「そばにいる。つよくなる」12

November 11 [Thu], 2010, 23:30
「千鶴ちゃん、私の髪紐知らない?」
姫ちゃんが自分の引き出しをごそごそと探しながら私に声をかけます。
姫ちゃんとは同じ箪笥を使用していて。
上一段が共通。
真ん中の二段が私で、下二段が姫ちゃんが使用しています。
「昨日、お風呂入るまではしてたよね?」
今年は夏の入り口でもすでに暑く。
自然と姫ちゃんもその長い髪の毛を結んでいます。
初めて沖田さんと着物を買いにいった日に一緒に購入したものです。
淡い浅黄と薄紅のキレイな色使いの布製のもので。
髪を下しているときも可愛い姫ちゃんですが、
髪紐をすると、華やかさは倍増します。
「ん〜お風呂のあとの記憶がないのね。
確か脱いだお着物と一緒に脱衣所に置いてたから、
お着物と一緒に持ってかえってきたって思ってたんだけど」
「どっかで落としちゃったのかなあ…?」
「ぅぅぅぅぅぅ」
きっと、沖田さんはガッカリします。
「平ちゃんあたりに相談してみる。。」
元気なさそうに、ふらっと部屋を出ていきました。

確かにうっかり者の姫ちゃんは失くしものも多いのですが。
大事にしている髪紐を簡単に失くしてしまうのでしょうか?
そんなことをぼーっと考えていると。。

「雪村」

「斎藤さんっ」
急に現れた斎藤さんにびっくりしました。
いつも気配がないのです。
襖を開く音もものっすごっく静かです。
「どうかしたか?」
「あ、いえ…」
「姫子はいないのか?」
「平助くんのところに行きました」
「そうか、では預けておこう」
そう言って、斎藤さんは懐から何かを取り出しました。
「あ…!」
「姫子の髪紐だろう?」
そうです。
姫ちゃんの髪紐を、斎藤さんが手に持っています…!
「それっどうしたんですか!?」
「今拾った。脱衣所の前に落ちていたぞ」
「ありがとうございますっ姫ちゃん探してたんです!」
斎藤さんから髪紐を受け取ると、自然と笑顔になった。
これでふたりとも、落ち込まずに済む。
「それだけだ。邪魔をした」
斎藤さんは淡泊な方で。
すぐに部屋を出ていかれました。
それにしても。
本当によかった。
姫ちゃん、もう平助くんに話しちゃったかな?
でも私は勝手に部屋を出られないし…待つしかないか。

あれ?
でも…
朝食を食べにいくときに脱衣所の前を通ったんだけど。
なんにも。
なかった…よね?
一瞬、あまりよくない考えが頭をよぎりましたが。
すぐに打ち消しました。
きっと私が見落としただけ。
きっと。




「それで、髪紐は見つかったんですね」
「そうなんです。ドジなんですよね、私」
姫子は木嶋とともにいた。
いつものように手紙を渡している。
「そうだっ木嶋さん、その子に何か贈り物をしたらどうですか?」
「贈り物?」
楽しげに提案する姫子に、木嶋は眉を寄せて問う。
「自分に好意をもってくれてる人がいるって気付くじゃないですか。
好意を持たれたら、どんどん恋愛モードになってくのが人っていうものみたいですよ」
「そう…ですね」
「どうしても恥ずかしいなら、物によっては匿名もありかもですね。
今後の展開によってはロマンチック…かも?」
「匿名…考えてはみます」




「一くん、ちょっといい?」
廊下の途中。
斎藤を呼び止めたのは沖田だった。
珍しい相手に、斎藤も歩みを止める。
「ここじゃなんだし、僕の部屋来てよ」
偶然にも沖田の部屋のすぐそばだった。

「姫ちゃんがさ、最近一くんのとこの隊士と文通してるみたいなんだけど。
木嶋さんって人」
この沖田の言葉には、斎藤は怪訝な顔をした。
斎藤から見た木嶋は女と文通するようなタイプには見えない。
「偶然見ちゃったんだよね。会話の内容はあんまり聞こえなかったけど。
それにしてもさ。
ちょっと監督不行き届きなんじゃない?」
沖田が言いたいのはコレだった。
「隊士の色恋にまで組長は干渉するのか?」
「相手が悪いでしょ。一応局長の妹だよ?」
そういうことになっている。
他の者に知られていいことでは、確かにない。
「俺は興味はない。姫子だって立派な大人だ。自分で判断しているのだろう」
「あの子の判断力なんか信用してないよ」
沖田は島原での一件の全容は知らない。
それでも。
半年一緒に生活をしていて、わかる面はたくさんある。
「知らないよ?ある日、姫ちゃんが妊娠しました〜って話になっても」
「なっ…」
斎藤は固まる。
そんなところまではよもや想像していない。
「やだなあ、最悪の場合だよ。
近藤さんの妹じゃなかったとしても。
あの土方さんたちの可愛がりようはわかるでしょー?
そうなったら直近の上司はどう見られるかな〜」
いかにもおもしろそうに沖田は追い詰めていく。
「話が飛躍しすぎだ。
まだ一緒にいるのを見ただけだろう。
あんたのほうがよほど姫子と一緒にいるだろう。
雪村を避けておきながら」
斎藤の動揺はセリフの飛びように出た。
だが。
その不自然な飛びセリフは。
意外にも沖田の癇にさわった。
「今、千鶴ちゃんの話関係ないよね?」
姫子に言われるのなら何も痛くない。
少し反撃すれば反れる話題で。
姫子に悪意がないのもわかっているから。
だが。
斎藤から言われるのはなぜか気が悪い。
「そうだな。
とにかく、木嶋の件は折を見て俺が訊く。
どうせ問題はないだろう」
言い逃げるように部屋を出る斎藤に。
沖田はなんだか少し腹がたった。




「姫ちゃん、もう朝食の時間だよ〜」
ほぼ毎日のことですが。
姫ちゃんはなかなか起きません。
本当に出なければならない時間になればぱっと起き上がって
準備はすごく早いことが分かっているのですが。
大丈夫だと思って、先に部屋を出ると。
そのまま夢の中へと戻っていき。
朝食を逃すこともしばしばです。
まあ。
小食の姫ちゃんは朝はほとんど食べないのですが。
「ん〜千鶴ちゃんおはよう。。」
少しはだけた着物のままで、姫ちゃんは目をこすり起き上がります。
寝起きは猫のようです。
「じゃあ、一足先に広間にいって準備手伝ってくるから。
すぐ着替えておいでね?」
「ん〜」
姫ちゃんの返事を聞きつつ、私は襖を開けました。
そして

「きゃああああああああ!!!!」

「千鶴ちゃん!!??」

襖を開けた場所にあったのは…
刀で斬られ、死んでいる仔猫の遺骸。。
廊下には血が染みだして。
「千鶴ちゃんっ部屋戻って!」
姫ちゃんが無理やり私の目を塞いで、そのまま部屋の中へと押しやります。
そして、私の顔を自分の胸に埋めさせて。
何も。
何も見えないようにしてくれました。
私は、でも。
目に焼き付いてしまったものに。
どうしても涙が止まりません。
「どうした!?」
私の声をきいて、みなさんが集まってこられます。
そして。
私たちが説明する前に。
その場を見たのでしょう。
言葉を失い。
「…ひでえ」
最初に発したのは平助くんでした。
「山崎、すまない。頼めるか」
「はい」
土方さんが山崎さんにそう言うと、きっと。
山崎さんは子猫を連れていったのだと思います。
空気が動いて。
足音が遠ざかっていきました。
「姫ちゃん、これ、どうなったんだ?」
永倉さんの声が降ってきます。
姫ちゃんは、少し迷って。
「平ちゃん。ちょっと千鶴ちゃん頼める?」
「え?…ああ」
「千鶴ちゃん、ごめんね。
でもここにいるのもなんだから、平ちゃんの部屋で落ち着いておいで」
提案は、ありがたいものでした。
ここにいるのは。
ちょっと。
しんどいです。

私は涙が止まらないままに、誰かに支えられて平助くんの部屋に行きました。




「姫は大丈夫なのか?」
原田のかけた言葉は正しいものだった。
最初に見た千鶴に比べたらワンクッションはあったのかもしれないが。
見たものは同じだ。
寝起きもあるが、顔が青白い。
「ん、千鶴ちゃんのほうがしんどそうだから、平気」
平気な理由にはなっていなかったが、原田は呑み込んだ。
姫子の中では成り立っている言葉なのだ。
「で、何があったんだよ」
永倉が改めて問う。
「わかんない。っていうのが一番。
夜の間か早朝に置かれたって考えるのが妥当だと思う。
偶然は考えにくいから。
嫌がらせって考えるのが普通じゃないの?」
「物音とかはきいてないのか」
土方が問うたが。
「私に、眠い時間の記憶はありません。。
そのへんは落ち着いた頃に千鶴ちゃんにきくほうがまだいいと思います」
朝に強いのは断然千鶴で。
弱い姫子に確かな記憶などない。
「ただ」
姫子はぼそっと呟く。
「私宛って考えるのが妥当じゃないかな。
部屋は私の一人部屋ってことになってるんだし」
表向き、男の千鶴と同室では話がおかしい。
人目に触れにくい部屋ということもあり。
平隊士には一人部屋だと話してある。
「心当たりは?」
「監察の仕事柄、ないとも言い切れませんよね」
原田の一件以降にも。
何件か、隊士の素行調査を行った。
軽いものが中心だったが。
調査結果で給金が減ったもの、立場が下がったものも何人かいる。
姫子の調査だとバレるようなものではないが。
調査時の状況などを鑑みれば。
少し頭が回れば気付く人は気付く。
男では難しい調査であったときなどは特に。
「だからって。考えにくいんじゃねーか?
こんな真似したらそれこそどうなるかわかんねーだろ。
姫の調査対象者なら、真っ先に疑われる」
原田の意見にみな納得した。
「とにかくだ。ここ、キレイにしてやれ」
土方が言うと、原田と永倉は顔を合わせ、掃除用具を取りに行く。
残ったのは。
土方と斎藤と姫子だけだった。
「姫子、木嶋は考えられないのか?」
斎藤の言葉に、姫子は驚いた。
驚いたが、当たり前のような気もした。
そろそろ誰かの耳に届いてしまってもいい頃だと。
「木嶋さんは関係ないでしょ」
「文通をしたり二人で会ったりしているそうだが」
「木嶋さん、好きな女子がいるそうで。
その恋の手助け。千鶴ちゃんと一緒に。
いろいろアドバイスしたりしてるだけだよ。
だから、やましいこともない。
木嶋さんは無関係」
人のことをベラベラ話すのは趣味ではないが。
こんな件で疑われるくらいなら、バラしたほうがマシだ。
それに相手は土方と斎藤。
面白がって言いふらす人間ではない。
「斎藤、念のため木嶋と話してみろ」
「はい」
姫子は考えにくかった。
思い出しただけで心臓が掴まれるような姿の仔猫。
それが木嶋と結びつかない。
とてつもなく結びつかないが。
ある自分の発言がやけに鮮明に思い出された。
『どうしても恥ずかしいなら、物によっては匿名もありかもですね』
ただ。
そんな何の確信のないことは。
誰にも言わなかった。




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    ・ハイキング
    ・邦画・ドラマ鑑賞
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