I will carry a heavy load on my back together.2

June 24 [Tue], 2008, 23:57
I will carry a heavy load on my back together.の続きです。


連れて来られたのはいつもの修行の場であった。
普段は皆で食事をするところだが今は違う。
テーブルや椅子は仕舞われ、長い吹き抜けの廊下のようにも見える。
また新たな修行が為されるのだろうかと武者震いのようなものが
全身を襲った。恐くはないと言ったらそれは嘘になるかもしれない。
ただ、今はそれに勝った感情が2人を支配していた。
不意に目が合い、お互いにその感情を共有する。
何なんだろう、この気持ちは。

「始めるか…っと、その前に……」

エヴァの目の前に3人が横に一列になる。
左から明日菜、刹那、そして…

「木乃香、お前はこっちに来い」
「え…な、なんで?ウチもせっかく2人と修行できるー思てたんに」
「お前はアホか。この2人と同レベルの修行をしてみろ。一発で死ぬぞ」
「エ、エヴァンジェリンさん!」

木乃香の隣りであわあわし始める刹那にきびすを返しエヴァは木乃香を
見据えた。木乃香は頬をぷくっと膨らませるのみで何も言わない。
納得したくないのに納得せざるを得ないエヴァの物言いに何も言えない
自分に腹が立つ。

「どうせウチは回復役で呼んだんやろ」
「分かってるじゃないか」

口元を歪ませるエヴァをキッと睨み付け、木乃香はしぶしぶ彼女の元へ
足を運ぶ。その背中を心配そうに見つめる刹那の肩を明日菜はポンと叩いた。

「さっそくだが、お前たち2人には新しい課題をやってもらう。
今から言う相手に本気でかかれ」
「へー…新しい修行ってことね。腕が鳴るわね」
「明日菜さん、油断は禁物です」
「分かってるわよ。でもさ、最近同じ修行ばっかで飽きてたのよねー」
「明日菜さんっ」

窘める刹那を無視し、明日菜は微笑を浮かべカードを取り出した。
「来れ」静かに言い、挑戦的な目をエヴァに向ける。
ふっとエヴァも微笑しその期待に応えようとしたのか、もしくは壊したかった
のかもしれない。
刹那が控え目に訊くと彼女はさらに不適な笑みを浮かべて。

「あの、その相手と言うのは…」
「私だ」
「ふーん…エヴァちゃんかぁ…エヴァちゃんねー…へー」
「明日菜さん、現実を見ましょう」
「………エヴァちゃんッ!?」
「いちいち声がデカい馬鹿女だな」

呆れたように言うエヴァに明日菜は驚きを隠せないように言う。
いつも全力で向かっているもまるで歯が立たない相手。
ネギと2人であっても無理だと言うのにどうしろと言うのだ。
と考え、ふと明日菜はいつもとは違うあることに気付く。
そうだ、今日はネギではない。
頼れる友、そして師匠でもある彼女が一緒だ。

「なんだ、刹那よりも坊やと組んだ方がいいのか?」
「んなっ…ち、違うわよ、その逆!第一ネギより刹那さんの方が強いんだから!
それにエヴァちゃんだって刹那さんに一回負けたくせに!」
「明日菜さん、アレはハンデをもらったからで」

あたふたし始める刹那のに大丈夫、と手のひらを向ける。

「だいたいねー、刹那さんとだったらエヴァちゃんなんかに絶対負けない
んだから!文化祭じゃあたしたちヒーローユニットだったんだからね!」
「ほう…それは楽しみだな」
「明日菜さんっ、挑発してどうするんですかっ」
「木乃香、今日は大仕事だぞ」

エヴァに言われ不機嫌そうな木乃香は頷きもしなかった。
代わりにカードを取り出して唱えた。

「明日菜、せっちゃん…無理せんといてな」
「お嬢様…」

不安げな表情を見せる木乃香に刹那はどう答えればいいか
分からなかった。巻き込んでしまったようで、でもそれを言って
しまえば彼女に対して失礼に値する。
彼女は決意してここまで来たのだ。

「じゃあ始めるか…そうだな、始めは一撃だけでいいぞ」
「なめてかかると痛い目見るわよ!」
「明日菜さぁんっ」
「フン……木乃香、お前は下がっていろ」
「エヴァちゃん、ウチ…」

分からなかった。
指示を仰ぐことしかできないことに愕然としてしまい途中で口を噤む。
自分には彼女たちと共に修行など到底無理なのだと分かっているから
なおのこと辛かった。また見守ることしか出来ないのか。
出来れば、彼女たちと同じ場所で。
木乃香は胸の前でギュッと手を握り締めた。
どうすれば…

「勘違いするなよ」

それは前方から聞こえた。

「私はただ見守っていろだなんて一言も言っとらんぞ。
それに、これはお前の修行でもあるんだ」

目の前で武器を構える2人に視線を向けたまま背後の木乃香へと声を投げる。

「自分のタイミングであいつらを治癒すればいい。すぐ倒れられては
つまらんからな」
「エヴァちゃん…」
「ただし、戦いの邪魔だけはするな。あいつらが地に膝をつくまでは
出て来るな」
「……うんっ!」

自分で判断し、彼女たちの助けとなる。
自分の修行でもある、そう言われて胸が高鳴った。
頑張ろう、よりもその時は嬉しさの方が勝っていたと思う。
少し浮かれていたのかもしれない。

ガキンッと剣が擦れる音で我に返った。

見ると明日菜が大剣をエヴァに振り下ろしていた。
しかしその剣先は彼女の小さな手のひらで止められる。
まるで軽い棒切れを掴んでいるようなその仕草に明日菜はやはりと
顔を歪ませた。ヒュンと棒切れを横に払うと明日菜の体勢は見事に崩れる。

「ふっ」

明日菜の口から息がこぼれた。
体勢を崩したかのように思われたがそれは違っていた。
明日菜はすばやく身を屈めるとその上から刹那の一刀がエヴァを襲う。
しかしエヴァは瞬時に体をズラし僅かに空いた隙をつきその脇腹に拳を打ち込む。

「そうはさせないんだからっ!」
「ほう…」

ゴツ、と鈍い音が鳴った。
刹那の脇腹に届いたかのように思われた小さな拳は明日菜の大剣の
側部を突いていた。エヴァのすぐ横には刹那、少しズラすとその刀身は
間違いなく彼女の急所を斬る。

「ふん。確かに坊やよりもチームワークがいいようだな…だが、」

甘い。
明日菜は全身に痛みを感じた。
それはほんの一瞬だった。
大剣に感じていた圧力が一気に上昇したかと思えば握る力が弱まり、
あっと言う間に剣もろとも後方へ飛ばされた。
放すまいとした剣は無惨に投げ出されて、まるで自分の今の状況を
表しているかのようだ。
く、と唇を噛み締め再び立ち上がって剣を握り直す。
二度と離すものか。

それから目を前方に向けると刹那とエヴァがやり合っていた。
見るとエヴァはいつもの扇子を片手に刹那の刀に対抗している。
目で追って行けるスピードだが、それでもかなりのものだと思う。
常人には見えない剣裁き、それをわざとなのかギリギリのところで捕らえ払う彼女。
その度に一歩引くこともせずひたすらに突き進む刹那の背中が大きく見えた。
同時にそれは彼女を遠い存在にもする。その中に自分はいない。
明日菜は柄をギュッと握り締め、頭に描いた遠い背中をかき消して前を見据えた。


「ハアアアアッ――」


エヴァに立ち向かって行くその姿を木乃香はじっと見つめる。
その光景があまりに凄すぎて言葉にならない。
普段、彼女たちと一緒に修行することなどあまりない木乃香にとって
その姿は新鮮だった。
息つく間もないくらいの速さに目が付いていかない。
2人のチームワークの良さに呆気に取られるばかりだ。
それと同時に圧倒的な力の差を感じた。
その歴然とした差は縮まることはないだろう。
同じだけ修行したとしても彼女たちは自分にはない何か持っているから。
そう実感せざるを得なかった。
仕方ないと思う反面、諦めていない自分がいる。
彼女たちもそうであるように、彼女たちにはない力が自分の中にもあるはずだ。
彼女たちとは“違う”何かが…
そう、いつかのあなたが言ったから。

エヴァに斬りかかって行った明日菜の気迫はすぐに刹那に届いたらしい。
彼女はスッと一瞬で消え、代わりに現れた明日菜の大剣が小さな体を襲う。
その消えた刹那の気配をたどる隙さえも与えない彼女の馬鹿力にエヴァは
ふっと小さく笑んだ。

「力だけではどうにもならんぞ」
「それはどうかしら」
「…なに?」

――斬岩剣 弐の太刀…

それは上空から聞こえた。
静かな音にエヴァは一瞬だけ反応が遅れた。
彼女に襲いかかる大剣の上に覆い被さるようにしてそれが舞い降り
2つが交わった。明日菜の力のみならず、その細い刀から吹き荒れる
ものも加わることでエヴァの華奢な腕はついに悲鳴を上げた。

「ぐっ…」

後ろの方へ高く跳んで身を引いた瞬間、ドオォォンと地面を叩き割る轟音が
辺りに響き渡った。広がる霧のような半透明の砂埃の中から尚もエヴァに
向かってきたのはやはり彼女だった。
戦闘慣れした彼女にとってこの視界はそれほど問題ではないらしい。
小さな匕首を手に握り締め、跳躍したエヴァの肩をその鋭利な切っ先が掠めた。
すっと白い肌にうっすらと赤い線が滲む。
二打目の攻撃が来る、そう予見し身構えたエヴァに矛先が向けられたときだった。
伸びてきたそれが急に減速しやがてピタリと止まった。
刹那はそのままゆっくりと匕首を鞘に納める。
呆気に取られたように固まるエヴァに視線を合わせ刹那はゆっくりと口を開いた。

「一撃、だけでしたよね?」

一瞬、時が止まったかのような錯覚を覚えた。
そうニコッと笑う刹那にエヴァは黙っていられるはずもなく。

「貴様っ…いい加減その人の言うことをすぐ鵜呑みにする癖どうにか
ならんのか!もっと相手を疑うことを知れ!もし私じゃなかったら
その隙を突いて殺られてるぞっ!」
「す、すみません…でも、エヴァンジェリンさんだからこそ信じたわけで」
「だぁかぁらぁ〜…」
「せっちゃ〜ん!」

エヴァの説教が始まると思われたその時、ちょうど彼女の背後からの
その声がそれを遮った。とてとてと特徴のあるゆったりとしたマイペースな
走り方に刹那は思わず笑みをこぼした。
しかしエヴァの不機嫌顔は未だ直らない。
いや、不機嫌顔から鋭いそれに変わった瞬間を刹那は見逃さなかった。

「エヴァンジェリンさん?」
「まずいな」
「え…?」


もうすぐ刹那の元へ行ける。
周りに立ち込めた霧のようなものが目に染みて涙が滲む。
はっきりしない視界に必死に彼女の姿を捉え安堵した。
ぼやけた彼女の表情は未だに晴れない。
何かあったのだろうか。
やっぱり怪我をしたのだろうか、木乃香に不安がよぎる。
もうちょっと早く彼女の元へ駆け付ければよかったのだ。
エヴァに言われずとも、自分で判断し自分力を使う時と場所を選び実行する。
明らかに自分には実戦経験が少ないのだ。
彼女たちはその分、この劣悪な状況でもああやって普通に立っていられるのだ。
木乃香は咳き込みながら懸命に走った。

「え…」

不思議な光景だった。
いくらか晴れてきた視界には彼女とエヴァのみで、明日菜がいなかった。
そして彼女は青ざめた表情でこちらに向かって来る。
それは痛みに苦痛を強いられた風でもなく、ただ無我夢中で走って来るように見えた。
そして彼女は何かを叫んだ。

「え、なに…」

かろうじて聞こえた声に従い右手に視線を向けた。
そこには先ほどよりも少なくなった白い煙、しかしそれでもなおこれ以上
近付くなという雰囲気を醸し出している。
そして、うっすらと影が生まれた。

「お嬢様ッ!!」

その声と振り下ろされる大剣を最後に、木乃香は意識を失った。





騒がしいいつもの声に徐々に頭が覚醒していくのが分かった。
また2人の口喧嘩が始まったんだと思ったら何だか自然と笑みがこぼれた。
木乃香は普段の調子で体を起こそうとしたが何故か力が入らず、とりあえず
状況を確認することにした。
かろうじて動く右手を布団から出しゆっくりと顔に持ってきて何度か目をこする。
はっきりとした視界の中には見慣れた白い、ネズミ色にも取れる天井があった。
ちらりと横を見やると吹き抜けの窓の向こうで青空と真っ白いマシュマロの
ような雲が漂っていた。飾ってある時計を見ると昼過ぎだった。
随分と寝てしまったようだ。
今日は昼寝はできないな、なんて心地良い午後の風を頬に感じながら
木乃香は目を閉じた。

「木乃香、起きたの…?」

そうっと、囁くような声に木乃香は目を開けてその不安げな顔にうっすらと
笑みを見せた。

「よかった…」
「ごめんな、心配かけさせてもうて」
「ごめんはこっちのセリフよ。木乃香、ほんとごめん」

彼女にこうやって面と向かって謝られるのは久しぶりのような気がした。
いつも謝るのは自分の方で、それも冗談混じりに言うことがほとんどだった。
なんだか胸の辺りがこそばゆい。

「明日菜が謝るなんて…珍し」
「なによー。あたしだって悪いことしたらちゃんと謝るわよ」
「いいんちょにも?」
「う〜ん………謝る。ようには努力する」
「なんやのそれ」

くすくすっと2人で笑い合う。
やっぱり明日菜とはこのくらいの距離感が居心地が良い。
誤魔化すように言ったのは少し気恥ずかしかったから。
妙に気遣われたせいか、むずがゆさが未だに胸に残っている。

「なぁ、明日菜…せっちゃんは?」
「ああ、うん…向こうにいるけど」
「いじけとる?」
「ちっちゃくなってる」

やっぱり、と木乃香は笑う。
明日菜はまた顔を歪ませて目を伏せた。
明日菜のせいじゃない、と言っても彼女は聞かないだろう。
そして、同じように刹那も…



つづく
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