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父へ

/ 2006年08月28日(月)


戦時生まれの父は、不器用な男だった。
変人でえばりん坊、
暴力と威圧的な言葉でしか威厳を保てない。
養女として家に来た私にとって、
父はまさに暴君だった。

そんな父に私はあまり心を開けず、
思春期からは、笑顔の仮面をかぶり、
心に薄いバリアをはるようになっていた。

そうして気づいた親子関係に、
果たして強い絆などあっただろうか。
しかしながらそれが現実、
私はそれ以上もそれ以下もない接し方しか、
父には出来なかった。


そして最近、
私は精神的変異で家にはいられなくなり、
従姉妹の部屋が空くのをいいことに、
東京で一人暮らしを始めた。

新しい環境は新鮮で、
私は実家近くの土手の上に広がる、
大きい夕焼けを恋しがりながらも、
一人の時間を楽しみ、
だんだん波に乗ってきた仕事に精を出していた。


2006年、7月22日。
その日は父の誕生日。

父は私にプレゼントなど、
滅多にくれたことはなかったが、
私は毎年あげることを密かな楽しみにしていた。
暴君が笑うさまは、なかなか可愛いのだ。

プレゼントにと、
ライター業で初めて出た給料で、
少し頑張って、ちょっとだけ良いシャツを買った。

持って帰ったら、
父はプレゼントを喜びながらも、


「腹が痛ぇ」


と体の不調を訴えた。

病院に行くと、皮肉にも誕生日に、
癌が見つかった。


「凄い誕生日プレゼント!」


母の言葉に、父は笑っていた。

私は実家に戻ることにした。

入院中の父は、
いつもと違って憎まれ口も叩かず、
私は久しぶりに心を開き、笑顔の仮面もなく会話ができた。



やがて父はろくに話せなくなったが、
話しかけると、少し目を開ける。
私は何度も話しかけては、父の虚ろな返事を待った。


頭をずっと撫でる。
父の髪はとても柔らかく、気持ちよかった。
この髪の柔らかさを、どうして今まで知らなかったんだろう。


息の浅い父に一方的に話しかける日々。


私は、いつまでこの状態が続くのか、
いつまた話せるようになるのか不安で、
ひたすら髪を撫でた。




そして、癌が発見されてから約一ヶ月。




あまりに早く、
心の準備も途中のまま、




父は、逝ってしまった。





最期の顔は安らかで、少し微笑んでいるようだった。
体はまだ暖かかった。




「お父さんお父さん」




もう目は開けなかった。




棺には沢山の家族写真、
着る間もなかった私のあげたシャツ、
それに父が好きだったアロハを入れた。







父が死んだ。






いくら泣いても、足りなかった。



棺の中、もう目を開けない父の顔を見る。



私の空洞になった胸の中、
ぐるぐると不思議な空気が渦を巻いていた。

それは昔、大失恋で味わった、
胸の中をえぐりとられた喪失感、虚無感と似ていた。







なんだ、私、大好きだったんじゃないか。






今頃気づく、変な愛情。






お父さん、
私の初恋は、
あなただったのかもしれません。






大好きでした。


今も、大好きです。





青木武行 享年70歳

あなたの笑顔が、まだ頭から離れません。

私はあなたの、自慢の娘になりたかった。









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