A vision of the summer.V4

September 26 [Fri], 2008, 0:42
A vision of the summer.V終わりです。


止まったページの右側、中央を指差し夕映は顔を上げた。

「基本的な魔法……あっ」
「やっと思い出したですか」
「そうだ……そうか!僕としたことがっ…すっかり失念していました!」
「何なに?何なのよぉ!2人だけで話を進めないでっ」

じれったい!と騒ぎ出したのは明日菜以外には誰もいなかった。
しかしそれは感情を押し殺しているに過ぎなかった。

「基本的な魔法である『人物特定の魔法』、そして『占い(未来予報)の
 魔法』、合わせて未来人である刹那さんを特定する魔法となります」

先ほどの空気とは明らかに違うものが辺りに漂う。
その名の通り、特に説明を必要としないそれらの魔法が切り札と
なった瞬間だった。嬉しさがなかったと言えば嘘になる。
だが、素直にその気持ちに浸ることはできなかった。
木乃香はどこかで分かっていたのかもしれない。
この結末を。そして、本当の切り札が何なのかを。

「ネギ先生」
「分かってます」
「ねえ、ちょっと待って」

こくんと頷き杖を翳そうとしたネギを制止し、ハルナが言った。
何なのよという明日菜の不機嫌声をも押しやり夕映を見据える。

「夕映、最初に言ってたわよね。刹那さんを呼び戻す方法も
 分かったって。その方法って何」

さすがの明日菜も口を噤む。
先ほど騒いだのを気にしているのか、今度は積極的には聞こうとは
しなかった。ハルナは続けた。

「確かにその2つの魔法を使って刹那さんの気持ちを読み取ることは
出来るかもしれない。そして今刹那さんに何が起こっているのかも
分かるかもしれない。のどかのアーティファクトに魔法が使えるか
どうかまだ分かんないけどやってみる価値はあると思う。でもさ、
それが刹那さんを連れ戻す方法にどうつながるの?」
「…今回のことは」

みんなその答えを待っているようだった。
誰も夕映を遮ることはなく、ネギも杖を下ろしてその答えを待った。
ハルナの額から汗が伝って落ちた。
夕映を見つめたまま微動だにしないのは彼女だけではなかった。
焦らすように何も言わないのは理由があるからだった。
夕映は目を伏せた。

「おそらくあちらの、過去の刹那さんと木乃香さん、そして今現在の
刹那さんの思いがシンクロして起こったものです。刹那さんは過去
 の2人の力に耐えられなかった。それほどに強すぎる魔法(思い)
 だったのでしょう。それに…」

夕映は苦しそうな表情で彼女を見上げた。
すみませんです、と囁くような声が辺りに響いた。
瞬間、あちゃーと言う声がハルナの口から漏れた。
やっちゃったと言う顔をしてハルナは髪をかきむしった。
一方謝られた彼女はゆっくりと首を振った。

夕映は悪くない。全部、自分のせいなんだ。
過去に思いを馳せてしまったのは自分なのだから。
今現在の刹那を否定してしまったのは自分だから。

「ウチが、弱かったんよ」
「木乃香さん」
「夕映が気にすることあらへん。これはウチの問題やから」
「ちょっと木乃香」
「ええから。ウチのせいにさせて」

決して自分を責めているのではない。
責めても何も始まらないことを教わったから。
でも、自分が引き起こしてしまったことには変わりないのだ。
自分は自分の責任から逃げたくはない。
他人ではなく自分のせいにするのはそういう理由からだった。
そうんなやり方でした鎖をかけられない自分が悔しいが今は
そうすることでしか逃げ場をなくすことができない。
明日菜に思いが通じたのか、それ以上は何も聞こうとはしなかった。

「せやから夕映、教えて。せっちゃんを連れ戻す方法」
「確実な方法ではないです」
「それでも…それしかないんやろ?」

木乃香のやわらかな問いかけに夕映は何も答えなかった。
周りがやけに静かだ。
誰しもが木乃香に釘付けになっていた。
先ほどまで落ち着かない様子を見せていたのどかでさえもピタリと
動きを止めていた。木乃香の表情は不思議と安らいだような、
そんな風に夕映の目には映った。
静かに答えを待つという行為だけを忠実にこなしているように見える。
今自分にできることはこれしかないと割り切っているようにも思えた。
しばらくして夕映が口を開いた。

「あくまでも私の考えですが」
「それでもええ。ウチは自分の信じたい人を信じたいだけや」

それだけで彼女が誰を信じ誰を救いたいか、全てが分かったような
気がした。これ以上は何も言う必要はない。
そう判断するのは遅かったかもしれない。
木乃香はとっくの昔に覚悟していたのだから。
それに応えなければならない。
いっそう強い瞳で夕映は前を見据えた。

「刹那さんを呼び戻すにはこちらもあちらと思いを同調させなければ
 “魔法”は起こらないでしょう。木乃香さん…あなたは何か心当たり
 がありますね」

夕映の視線は木乃香ではなくその手に向かっていた。
木乃香は否定せずにこくんとひとつ頷いただけだった。

「それを思い出すためにも、ウチはせっちゃんの気持ちを見なあかん」

たとえ彼女の本当の思いが自分を傷付けるようなものだったとしても。
大切なひとのためなら自分はどうなってもいい。
彼女は怒るかもしれないけれどそれはお互い様だ。

木乃香は不安感を募らせたのどかを見て、そして笑いかけた。
「大丈夫」という言葉の中には何が詰まっているのだろう。
のどかはギュッと自分の手のひらを握り締めた。
まるで任せてと木乃香に応えているかのように。
その手はもう震えてはいなかった。
その次に夕映を見やり木乃香は再び大きく頷いた。
夕映はそれを見届け、そしてネギもまた頷いた。

「3対1と分が悪いですが、今の木乃香さんの魔力を持ってすれば
刹那さんを呼び戻すことは可能かと思われ」
「違う」

リン、という鈴の音と共に明日菜が言った。

「こっちは6人よ」

ニヤリと笑んだ。
ぽかんとした表情を浮かべていた5人はやがて同じように笑った。

「刹那さんを連れ戻すには刹那さんの思いをこっちに向けさせれば
いいのね」
「そういうことです」
「ただ向けさせるだけでは足りない気もするけど…」
「そうね。あとはあっちの木乃香が何かしてないことを祈るだけね」
「それは祈るだけ無駄かと」
「え?」
「何故なら、もう起こってしまったからです」

夕映に同調するかのようにネギが言った。
明日菜は眉根を寄せて口を噤んだ。
ネギの表情はしかし次にやわらかなそれに変わっていた。

「ですから、僕たちがやるしかないんです。過去の木乃香さんに
 何が起ころうと今の木乃香さんは僕たちの目の前にいる」
「そういうことです」
「夕映、あんたネギ君なら言いたいこと全部言われても怒らない
 のね」
「は、ハルナ!こんなときにからかうなです!」
「こんなときだからこそからかってんじゃない」

キーッと喚き散らす夕映にハルナは豪快に笑った。
しかしそのおかげだろう。
先ほどの重苦しい雰囲気は綺麗に消え去りあたたかいそれに
変わりつつあった。いつもの空間。しかし彼女はいない。
いつものここに彼女を連れ戻すために今の自分たちができることは…

「まずは、刹那さんが今いる場所を特定しないとね」
「のどか」
「うん」

強いそれだった。
「アデアット!」とのどかが叫ぶと夕映とは対照的に一冊の本が
目の前に現れた。パラパラと本自体がページを捲る。
まるで早く書いてくれと急かしているように見える。

「準備オッケーだよ」
「ネギ先生」
「はい!では…いきますっ」

随分と聞き慣れたその呪文だが今は頼みの綱として力強く発される。
杖を振りかざし、ネギが名を呼ぶと一瞬で霧が広がった。
徐々にそれが消え去り代わりに現れたのは小さな手のひらに乗る
ほどの妖精だった。

「これを応用すればきっとできるはずです。のどかさん」
「はい、ネギ先生」

開かれたページにその妖精たちがすっと潜り込んだ。
本の中に消えてしまったからと言って力を抜くわけにはいかない。
ネギはのどかの魔力に自分の波長を合わせることに専念しなければ
ならなかった。
目を閉じ全神経をのどかのアーティファクトに向ける。
不安そうな顔でのどかはその様子を見つめた。

「ネギ先生…」
「大丈夫です。のどかさんは自分のアーティファクトに集中して
 ください」

魔法に関してはネギの方が数段上手だ。
それを知っていても尚心配なのはやはりこの感情のせいであろう。
のどかはネギから視線をそらし目の前の本に集中することにした。
光がいっそう眩しく辺りに広がった。そして、のどかは叫んだ。

「思考追跡っ…桜咲刹那!」



つづく
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