04.冷えた頬

June 14 [Tue], 2005, 8:43
「今日はここまで」
ボロボロになった弟子の姿に薄笑いを浮かべながら、鞭を持った男は傲然と言い放った。
黒い仮面に隠された弟子の表情は見えないが、ほんの少しだけホッと息をつくのが感じられた。
最果ての地で見つけたこの弟子も最初に較べれば随分とましになった。
黒い悪魔と呼ばれ、地下闘技場では恐れられ忌み嫌われたやられ役専門のレスラーだったウォーズマンに興味を持ったのは、ほんの気まぐれだった。
闇雲に暴れまわるしか脳のない、野生児のような彼が、のちに「一度しか目にしたことのない」と明かした技、パロ・スペシャルを見せた時、男は彼の中にある超人レスラーとしての隠しきれない可能性を見出した。
「私の元に来い」
そうすれば、こんな掃き溜めからお前を連れ出そう。
力も、金も、名誉も、お前の欲しいものは全て与えてやる。
私の手を取れば、お前を変えてやろう。
黒い悪魔と呼ばれたウォーズマンだったが、本物の悪魔・バラクーダの囁きに抗うことは出来なかった。
「ウォーズ、こい」
呼ばれるとウォーズは迷わず、バラクーダの元へと駆け寄る。
バラクーダの白い手袋に覆われた指先が、ついとウォーズの頬を撫でた。
激しい訓練で篭った熱が黒い鉄面を通じて感じられる。
しかし、寒風はそれを奪い去ろうと無遠慮に吹きつける。
篭った熱は徐々に失われていった。
それでいい。
悪魔に情熱はいらない。
その身体を覆うのは冷たい殺意だけでいい。
ウォーズの紅い瞳には笑う自分の姿だけが映し出されていた。
酷薄な笑みを浮かべてバラクーダは、自らが作り上げた黒い悪魔の頬に唇を寄せた。
動揺したのか紅玉は濡れたように揺らいだ。
一瞬、乱れた呼吸音に、バラクーダは喉の奥で笑う。
「このままでいろ、ウォーズ…」
冷えた頬が、ほんの少しだけ熱を持ったような気がした。

お題について

May 29 [Sun], 2005, 2:15
こっそり始めたお題ですが。
タイトルを書き忘れておりましたので追加しときます。

ここにキスのお題
 01.伸びた前髪(Jブロ)
 02.熱い額(スグテリ)
 03.涙の瞼(イリュミ)
 04.冷えた頬(ロビウォ)
 05.隠れた耳()
 06.甘い唇(スカブロ)
 07.密やかな項(Jブロ)
 08.痩せた鎖骨(スグテリ)
 09.華奢な指(チェッキド)
 10.広い背中(ケビウォ)

COUNT TEN.(チハル様) http://ct.addict.client.jp/
よりお借りしてきました〜。

()内は予定しているカップリングですが、もしかしたら変わるかも。
あと、明記されてないのは未定です。
ボチボチ、「キスまでの距離」と平行していきますので宜しく!


いきなりですが10題です。

May 23 [Mon], 2005, 12:39
ここにキスのお題 「01:伸びた前髪」

「ジェイド?」
ブロッケンJr.は修練に疲れたのか、ソファで寝ているジェイドを発見した。
毛布も何もかけずに、練習着のままで寝ている弟子にため息をつく。
「仕方のない奴だ…」
呟かれた言葉。それとともにブロッケンJr.はソファの横にしゃがみこみジェイドの額に触れた。
大きな手がジェイドの柔らかな髪の感触を楽しむように、ゆるく絡む。
細い蜂蜜色の髪が室内灯の仄かな明かりに照らされてキラキラと輝く。
あどけなさの抜けない無防備な寝顔に知らず笑みが浮かぶ。
「ん…」
ふいにジェイドの口から、こぼれた吐息にブロッケンJr.の手が止まる。
起こしてしまったのかと思ったが、ジェイドに眼を覚ます気配はない。
ホッと胸をなでおろす。
「寝ている時は昔と変わらない、子供なのにな…」
二人の関係がただの師と弟子から、恋人同士に変わったのは最近のことだ。
好きだと告げられ、抱きしめてきた腕に込められた力と鋼のような肉体にブロッケンJr.は動揺を隠せなかった。
告白されたことよりも、その腕に抱きしめられることをどこかで望んでいた自分に気がつかされたからだ。
極度の緊張と興奮で、高くなった体温と荒い呼吸。
自らが育て上げた子供が、もはや出会った頃の子供ではないと思い知らされた瞬間、ブロッケJr.は自らの中に潜んでいた紛れもない欲望を知った。
それからのことは、今、思い出しても顔から火が出るほど恥ずかしくて、あまり考えたくはない。
ただ行為の間中、自分の名を呼んでいたジェイドの声だけが鮮明に残っていた。
子供のように、自分を求め泣くジェイドをたまらなく愛しいと思った。
全てを受け入れ、包み込み、満たすことが出来るのなら、こんな自分の体なぞ全部くれてやってもいい。
本気でそう思った。
そして今もそう思っている。
「愛しい子よ、お前に何があろうと俺はお前のものだ」
何も知らず、眠りのふちをさ迷うジェイドにそう告げると伸びた前髪から覗く、瞼に唇を寄せる。
「おやすみシューラァ、よい夢を」
静かな声でそう告げると、ジェイドの口元に笑みが浮かんだような気がした。

END