「そばにいる。つよくなる」15

December 03 [Fri], 2010, 23:51
「原田さん、姫ちゃんは…」
「まだだな。こもりっきりだ」
「そう…ですか…」
姫ちゃんは一昨日からずっと。
留守中の土方さんの部屋の押し入れから出てきません。
でも。
誰も無理に開けようとはしませんでした。
飲み物だけは部屋の中に入れておけば飲むこともあるそうなのですが。
ほとんど食べ物を口にしません。
そして。
誰とも会おうとしないのです。
土方さんの部屋に籠りだしたのはきっと。
手水に行くまでに誰の部屋の前も通らなくて済むからです。
「でも、そろそろ物食わせねーとやばいんじゃねーか?」
平助くんの発言に。
「水飲むだけマシだけどな。
幸い発作は起こしてねーみてーだし」
いつも姫ちゃんの様子を見にいってくれる原田さんが返します。
「土方さんには知らせたのかよ?」
永倉さんは斎藤さんに向かって尋ねます。
「明日帰ってこられるから、それから話す」
「あーあ、自害するんなら僕が殺してあげたのに」
「総司」
沖田さんの本気か冗談かわからない口調に、斎藤さんが睨みます。
ですがきっと。
本気、なんだと思います。
沖田さんは、斎藤さんを睨み返しました。
「恨みのある許嫁が姫ちゃんにそっくりだったから、
その女の代わりに姫ちゃんに復讐したってことでしょ?
仲良くなってから、嫌がらせして。
最後はわざわざひどい絵を目に焼き付けさせて。
そんな部下を見抜けなかった人に睨まれたくないんだけど」
「おい、言いすぎだぜ?
俺らが組長っつったって、そいつのこと全部わかるわけじゃねーよ。
木嶋がやったことは斎藤のせいじゃねーだろ」
永倉さんはお二人の間に割って入りますが…
お二人とも、やはり険悪な雰囲気のままです。


永倉さんが木嶋さんの荷物から姫ちゃんの髪の毛や、文。
そして、木嶋さんの日記を見つけたのと。
中庭でただ立ちすくむ姫ちゃんを山崎さんが発見したのは。
ほぼ同じときでした。
木嶋さんの日記を見て事のあらましはわかりましたが。
なにせ。
姫ちゃんの受けた心の衝撃がひどかったようで。
私は。
ただ、役立たずでした。
誰が何を話しかけても、返してはくれません。
そしてまだ。
涙を流してもいないみたいで。
完全に心が固まってしまったまま。
二日が過ぎてしまいました。


「原田さん、私どうしたらいいですか?」
原田さんにきいても仕方のないことだと思いました。
でも。
誰かにきかずにはいられなかったのです。
「姫が山南さんにしてたように、傍にいるって方法もあるが…
あいつが完全に拒んでる以上、逆効果だろうな」
「千鶴に出来ることは決まってんじゃんっ」
苦い顔の私や原田さんに、平助くんは明快な声で話し出しました。
「姫は外見だけじゃ弱そうに見えるけど、中身は結構強いじゃん?
でも強そうに思えて結構弱いとこもあるじゃん?
でも弱いとこがあっても、やっぱ強いとこもあるからさっ
いつかちゃんと乗り越えるときがくるわけじゃんっ
そんときに一番上手い飯作れるのは千鶴で。
笑顔を見て一番姫が喜ぶのも千鶴だと思うんだけど」
そんな平助くんの声に。
その場の空気が変わりました。
「平助〜!たまには良いとこ言うじゃねーか!」
「ちょっ!なんだよ新八っつぁん!たまにはって!?」
永倉さんがからかうように平助くんの頭をぐしゃぐしゃと撫でますが。
私は。
本当に。
今の言葉に救われました。
出来ることは、ないわけじゃない。
そうだ。
もっと他にもいっぱいあるはず。
しっかりしなきゃっ
「ありがとう、平助くん」
「ん?あ、あぁ」




そして姫ちゃんの状態が変わらないまま。
土方さんが大阪から帰ってきました。
さっそく斎藤さんから説明を受けた土方さんは。
押入れに姫ちゃんがいる、自室へと向かわれました。


「姫、起きてるか?」
土方の声に。
姫子はわずかな反応をした。
見えてるわけがないのに。
うなずいてみせる。
「襖、開けていいか?」
今まで誰かがそう言っても、反応を返さなかった。
だから、誰も開けなかった。
心を開いてくれないと。
襖を開けるのが怖いから。
だが土方は。
ゆっくりと襖を開けた。
開けても。
姫子の顔は見えなかった。
布団を被ったまま、丸まっている。
土方は、布団のふくらみ方から見て、頭があるだろうところに手を置いた。
優しく、手を置く。
「支離滅裂でいいからな。
思ってること全部吐け。
全部聞き流してやるから。
全部吐け」
姫子の耳に届いた言葉。
その言葉が心まで届くのにはかなり時間を要したが。
確かに届いて。
とっくにまともな判断が出来なくなった思考で。
考えることなく。
心からそのままに言葉を紡ぐ。
「…木嶋さん、その人のこと本気で好きだったと思うの」
しばらく使われていなかった喉から発せられた声は、
掠れていてとても儚いものだった。
それでも静かな部屋で、土方の耳にはなんとか届く。
「ああ」
「木嶋さんに『武士道とは』ってきかれたことがあったの。
それをその人にもきいたんだと思うの。
その人はきっと。
『信じ続けること』って答えたんだと思うの。
一番恨んでたのは、何があっても信じ続けられなかった自分だったの。
でも。
その人のことも本気で憎んでたの。
好きで。
好きで。
好きすぎて。
憎んで。
憎んで。
全部がきっとぐちゃぐちゃになっちゃったの。
私は。
木嶋さんの気持ちちょっとわかるの。
好きで、嫌いで、大好きで恨んじゃうのわかるの。
わかったから、だから。
木嶋さんが気が済むまで付き合えたのに。
なんで先に諦めるの。
諦めて。
放棄して。
それでも諦めきれなくて。
最期に後悔するようなことするの。
木嶋さん私にしたこと、後悔するときがくる。
死んじゃっても。
いつか後悔するときがくる。
優しすぎて。
弱すぎて。
コントロールできないまま絡まってぐちゃぐちゃで。
死んじゃった」
姫子は、力ない体で土方の手を握って。
「やだ。
やだ。
死んじゃやだったの。
やだったの。
私も。
ああなってたの。
ちょっと絡まり方間違ってたら。
ああなってたの。
木嶋さん似てたの。
やだ。
誰がが死ぬの、見るの、やだ。
なにか出来たかもしれないのに。
出来なかったの。
やだ。
木嶋さん悪くないの。
悪くないの…」
やっと。
姫子は涙を流し始めた。
土方は姫子を横抱きに抱き上げ、押入れから出す。
そのまま、座りこんで軽く抱きしめ。
三歳の子供にするように。
背中を軽くさすってやる。
「よく言えたな。
えらかった」
土方がそれでいいと言ったままに。
姫子の言葉は支離滅裂だった。
だが。
それだけ様々な思いが交差して、どうにもならなくなっていたということだ。
そうだ。
姫子が言ったように。
木嶋もそうであったのだろう。
想いが絡まりすぎて。
捨てるより他なくなってしまった。
そのゴミ箱に。
姫子はなってしまった。
混乱の伝染だ。
姫子のような感じやすいタイプであれば余計に。
人の感情はもろに自分の中に招き入れてしまう。
木嶋は知ってか知らずか、姫子の傷口をえぐって。
自分の膿を押し込んだのだ。
「姫。このこと、覚えてていいんだぞ」
「・・・」
「無理に整理しようとしなくていい。
忘れようとしなくていい。
しばらくは波みてーに押し寄せて辛いかもしれねーが。
そんときゃ得意の抱き付き魔すりゃいい。
誰も拒否しねーよ。
押し込めようとすんな。
自分の感情。
言葉に出来なくてもかまわねーから。
なんだったら、新八あたりを気が済むまで殴って蹴ったっていいな。
気が晴れるかもしれねえ。
もっと好きに、楽になってみろ。
押入れで籠城するのも、ナシじゃねえよ。
ただな。
人間、ひとりだけど、ひとりじゃねえ。
頼りっぱなしはよくねーが。
別に、頼ることは悪いことでもねえし。
今のお前だったら常習になることもねえだろ。
ヒトリはヒトリでいい。
だが。
誰かいるときは、頑なになる必要はねえ。
もう一回言うぞ。
お前は、もっと楽に生きろ」
三日間何も食べずに。
ほとんど寝ずにいた姫子にとって。
子守唄のような土方の声。
それでもきちんと残っていた。
心に沁み込んでいって。
返事も何もできなかったが。
ただ。
『あったかいなあ』と思いながら。
深く、長い眠りについた。




「近藤姫子、復活いたましました!!」
朝食の時間。
広間で大声で。
姫ちゃんは盛大に噛んだ。
おかげで、笑いに包まれる。
「い・た・し・ま・し・た!!」
言い直すと余計に笑いがこみ上げる。
けど。
姫ちゃんの笑顔を見られてよかった。
土方さん情報で、きっと姫ちゃんは朝食を食べるだろうときいていたので。
私は朝食当番をする平助くんと永倉さんの隣で。
姫ちゃん用の朝食を作っていました。
5日振りのご飯ですから。
さすがにみなさんと同じような普通のご飯を食べるのは体によくありません。
今日と明日はお粥で過ごしてもらう予定です。
「千鶴ちゃんっお粥さんめちゃくちゃ美味しいっ
大好きっありがとう!」
数日を取り戻すような姫ちゃん。
その調子の高さに少し不安にもなりましたが。
なんだかどうやら。
無理をしているような感じでもないのです。
だから安心して私も笑います。




「原田、なんか知ってるか?
あいつの傷のこと」
土方は朝食後に原田を呼び出した。
「傷…は、心の傷って意味だよな?」
「その調子じゃ、心当たりくらいはありそうだな」
「今回の木嶋と何か関係あるのか?」
原田の言葉に。
土方は少し目線をずらして考える。
「木嶋と自分が似てるって言ってやがってな。
少し気になった」
その土方の言葉に、次は原田が思い当たる。
「たぶん、だけど、いいか?」
「おう」
「好いてた奴に、見放されたみてーだな。
過呼吸のこととか、感受性過多なこととかもあるし。
あいつ昔はもっと人に頼る奴だったんじゃねーか?
でも、頼ってたやつがあいつを見放した。
それが嫌いになったからなのか。
他に女が出来たからなのか。
あいつを独り立ちさせるための親心みてーなもんだったのかは知らねーが。
当時、相当やばかったのは確からしい。
ま。
たぶんっつーか。
あいつの発言と、性格と、木嶋の日記を合わせて作った。
ただの仮定だ。
聞き流してくれ」
原田はそう言ったが。
「筋は通る。
あいつの様子考えてそんなもんだろ」
土方は同意した。
そして。
原田も土方にそう言われてしまえば。
そうなんだろうなと思った。
本人からうまく聞き出す自信もなかったが。
こんな仮定を立てられれば。
これからの対処はしやすくなる。
仮定は仮定だが。
あながち大きくズレてはいないはずだと。
そう思った。
「ま、姫は見てくれ男受けするからな。
いろいろあったって不思議ねーよ」
「まあな。これからも隊士の中で変な気起こす奴がいねーように。
ちゃんと見てなきゃな、土方さん」
茶化すような原田に。
「お前はどうなんだ?」
率直に土方は尋ねる。
「…は?」
「何も平隊士だけじゃねーだろ。
変な気起こす奴は」
そういう言われ方をされれば。
原田だって反論したくなる。
「ああ、そうだな。
土方さんもえらく気に入ってるしな」
「ま、気に入ってるのは確かだな」
次はそんな風に先に堂々と素直に答える。
土方という人間とまともに会話をするとペースがもっていかれる。
「で、お前はどうなんだ?」
普段原田が藤堂に向かってしているようなひっかけ。
原田はそっちの立場となると弱い。
「…鬼副長」


そして季節は。
もう。
真夏を迎えようとしている。
祇園祭まで。
あと少し。




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