The slight fever heart.2

April 25 [Fri], 2008, 22:14
The slight fever heart.おわりです。

今日はこれからカラオケなのでコメへんは明日します。
申し訳アリマセン!!

では、続きからどうぞ。

熱かった胸が一瞬さらに熱くなりそれが目頭に流れそうになり木乃香は我に返る。

「な、なんでせっちゃんがここにおるんよ!明日菜は…?」
「明日菜さんなら補習で居残りだそうです。それで遅くなるからって
 お嬢様のことを頼まれたんです。具合はどうですか?」


なるほど、そういうわけか…


木乃香はぐるんと反転し彼女に背を向ける。
刹那には怒っているようにも見て取れたその背中はいつもより小さい気がした。
そして、微かに震えが混じっているようにも見えた。

「どうせそれは口実なんやろ…?」

え、と刹那が聞き返す。

「どういう意味、ですか?」
「とぼけんでもええ…明日菜が言うたんやろ、ウチが寂しがってるとか
 そういうんを」
「そんなことっ…」

瞼の裏に困惑した様子の彼女が浮かばれた。
口調から分かるなんて自分も成長したなぁと自嘲気味に笑って眉を顰める。

「それにせっちゃん今日お仕事やろ?こんなとこにおったらアカンのとちゃう?」
「休みにしてもらいました」

何で?と驚いた風に木乃香は目を大きく見開いた。
体は刹那に背を向けたまま、布団だけが微妙に先ほどよりも大きく揺らいだ。
何で、と今度は口に出す。
小さなささやき声はやがて刹那の耳に届いた。

「何で勝手にそんなことするん!?ウチのことはええから!看病なんて
 いらへんっ…ウチは1人でも平気や!せっちゃんなんか……せっちゃん、
 なんか…」

眉間にしわを寄せ、唇をギュッと噛み締め痛みをもってその滴を制した。
しかし体の震えが止まなかったために木乃香は布団の中に顔を引っ込める。
止まれ、止まれと心の中で必死に叫んでみてもその震えはいつまでも続いた。
しんと静まり返ったこの部屋に、自分の心臓の鼓動のみが響いているような
気がしてさらに叫ぶ。
それは無意識に木乃香の口から囁かれ、しかし本人は気付いていないようだった。


「失礼します」


静かな、落ち着き払った声がした。
その直後に木乃香の体は外気に触れ固まり動かなくなる。
額には冷たくて、しかし柔らかなぬくもりが突然舞い降りてきた。
たまらず木乃香は目を閉じた。

「んー…やはり熱が少し高いですね。冷えピタ買ってきたんです」

刹那は木乃香に再び布団を被せ、ぽんぽんと優しく叩く。
それに対しお礼を言いそうになり口ごもる。
同時にこんなこと言いたかったんじゃないと次の言葉を否定したが
どうやら遅かったようだ。

「そんなん、いらん…」
「でも、具合がますます悪化してしまいますし」
「いらんって言うとるやん!」

お嬢様、と彼女が消え入りそうな声で呟いた。
困り果てた表情をしているだろうな、と考えるとどうしようもなく苛立った。
そして子供じみたことを言った自分にも苛立った。
羞恥心に似た感情を抱いて先ほど緩んでしまった目尻に涙が溢れてきた。
頑固で意地っ張りで我が儘な面が弱った心に漬け込んでいつも以上に顔を出す。
何も聞こえなくなって、今度こそ呆れただろうなと彼女の応えを諦めた。

「昨日、お嬢様を帰らせたのは私なんです」

木乃香は未だに刹那に背を向けて身動きひとつしなかった。
それでも刹那はその小さな背中に続けて言った。

「明日菜さんではありません。明日菜さんに連絡してお嬢様を部屋に
 帰したのは私です」

夕べの仕事は夜遅くまで続いた。
別に処理に苦労したわけではない。
数が多くそれに対しこっちの数が少なかった、ただそれだけ。
休憩中、彼女に素っ気ないメールを送った。
すぐに返事が来た。


『それでも待っとる』


そこにいつもの彼女らしい装飾はなかった。

「もう遅かったのもあって明日菜さんにお願いしたんです」
「…なんで、」

くぐもった声を懸命に拾い集める。
少し震えがかったそれに刹那はゆっくりと歩み寄った。

「お嬢様に言っても聞かないでしょ」
「、っ…」

決して馬鹿にしている口調ではない、ましてや子供扱いさえもしていない。
これは、優しく語り掛けてくれる彼女の声だ。
そうだと分かっているから、木乃香は先ほどのように反抗などしないのだろう。
彼女の口はむぅっと尖っているに違いない。
そう思って微笑する。

「帰って来て分かったんです。ずっと、ずっとここで待ってたんだなぁって。
 冷たいはずの扉がとても温かく感じて」

扉の前には確かに彼女がいたのだ。
おかげで疲れ切った体が軽くなった。
顔がオレンジ色に火照った。
彼女の痕跡だけでなく、そこには彼女の魔法も残っていた。

「ありがとうございます。それに、ごめんなさい」
「どっちなんよ」
「えと、どっち…も?」

思わず出てしまったのだろう突っ込みに刹那は苦笑した。
きっと彼女はしまった顔を浮かべている。
その表情を頭の中で思い描いてそれをしばらく見つめていた。
本当は彼女の布団から少しはみ出た頭だったのだが。


すっかり日も長くなってようやく夕焼けが部屋に顔を出した。
窓から入ったそれが刹那を照らし、影が木乃香の上に覆い被さる。
少しでも自分の思いがその影と一緒に彼女に乗っかればいいな。
刹那は思って、

「昨日から我慢してたんですよね」

言った言葉に彼女は身じろぎした。
やっぱり、と刹那は明日菜の言ったことを頭に反芻させる。

「否定しないんですね」
「…ちゃう、もん」
「ほんとは私に」
「そんなんちゃうもん!」

ガバッと起き上がり、その拍子に涙が弾けて布団に飛んだ。
彼女は頬に滑ったそれを拭いもせずにキッと刹那を睨み付けた。
違う、違う、そんなこと思ってない。一度も思っていない。

緋色の目がゆらりと揺らいで刹那には見えた。
そして彼女はふっと木乃香に笑いかけた。

「やっと見れました」
「え…」
「お嬢様のお顔。ずっと私に背中向けてましたから…ちょっと意地悪しちゃいました」

大人びた口調、イタズラっぽい笑顔、少し背伸びした彼女。
からかいを混ぜたそれに木乃香は何も返すことが出来なかった。
つ、と代わりに涙が頬を伝って桜色のパジャマの上に落ちた。

「お嬢様が怒るのは私のせいで自分の気持ちに素直になれないときですから」

言ってすぐに付け足した。

「あ、明日菜さんの受け売りですがね」

あはは、と笑って刹那は誤魔化した。
私がお嬢様の気持ちにもう少し、いや、もっとちゃんと気付けたらいいのに
と自嘲も込めて笑った。

「お嬢様の本当の気持ち、聞いてもいいですか…?」

静かに木乃香の手を取り涙色に染まった瞳を覗き込んだ。
控え目に聞いたせいか木乃香はこくん、と躊躇いがちに頷いた。

「さみしかった」
「はい」
「だるくて、すぐ風邪やってわかった」

具合が悪いと気付いてからも同室の明日菜やネギに気を遣わせないよう
普段通りに過ごした。
幸いにも学校が終わった後だったし、少し頭痛がしたもののご飯支度も
難なくこなせた。
このままお風呂に入って寝ようと思ったのが間違いであった。
油断して薄着で大浴場に行った帰りに体が冷えてしまったのだ。
状態は当然のように悪化した。

「寝ようとしたんよ…せやけど、」

どうしようもない不安が夢と共にこの弱った体に押し寄せてきた。

「何考えても嫌な方向に持ってってまう。明日菜もネギ君もそばにいるはず
 やのに、せっちゃんも…仕事、言うてたんに……っ、えぐ…」

怖くて仕方がなかった。
ひとりぼっちになる気がして、みんな消えてしまうんじゃないかって。
どこからこんな感情が生じたか分からない。
風邪のせいで不安定なだけだ、そうした否定もひとりぼっちには敵わなかった。
心も風邪を引いてしまったようだ。

泣きじゃくりながら彼女は続けた。
薄ピンクのパジャマの袖は濃いそれに変わっていた。

「風邪のせいだけじゃないです。私のせいでもあります」
「せっ、ぢゃ…の、せい…や、ないっ」
「そうやってお嬢様は我慢してきたんですよね」


今日もお仕事?
はい。
うん、分かった。気ぃ付けてな。


決まって彼女は笑顔を見せた。
それが無意識に彼女繕った笑顔、偽物の笑顔だと気付かずに行ってきます
と安堵から出た言葉だけを残して彼女を…

「お嬢様をひとりにしてしまいました」
「ひとり、やっ…なぃ…もん……」
「いいえ、ひとりにしました」


誰かがいてもアナタの心はひとりぼっちだったはずだから。


「だから、今日くらい一緒にいさせてください」
「ひっく、うぇ…えっ、ふえぇ……んっ」

反射的にキュッと目を瞑る。
微笑んだまま刹那は木乃香の前髪を寄せ、現れた熱のこもった額に
持っていた冷えピタを貼り付けた。

「気持ちいいですか?」

木乃香がキョトンとしていると幾重にも重なった涙の線を刹那が
手のひらで拭った。最後に目尻を親指で拭って。

「では、お粥作りますね。お嬢様みたく美味しく作れませんけど、
 明日菜さんよりはマシかと…って、あ!このことは明日菜さんには
 内緒ですよ?」

言った相手は無反応であったがその表情がなんだか子どもの頃の彼女に
重なってクスッと笑った。泣き止むとこうなるんだよな、と懐かしみ
ながら刹那は振り向き台所に向かった。

台所の横に置いた材料を取り出しいざ調理しようとしたときだった。
気付けば木乃香がすぐそばにいて刹那は驚くもそっと微笑む。

「お嬢様、寝てなきゃダメですよ。まだ熱が高いんですから」

ぼうっと突っ立ったまま、少し腫れぼったい目で刹那を見つめる。
何だろう、と考えてはっとする。

「あ、喉渇きましたか?すみません、気が付かなくって!今出しま……」

冷蔵庫に刹那が体を向けた瞬間だった。
背中に感じる熱、見下ろすとお腹に彼女の両手があった。
顔のすぐ横、肩に彼女の長い横髪が乗っていた。

「お嬢、さま…?」
「今日、だけやなんて…嫌……明日も、あさっても…っ、ずっとがえぇ…
 うぢ、せっちゃんと一緒にっ、いたいよぉ……」

小さな子どものようにとまではいかないが、刹那の耳元に木乃香は囁いた。
刹那はそっと腰にある手を取って静かに泣きじゃくる彼女の方に振り向く。
そして、彼女が顔を上げて答えを求めた。
額のそれがぽたりと2人の足下に落ちた。

「んっ…」

また前髪を寄せて、今度は自分の額を彼女のにくっつけて刹那は目を閉じる。
優しげに、顔を綻ばせて…

「言わずとも、そのつもりです」

お嬢様が今日みたいに拒否しようとも、睨み付けようとも私はずっと
一緒に居続けますよ。

「お嬢様の目の前に」

そう言ってさらり、刹那は木乃香の頭をそっと撫でた。
それは特効薬の効いた瞬間だった。



FIN

BGM:野中藍「ひとりぼっち」
  • URL:https://yaplog.jp/clover1517/archive/751
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ミキ
このかもへ
April 27 [Sun], 2008, 7:24
小林翔
せつこのチックで久しぶりにせつこの分を補給できたぜ!!!病気で弱ってると木乃香のブラックが和らぐな(´∀`)そしていつもより積極的な刹那最高www
April 26 [Sat], 2008, 22:03
海風青夏
お久しぶりです、こんちには。

長らくコメントのタイミングを掴み損ねてました。
それ以外にも、パクカが届いたりして…。
お父さんと妹と私で買い物から帰ってきたら、
家の前にクール便が止まっててですね。
パクカを届けられました。
二人に誤魔化しをするのが大変でした。

…と、私事は置いといて。
『The slight fever heart.』読ませていただきました。
風邪ネタ楽しいッスよね。
木乃香が風邪で刹那が看病、うん、楽しい!
短時間でこんな凄い作品が作れるなんて、感動しますよ。
明日菜もいい奴だよ、ホントに。

…いつもながら文章が纏まりません(>_<)
それでは、今回はこの辺で失礼致します。
April 26 [Sat], 2008, 16:40
春雪
私の気持ちが分からないさっちゃんさまには「イーー」だッ!!(ぷい

ん〜…
萌えキャラ、とかツンデレかどうかは分かりませんが、これが私の地だったりします。少しだけ誇張してますが…f^_^;
とどのつまりは精神的に子供っぽいんです。

このせつボイスの目覚まし欲しいですね。
目覚ましもTシャツも発売すれば良いのに!って私も思います。

『The slight fever heart.〜2』読ませて頂きました。
風邪ネタ来ましたね!!
今回は木乃香が風邪と言うことで、木乃香の脆い部分を垣間見れたような気がします。
流れ的には"せつこの"みたいですよね!?嬉しいです(*^_^*)
短時間で書いたとは思えないくらいの完成度が凄いです!!題名の前の1〜2文が後の話に余韻を持たせて良い感じですね。
素直でない木乃香をどんどん泣かせt…o(`へ')○
明日菜は本当に良い子ですね。今回のお話で痛感致しました(^O^)

カラオケい〜な〜
私も行きたいです(*^_^*)
昨日行ったテストの最中、試験監督の先生がクラスを離れた瞬間に、"残酷な天使のテーゼ 窓辺からやがて飛び立つ 〜♪"と着うたが流れまして、思わず笑ってしまいそうになりました(笑)
しかもその歌が終わった瞬間に先生が帰って来たから微妙な空気が一瞬流れました。まさしく絶妙なタイミングです(*^_^*)
あ、私の着うたではありませんからあしからず。

それでは、
最後は私事になってしまいすみませんでした。

失礼しました。
April 26 [Sat], 2008, 8:36
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