ポリオワクチン 不活化承認

April 28 [Sat], 2012, 23:00
毎日新聞社 4月28日(土) 配信
ポリオワクチン:不活化承認

 厚生労働省は27日、フランスのワクチンメーカー、サノフィパスツール社に対し、ポリオ(小児まひ)単独の不活化ワクチンの製造販売を承認した。9月から乳幼児の定期接種に導入される。接種は原則、公費負担となる。

 今回のワクチンは同社が1982年から販売し、海外86カ国で承認されている。日本で定期接種に使われている生ワクチンは、まれに手足のまひが生じる恐れがあり、厚労省は副作用の危険がない不活化ワクチンへ切り替えることを決めている。【井崎憲】

妊婦に超音波、安全にDVT診断

April 24 [Tue], 2012, 23:00
文献:Le Gal G et al.Diagnostic value of single complete compression ultrasonography in pregnant and postpartum women with suspected deep vein thrombosis: prospective study.BMJ 2012;344:e2635.

 深部静脈血栓症(DVT)疑いの妊産婦210人を対象に、単回の圧迫超音波検査の安全性を前向き研究で評価。検査陰性で、十分量の抗凝固療法を受けなかった177人中、追跡期間中にDVTが確認されたのは2人(1.1%)だった。DVT発生率は非妊娠集団での発生率範囲内であり、単回検査で安全に妊産婦のDVTを除外可能と示唆された。

こうのとり追って:第4部・出生前診断 反響特集/下 障害・病気、どう向き合う

April 18 [Wed], 2012, 11:20
 ◇分からなかったから産めた 疲弊する医療現場、限界も
 「出生前診断の連載をするなら、障害者自身や家族の気持ちをもっと取り上げてほしい」。さいたま市緑区の小野水晶(みあき)さん(43)は訴える。小野さんには1歳4カ月のダウン症の長女瑞月(みずき)ちゃんがいる。心疾患があり病院通いが続いたが、先月心臓の手術を終え、来月から保育園に通う予定だ。
 小野さんも、最初から瑞月ちゃんの障害を受け入れられたわけではない。出産後に医師からダウン症と伝えられ、心疾患でNICU(新生児集中治療室)のある別の病院に搬送された時には、驚きとショックで涙にくれた。しかし、障害の有無に関係なく命の誕生を喜ぶ家族や産婦人科のスタッフらに支えられた。特にNICUで初めて瑞月ちゃんに対面した夫(47)が、小野さんに「こんな可愛い子を産んでくれてありがとう」と言ってくれたことが忘れられないという。
 周囲の理解には恵まれたものの、情報がないことが一番つらかった。障害のある子どもを受け入れ可能な保育園などについて一元的に把握している窓口はなく、情報は保護者が自力で探さなくてはいけない。「どう育てればいいか分からないことが、育児を、ひいては障害のある子を産むことを不安にしていると思う。妊娠・出産・育児にまつわるさまざまな問題点を、社会がもっとサポートしてほしい」と訴える。

 自身が心臓に生まれつき病気があるという東京都の会社員女性(24)も、「妊婦や家族が出生前診断で苦悩するのは、まだまだ障害者にとって生きづらい社会であることを意味しているのではないか」と指摘した。
 福岡県筑紫野市のパート主婦(49)は「障害のある子どもたちが生きていくためには、周りが幸せでなきゃと思う」とメールを寄せた。現在21歳の長男は妊娠9カ月で水頭症と診断され、小学校入学までに10回近くの手術を繰り返した。中学生のころは、同級生から不満のはけ口にされたようないじめにあったという。「クラスの子どもたちが家庭や学校で満たされているなら、そこにいる障害を持った子どもも幸せだと思う」と指摘する。
     ◇   ◇
 出生前診断では見つからなかった障害のある子を産み、親になることの覚悟を問われたと語る人もいる。
 東京都の女性会社員(31)は昨年12月、長女の出産後に医師から、上あごに隙間(すきま)がある口蓋裂(こうがいれつ)と告げられた。妊娠中、胎児の染色体異常の確率を調べる母体血清マーカー検査を受けていたが、口蓋裂はこの検査では分からない。超音波(エコー)検査でも見つけるのが難しい。女性は「妊娠中に自分がいけないことをしたのでは」と思い詰め、1カ月ほどたってやっと長女を受け入れられる気持ちになれたという。

 ミルクは上手に飲めないが、長女は元気に動き回り、かわいらしい笑顔を見せる。いずれ隙間をふさぐ手術も受ける予定だ。だが将来、結婚に差し支えたり、次の世代に遺伝しないかという不安もある。それでも今は、出生前診断で分からない病気だったから、娘と出会うことができたと思っている。「親になるには、子どもに障害や病気があっても覚悟して、現実を受け止めることが必要と分かった」と話す。
 「もし出生前に病気が分かり、『長生きできる確率は低い』とか『育てるのが大変だ』など否定的なことばかり周囲に言われていたら、産むという決断ができたかどうか分からない」。今年大学生になった長男(18)が出生後に横隔膜ヘルニアと判明した千葉県の男性(50)も、出生前に病気が分からなくてよかったと、当時を振り返る。長男は生まれた翌日に手術し、現在も薬を飲み続けてはいるが、日常生活にほぼ支障はない。「障害を持って生まれても、ちゃんと生きている例があることを知ってもらいたい」と話す。
 一方、15年前に13番染色体が1本多い13トリソミーの長男を生後すぐに亡くした大阪府の主婦(45)は、その後の妊娠では羊水検査を受けた。出生前診断について、自身の経験から「異論を唱える人の気持ちもわかるが、こういう体験をしている人がどんな気持ちで診断を受けているか考えてほしい」と思いを語った。
     ◇   ◇
 現場で母親らと共に悩んでいる医療関係者からも意見が寄せられている。東京医科歯科大病院で遺伝カウンセリングを担当する助産師の小笹由香さんは「出生前診断で全ての病気や障害が分かるわけではないことを知ってほしいし、羊水検査を受ける場合は、あらかじめ異常があったらどうするかを考えてから受けてほしい」という。「出生前診断は、どの選択がいいという答えはない。自分たち医療関係者には、価値観を反映させるのではなく、ケアの立場から関わることが求められていると思う」と強調する。
 医師、看護師らのマンパワーや病床といった医療リソース(資源)には限りがあることを考えるべきだとの重い指摘もあった。関東地方の小児病院職員の30代男性は「出生前診断の結果、子どもが生まれたあとどういう状態になるのか、妊婦にきちんと情報提供すべきだ。精いっぱいの医療を与えて長生きさせたいという思いだけでは、現場は限界に来ている」と話す。

 高齢出産増加などの影響で男性が働く病院でも、染色体異常の子どもが増えているという。多くは入退院を繰り返し、10年以上病院にとどまり続ける子どももいる。限られた職員でみるには限界があるという。「親御さんの努力には頭が下がるが、障害が重く、親が育てるというレベルを超えている。非難を承知で言うが、重い障害が確実な場合には、『産まない』という選択肢もはっきりと示すべきではないか」と意見を述べた。【下桐実雅子、五味香織、斎藤広子、久野華代】

こうのとり追って:第4部・出生前診断 反響特集/上 子の命の意味、考え続ける

April 17 [Tue], 2012, 11:15
 ◇重い決断、罪悪感消えず/医師の配慮、妊婦の覚悟必要
 妊娠中に胎児の状態を調べる出生前診断を考える連載「こうのとり追って」第4部(3月27日〜4月3日)に多くの反響をいただきました。おなかの子に重い疾患が判明して出産を断念した体験や、医療に携わる立場からの声など、寄せられた思いを2回にわたり紹介します。【下桐実雅子、五味香織、斎藤広子、久野華代】
 「夫婦で決めたことだから後悔しないと思った。でも、あの時の選択が正しかったのか……」。埼玉県川口市の女性(28)は昨春、我が子に重い心臓病があると指摘され、妊娠18週で出産をあきらめた。「少し考える余裕ができた時に連載を読んだ」と、複雑な思いをメールで寄せた。
 決断までに4カ所の病院を訪ねた。ある医師に「心臓病のお子さんを育てるの、大変ですよ」と言われ、深刻さを実感。「生まれてもすぐに亡くなるかもしれない状況で、妊娠を継続する自信がなかった」という。
 処置の前、助産師の勧めで靴の箱に色紙を張り、ひつぎを手作りした。「必死に生きているのに、ごめんね」と手紙を書いた。赤ちゃんに付けた名前を彫ったネックレスは、心のよりどころだ。
 罪悪感は消えない。「以前は、せっかくの命を中絶するなんて、と思っていた。でも、そんなに簡単な問題ではない」と語る。
 我が子が生まれても生きられないと診断され、重い決断をした人は少なくない。

 京都府の伊藤育子さん(43)は00年秋、おなかの子が腹部に皮膚のない腹壁欠損と診断された。「生まれてくることは……ないでしょう」。医師は言葉を選びながら、人工死産の検討を勧めた。
 約2週間、仕事を休み泣き暮らした。同じような体験談を求め本を読みあさった。2歳だった長男や自分の体、日々の生活、仕事への影響は−−。悩んだ末、人工死産を決めた。当時の心情を「助けてあげることができない。妊娠を続けてもつらいだけと自分に言い聞かせました」とメールにつづった。
 我が子が生きている間はおなかに置いておけばよかったのだろうか。一方で05年に次男を出産し、「妊娠を続けて体にダメージを受けていたら、二度と妊娠できず、次男には会えなかったかもしれない」とも考える。何が正しかったのかは今も分からない。だからこそ、その後の心のケアが必要と感じる。いずれ経験者として、サポート活動に携わりたいと考えている。
    ◇   ◇
 連載には、不確実な検査や医師の言葉に翻弄(ほんろう)された妊婦も登場した。
 山形県の女性会社員(38)は小学2年の次男を妊娠中、超音波(エコー)検査で胎児の首の後ろのむくみ(NT)が厚いと指摘された。医師に「染色体異常の可能性が高くなる厚さ」と言われ、頭が真っ白になった。

 NTの厚さだけで異常の有無は確定しない。だが、女性は「ダウン症の子がおなかにいる」と思い込んだ。出産を目指そうと決めたものの、臨月になると我が子を誰かに奪われそうになる夢を何度も見た。「心の中に不安があったのでしょう」と語る。
 次男は無事誕生し、元気に育っている。女性は「高齢出産や障害のある子を持つ人など事情があって出生前診断を受ける気持ちは分かる」としながら、医師が伝える際の配慮や、妊婦が結果を受け止める覚悟を持つ必要性を訴えた。
 2カ月前に長女を出産した東京都多摩市の中島明美さん(24)も「エコー検査で妊娠生活が一変した」と話す。「楽しみにとっておきたいから、絶対に性別は知らせないで」と伝えていたにもかかわらず、妊娠後期の健診で医師に「女の子だよ」と言われ、診察台の上で泣いてしまった。
 また、なるべく自然な出産を望んでいたが、出産予定日のエコー検査で「羊水の量が減って赤ちゃんの成長が止まりつつある」と言われ、陣痛促進剤を使うことになった。生まれたのは2350グラムの健康な子。「本当に、自然に陣痛が来るのを待てなかったのか。せめて納得するまで話を聞いてくれたら」。医師に対し「ささいなことでも妊婦には大きな意味を持つ」と丁寧な対応を求めた。

 東京都練馬区の主婦、難波亜紀さん(40)は4年前、生後1カ月で次女を亡くした。染色体異常の一つの13トリソミーだった。妊娠中は成長が遅く、予定より1カ月早く生まれた。か細い産声と腸が飛び出した姿に「長くは生きられない」と直感した。「医師は、異常の可能性があると分かっていて言わなかったのかも。事前に知らなかったから、私の気持ちが弱らないうちに次女の死に立ち向かえた」と話す。
    ◇   ◇
 奈良県大和郡山市の新井真紀子さん(47)は18年前、長男貴大ちゃんを5カ月で亡くした。18トリソミーで、重い心臓病があった。
 出産後に医師から「2週間ぐらいしか生きられない」と言われていたため、新井さんは「5カ月間も母親でいさせてくれた」と振り返る。ただ、「同じ異常でも、1年以上生きる子もいる。医師には『これだけしか生きられない』ではなく『これだけ生きた子もいる』と前向きに伝えてほしかった」と語る。
 その後、長女を妊娠し羊水検査を受けた。異常は見つからなかったが、検査結果を待つ間は苦しんだ。「障害があると分かって中絶すれば、貴大を否定することになる」。だが、苦しそうに呼吸していた貴大ちゃんを思うと「産んでも苦しませてしまうのでは」と悩んだ。次女と三女を授かった時は、検査しなかった。

 貴大ちゃんにはミルクを3時間おきに与え、心電図に気を配った。常に容体が急変する不安を抱えていたが、「1人目の子だったから全力で向き合えた」と思う。
 重い疾患を持つ子を授かる意味とは−−。新井さんは「一生考え続けることが、宿題だと思っています」と語る。

こうのとり追って:第4部・出生前診断/6止 重い決断、欠かせぬ支援

April 03 [Tue], 2012, 11:00
毎日新聞 2012年04月03日 東京朝刊

 ◇妊娠継続か中絶か…その後も続く葛藤 相談機関充実を
 「長男」にあてた手紙は30通近い。小さな骨つぼの脇にディズニーキャラクターの封筒が増えていく。大阪府の主婦(25)は07年秋、最初の子を人工死産であきらめた。
 妊娠20週のエコー検査で横隔膜ヘルニアと診断された。腸や内臓が胸に入り込んでしまう病気だ。転院先の大学病院では、出産にたどり着ける可能性は数%で、もし生まれても生きていくのは難しいと告げられた。医師は「妊娠を続けると子宮に悪影響が出て、子どもを望めなくなるかもしれない」と言った。
 胎動も感じ、「命を絶つことはできない」と思ったが、周囲から「体が心配。あきらめた方がいい」と言われた。中絶が可能な妊娠22週の期限が3日後に迫り、気持ちが固まらないまま、我が子とお別れした。
 入院中は、おなかの大きな妊婦ばかりの病室にいるのがつらく、院内をうろついた。捜しに来た看護師は、事情を知らなかったのか「妊娠中にストレスがたまるのは分かるよ。私も5カ月だから」と言い、自分のおなかをなでた。言葉が出なかった。夜、ベッドで声を殺して泣いていると、見回りに来た助産師が気づき、別室に連れて行ってくれた。黙って背中をなでてもらい、少し心が和らいだ。

 退院後は友人と遊んで気を紛らせたが、夜に自宅で一人になると泣きじゃくった。「子どもを殺した私が、なぜ生きているのか」。1、2カ月過ぎたころ、行き場のない思いを手紙につづるようになった。「ごめん」と繰り返し書いた。
   ◇  ◇
 出生前診断をめぐる告知と意思決定を考えるグループ「泣いて笑って」のサイトには、重い決断を迫られた人の体験談が寄せられている。会員限定の掲示板には約1000人が登録する。
 代表の藤本佳代子さん(40)は98年、最初の子の出産をあきらめた。妊娠の継続が難しいと告げられた時の妊婦の様子を「医師の前では冷静に見えても、頭の中は混乱して質問さえ出てこない」と言う。
 おなかの子がどんな状況なのか、生きられる見込みはあるのか、妊娠継続を選んだらどうなるのか−−。藤本さんは「告知から意思決定までのわずかな時間が一生を左右する。判断材料や支えがあるかないかは大きい」と強調する。
 その支えを担う仕組みの一つが「遺伝カウンセリング」。さまざまな検査や診断の意味を妊婦に詳しく説明し、結果の受け止め方をサポートする。しかし、人手も相談窓口も少ない。

 小児科医で、遺伝カウンセラー育成にも携わる川目裕・お茶の水女子大大学院教授は「医師が診察時間だけで対応するには限界がある。第三者の立場で関わる人がいると、当事者も信頼できる」と話す。「そもそも妊娠22週未満の出生前診断はサポートが難しい。中絶してもしなくても葛藤は続くからです」
 その後のケアも大切だ。藤本さんは「時がたっても『あれでよかったのか』『違う答えを選んでいたら』と思い悩む。誰かに言えるよう、当事者を独りぼっちにしないでほしい」と訴える。
 「泣いて笑って」の運営に携わる臨床心理士の管生聖子さんは「出産をあきらめた人は退院後、医療機関との関わりが途絶えやすい。一度はカウンセリングを受けたり、保健師が自宅を訪問するなど、必要な時に相談機関へつなげられる仕組みがあれば」と話す。
   ◇  ◇
 東京都府中市の女性会社員(34)は昨夏、体に水がたまる胎児水腫で3人目の子を失った。妊娠14週の妊婦健診で判明。医師に「生まれてくるのは難しい」と言われ、ネットで同じような体験談を探したが、無事出産できたという報告は見つからなかった。

 胎児診断の専門医がいる病院でもエコー検査を受けた。今にも消えそうな心拍に、別れが近いことを悟った。それから半月、「一緒にいる間に楽しい思いを」と、以前から予定していた1泊旅行に行き、おいしいものを食べ、きれいな景色を見た。写真館で家族「5人」の記念撮影をして、小さな産着も手作りした。
 処置の日、エコー検査で確認するとすでに赤ちゃんの心拍は止まっていた。女性は「自分が(命の終わりを)決めなくて済んで……変な言い方だけれど、気持ちが楽になった」と振り返る。
 半年あまりが過ぎた。「最初の妊娠で同じ経験をしていたらどうしていたか……。私は2人の子がいるから、こうして過ごしていられるのかも」と語る。
 出生前診断がもたらす光と影。柘植あづみ・明治学院大教授(医療人類学)は「エコー検査で何が分かるのか、医師は事前に妊婦にきちんと伝えるべきで、夫婦に情報を提供する相談機関も必要。さらに、出生前診断が持つ意味を妊娠してから知るのではなく、高校教育に取り入れるなど、社会全体で考えていくことも大切だ」と指摘する。
   ◇  ◇
 手紙を書き続けている大阪府の主婦は、その後再び妊娠、長女(2)を出産した。生きて生まれたことがうれしかった。ミルクをあげ、おむつを替える時は「長男」に同じことをするつもりで気持ちを込めた。手紙でも「伝わってる?」と呼びかけた。

 「妊娠したら無事に生まれるものと思っていたけれど、生きていることが奇跡だった」。夫(25)は毎朝、出勤前に数分間、お骨に手を合わせる。主婦や長女も外出する時は「行ってきます」と声をかける。いつも近くにいるような気がする。手紙には次第に「パパとけんかしました」といった日常の報告、そして「ありがとう」という言葉が増えてきた。=おわり
(下桐実雅子、五味香織、斎藤広子、久野華代が担当しました)
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 ◇遺伝カウンセリング
 病気や障害の原因が遺伝性かどうか▽どのような検査・治療方法があるか▽検査結果をどう受け止めればいいか−−といった情報を患者に提供し、本人の意思決定を支える仕組み。日本産科婦人科学会は昨年6月、出生前診断をする際には、適正な遺伝カウンセリングが必要とする見解を出した。
 日本遺伝カウンセリング学会と日本人類遺伝学会は05年、共同で「認定遺伝カウンセラー制度」を始めた。現在資格を持つカウンセラーは125人。半数以上を看護師、助産師など医療従事者が占める。出生前診断のほか、がんや神経難病、不妊治療の現場で患者や家族のサポートに取り組むが、相談窓口を持つ医療機関は限られている。

こうのとり追って:第4部・出生前診断/5 障害ある子「特別じゃない」

April 02 [Mon], 2012, 11:00
 ◇「産む」選択できる社会を 患者の日常生活、参考に
 あのとき話していたことが、まさか自分の身に起こるなんて。08年8月、第2子を妊娠中だった京都市の柿田竹美さん(36)は、妊娠14週で受けたエコー検査で、胎児の腹部に水がたまっている「胎児水腫」と指摘された。原因を探るために受けた羊水検査の結果は「ダウン症(21トリソミー)」だった。
 出産か中絶かをたずねる医師の質問に、ふと思い出した「あのとき」−−。大学を卒業したての頃、教会の活動で、同年代の女性たちと「出生前診断」について開いた勉強会。自分たちだっていつ事故や病気で障害を抱えるとも限らない。20代の自分がたてた「命の選択はしない」という誓いが柿田さんの胸によみがえり、その場で妊娠継続を決めた。
 胎児水腫は夏の終わりに突然消え、医師を驚かせた。予定日より2カ月早かったが、赤ちゃんは合併症もなく無事に生まれてきた。今3歳になった「直(なお)ちゃん」は、一人で上手に食事をしたり、言葉をつなげて話すことは苦手だが、いつも笑顔を絶やさない。どこに行くにもお気に入りのオランウータンのぬいぐるみ「うきまる」と一緒だ。毎日元気に保育園に通っている。

 柿田さんは「成長はゆっくりだけど、ダウン症だからって特別じゃない」と話す。これまでに、心臓や耳や目などの検査を受けるため、病院通いが多かった。しかし日常生活では、長男(8)が同じ年齢だった頃よりも手がかからないくらいだと感じる。京都市の「子ども医療費支給制度」は2歳まで、1医療機関につき1カ月200円で済むため、これまで大きな医療費の負担もないという。同じような補助制度がある自治体も多い。
 21番染色体が1本多いダウン症は、染色体異常の中で最も頻度が高く、1000〜1200人に1人の割合で生まれるとされる。知的障害などに加え、先天性心疾患などの合併症を伴うケースがある。心疾患については、手術で機能が回復するケースが多くなってきた。
 日本ダウン症協会の玉井邦夫理事長(52)は「かつては『寿命が短い』などと言われていたが、現代のダウン症の平均寿命は54歳くらい。60歳や70歳まで元気な人もたくさんいる」と話す。玉井さん自身は、ダウン症の長男拓野さん(28)をはじめ男ばかりの4人兄弟を育ててきた。

 妊婦の血液検査で胎児の染色体異常の確率を調べる「母体血清マーカー」をはじめ、胎児の首のうしろのむくみ(NT)を測るエコー検査など、出生前診断のほとんどが、ダウン症を検出対象にしている。玉井さんは「外見をはじめ障害がわかりやすいこと、検査で見つけやすいこと、加えて長生きし、社会的にコストがかかるという観点で、ある種のシンボルにされているのではないか」と指摘。「周囲に障害のある子があたり前にいるような社会になれば、おなかの子に障害がみつかっても産むという選択に結びつきやすいはず」と話す。
    ◇  ◇
 「お待たせしました」。なじみ客らでにぎわう夕方の店内に、張りのある男性の声が響いた。東京都文京区の喫茶店「みのりcafe」で、オーナーの鈴木信行さん(42)が手際よくコーヒーをカップに注ぐ。ふわっとした香りが店内に漂った。
 鈴木さんは二分脊椎(にぶんせきつい)症で生まれた。足が不自由で、走ることはできないが、デスクワークや歩いてコーヒーを運ぶのに問題はない。二分脊椎症は胎児の成長過程で背骨が十分に発達せず、運動機能や知覚がまひする恐れのある、原因不明の先天性疾患。エコー検査や母体血清マーカーなどの検出対象になっている。

 鈴木さんは出生前診断を受ける妊婦に向けて「今この時代に私が母のおなかにいたら、私はこの世に存在できただろうか? 私はまだ医学が未発達だった人間 それでよかった!」とメッセージを投げかけるホームページを98年に始めた。当時、母体血清マーカーを日本で導入するかどうか議論が始まっていたが、患者の声が不在のまま話が進むことに違和感があった。
 3歳で手術を受け、入院生活が長かった子ども時代、小柄なことや障害へのコンプレックスが強かった。しかし20歳で精巣がんにかかった経験で考え方が一変した。隣のベッドの患者が、同じ病気で死んでいった。「見た目や障害があるかなんてたいした問題じゃない。生きていることのすばらしさに気づいた」。大学を卒業し、製薬会社に勤めたあと、08年に情報発信の場が欲しいと喫茶店を開業。出生前診断や患者から見た医療のあり方などについて講演会を開くなどしている。

 鈴木さんのホームページを見て、月に数件、妊娠中に胎児の異常を指摘された女性から電話やメールが寄せられる。多くが「二分脊椎で生まれた子どもたちはどんな成長をするのか」「産みたいのに周囲に反対されている」など不安の解消や出産への後押しを期待する内容だという。一方、出産をあきらめ、心の整理がつかずに悩む女性からのメールが寄せられることもある。女性たちの話から伝わってくるのは医師と患者だけの狭い空間で、命にかかわる重要な決定がすべて完結してしまっている現状だ。
 「医師の説明は医学に基づくものだけ。『二分脊椎症は生まれてすぐに手術が必要で、突然死もあり得る』。それだけを聞いたら、どんな大変な病気かと思う。その先に、ぼくたち患者が毎日どんな生活を送っているのかという情報はない」と鈴木さんは指摘する。「焦って決断を下す前に、同じ病気を持つ子どもたちが実際にどう暮らしているかに目を向けてほしい。一つの可能性として、こんなふうに生きられるということも知ってほしい」と訴える。=つづく
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 ◇母体血清マーカー検査
 妊婦の血液を採取して行う出生前診断の一種。血液中に含まれる3〜4種類の物質と妊婦の年齢から、胎児がダウン症や二分脊椎症などである確率を割り出す。国立成育医療研究センターの調査では、08年には年間約1万8000件行われていた。


 この検査について、厚生科学審議会の専門委員会は99年、妊婦が検査の内容や結果について十分な認識を持たずに行われている傾向があるなどとして「医師は妊婦に検査の情報を積極的に知らせる必要はなく、勧めるべきではない」との見解をまとめた。