冬に咲く。

January 17 [Sat], 2015, 1:17


心から、おめでとう。



続きからせっちゃん誕生日SSです。




――「今」を懸命に、大切に生きてほしい。



冬に咲く



雪深い山奥で奇妙な声が聞こえる。
そんな噂が耳に入ったのは冬の始めだったか。その噂が問題視された今朝の案件と知り眉を顰める。妙な胸騒ぎを感じる日は決まって娘がむずかる。物心がつく頃で普段は大変大人しく愛嬌のよい子である。それが血脈のせいなのか、何かを感じたときには必ずと言っていいほどよく泣くのだ。喚くことはせず、ただひたすらにその小さな体で大きな悲しみを一人で背負っているようにさめざめと泣いている。この日も然り。

「長、お嬢様がお泣きになっています」
「分かった。すぐ行く」

寒々とした廊下を急ぎ早に歩いた。そしていつもながら思うのだ。ああ、御前がいたら――
部屋に入り、私の姿を確認した娘が一目散に走り袴の裾にしがみ付いて来た。その後ろで世話役が申し訳なさそうに礼をするのを手を挙げて制した。これは仕方がないこと。近衛家の血の定めなのだ。そして、彼女が生きた証なのだから。

「木乃香、どうしました。怖い夢でも見ましたか」

もう大丈夫と震えた体を抱きかかえ細い背中をさすってやると先程よりは幾らか落ち着いたようだった。すん、すん、と静かな嗚咽が畳の床に吸い込まれていく。寝巻きの浴衣を直してやりながら、短く揃えた前髪を撫でる。
やはり寂しいのか。未だに右の親指をしゃぶる娘を抱き寄せる。硬い胸でいつも悪いと思う。そうしてまた彼女を想う。もし、御前なら優しい瞳で、柔らかい手でこの子を全ての恐怖から守るのだろう。それに引き換え父親というものはどうしてか、頼りない。情けない。怖い夢の一つからでさえ娘を守れないのだから。

「とうしゃ・・・、な、てる」
「え」
「とうしゃ、えんえん、なてる」

娘に気を遣わせるとは、御前に笑われるな。頭の中に浮かんだ彼女の笑顔を打ち消し笑みをつくる。

「父様は大丈夫だよ。それより、木乃香は大丈夫かい。どこか痛みますか」
「んーん」
「じゃあ、どうして」

まだ乾かない目元の涙を拭ってやる。すると吸っていた親指を離し、舌足らずなそれで娘は言った。

「えんえん、て・・・おんなのこ、えんえんしてる。えんえんて」

かわいそう、そう最後に囁いてぎゅっと私の胸に顔を押し当てた。どういう意味なのか、このときの私はまさか現実に起こっているものとは考えなかった。最近かまってやれず、寂しさが夢に出たのだろう。理由が分かって安堵さえしていた。
泣き疲れたのか、再び寝てしまった娘を世話役に任せ、身支度へと戻った。護衛は5人。通常よりも多く配備したのはその場所が烏族の領域に僅かに引っかかっていたためだった。お互い領土を侵さなければ害は与えない。そうして共存してきたのだが、この件に彼らは気付いているのだろうか。それともこちらの領域に近いものだから黙認しているのか。

想像通り山道は雪に覆われていた。我々しか使わない道も同様の状態だった。術を使うのは容易だが、その場所に近付くにつれ人力で雪をかいていった。何よりも相手を警戒させてはまずい。
気配を感じたその場所は何の変哲も林の一角だった。初め、それに気付いたのは護衛の一人だった。よく見るとそれは羽根だった。雪のような、真っ白い羽根がぽつ、ぽつと足跡のように点在していた。烏族の羽根は漆黒の色をしている。ではこれはいったい何だ。鞘に手を添えて間合いを詰める。

「っ――」

その白い影は林の中にすっと身を隠した。すぐに襲ってこないところを見ると敵意はないのか、あるいは深手を負っているのか。

「そちは烏族の者か」

護衛の一人が聞くも返事はない。警戒しているのか、何度訊いても姿を見せる気配がない。為す術なく、白い世界に静寂が戻る。
不意に微かな声が聞こえた。気のせいか。しかし、聞き覚えのあるそれだった。そしてそれは突如頭の中に蘇る。『

――「今」を懸命に、大切に生きてほしい。



冬に咲く



雪深い山奥で奇妙な声が聞こえる。
そんな噂が耳に入ったのは冬の始めだったか。その噂が問題視された今朝の案件と知り眉を顰める。妙な胸騒ぎを感じる日は決まって娘がむずかる。物心がつく頃で普段は大変大人しく愛嬌のよい子である。それが血脈のせいなのか、何かを感じたときには必ずと言っていいほどよく泣くのだ。喚くことはせず、ただひたすらにその小さな体で大きな悲しみを一人で背負っているようにさめざめと泣いている。この日も然り。

「長、お嬢様がお泣きになっています」
「分かった。すぐ行く」

寒々とした廊下を急ぎ早に歩いた。そしていつもながら思うのだ。ああ、御前がいたら――
部屋に入り、私の姿を確認した娘が一目散に走り袴の裾にしがみ付いて来た。その後ろで世話役が申し訳なさそうに礼をするのを手を挙げて制した。これは仕方がないこと。近衛家の血の定めなのだ。そして、彼女が生きた証なのだから。

「木乃香、どうしました。怖い夢でも見ましたか」

もう大丈夫と震えた体を抱きかかえ細い背中をさすってやると先程よりは幾らか落ち着いたようだった。すん、すん、と静かな嗚咽が畳の床に吸い込まれていく。寝巻きの浴衣を直してやりながら、短く揃えた前髪を撫でる。
やはり寂しいのか。未だに右の親指をしゃぶる娘を抱き寄せる。硬い胸でいつも悪いと思う。そうしてまた彼女を想う。もし、御前なら優しい瞳で、柔らかい手でこの子を全ての恐怖から守るのだろう。それに引き換え父親というものはどうしてか、頼りない。情けない。怖い夢の一つからでさえ娘を守れないのだから。

「とうしゃ・・・、な、てる」
「え」
「とうしゃ、えんえん、なてる」

娘に気を遣わせるとは、御前に笑われるな。頭の中に浮かんだ彼女の笑顔を打ち消し笑みをつくる。

「父様は大丈夫だよ。それより、木乃香は大丈夫かい。どこか痛みますか」
「んーん」
「じゃあ、どうして」

まだ乾かない目元の涙を拭ってやる。すると吸っていた親指を離し、舌足らずなそれで娘は言った。

「えんえん、て・・・おんなのこ、えんえんしてる。えんえんて」

かわいそう、そう最後に囁いてぎゅっと私の胸に顔を押し当てた。どういう意味なのか、このときの私はまさか現実に起こっているものとは考えなかった。最近かまってやれず、寂しさが夢に出たのだろう。理由が分かって安堵さえしていた。
泣き疲れたのか、再び寝てしまった娘を世話役に任せ、身支度へと戻った。護衛は5人。通常よりも多く配備したのはその場所が烏族の領域に僅かに引っかかっていたためだった。お互い領土を侵さなければ害は与えない。そうして共存してきたのだが、この件に彼らは気付いているのだろうか。それともこちらの領域に近いものだから黙認しているのか。

想像通り山道は雪に覆われていた。我々しか使わない道も同様の状態だった。術を使うのは容易だが、その場所に近付くにつれ人力で雪をかいていった。何よりも相手を警戒させてはまずい。
気配を感じたその場所は何の変哲も林の一角だった。初め、それに気付いたのは護衛の一人だった。よく見るとそれは羽根だった。雪のような、真っ白い羽根がぽつ、ぽつと足跡のように点在していた。烏族の羽根は漆黒の色をしている。ではこれはいったい何だ。鞘に手を添えて間合いを詰める。

「っ――」

その白い影は林の中にすっと身を隠した。すぐに襲ってこないところを見ると敵意はないのか、あるいは深手を負っているのか。

「そちは烏族の者か」

護衛の一人が聞くも返事はない。警戒しているのか、何度訊いても姿を見せる気配がない。為す術なく、白い世界に静寂が戻る。
不意に微かな声が聞こえた。気のせいか。しかし、聞き覚えのあるそれだった。そしてそれは突如頭の中に蘇る。

「子どもだ」
「え」
「子どもの泣き声だ」

木乃香のそれと似通った声に今朝の娘の言葉が木霊する。

「今からそっちに行きますが、怖がらないで。私たちは、あなたを助けに来ました」
「長?」
「長、何を・・・危険です!」
「大丈夫です」

彼らが警戒するのを制し、ゆっくりとその影に近付く。雪を踏みしめる音をなるべく立てず、遠目からその姿を確認する。やはり――木の陰に隠れたそれは白い子どもだった。防寒具も何も身に付けず、薄い浴衣を羽織っているだけの姿だった。ただ普通の子と違うのはその容姿だった。全てが白い。肌はもちろん、胸まで垂らした髪も、小さな瞳も、それから・・・

「烏族の子かい?」

寒いのか、それとも恐怖でなのかその白い子は体を震わせながら目を細めこちらを見据えた。言葉は通じているらしい。もう少し近付く旨を言うと口を結び、本当に僅かだが頷いたように見えた。もう一歩、もう一歩とその都度声を掛けながらその子に徐々に歩み寄る。そして確信した。娘の見た夢は予知夢だったと。白い子どもの目元、鼻、頬、全て朱に染まっていた。それは寒さからくることではないことは明白だった。ここで初めて自分が子の父であることを誇った。

「お父さんとお母さんとはぐれたのかい」
「いない」
「え」
「しんだ、って・・・」

思わず言葉を失ってから、自分の娘を思った。年の頃は同じか、それより下か。線が細く、小さいその身で親が死に里から出され今まで彷徨っていたのか。思って勝手に胸が痛んだ。修行時代、幾つも不幸に出会ったのにこのところめっきり駄目になったしまった。これが親の定めなのか。
黙り込んでしまった私を不審に思ったのか、その白い子どもは木陰から顔を覗かせた。

「僕たちと一緒に行きませんか」
「・・・・・・」
「君にお友達を紹介します。木乃香っていうんですよ」
「この、か・・・?」
「そう。小さくて甘えん坊で、何より、君を一番最初に見つけた子だ」

よく分からない、そんな困惑した顔に手を差し出す。

「君の名前は?」

白い子はそこで初めて顔を上げた。
1月の半ばを過ぎた頃、近年稀に見るほどの大雪に見舞われた頃のことだった。





「父様、父様って・・・あかん、ぐっすり寝とる」
「そのまま寝かせておきましょう。疲れているのに会に参加なさったのですから当然といえば当然です」
「んもう、あれほど飲みすぎには注意しい言うてたのに。もう歳なんやから」
「それを言ったら長と言えど泣きますよ」
「ええのええの。ええ歳してこんなに飲むんが悪いんや。まったく、娘2人が帰って来たくらいで舞い上がってもうて。せっかくのせっちゃんの誕生日やー言うのに」
「いいんですよ、私の誕生日くらい」
「あかんあかん。明日こってりしぼらんと」
「ふふ・・・ほどほどにお願いしますよ」
「せやけど、ほんま幸せそうに寝とるなあ」
「ほんとに」
「せっちゃんの誕生日が嬉しいんよ、きっと」
「そう、なんですかね」
「そうなんよ」






おわり


せっちゃんの出生パターンは私の中でいくつかあります。
そのうちのひとつを描いてみました。


今週のお題は「せっちゃんの誕生日、サプライズ、感謝」でした。



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