「そばにいる。つよくなる」18

April 24 [Sun], 2011, 1:40
【きす】のことで悶々している中。
それを忘れ去る出来事が起こりました。
それは。
私にとって。
大きな。
大きな。
出来事。




「雪村くんのこと、どうするべきだと思う?」
近藤は弱気に土方に問う。
「どうするもこうするもねーだろう。
まだあいつをこっから出すわけにはいかねーよ。
それ以前に、あんな奴らに信用ねーだろうが。
何が鬼だ」
「そうだそうだ」
「「・・・・」」
障子の向こうで突如聞こえたその特徴のある高い声に。
2人は同時に障子を開け放つ。
「姫!盗み聞きしてんじゃねーよ!」
土方が姫子の腕を掴み、勢いよく部屋の中に押し込んだ。
「私も話しにきたんです。
千鶴ちゃんのことなら、私も混ざった方が便利でしょ?」
「それはそうだが…」
「近藤さんっ、邪魔だってはっきり言ってやれ!」
ガミガミと怒鳴る土方をよそに、姫子はちゃっかりと土方の隣に座りこむ。
「守ってあげてください。
千鶴ちゃんがここを出て行きたいって思うまでは」
「言われなくたってわかってんだよ。
それよりお前はそばにいてやらなくていいのか」
土方の言ったのは最もなセリフであった。
だが…姫子は痛いところを突かれた顔になる。
「…ひとりでいろいろ考えたいって言われた。。」
「ああ、そうか」
「だから今夜…」
「断る」
土方は姫子の言葉を遮って立ち上がった。
「近藤さん、場所を変えようぜ。
こいつに見つからねー場所で」
「え…あ、ああ」
「歳三さん!まだ最後まで言ってないです!」
「うるせえっ、どうせ部屋に泊めろって言う気だったろ。
やなこったな」
「じゃあ、私今日どこで寝れば…」
「雪村が夜まで追い出すとは思えん。
てめえの部屋で寝やがれ」
土方は、スタスタと部屋を出ていった。
近藤も申し訳なさそうな顔をして後に続く。
姫子はひとり、ぽつんと土方の部屋に残った。
「…いいもん」
そのまま、畳に気持ち良く寝転がる。
「千鶴ちゃんが、鬼、かあ。」
呟きながら。
「でも、ま」
寝返りを打ち。
「何にもかわんないもんね。
傷が早く治るの。
うらやましいなー」
左腕を天井に向けてぼんやりと伸ばす。
袖がズレて、肘から先が露わになる。
手首には、何本かの消えかけた薄い線。
そして。
腕には、無数の爪の痕。
まだ。
真新しい薄紅の傷。
「見つかったら怒られるしね」
腕を下して、また寝返りを打つ。
「千鶴ちゃん、だいじょうぶかな」




「雪村、山崎が姫子を探しているのだが、知らないか?」
ずっとぐるぐる回っていた思考。
そんな思考にスカッとするような斎藤さんの声がしました。
でも。
考え事をしていたせいで、何を話しかけられたのかはわかりません。
「あ、すみません、ぼーっとしてて」
斎藤さんは表情を変えず、何故か襖にもたれかかっていらっしゃいます。
「…斎藤さん?」
「姫子はいないのか?」
「今は、ちょっと、いない、です」
正確には、私が追い出したのもいいところで。
「姫子が無神経だと思うか?」
「え…い、いえ、そういうわけでは…」
内心。
ちょっとびっくりしました。
きっと、そうなのです。
きっと、そう思ってしまったのです。
「あの、姫ちゃんに用なら、ここにはしばらく戻らないですよ?」
「用があるのは俺でなく山崎だ。
だが、山崎も自分で探していた。
じき見つけるだろう。
だから俺が急く必要はない」
「はあ…」
でも。
出来れば早く出ていってほしい。
ひとりで。
ゆっくりと考えたいことがあるから。
「姫子はいつもと変わらないのではないか?」
「はい…少しも」
私が鬼だと。
風間さんにそう言われたのを、きいていたのに。
姫ちゃんは少しも変わらなかった。
本当に何も変わらずに。
「それは正しい」
「え?」
「お前は、鬼と知って、何か自分の体が変わったか?
精神が異常になったか?
戸惑うだけで、実際何も変わってはいないだろう」
「でも、違います!
私は人間じゃなかったんです!
みなさんと一緒に暮らすのは…」
「じゃあ、姫子は先の世から来た人間だから、
この時代の人間と一緒に暮らすべきではないか?
過呼吸を起こして迷惑をかけるからと、
追い出すべきなのか?」
「何言ってるんですか!?
そんなわけないじゃないですか!?
姫ちゃんはここにいる人です!
ここに必要な人です!」
「では、お前も同じだ」
「…っ」
斎藤さんのまっすぐな目に射抜かれる。
「お前が、自分自身でここを出て行こうと決めるまでは。
ここにいるべきだ。
こんな囚われの身の上でいいのなら」
「…いいんでしょうか?」
「お前は真面目だな」
…斎藤さんには言われたくない言葉です。。
「考えるな、求めれば応える人間は何人かはいる。
姫子に部屋に戻ってもいいと伝えておくぞ、いいな」
「…はい」
なんだか。
いっぱい。
いっぱい重い出来事として考えていたのに。
同じ生き物じゃないんだってわかって。
いっぱい、息苦しかったのに。
私は、空気のキレイな場所で。
自分で息を止めてただけだったんだ。
ここは深い海の中じゃないのに。
バカだなあ。
いつもどおりの姫ちゃんが眩しく見えちゃって。
ちょっと考えたいから、遊んできていいよ、なんて。
拒絶したら、ダメだよね。
もっと。
軽くなろう。
少しだけ。
軽くなってみよう。
ここは、息の吸える場所なんだ。




「土方さん、さっき茶屋に行ったときにさあ…」
永倉が襖を開けたら。
土方の部屋の中にいたのは土方ではなかった。
姫子がひとり。
珍しく昼寝をしている。
永倉の声では起きなかったようで。
暑さで寝苦しそうに。
だが、心地よさそうに。
「子供みてーだな、無防備に」
両手を赤ん坊のように顔の横にあげている。
それが尚寝姿を子供っぽくさせた。
「男所帯で知らねーぞー。
左之も相当我慢してるみたいで、ま、そりゃおもしれーけど。
そのうち誰かに手え出されたらと思うとお兄さんは心配よ?」
「…あれ、新八っつぁん?」
独り言を連発する永倉に。
やはり姫子は目を覚ました。
「悪いな、起こして」
さして悪いとも思っていない口調で話す。
「ん〜ううん、ありがとっ買い物に出なきゃだったから助かった」
と、言いながらも目は半分閉じている。
「にしても、なんだって土方さんの部屋で昼寝してんだ?」
「振られたのさっ
まったく、融通きかないよね。
でも歳三さんの部屋ってなんか落ち着くんだよね。
良い匂いしない?」
「いやっ、それに同意求められても…」
姫子はやっと目を開けて上半身を起こした。
「新八っつぁんは?なんか用事だったの?」
「いや、ちょっとな。
さっき巡察で茶屋に寄ったんだけど。
土方さんの知り合いに似てる人を見かけたんで」
「ふ〜ん、女の人?」
「鋭いなあ!」
「元カノとかでしょ、どーせっ
歳三さん普通の女の人とかには優しそうだもん」
自分に優しくないとは思わないが、
他の女性と同じようには扱われていないだろうな、と思う。
それは良い意味でも。
悪い意味でも。
オトナのオンナとして扱われたことはない。




姫子の買い物の目的はひとつだった。
千鶴が大好きなわらびもちを買ってくること。
美味しいものを食べればきっと元気が出るはず。
ついでに土方たちを探してみようとも思ったが、
島原や祇園に入られているような気がして止めた。
姫子に本当に来てほしくないのなら、
女性が出入り出来ない場所を狙っているはずだ。

「すいません、わらびもち1つ下さい」
「姫子はん、いつもおおきに。
あれ?今日は沖田はんは?一緒やないん?」
一人で店に入ってきた姫子を不思議に思い、
店の女性は姫子の後ろを見遣る。
「私、いつでも総司と一緒なわけじゃないですよ」
「嘘やわ。ここに来てくれはるとき、絶対一緒やないの」
「あ〜それはそうかも」
「喧嘩でもしはったん?」
「仲良いですよ。一応」
そんな会話を交わしながら、わらびもちを受け取った。
「せや、姫ちゃん。金平糖は好き?」
「大好きですよ!」
姫子のテンションはあがる。
「売り物やのうて、子供らのお菓子に作ったんやけど。
ようけい余ってしもて。
もうてくれたら嬉しいわ」
「ホントですか!?
ぜひいただきます!」
そしてもらった金平糖はちょっとした量だった。
和紙の袋に入れられた金平糖。
片手に持ってずしっとくる。
どんだけ作ったんだ、という突っ込みは浮かぶけれど口には出ない。
そのお蔭でおこぼれをいただいている。
これだけあれば、壬生寺で遊ぶ子供たちにも配れる。
それはそうと。
早く帰らないと、わらびもちの方の美味しさが半減してしまう。
お店の女性にお礼を言って、
姫子はすぐに店を出た。

そしてさて早歩きで帰ろうかと、お菓子をくるんだ風呂敷を背中に背負ったとき。
「あの…」
さっきいたお店から出てきた若い女性。
姫子よりいくつか年上といったくらいだ。
「あの、沖田総司さんとお知り合いの方ですか?」
姫子は少し面食らった。
千鶴以外から久々に聞く江戸言葉。
なんだか変な感じがする。
「お知り合い…というか」
「すみません、先ほどの会話をきいてしまいました。
私、新選組の屯所を訪ねたいのですが…」
江戸の人、なのだろうか。
「今から屯所に戻るところです。
宜しければこのままご案内しますよ?」
見たところ、悪そうな人ではない。
山崎にはいつも、他人はまず疑ってかかれと言われているが。
姫子が自分で判断したところ。
きっと江戸にいた頃の誰かの知り合いなんだろう。
そういうことで姫子は折り合いをつけた。
「ありがとうございます。
ぜひお願いします」
本当は急ぎたかったが、誰かの知り合いなら、案内するのが人の道だ。
「四半刻くらいで着きます。
ちょうど涼しくなってきた時間で、よかったですね」
「はい。京の夏は暑いときいてはいましたが。
本当に驚いてしまいました」
「今日はまだマシですよ。
江戸からこられたんですか?」
「はい。
それより…先ほど、【屯所に戻る】と。
新選組の方なんですか?」
一瞬迷った。
近藤の妹ということになっている姫子。
だが、江戸からの知り合いとかならば、
そんな嘘はすぐにバレてしまう。
そして監察ということは、組内では公になっているが。
部外者には簡単に言えない。
「住み込みで、働かせてもらってます」
嘘は言ってない。
思いついたギリギリのライン。
「お掃除やお洗濯をなさってるんですか?
大変そうですね」
「はい」
嘘は言ってない。
掃除や洗濯をすることももちろんある。
自分の分だけだが。。

「よお、姉ちゃんさっきはどうも」

二人の後ろから声がした。
野太いけれど若い声。
姫子が先に振り返る。
けれど姫子に見覚えはなかった。
と、いうことは。
「あなたは…」
女性の方が目的のようだ。
「やっぱりな、どうしても一緒に来てほしいんだ。
何、今晩だけでいい」
「…お断りします」
「そいつぁきけねえな。親分が待ってる。
力づくでも連れてくぜ」
「すいません、うちの姉が何かしましたか?」
口を挟んだのは姫子だった。
女性は驚いている。
「妹さんか。
うちの親分が姉ちゃんに一目惚れしちまってなあ。
一晩、顔見ながら酒が飲みたいんだと。
一緒に説得してくれよ。
褒美はかなり弾むぜ」
下種だな、と、姫子は心の中で思った。
でも顔に出すほど正直でもない。
新選組の誰かと一緒でない限り。
ここで問題を起こして力づくの解決は自分には出来ない。
チャンスを作らなければ。
「お姉ちゃん、行こうよ、楽しそうだよ?」
姫子は笑顔で話しかけた。
「え…?」
女性はすごく困惑した顔になる。
「妹さんは話が分かるなあ」
「ねえ、私も行っていいですか?
お酒大好きなんです。
私だったら、謡も舞も出来ますよ」
わざと可愛い子ぶった。
普段、そういうのはとことん苦手だが、
あまり違和感なく出来るので、初対面の相手には好印象で。
日本男児にロリコンが多いというのは源氏物語からの常識のようなものだ。
「あんたなら親分も喜ぶな。
どうだ、姉ちゃんも行く気になったか」
「い…いえ」
女性は、訳がわからず、ただ首を振っている。
「もう、意気地がないなあ。
ちょっとお姉ちゃんと二人で話していいですか?
ちゃんと説得するんで」
「ああ、そこの茶屋で話して来い。
俺はここで待ってる」
「ありがとう」
そこの茶屋、というのはホントに近い距離で。
男としては、きっちりと見張っていられる場所。
ただ。
姫子にも有難い指定場所だった。
「あの…」
心底不安そうな女性が話しかける。
「あとで説明します。
とにかく頑張って私についてきてください」
小声で返すと、女性は少し悟った顔になった。
幸い、すでに男に背を向けているのでバレてはいないはず。

「すいません、裏口から抜けさせてもらいます」
「ええよ。気ぃ付けて行きや」
茶屋に入ったそのまま、姫子は店の厨房を通り抜け、裏口を出た。
「走ります」
姫子は思い切り走りだした。
女性もそのあとに続く。
けれど、女性の足は思いの外遅かった。
いつも山崎たちの速さに足手まといになる姫子だが。
女性の中では十分早い。
女性を置いて行かないくらいのスピードに落として、尚も走る。
だが、男が気付いて追ってくるのは時間の問題だと思っていた。
そして実際。
「待て!逃げんじゃねえ!!」
少し遠くから声が聞こえた。
まだ姿は見えていないが。
このままではまずい。
「手荒にします」
姫子は女性の手首を掴み、振り回すように走り出した。
女性が転ばなければそれでいい。
道をどんどん曲がって、見失わせようと必死で走る。

そして

「あ〜もう無理〜〜〜」
「はぁ、はぁ、はぁ…」
半刻走ったところで、やっと止まった。
でも、もう完全に男は巻いている。
その手ごたえは姫子にあった。
だから一時安心して座り込む。
「すいません、しんどかったですよね」
「い…、いえ…」
息も絶え絶えといったところで。
とても大丈夫そうには見えない。
「どっかのしょうもない浪士だと思うんですよ。
でも、あのままだとホントに簡単に力づくで連れて行かれると思ったんで」
「ご迷惑…おかけしました」
「いえ…たぶん、もう迷惑かけてるのは私のほうだと…」
「え?」
逃げ切れたのは良い。
問題は次にあった。
「すいません。。
ぐっちゃぐちゃの道逃げてきたので、迷子です。
ここ、どこでしょうね…」
二人が辿り着いたのは人気のない、山の中の神社。
もう、忘れられた廃墟のようで。
しかも、逃げているうちに日は暮れて、夕日の姿は山に消え行っている。
真っ暗とまではいかないが、薄暗い。
屯所では、もう夕飯を食べ始めているころか。
「この神社っぽい場所で一晩過ごして、
明日、明るくなってからとりあえず山を下りてみようかなって思うんですけど。
どうですか?」
「お任せします」
「夜盗とかに遭わないのを願うだけですね。
食べ物は幸いわらびもちがあるし。
金平糖なんかたらふくあるし」
千鶴に持って帰るはずだったわらびもち。
背中で随分あったかくなっているだろうが。
何も食べ物がないよりはマシだ。
痛んではいないはず。
金平糖も、思わぬところで役に立った。
偶然に感謝だ。

とにかく神社に入った。
思ったよりも中はキレイだった。
もしかしたら、時々誰かがキレイにしにきているのかもしれない。
住んでいるのではとも思ったが。
生活の匂いはしない。
夜につける灯りもなかった。
「そういえば、新選組へはどうしていらっしゃったんですか?」
「ある人にお会いするために」
「ある人?」
「土方歳三さんです」
「・・・・・」
姫子は夕方前の、永倉との会話を思い出した。
土方の知り合いを見たと言っていた。
結局、元カノかどうかまではきいていないが。
土方は末っ子なので妹ということはない。
色恋絡みと考えるほうが腑に落ちる。
そして姫子は思い浮かんだ名を口にした。
「もしかして、お琴さんですか?」
「…ご存じなんですか?」
ビンゴ。
姫子はなんだか複雑になった。
土方の色恋で一番有名なのは、江戸にいた頃の許嫁、琴。
土方を追って京に来たという話があった気がする。
琴が主人公の小説を読んだのを思い出したのだ。
「許嫁だったって、きいたことがあります」
本人からきいたわけではないが。
「過去形じゃありません。
今もです」
「え?」
「お嫁さんにしてもらいにきたんです」




「姫がいねえ?どういうことだ、新八」
永倉さんに、土方さんの部屋に連れてきてもらいました。
「いや、だからいねーんだって。
夕方前にここで会ったんだけどさ。
千鶴ちゃんにわらびもち買ってくる。
夕飯までには帰るって言ってたんだぜ」
「夕飯のときはいなかったのか?」
「ああ、でもそんときゃ監察の仕事入ったのかとか思ってたんだけど。
何かヤな気がして、山崎に確認とったら今は仕事は頼んでねーって」
「沖田さんにも原田さんにもきいてみたんですけど、
誰も知らないって言うんです」
「山崎に探しにいってもらったんだけどよ。
やっぱ土方さんの耳にも入れとこうと思って」
土方さんの顔がどんどん険しくなって。
眉間の皺も深くなります。
「雪村はどう思う?」
「…ひとりになりたいって、屯所を出ることはありましたけど。
でも、今回は違うと思います。
私にわらびもち買ってくるって、永倉さんに言ったってことは。
本当にただ買い物に行ったんだと思います。
いつも姫ちゃんがお菓子を買ってきてくれるときは。
美味しい状態で食べられるようにって。
絶対寄り道はしないんです。
何か、あったんだと思います…」
あった、とは、思いたくないけど。
でも。
姫ちゃんは自由奔放だけど、変なところは律儀だから。
帰るつもりがないなら、永倉さんに帰るとは言わないはずです。

「副長、よろしいですか」

山崎さんの声です。
「入れ」
「山崎、なんかわかったか?」
「はい。仕事で利用する茶屋があるのですが、
その女主人が姫子が来たと言っています」
「それで」
土方さんが先を促します。
山崎さんは渋い顔をして。
「姫子が女を一人連れて、店の裏口から出ていったのですが。
そのあとを、浪人風の男が暴れながら追いかけていったと」
「はあ!?」
声を上げたのは永倉さんでした。
「んじゃ何か、姫ちゃんが浪人に追われて…
どっか攫われたかもしれねえってことか!?」
「可能性はあるな。
それより、その連れていた女というのも気になる」
「どこか武家の娘のような。
美しい女だったときいています」
「あ…!」
また声を上げたのは永倉さんです。
「なんだ新八、どうかしたのか?」
怪訝な声で、土方さんが訊ねます。
「い、いや、すまねえ、今言うべきじゃねーんだけど…」
「じゃあ、後にしろ」
「俺は、浪人が追っていたのは姫子ではなく、
その女ではなかったのかと思っています。
姫子を追っていたのであれば、姫子は一人で逃げます。
姫子は女を守っていたのではないかと」
「そっちのほうがしっくりくるな。
なら、そのまま捕まってどこかにいるのか。
逃げているうちに道を誤って迷ったか」
「茶屋の出口は屯所とは逆の方向です。
俺は逃げるときにはとにかく道を曲がりかく乱するようにと教えてあります。
その教えを試してみたのならば、迷子、というのも充分あり得ます。
方向音痴ですから」
姫ちゃんはもともと知っている道以外は苦手です。
基本的に、その愛嬌を使って人に聞いて道を進んでいくのだと。
原田さんに笑い話としてきいたことがあります。
そんな道が苦手な姫ちゃんが。
とにかく逃げるためだけに必死に道を曲がって走ったのならば。
知らない場所に行きつくのが当たり前なのかもしれません。
「捕まってるなら急く必要があるが…
見当がつかん」
「茶屋の主人も見たことのない男だったと。
姫子を追っていたのでは検討もつきますが、
そうでないとなると…」
「迷子中だったとしても。
山中とかに入り込んでたら結構シャレになんねえよなあ。
夜盗に山賊に夜鷹目当ての金ナシ男。
会っちまったらヤバイよなあ」
なにも。
良い考えが浮かびません。

「ちょっと入るよ」

声がしてすぐに部屋に入ってきたのは沖田さんです。
「どうした総司」
「姫ちゃんがわらびもち買いに行ったっていうお店。
ちょっと行って話きいてきたんだけどね。
姫ちゃんは確かに来て、
わらびもちを買ってったって。
ついでに金平糖をいっぱい持たせたから一緒に食べてって言ってたよ」
「たいした情報なしか…」
土方さんも考え込みます。
「どうするのさ、土方さん。
見当つかないんじゃ探しようもない。
姫ちゃんが帰ってくるの待つしかないんじゃない?
捕まってたら終わりだけど。
迷子なら、朝になればあの子はちゃんと帰ってこれるよ」
沖田さんの言うことは。
確かにもっともでした。
「総司。お前、明日休みだな」
「そうだけど?」
「山崎と一緒に探して来い。
店の裏口からの逃げた形跡が残ってないとも限らん」
沖田さんは言われるのを承知していたようで。
でも、不満げな顔です。
山崎さんと仲良くないからなあ。。
「朝じゃ遅い場合もある。
姫ひとりじゃない分、動きづれーかもしれねーからな。
頑張ってくれ」
副長である土方さんは。
簡単に屯所を留守にするわけにはいきません。
そして私も。
足手まといになることは目に見えています。
ただ。
お二人に託すだけです。




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