

演奏
小崎雅弘指揮 
ウッドランドノーツ管弦楽団
ソリスト
東城弥恵(ソプラノ)
成田伊美(メゾソプラノ)
高田正人(テノール)
萩原 潤(バリトン)


*******

2016年12月15日(木)
グローバルサロンコンサート
クリスマス・オペラコンサート
(クローズドコンサート)


(写真は去年の全さんとのものです)

出演者 : 高田 正人(テノール)、齋藤 亜都沙(ピアノ)、遠藤ふき子(ナレーション) 他

※チケットはすでに終了しています。

*******

12月30日夜
NHKラジオ深夜便
「ミッドナイトオペラ」



12月30日(金)午後23時台
「愛と喜びのオペラ(前半)」
愛の妙薬・フィガロの結婚・他
12月31日(土)午前0時台(30日(金)深夜)
「愛と喜びのオペラ(後半)」
こうもり・他

アンカー:遠藤ふき子
ゲスト:高田正人(オペラ歌手)

3回シリーズでお届けしてきた、愛と◯◯シリーズ、裏切り、憎しみ、と続き、やはり最後は「喜び」で締めくくります。
名唱の数々、どうぞお楽しみに!


*****

2017/01/09[月・祝] (那須)
那須野が原ハーモニーホール/ニューイヤー・コンサート
オペラ「カルメン」ハイライト



14:30開演(14:00開場)
※1部はオルガンなどでカルメンは2部になります。

演奏会形式で名作オペラ『カルメン』を上演します。子供たちも頑張ってフランス語で歌います。?

出演
カルメン:鳥木弥生(藤原歌劇団)
ドン・ホセ:高田正人(東京二期会)
ミカエラ:大貫裕子(藤原歌劇団)
エスカミーリョ:寺田功治
フラスキータ:西口彰子
メルセデス:郷家暁子
ダンカイロ:荒井雄貴
レメンダード:升島唯博
合唱:那須野が原少年少女合唱団
解説・案内役:大佐藤崇
第1ピアノ:御邊典一 第2ピアノ:御邊大介 パーカッション:岩下美香
■ この公演は託児サービスがあります


*****

2017年1月13日(金)
千駄ヶ谷スタイル with code"M"

?

18:30開演
よみうり大手町ホール

VIP席:6000円 自由席:5000円

4年ぶりにあの千駄ヶ谷スタイルが帰ってきます!一部は千スタコンサート、二部はcode"M"さんとのコラボレーション!新春の幕開けに、千駄ヶ谷スタイルとご一緒に過ごしませんか?クラシックファンだけでなく、幅広いお客様に楽しんでもらえるコンサートとなっております。

千駄ヶ谷スタイル(ソプラノ田上知穂、メゾソプラノ長谷川忍、テノール高田正人、バリトン与那城敬)
ピアノ 木村裕平(1部)
code"M"(2部)
MAKI (編曲&ピアノ)
岩田卓也(尺八)
樋口泰世(チェロ)
相川瞳(パーカッション)

チケットお取り扱い&お問い合わせ
二期会チケットセンター:
tel:<a href="tel:03-3796-1831" x-apple-data-detectors="true" x-apple-data-detectors-type="telephone" x-apple-data-detectors-result="1">03-3796-1831</a>
(平日10-18時 土曜10-15時)


******

2017年2月8日(水)
三枝成彰 監修
デジタリリカ「トスカ」
(原語上演・字幕付ハイライト版)



会場
東京文化会館 小ホール

開場/18:15
三枝成彰によるプレトーク/18:45〜
開演/19:00

演出 彌勒忠史
監修 三枝成彰
出演
トスカ 小川里美
カヴァラドッシ 高田正人
スカルピア 与那城敬
エレクトーン 清水のりこ
語り 彌勒忠史

フライヤーが現代風で面白いですねー!
公演も楽しみにです!

料金S席 6,000円 A席 5,000円
※ 全席指定

チケット取扱い
東京文化会館チケットサービス
電話:<a href="tel:03-5685-0650" x-apple-data-detectors="true" x-apple-data-detectors-type="telephone" x-apple-data-detectors-result="2">03-5685-0650</a>

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2017年 2月26日(日)(大分・別府)

瓜生島プロジェクトVol.2
東京オペレッタ劇場共同制作
ツェラー作曲
別府市民オペレッタ『小鳥売り』


(画像無いので東京公演の時ので許してね)

B-con plaza(大分・別府)
14:00開演

出演:高田正人、富田沙緒里、里中トヨコ、愛甲久美、行天祥晃、新見準平ほか

演奏:角岳史、野間美希


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2017年3月12日(日)(横須賀)
オペラ宅配便シリーズ15
ぎゅぎゅっとオペラ Digitalyrica
プッチーニ 歌劇「蝶々夫人」
<原語上演・字幕付/ハイライト版>



毎回大好評の「ぎゅぎゅっとオペラ」第3弾は、プッチーニの三大オペラの一つ「蝶々夫人」。オペラ界で活躍する実力派歌手が登場し、その美しいアリアはもちろんのこと、重唱や合唱も交えたハイライト版でお届けします。エレクトーンのドラマティックな音色、彌勒忠史の粋な演出など、見所聴き所が満載で、オペラのエッセンスをぎゅぎゅっと凝縮してお贈りいたします。


ヨコスカ・ベイサイド・ポケット(横須賀芸術劇場内)
16:00開演

出演
蝶々夫人 小川里美(ソプラノ)
ピンカートン 高田正人(テノール)
シャープレス 与那城 敬(バリトン)
スズキ 鳥木弥生(メゾ・ソプラノ)

合唱 ぎゅぎゅっとオペラ合唱団
エレクトーン 清水のりこ
企画・演出・ナビゲーター勒忠史
チケット取扱
横須賀芸術劇場
電話予約センター <a href="tel:046-823-9999" x-apple-data-detectors="true" x-apple-data-detectors-type="telephone" x-apple-data-detectors-result="3/0">046-823-9999</a>
チケットぴあ http://pia.jp/t/ [Pコード312-592]
お問合せ 横須賀芸術劇場 <a href="tel:046-828-1602" x-apple-data-detectors="true" x-apple-data-detectors-type="telephone" x-apple-data-detectors-result="3/2">046-828-1602</a>
主催 公益財団法人横須賀芸術文化財団


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2017年3月28日
育藝会コンサート(クローズド)
ミュージカルの名曲を集めて
出演
ソプラノ 嘉目真木子
テノール 高田正人
エレクトーン 清水のりこ

*チケットは終了しています。

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と、3月まではこんな感じでございます〜!
今後増える可能性もありますが、、
いずれのコンサートも
dachon55@yahoo.co.jp
までメールいただいてもご用意すること出来ますので!
是非お声がけくださいませ

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