「そばにいる。つよくなる」14

December 01 [Wed], 2010, 23:40
「今回はちゃんと標的私だったねっ」
笑顔の姫ちゃん。
の。
隣では。
盛大な溜息をつく原田さん。。
そして私は
「姫ちゃん!!なんでそんなこと平気で言うの!!」
「でもまあ…無事で済んだわけだし。。」
「無事じゃないでしょ!?
キレイな髪の毛が落ち武者になっちゃったじゃない!!」
「…千鶴、追い打ちかけてるぞ」
原田さんに言われたって気にしません。
だってここは。
叱るところです。



それは、仔猫事件があった日の3日後。
姫ちゃんは沖田さんの部屋で、簡単な護身を習っていたそうなのです。
実際は。
遊ばれて遊ばれて。
両手首に縄をかけられて。
自分でほどくことを課題にされていたそうなのですが。。
その課題がなかなか出来ず。
そうこうしているうちに夜も更けてしまったのです。
時間切れとして、沖田さんは縄をほどいて原田さんの部屋に返そうとしたそうなのですが。。
姫ちゃんも頑固で負けず嫌いです。
なんとしても自力で縄をとくんだと。
その状態で部屋を出ていったそうなのです。
沖田さんの部屋から原田さんの部屋まで。
そんなに距離はありません。
ですが。
そんな僅かな距離で。
暗闇の中。
姫ちゃんは急に後ろからひとつ括りにしていた髪をつかまれ。
おそらく刀で。
バッサリと髪を切られてしまったそうなのです。
犯人は姫ちゃんに触れることもなく。
ただ。
その切った髪の毛だけを手に逃げ去ったそうで…
一瞬姫ちゃんも何が起こったのかわからなかったみたいですが。
すぐに髪を切られたことには気づいて。

「左之さんっなんかあったー!!」

と。
とりあえず叫んだ。
声が、みんなに届いたのですが。
髪はバッサリ切られてるわ。
両手首は縄で縛られてるわ。
何がどう、『なんかあった』のか。
すぐに理解できたのは、もちろん沖田さんだけでした。。
そんな沖田さんは。
出張中の土方さんや近藤さんに代わって。
なんと山崎さんに説教されています。
だから姫ちゃんを説教するのは私の仕事。
でも。
きっと。
沖田さんへの説教が終わった山崎さんは、次に姫ちゃんも説教しにくると思うのですが。。
それは仕方がありません。



「ほらっ千鶴ちゃん。髪はまたすぐに伸びるし」
「髪は女の命でしょ!?すぐに伸びるとか、そういう問題じゃないの!」
「坊主ならヤだけど、ボブならそんなにヤじゃないよ?」
「私がヤなの!」
私が何が『ヤ』なのか。
原田さんならきっとわかってくれてます。
姫ちゃんは。
自分が標的で安心しているのです。
仔猫が被害にあったように。
自分でない誰かが傷つくよりは。
自分が犠牲になったほうがよっぽど楽だと。
確かに今回は姫ちゃんに傷がつくようなことじゃなかった。
けど。
充分大事で。
それにきっと。
これが怪我をするようなことになっていたとしても。
笑って言うのだと思うのです。
ただ。
『自分でよかった』
という意味で。
それが姫ちゃんなんだとわかっていても。
そういう姫ちゃんはもやもやします。
「ただ、今回の事件でひとつわかったことがあるな」
さっきから全然発言していませんでしたが。
部屋の中にいたもうひとり。
斎藤さんが口を開きます。
「わかったことって、なんですか?」
私が訊き直すと、斎藤さんは指を二本立たせて私の方を向きました。
「ふたつある。
まず、目的はやはり雪村ではなく姫子だということ。
そしてもうひとつ。
犯人は姫子に好意を持っている可能性が高いということ」
「…好意??」
姫ちゃんは眉をしかめます。
でも、私も、反応は似たようなものです。
こんなことをして。
好意?
「切った髪の毛を持ち帰ったという行為。
それが俺には好意に思えるが」
「俺もそう思うぜ?
嫌がらせなら、切った髪の毛はそこらに散らばらせときゃいいだろ。
そうすりゃ変に証拠が残るようなことにもならねえ。
ただ、猫の件もあるからなあ、悪意も否定できねえが…」
確かに…そうです。
「ねえ、斎藤さん。今のところ木嶋さんが疑われてる?」
姫ちゃんが率直に訊ねたので、私は内心驚きました。
「可能性という点では一番有力だ。
だが証拠もない」
「その証拠なら、今頃新八が探してるぜ。
隊士たちの部屋、片っ端からひっくりかえしてやがる」
「ねえ姫ちゃん。木嶋さんに不審なところでもあった?」
私は実際に木嶋さんと話したことはありません。
それでも。
手紙の中の木嶋さんからは今回の事件が想像できないのです。
「勘」
短く答えた姫ちゃんは。
一瞬俯いて、
「ちょっと総司んとこいってくる。
昼間だからひとりでもだいじょうぶ」
誰かが制止する前に出ていってしまいました。
でも確かに。
昼間の幹部部屋付近は今は安全です。
だから誰も追おうとしませんでした。
「雪村はどう思う?」
斎藤さんは姫ちゃんが消えた襖から視線を戻すと。
私に意見を求めました。
私は…
「木嶋さんじゃなかったらいいな、と、思います」
「なぜだ?」
「…なんとなく」
そんな返答しかできません。
「斎藤はどう思ってんだよ?
一番知ってるだろ?」
「もし仮に」
斎藤さんが、すこし間をおいて言葉を選びます。
慎重な様子は、なんだか意外でした。
「仮に、姫子のことを好いているとする。
俺は、正当な方法で好いてほしいと思う」
…答えになっていない答えに。
なぜか私も原田さんも理解をしました。




「木嶋さん。単刀直入にきいてもいいですか?」
運がよかった。
木嶋がひとりで中庭にいてくれたことは。
周りに誰もいなくて。
邪魔をされないことは。
危険は感じなかった。
姫子は。
「なんでしょうか?」

「私のこと、嫌いですか?好きですか?」

木嶋の表情は何も変わらなかった。
ただ。
的を射た質問に。
素直に答えた。

「嫌いです。そして好きです」

「ですよね」
薄く笑う。
「最初から、私だとわかっていたんですか?」
「ひっかかってた部分はありました。
でも結びつきませんでした。まったく。
ただ、髪切られたとき。
墨の匂いがしたんです。
普段も持ち歩いているんでしょう?
いつでも私への返事を書けるように。
それで…なんとなくぶつけてみようかなと」
姫子も半信半疑だった。
違ったらそれでいいと思っていた。
それがいいと思っていた。
でも当たった。
嬉しくはない。
けれど。
「私、木嶋さんとあまり面識ありませんでしたよね?
なにかしましたか?
それとも、話すようになってから。
気付かないうちにひどいことしましたか?」
「姫子さんは、何もしていません」
「言ってください。
私、黙って腹に収められるのが一番嫌いなんです」
「いいえ、姫子さんは何もしていません」
頑とした木嶋に。
姫子は少し睨みつける。
そして。
そんな視線を受けて。
木嶋は遠い目をして微笑んだ。
「姫子さんにそっくりな許嫁がいました」
「ぇ…?」
「でも彼女は私のことを利用していたんです。
婚姻する振りをして、私の実家の財産を奪って消えました」
姫子は呆気にとられる。
まったく想像していなかった木嶋の言葉に。
「おかげで母親が心を患い、そのまま死にました。
私はひとり息子でしたから。
その嫁になる予定の彼女を本当に大事に思っていたのです。
もともと体も弱かったのですが。
きっかけは明らかでした」
さらさらと流れるように話す木嶋に。
姫子は言葉を挟めなかった。
「初めて姫子さんを見たときは驚きました。
瓜二つというわけではありませんでしたから、
さすがに同一人物と思ったわけではありません。
ただ。
段々に理性が保てなくなったことは確かです」
その上の行動が。
文を通して姫子を知ること。
そして。
髪紐を一時拝借し。
仔猫を惨殺し。
髪を奪った。
「わかってくださいね。
姫子さんのことは悪く思ってはいないんです。
でも。
わからなくなるんです。
あの女と姫子さんの違いが。
そして。
重なって見えてしまうんです。
私を騙した女と、あなたが」
姫子は。
自然と木嶋の言葉を理解した。
今までのことも繋がり。
少しすっきりもした。
だが。
そうですか、と。
終われる問題ではない。
「私への危害は、これで終わりますか?
それとも。まだ続きますか?」
「どちらも、お約束はできません」
「じゃあ、約束してください。
私には何をしてもいいから。
他の人に危害を加えないでください。
あと。
がんばりますから。
だから、他の人にバレないようにしてください。
何事もないように、してください。
私は、確かにその人じゃないけど。
気の済むまで付き合いますから。
だから。
約束してください」
姫子の言葉に。
木嶋も目を戻した。
そして。
瞬間微笑み。
笑う。
「約束はできません。
きっと人にバレてしまうと思います」
「…なにする気なんですか?」

「武士道とは、信じ続けること、でしたね。
最後まで。
信じることが出来ずにすみませんでした」


<ブシュッ>


目の前での。
一瞬の出来事に。
姫子の呼吸は止まった。
「ぁ…ゃ…」
木嶋が。
姫子が帯に差していた脇差を抜き。
自分の喉仏を目指し突きぬいたのは。
そのまま血を吐き、うめき声さえもらさずに地面に倒れおちたのは。
一瞬のことで。
姫子の思考は完全に停止し。
その場に立ちすくんだ。




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    ・ハイキング
    ・邦画・ドラマ鑑賞
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