A vision of the summer.V3

September 26 [Fri], 2008, 0:39
A vision of the summer.V2の続きです。


ドタドタと図書館には相応しくない足音にまずハルナが気付く。
のどかは未だ手元の本に夢中である。
一度読み始めたらなかなか現実世界に帰って来れないために仕方ない。
怪訝そうな顔でハルナが夕映の席へ向かった。

「どうしたの、夕映。何か発見した?」
「ええ。でも…大したことはないヒントのようなものですが」
「ヒントはヒントよ。何なの、言ってみなさいよ」

ハルナはずんと顔をよせると夕映は若干後ずさった。
こほんと咳払いをし、問題の本に目を戻した。

「この小説なのですが…実は小さい頃の私の愛読書なのです」
「へぇ〜、どれどれ見せて…あ、さてはこの物語が今の状況に
 そっくりだとか?」
「……まあ、長い目で見ればそうなるかもです」

うっそ、とハルナが声を上げる。
夕映はペラペラとページを捲っていった。

「ここを見てくださいです」

ふ、と息をついて本から目を離してハルナを見上げた。

「奇跡が起こる。すなわち一般人にとっての魔法とも言えるそれは思いが
 通じたとしか考えられないもの。つまり今の状況に類似しているです。
 この奇跡の応用として魔法を使えばなんとかなるかもです。しかし…」
「何が言いたいの」
「お二人にそれが当てはまるかと言えば…」

答えはNOに近い。

「木乃香さんと刹那さんの互いを思いやる気持ちは確かに強いです。
 しかし、その根本的な問題が何であるか分からない限りこちらから、
 木乃香さんから一方的に思っていても相手に伝わるかと言ったら否、
 通じない可能性が極めて高いと言えるでしょう。過去に行ってしまった
 刹那さんなら尚更です」

刹那は何も分からずにさ迷っているかもしれない。
だからこそ木乃香のことを想うのだろうが…今は違う。
2人の関係が危ういものとなっていたことは夕映の目から見ても
一目瞭然であった。

「ならどうすればいいのよ」
「さっきも少し言ったように、こちらには魔法と言う“実体の”奇跡が
 あるです。ネギ先生のおっしゃる通り何とかなると思うですが…
 そもそも刹那さんがあちらに連れて行かれた理由が分からなければ…
 いえ、たとえ理由が分かっても……」

自分ではどうにもできない。
そうやって自問自答しか出来ない自分がひどく歯がゆい。
もっと情報が欲しい。
あちらの世界とはいつなのか、どこなのか、誰がいるのか…
情報があまりに足りなさすぎる。
夕映は頭を抱えて目を瞑った。

「夕映、深呼吸して」
「はい?」
「深呼吸、するの。ほら、吸ってー…吐いてー」

両手を大きく広げて深呼吸を繰り返すハルナを夕映は呆気にとられた
様子で見つめた。

「あんたはただの馬鹿じゃないんだから。明日菜が行動的な馬鹿なら
 あんたは論理的な馬鹿って言うのかな。とにかく、周りを見な」

励ますことしかできない自分がいる。
ひたすらに本を読み続ける本の虫がいる。
馬鹿と言われて尚も笑顔で突き進む自分がいる。
それぞれの思いに気付いた瞬間、再びあの大好きだった祖父の
言葉が蘇る。す、と息を吸うと大好きな本の匂いがした。

「ハルナもたまにはいいこと言うですね」
「うっさいわね。ほんとはあんたの分身10人くらい描こうかと思ったけど
 恐ろしくて止めた」
「どういう意味ですかそれは」
「そういう意味よ」

ふふん、と鼻で笑うハルナにつられて頬が緩んだ。
張り詰めていた空気が一変して青から橙に変わる。
本を閉じ、周りを見渡す。
目に入るのはやはり本ばかりで、奥の方にはその山が見えた。

「ああ、のどかね…さっきよりも積み重なってるわね。のどかー、
 そろそろ本棚に返さないと順番分かんなくなるわよ!」

ハルナが叫ぶと「ごめんねー」とのんびりとした声が小さく聞こえた。
隣でハルナが呆れた、とため息をはいた。

「のどかもアレ、いい加減にしないとほんとに本の虫になっちゃうわね。
 てかもうなってるか…」
「それです」
「ん?本の虫がどうかした?」
「それを使えばっ……」

いえ、しかし…

頭の中にあるあらゆる可能性を否定しては否定し、確実なものに
仕上げていく。パズルの全容が明らかになっていく。

「夕映…?」

本の山をじっと見つめるその瞳を見てハルナは確信した。
この瞳は何かを閃いた瞳だ。
もう少し。あともう少ししたらこの子の答えが出る。

「アデアット!」と夕映が叫ぶと光の中から現れた無数の本たちが
一瞬で彼女の目の前にずらりと並んだ。
前よりもその動作は素早くなっている。
夕映の意思に反応しているのか、その本が勝手にパラパラと開いていく。
おそらく順応性が高度化しているのだ。
日夜自分に適当な修行法を探していたがために急速にそれが伸びたに
違いない。頭の中にあるものと本の中にある真実とを篩にかける。
出てくるのはきっとまっさらな『答え』だ。
ハルナは心の中で数えた。

さん、に、いち…

「分かったです!」

それは本の山からのどかがひょっこり顔を出したのと同時だった。
のどかはその声にびっくりして固まったままだ。

「のどか」
「あひゃいっ」
「行くですよ」

どこへ行くのか、もう分かっていた。
全身に鳥肌が立つ。
胸の鼓動がドクドクと騒ぎ出す。
ハルナは手で胸の前を押さえた。

「もちろん、ハルナもですよ」

答えが出た後のこの笑顔はやはり格別だ。

「がってんっ!」

私たちは本を置き去りに走り出した。





目の前の修復されたばかりのゲートを取り囲むようにしてネギ君と明日菜、
そしてウチがいた。
途中から来た明日菜は妙に張り切った様子でウチらの中に駆け込んできた。
どうして明日菜がここに来たのか、それはすぐに図書館3人組の差し金だな
と察しが付いた。
いつもの自分ならそうせずとも明日菜に一緒にいてくれ、と言えただろう。
明日菜が本を漁るなんて似合わない。
そうすぐに判断できたはずなのにそれをしなかった。
それほどに、自分の欠けてしまった部分は大きかったらしい。
気が付くとすぐ横で明日菜とネギ君がいつものように言い争いをしていた。
あーだこーだ意見を飛ばす明日菜にネギがすぐ否定の言葉を返すのが
頭に来たらしい。こうして見ていると姉弟喧嘩のようで面白い。
一人っ子の自分にはそんなことなかった、と言ったらそれは嘘になる。
だから、口元は笑んではくれなかった。
日常の一風景にせっちゃんはいない。
こうなったのも全部自分のせいなのだ。

手のひらの中の紫陽花を見下ろす。
ずっと手にもっていたせいか、少し萎れていた。
その藍色に優しく手で触れてみる。
そうする度に掠める映像が花びらのように一瞬で舞い散ってしまう。
思い出せない。どうしても。
手を伸ばしても捕まえることのできない花びらのような記憶。
しかし薄っぺらい記憶なんかじゃない。
中身はとても言葉では言い切れないほどの何かが詰まっているはずだ。
それだけは分かる。もう一度紫陽花を見た。
その“紫陽花”が何だったか――思い出せない。

「夕映ちゃんっ」

明日菜が叫んだ。
見るとこちらに向かって走ってくる夕映とハルナの姿があった。
その後をのどかが長い前髪を揺らしながら懸命に追っているのが見えた。

「何か見つかった?」

肩で息をする夕映の頭に明日菜が投げかけた。
夕映の額に汗が滲む。
すっと顔を上げ、明日菜をネギを、そして木乃香を見据えて息をはいた。
頬に滑り落ちた滴が下にこぼれた。

「見つけたです。刹那さんが今どこで何をしているかを知る手立てが。
 そして…確実にこちらに呼び戻す方法を」

みんながゴクリと喉を鳴らしたのが分かった。
刹那の居場所だけではなく呼び戻す方法が分かったと夕映は言った。
誰も何も言わなかった。
夕映の言った言葉を反芻させる時間は皆十分にあった。

「そのためにはのどかと、そしてネギ先生の力が必要です」

夕映は冷静に言った。
僕?と言うように眉をひそめるネギに夕映はさらに続けて言った。

「どうしてこんな簡単なことが思い付かなかったのか」

ざわついた声に夕映は怯まなかった。
むしろ強いそれを瞳に宿す。

「のどかのアーティファクトを使うです」
「…そっか!本屋ちゃんのアーティファクトで刹那さんの気持ちを
 読み取るのね!」
「ちょっと待ってください!過去にアーティファクトが通用するか
 どうか…それに、」

押し黙るネギの心境はよく分かる。
せっかく探し出してくれた方法を自分がなかったことにしてしまうのだから。
しかしそれを言葉にしたのはネギではなく、その方法を探した本人だった。

「過去に刹那さんは2人いる。ネギ先生はそうおっしゃりたいのですね」

あった言葉をそのまま口に出したような口振りにネギは目を見開いた。
何も言わなくてもそれが答えだと分かり、夕映は少しだけ笑みを浮かべた。

「それは最初から分かってるです。たとえのどかのアーティファクトが
 通用したとしても舞台は過去。アーティファクトが今の刹那さんではなく
 過去の刹那さんの気持ちを読み取る可能性が高いです。ですから言った
 はずです。これにはネギ先生の力が必要不可欠だと」

アデアット!
静かに叫ぶと夕映の目の前に現れたのは一冊の本だった。
厳正されたその一冊だけを手に取りページを捲る。
その手つきは思っているよりも素早く、そして鮮やかだった。
細かい文字の羅列に彼女は目を通して何を見ているのか。
答えだけではない、あらゆる情報だ。

「これです」



つづく
  • URL:https://yaplog.jp/clover1517/archive/954
Trackback
Trackback URL
Comment
小文字 太字 斜体 下線 取り消し線 左寄せ 中央揃え 右寄せ テキストカラー 絵文字 プレビューON/OFF

不正な自動コメント投稿を防ぐため、チェックボックスにチェックをしてください。

利用規約に同意
 X 
禁止事項とご注意
※本名・メールアドレス・住所・電話番号など、個人が特定できる情報の入力は行わないでください。
「ヤプログ!利用規約 第9条 禁止事項」に該当するコメントは禁止します。
「ヤプログ!利用規約」に同意の上、コメントを送信してください。
プロフィール
  • プロフィール画像
  • アイコン画像 ニックネーム:さっちゃん
  • アイコン画像 性別:女性
  • アイコン画像 血液型:O型
読者になる
このせつと律澪とその他諸々を愛してやまない百合嬢です(*´∇`*)

いきなりコメント大歓迎!
リンクフリーです。
相互リンクしてくださる方がいたらコメントか、メールでお知らせください。めっちゃ喜びます!

konosetu1517♪yahoo.co.jp
感想、指摘などございましたらお気軽にどうぞ!♪→@

当ブログ内におけるSS・画像の無断転載及び引用はご遠慮ください。

ツイッターpixiv始めました。お気軽にフォローしてくださると嬉しいです。

R指定のある作品はpixivに置いてあります。

Since2007/1/14


現在拍手にはこのせつSSが5作と律澪SSが5作置いてあります。(1/2更新)
2008年09月
1 2 3 4 5 6
7 8 9 10 11 12 13
14 15 16 17 18 19 20
21 22 23 24 25 26 27
28 29 30
最新コメント
アイコン画像さっちゃん
» このせつは平成。 (2019年10月08日)
アイコン画像おつき
» このせつは平成。 (2019年10月08日)
アイコン画像春雪
» 二人が人生。 (2017年05月28日)
アイコン画像yama@山口県
» 妊婦生活6ヶ月。 (2015年12月10日)
アイコン画像Iuth
» 色々考える。 (2015年09月24日)
アイコン画像春雪
» 同志たちよ。 (2015年09月21日)
アイコン画像白兎
» 3月18日。 (2015年06月06日)
アイコン画像春雪
» 3月18日。 (2015年03月18日)
アイコン画像マンモス
» 女心と秋の空。 (2014年12月08日)
アイコン画像
» ご報告。 (2014年06月30日)
メール待ってます(´▽`*)

TITLE


MESSAGE

月別アーカイブ
https://yaplog.jp/clover1517/index1_0.rdf
P R
Yapme!一覧
読者になる