いのちの食べかた

June 30 [Wed], 2010, 19:00
いのちの食べかた
作・ニコラウス・ゲイハルター

リストには載っているものの
ニコラウス=ゲイハルターが関与しているのは
映画だけであって、本自体は存在しない。
ちなみに映画はDVDになっている。
しかしこの映画は、森達也著の
「いのちの食べかた」
という本を邦題として作られたものであるということなので
この邦題になった本を読み、平行して考えることとする。

監督のニコラウスゲイハルターは1972年オーストリア・ウィーン生まれ。
1994年に自身の制作会社「ニコラウス・ゲイハルター・フィルム・プロダクション」を設立し、
編集のウォルフガング・ヴィダーホーファーらとともに、作家性の強いTVや映画のドキュメンタリーを中心に製作。
国際的な映画祭などでの受賞歴も多い。
他にもチェルノブイリ原発や、世界中の未開の文明を取材した作品などがある。
「いのちの食べかた」は、初の日本公開作品となる。
邦題となった本を書いた森達也と
考え方や視点、取り扱う題材についてが酷似している。

両社は互いに
「テレビでは放送できないような媒体」に
強い興味を抱いている人物だ。
加工場で、牛肉がぶらさがっている様子が
テレビでたまに放送されているが、あれは加工後であり、
限りなく店頭にならぶ肉に近い状態である。
それだけでも視聴者側には少し厳しい映像ではあるのだが、
この本を読んでいると、その状態になるまでに
と場で様々な工程を踏んでいることがよくわかる。
牛の額に釘を打ち、首を切り落とし、皮を剥ぐ。
そこにはたくさんの人間が関わっており、
たくさんのいのちが存在する。
その残酷な行為を仕事とする人間の実情が鮮明にえがかれている。
確かに肉が加工されていく様子は
テレビ上で放送するには残酷すぎるだろう。
しかし、やはり私たちは消費する立場として
いくら残酷な場面であっても、
自分が食べているものができる工程くらい
しっておくべきだと著者・作者は強く伝えている。
また、その背景や歴史に興味を持ち
「知ろうとすること」が大事なのではないか。
そのきっかけを作ってくれるものがこの作品である。
幅広く背景まで知ることができるが、
ひとつのことを深く掘り下げている訳ではないために
入口としてこの資料を使うことが適正。

上に書いたように
単に、肉がどこで誰の手でどのように加工され食卓までたどり着くのかが
端的に述べられているものではなく
この一冊でたくさんのことを学べる内容となっている。
もちろん
動物が食肉になるまでのことは何度かにわたって書かれており、
この本では、と場で具体的にどうやって
解体作業が行われているのかを克明に描写し、
その作業が何故「穢れ」という概念と結びついたかを
歴史的に見たうえでひもといている。
歴史と絡めて考えていくと
部落差別をはじめとする世界に存在するあらゆる差別や
今もなお世界各地でおこっている戦争に結びつくということも
述べられている。
様々なことに絡めて描かれている、というよりは
「いのちを食べること」が非常に様々な媒体に絡んでいる
と言った方が正しいであろう。
それを明確に表している作品である。

私は幼稚園か小学校低学年の頃、一時期
「動物がかわいそうだから」
と言って肉が食べられなかった。
成長した今は、あの頃は馬鹿だったと振り返るが、
この作品内容を知ってから
そんな感情も本当は必要だったのではないかと
感じるようになった。
むしろ、著者の考えを一通り読んだところ、
そこまではいかなくてもいいが
そのような感情は今も持っているべきだと伝わってきた。
わたしたち大人は、
次々と動物が私たちのために殺されていることも
動物がどのように加工されていくかということも
わかっているようでわかっていないのだ。
明らかに無知すぎる。
著者は本の中で
知ることは義務ではないが
知ることは大事なことだ、と述べている。
わたしたちはまぎれもなく
「いのち」を食べている。
いつでも肉が食べられるのが当たり前なんて
決して思ってはいけない。
当たり前になることはとても怖いことである。
この本から著者のそのような主張を一番感じた。

今の世の中は、単一の視点や価値観に流される傾向が強まっている。
その中でこのような「人や世界の多面性に気づくこと」の大切さを
伝えようとしている著者はとても貴重な存在であるのではないか。
ものごとは、別の角度から見ればまた別の様に見える。
このことは、メディアへの接し方の基本ではあるが
案外忘れがちなことでもある。
そういう意味で、「別の視点」を提示する著者の活動は
今の社会に必要不可欠であると考えられる。
著者の考え方や作風は異色といわれており、
似たような考え方の作家はなかなかいない。
誰もが避けがちな題材の本質や裏側を
包み隠さず表現し、まっすぐに見つめる場を作ってくれる
彼の刺激的な題材の取り上げ方は
斬新ではあるがとても価値があるのではないだろうか。
プロフィール
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  • アイコン画像 ニックネーム:b2stsj
  • アイコン画像 性別:女性
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  • アイコン画像 現住所:東京都
  • アイコン画像 職業:大学生・大学院生
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