「そばにいる。つよくなる」19

May 29 [Sun], 2011, 0:53
「金平糖が…ない。。」
姫子は風呂敷を開いて項垂れた。
もう空腹はピークだ。
わらびもちは食べられそうだったが。
あまり量が多くはないし、あっさりした味なので。
金平糖には期待をしていた。
「落としたんですか?」
「走ってる内に和紙が擦れて、破けちゃったんだと思います。。
何粒かは残ってますけどね。。」
「私、わらびもち食べなくても構わないので。
姫子さん、食べてください」
「いえ、そんなことしたら歳三さんに怒られるかもしれないんで。
平等にいっときましょ」
「歳三さん…?」
琴は引っかかった。
姫子は不思議に思い、項垂れていた顔を上げる。
「どうかしましたか?」
「住み込みで働かれているのに。
副長のことを名前で呼ばれるんですね。
仲が良いんですか?」
しまった、と思った。
確かに言われればそうだ。
沖田を呼び捨てにしていたのも聞かれていたはずだが…
年齢の違いからか。
土方のことだからひっかかるのか。
「えーっと」
でも良い言い訳も思いつかない。
「わらびもちっ、食べましょう!」
だから逃げた。
もういい。
土方と琴との仲を気にしている余裕なんて今の自分にはないはずだ。
それにホントにお腹がすいた。
「…はい」


わらびもちは案外味を損ねていなかった。
素直に美味しい、幸せと思える。
だが食べ終えた頃。
急にぞくっと寒気がした。
隙間の空いている入り口から。
灯りが見えた気がした。




「山崎くん。良いもの見つけたんだけど」
二人はとりあえず、逃走の始まり。
茶屋の裏口から探索を始めた。
最初は何も手がかりがなかった。
見つかるまでに間があったのだろう。
物を倒したような跡もない。
とにかく、提灯の灯りを頼りに探した。
そうしてしばらく経った頃。
沖田が得意げな顔をして山崎を呼んだのだ。
「何を見つけたんですか?」
「これ」
沖田が提灯で示した場所には。
十粒ほどの金平糖が落ちていた。
「…姫子が落としたと?」
「わからない。でも、手がかりが特にみつからない以上。
この金平糖を辿っていくのもいいと思うよ」
そうして沖田は提灯を前へとずらす。
不定な間隔で。
金平糖が落ちているのが見えた。
「悪くありません」
「なんか偉そうなんだよね、君」
総司は不満の声を上げたが。
山崎が次の言葉を発するまでに歩き出した。
金平糖がどこまで続いているのか分からない。
姫子のものかも分からない。
だが、沖田はどこかで確信していた。
これを辿れば姫子がいる。




「お琴さん、ここに入ってください」
「え?」
響かない声色と同時に姫子が開けたのは、
小さな押入れだった。
「何があっても絶対に出てこないでくださいね」
微笑むと、静かに、確かに扉を閉める。
琴の返事は聞かなかったが、
さして心配もしていなかった。
自分から面倒に飛び込むタイプではないように見えた。
弱虫というより聡明そうだ。
自分に何かあっても、
無意味に飛び出してくることはないだろう。

「…どなたですか?」

外から聴こえてきた。
声は若い男のものだった。
不審そうな声。
「すみません、お借りしています」
姫子は申し訳なさそうな声を出す。
女の声が返ってきたことに安心してか。
声の主はあまり警戒することなく入り口から姿を現した。
「どうなさったんですか?」
真面目そうな武士風情の青年。
一見悪い人そうには見えない。
「迷子になってしまったんです。
ここで夜を明かそうと思っていたんですが…
すみません、あなたの場所でしたか?」
場所、と言ってみた。
家には見えないが、神社というにはもう何もない。
「私も少しここを借りているだけです。
でも困りましたね。
私も寝る場所がここしかありません」
出て行けと言っているようには見えなかった。
だが。
次の瞬間には。

「出ていってもらえませんか?」

雑に言い放たれた。
「…え?」
「それとも夜伽をしてくれますか?」
「意味がわかりません」
「出て行くか、夜伽をするか。
選択です」
優しいつもりの口調で放つ。
「でもまあ、出ていったところで。
熊か男か。
どっちかには食われちゃうんじゃないですか?」
「…」
最初にまともそうだと思った自分がバカだった。
身なりがきちんとしているだけの、精神異常者だ。
そういえば今日は満月だったかも。
なんて呑気なことを思う。
「この前ここに迷い込んでいたのは尼寺を抜け出した中年の女性でした。
でも今夜は幸運ですね。
可愛い女の子」
「そのときはその女性、どっちを選んだんですか?」
「もちろん、決まってますよ。
あなたも、もう決まっているんでしょう?」
決まってはいた。
だが、二択ではない。
琴を残した状態で外に出ることは出来ないし、
夜伽なんてするつもりは毛頭ない。
「はい」
「どちらですか?」
「わかってるんでしょう?」
帯を解いた。
「入口を開け放したままでは虫が入ります。
閉めてもらえませんか?」
青年の顔は笑みに歪んだ。
そして素直に入口へと向かい戸に手をかけた…
瞬間

<ゴッ>

姫子は着物の下に隠し持っていた懐剣を鞘に入れたままの状態で、
男の首の後ろを力の限り殴った。
そのまま。
男は倒れる。
「…殺してないはず。。」

「殺していいのに」

「総司…!」
入口からひょっこりと顔を出したのは沖田だった。
「俺の部下に無闇に殺生を勧めないでください」
山崎が続いて入ってくる。
青年に息があるのを確かめて両手首に縄をかける。
「だいじょうぶ?何もされてない?」
「あ、うん」
少し離れた床に落ちている自分の帯に、少し恥ずかしくなる。
「それより、お琴さん、すいませんっもう大丈夫です」
「…お琴さん?」
琴は静かに押入れの中から出てくる。
「あなたは、確か…」
沖田の顔が少し強張る。
「えーっと、話はあとでっ
とりあえず屯所に戻って休ませてあげないと。
私結構走らせちゃったから」
姫子はイヤな雰囲気を察して沖田を止めた。
「でもよくわかったね、ここ」
帯を巻き直しながら問う。
「誰かさんの金平糖がいっぱい落ちてたからね」
「ヘンゼルとグレーテルみた…」
姫子の言葉がふいに途切れた。
まだ結べていない帯が床に落ちる。
瞬間遅れで姫子の膝が床に着いた。
「ぅ…ぁ…はぁ……はぁ…」
「姫ちゃん…?」
沖田が姫子の背中を擦る。
「まずいな…」
「どうされたんですか…?」
琴はそばにいた山崎に問う。
「過呼吸です。
心配はいりませんが…」
「長引きそうな気がするけど、
このままここにいるのもなんだし。
負ぶって屯所に戻ろうと思うけど、どう?」
「わかりました。
姫子は俺が負ぶっていきます」
「何言ってるの。
そこのソレ、役所に渡すのが君の役目でしょ。
僕に軽い方負ぶわせてよ」
道理だった。
姫子が気になるが、この男をこのままにも出来ない。
「ぅう…は、ぁ、はぁはぁ…」
沖田は手早く姫子を負ぶった。
両手を自分の首の前で組ませる。
そうすると自然に目に入ってしまうのは、左腕に爪を立てる姫子の右手。
「姫ちゃん、ちょっとしんどいけど、ごめんね。
急ぐから」
背中に声をかけると、うなづいた気がした。
そして、沖田は琴の方を向く。
「すみませんが、構ってはいられません。
見失わないようについてきてください」
「…はいっ」




「千鶴ちゃん…?」
「姫ちゃん!」
次の日の朝。
姫ちゃんは目を覚ましました。
「だいじょうぶ?」
「あ…え〜っと。。昨日は…」
まだ寝ぼけているのか、発作からの記憶が定かではないのか。
姫ちゃんはぼーっとしたまま天井と私の顔を交互に見ます。
「ん〜ヘンゼルとグレーテル、コングラッチュレーション…」
「…なんて?」

「帰れっつってんだよ!!!!」

広間の方から。
土方さんの怒声が響きます。
「なに…?歳三さんどうしたの…?」
「あ…うん。。」
私はなんとなく予想がつきます。
姫ちゃんが不思議そうな目で見てくるので。
私は今朝の出来事をそのまま話しました。

姫ちゃんが助けたお琴さんは、朝食の席で土方さんに再会するなり。
「お嫁さんにしてください」
と堂々と発言。
周りの茶々や冷やかしも手伝って、土方さんの機嫌が最高に悪くなり。
最初の方は気遣ってオトナのオトコな対応をしていた土方さんでしたが。
面倒臭くなったのか。
段々と素の対応へと変わっていったのです。

「姫ちゃん、起きたの?」
「総司」
沖田さんが部屋に入ってきました。
さっきから、ちょくちょく様子を見に来てくれていたのです。
「昨日はご…」
「殺すよ?」
「…ありがとうございました」
きっと、ごめん、と言いかけた姫ちゃん。
冷たい視線で釘をさされ、言い直しです。
「それにしても土方さん、女の趣味悪いよね」
どっかりと座り込みます。
「でもお見合いとかじゃなかったの?」
「確かに見合いだったけどさ。
当時は結構気に入ってたんじゃない?
見目はもろ土方さん好きそうだし」
武家の娘さんのような凛とした美しい人です。
土方さんと一緒にいると絵になります。
「それが、なぜ別れたんですか?」
「知らないけど、たぶん京に行くって決めたくらいに別れたから。
つまりはそういうきっかけなんじゃないの?」
あ、そうだ。
「姫ちゃん。お礼が言いたいから、
目が覚めたら教えてくださいってお琴さんに言われてたの。
ここに連れてきてもいい?」
「ああ、もう起きるよ。
歳三さんに助け舟でも出しに行く」
少しフラフラしながらも、姫ちゃんは布団から這い出て、
顔を洗いに部屋を出ていきました。
すると。
部屋には私と沖田さんの2人。
そういえば、2人きりはずいぶん久しぶりです。
「姫ちゃん、どうするつもりなんでしょうね?」
助け舟って。
「土方さんなんか助けなくても、どうにかするだろうに。
女絡みならあの人の得意とするところでしょ」
沖田さんは溜息交じりです。
「モテそうですからね。
昔からですか?」
「今なんて落ち着いたほうだよ。
江戸のときはひどかった」
ひどかった…っていう言い方は。
ん〜相当なんかあったんでしょうか。
「女からも男からも大人気。
左之さんが試衛館に来てからは拍車がかかって。
用もないのに試衛館に出入りする人が増えたよ。
ま、お土産持参だったから、
僕や平助はおこぼれに喜んでたけど」
…男からも…?




「おはようございます」
姫子は声のする土方の部屋を訪れた。
「おう、平気か」
「昨日はありがとうございました!」
顔を出すと、ほぼ同時に声をかけられる。
土方の方は若干気まずくなり、
姫子の腕をとって、さっさと座布団に座らせた。
「こちらこそすいませんっ
もうちょっとで危ない目に遭わせるところで。。」
「とんでもないです。
姫子さんに助けてもらわなかったら、
今頃どうなっていたか」
姫子は改めて琴の顔を見た。
なんというか。
女性らしい顔だな、と思う。
本人が気にしていることなので口には出さないが、
土方はかなり美肌で。
隣に並ぶ人を選ぶ。
その点、一点も見劣りすることもない。
だが。
なんだかイヤだった。
それが。
「お琴さん、昨日ちゃんとお話してなかったので話します」
「え?」
「私が【歳三さん】って呼ぶ理由」
昨夜は誤魔化した。
でも。

「歳三さんと好き合ってるんです」

満面の笑みで言った。
琴の顔が凍る。
そして。
土方は声を上げそうになり。
…堪えた。
「なのですみません。
今も許嫁だって仰ってましたが、
今は、歳三さんには私がいます」
「そんな…」
「体裁が悪いので、まだ黙っててくださいね☆」




「で。お琴さんは納得したのかよ?」
平助くんがお酒をくいっと運びます。
「ん〜微妙?なんか違和感感じてるっぽい」
姫ちゃんは昨日倒れたから、今日は私と一緒にお茶です。
「敏感そうだからな。
そういう空気が漂っていないことはすぐにわかるだろう」
斎藤さんのいうことも、まあ、一理あります。
今夜はこんな4人です。
「じゃあ、こういうのはどうだ!
二人ででかけさせて、恋人同士を演じる。
それを見せつけてわかってもらう!」
「あ、いいかも」
私はすぐに同意しました。
「だが、恋人同士の雰囲気が姫子に作れるか?」
「なんで私限定でダメ予想…!?」
斎藤さんのセリフに姫ちゃんは反論しましたが。。
私と平助くんも同じような意見です。。
「それぐらいできるもんっっ」
「失敗しては逆効果だ」
「そのときには歳三さんは男に走ったことにすれはいいから大丈夫!」

「なぁにが大丈夫だ」

開いた窓の向こうには、土方さん。。
姫ちゃんの頭上を見下ろしています。。
「だいじょうぶ、歳三さんっ
私、ちゃんと恋人になれますっ
ラブラブカップル上等ですっ」
「何言ってるかはわからんが。
明日は仕事か?」
「いえ、今のところ入ってないです」
「じゃあ、芝居に付き合え」
土方さんがOKするとは思ってなかったので、
みんなびっくりです。
「…どうしよっかなあ。。」
「「え??」」
私と平助くんが驚きの声を上げました。
だって…
姫ちゃん、すごく乗り気だったのに…!
「歳三さん、イッコ、聞いていいですか?」
「なんだ」

「スキだけど、別れたんですか?
スキだから、別れたんですか?」


姫ちゃんの言葉。
何のことかわかりません。
でも、歳三さんは姫ちゃんの目を見て。
「スキだけど別れた。だな。
その程度で悪かったな」
「じゃあ、バカップルやります!」
平助くんも、なんのことかわかっていません。
たぶん。
斎藤さんも。




「ねえ、姫ちゃん。
スキだけど、と、だから、と何が違うの?」
みんなが自室に帰ってから。
姫ちゃんに訊きました。
「ああ。ニュアンスの問題かなあ。
【だけど】はそこまでスキじゃない。
【だから】はホントにスキ」
ますます意味がわかりません。。
「私もただの雰囲気で使った言葉だけど。
歳三さんとは価値観食い違ってないみたい。
きっと歳三さんは。
薬売りとして一生を終えるならお琴さんと一緒にいた。
でも。
武士として生きたい歳三さんに、
お琴さんはいらなかったんだよ。
いらないんだよ。
だから。
言い方悪くしたら仕事の邪魔にしかなってない。
それなら、副長直属の監察所属の人間として。
副長が仕事に専念できる環境を作らないとね」
でもなんだか。
なんだか姫ちゃんは。
あんまりお琴さんをよく思っていないように見えてしまって。
それが。
やきもちを妬いている女の子にも見えてしまって。
本人には言えませんでしたが。
原田さん。
もしかしたら【ぴんち】到来かも、です。




coming soon
プロフィール
  • プロフィール画像
  • ニックネーム:ちぃ
  • 性別:女性
  • 誕生日:1984年11月7日
  • 血液型:O型
  • 現住所:京都府
  • 職業:
  • 趣味:
    ・ハイキング
    ・邦画・ドラマ鑑賞
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