Happy ring.2

March 18 [Thu], 2010, 20:29
Happy ring.おわりです。



 くしゅんと、何故か耳元で聞こえたのでてっきり昨日のお返しにと明日菜が下へ降りてきたのかと思った。しかしそれは明日菜ではなかった。

「ひゃっ」

 思わず悲鳴が出かかってウチは慌てて口元を手で押さえた。カーテンを閉め忘れたらしい。朝焼けを背にしながらせっちゃんがベッドにもたれて眠っていた。右手首に頬をのせてスヤスヤと気持ち良さそうに眠っている。左手は何かを求めるかのように布団の上に投げ出されていた。ふと授業中に居眠りしているせっちゃんとだぶった。
 ウチは上半身だけを起こしてその朝陽に照らされた夜色の髪をそっと撫でた。せっちゃんの出で立ちを見やると修行のときにいつも着ている和服だった。学園祭のときよう似合てると言って以来せっちゃんがいつも着ている服。見る度にそのときのせっちゃんの表情が思い出されて頬に微熱を感じる。
 このままだと風邪を引いてしまう、そう思いせっちゃんの背に布団を被せた。いつまでも腕枕だと起きたときに痺れるだろうから枕もと、せっちゃんの手に触れたときだった。パチリ、せっちゃんの瞼が開いた。キョロキョロとまん丸な赤瞳が忙しなく動く。それからせっちゃんはガバッと勢い良く顔を上げた。片方のほっぺが真っ赤だ。

「せっちゃんよだれついとるよ」
「うええ!?」
「あはは、嘘やて。どう、目覚めた?」
「ひどいですよお嬢様。起きてすぐそんなことをおっしゃるだなんて、確かに目は覚めましたが心臓に悪いです」

 今度は両頬が同じ色に染まった。せっちゃんは左右の人差し指をつんつんさせて俯いていた。それがせっちゃんなりの照れ隠しなのだろう。そのバレバレな照れ隠しにクスクス笑いながらウチはせっちゃんの言葉を待った。一時の静寂を察したのだろう。せっちゃんがゆっくりと顔色はそのままでこちらを見据えた。

「あの、お嬢様」
「はい」
「おお、お誕生日、おめでとうございます」
「おおきに」
「それでその、私からプ、プレゼントがあるのですが、受け取ってくれませんか」

 気に入ってくれるかどうか分からないのですが。そう続けてせっちゃんはその小さな箱をウチに差し出した。開けてもええ? と言う風に首を傾げるとせっちゃんはおずおずと小さく頷いた。箱は手のひらに乗るくらいの大きさだった。パコ、と音を立てて開けてみるとその中心にそれがあった。

「これって……」
「はい、魔法詠唱時に杖の役割を果たすブレスレットです。ネギ先生の指輪のブレスレットタイプといえば分かりやすいでしょうぁ。エヴァンジェリンさんにお願いして作ってもらったんです。いつまでも初心者用の杖を持ち歩くわけにもいかないだろうってエヴァンジェリンがおっしゃってくれて」
「ほな今回のお仕事っていつものお仕事やのうて」
「エヴァンジェリンさんの所で働いていました。それなりの見返りはある程度は覚悟していたのですが、むしろ稽古をつけていただいて、エヴァンジェリンさんには感謝しているくらいです」

 ピンキーシルバーが手のひらの上でキラキラと輝いている。初めのうちはその側面に桜が舞っているのかと思ったがよく見ると違っていた。ひとつの桜から花びらが舞い散り、やがて無数の羽根へと変化する様。さらに内側に刻まれた文字に目が奪われた。


――04/03/18 S to K.


 せっちゃんを見る。夏祭りの日、白き翼のバッチを初めて見たときと同じ顔をしていた。どうしようもないくらい恥ずかしくて前を向いていられない生真面目で照れ屋なあの日の女の子がそこにはいた。
 おおきに。「おおきにな」空いた方の手でせっちゃんの熱い頬に触れた。ひくり、せっちゃんは肩を竦め、しかし俯き気味の顔はちゃんとはにかんだ表情を浮かべていた。

「どうしよう、なんや着けるんもったいないなぁ」
「そんなこと……きっとよく似合いますよ」
「ほな、せっちゃん着けてくれへん」
「え」

 はい。ブレスレットをせっちゃんの手に載せる。しばらく躊躇った末、せっちゃんはウチの右手首にそれを着けた。恐る恐るといった風で微かにせっちゃんの指先が震えていた。着け終えるとせっちゃんはひと仕事終えたような顔をしてじっとこのブレスレットを見つめた。優しい眼差しだった。

「最初は怖かったんです。お嬢様が自分が魔法使いであると知って、そして魔法を使えるようになることが。一緒に修行をして少しずつその気持ちが和らいでいったのですが、魔法世界に行ってまたその気持ちが蘇ってきて……私はどうすればいいのだろうと毎日葛藤しました。そんなとき、お嬢様とパートナーになったあの日にお嬢様言ってくれましたよね。自分の将来には私がいるって。そのとき思ったんです。お嬢様がマギステル・マギになれるよう支え守ろうと。そしてお嬢様がマギステル・マギになるその日までそばにいようと」
「せっちゃんひとつ間違うとるえ」
「え」
「ウチが言った将来はマギステル・マギになった後のことも言っとるんよ」
「なった後も……」
「そう。つまりや、ずっと一緒いうこと。ずっと、ずーっと、せっちゃんがもう嫌やぁ言うても離さへん。いくら仮契約いうても解約やなんて許さへんからそのつもりでおってな……ってせっちゃん何笑っとるん」
「ふふ、すみませ」
「んもう、せっちゃん笑いすぎや。こっちが恥ずかしくなってくるやん」
「あはは、くくっ」
「むう。いけずなせっちゃんにはこうや!」

 ひゃあとせっちゃんが悲鳴を上げた。ぐいとせっちゃんの手を引っ張って抱き寄せる。その後ろから腕を交差させるといよいよせっちゃんは逃げられない。わき腹をこちょこちょやるとせっちゃんはまた悲鳴を上げてじたばた暴れる。さて、明日菜が起きてしまう前に――仕上げや。

「ふむっ」

 その直前、せっちゃんの目が見開かれたのを最後にウチは目を閉じた。あの日と同じだった。ただ違うのは場所とカモ君がいないことのみ。せっちゃんの体から緊張が解かれることはなかったあの日と違い、徐々にせっちゃんの体は和らいでいった。ただ、朝の薄い光がウチらを照らすだけだった。
 いつまでそうしていたか分からない。でもあの時のように苦し紛れに終わることもなく、ウチらどちらからともなく体を、顔を、そして唇を離した。せっちゃんが静かに微笑んだ。ウチもつられて笑った。

「せっちゃんの永遠のパートナー木乃香より誓いのキス、なんて言うたら怒る?」

 いいえとせっちゃんは首を振った。
 朝陽を浴びたせっちゃんと手首のブレスレットがキラキラと眩しくて、少し視界がぼやけた。どうやらウチはずっと寂しかったらしい。
 せっちゃんの肩に顔を埋めながらウチは大きく息を吸い込んだ。



おわり。


永久に二人が幸せでありますように、願いをこめて。

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このせつラヴ
このせつはどうも!っていうか!!

このちゃんの聖なる誕生日の日に来れなかったなんてえぇぇぇっ!!!

ホントに毎回毎回なんでこんな大切な日に限って忙しいんだろう…(泣)

いえっ!しかし今叫ばさせていただきます!!

せ〜の!

このちゃん、誕生日おめでとぉぉぉっ!!!
遅くなってごめんなさい!
末永くせっちゃんとお幸せにぃ〜!!!

…ふぅ…

1日遅れですが叫ばさせていただきました。

さて、そんなこのちゃんハピバSSですが前半のアスナといいんちょのやり取りに笑わせてもらいました(笑)
今でも思い出すだけで笑えます(笑)
そして、せっちゃんが出てないなぁなんて思ってたら後半はちゃっかりこのせつこのせつしてて、ニヤけちゃいました(*^-^*)

あのブレスレットの為にエヴァのとこに行ったせっちゃんにとてつもない藍を感じました。
っていう朝っぱらからキスって(*^-^*)

どんだけラヴラヴなんでしょう、あの二人は。
思わずこっちまでニヤニヤ全開でしたよ。
自分の部屋で見て良かったって思うぐらい(笑)

さっちゃんさん、萌えをありがとうございます。

なんかあの後の小説とかって自分達の中で出てきますね。
絶対アスナが起きて、顔真っ赤にしてるせっちゃんに問いかけてなんじゃかんじゃなるに間違いないww
ここから妄想の世界に飛び立てそうです(*^O^*)

でわでわっ今日はこの辺で…ノシ
March 19 [Fri], 2010, 23:38
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