「暁の旅人」吉村昭 講談社文庫

March 28 [Sat], 2009, 19:12
昨夜TVで高橋ジョージが「レンジで作る簡単チャーハン」を披露していたのを観ていた夫が珍しく今日の昼食に作ってみると言い出しました。

概要を聞いてみてもとてもおいしそうなのが出来る感じがしなかったのですが、めったに起こらない料理へのやる気を妨げたくなくて作ってもらいました。

で、結果は作った当人もがっかりするような代物。

卵をあらかじめご飯にコーティングするのはチャーハンの王道としておなじみになっていますが、ジョージが作ったチャーハンはパラパラとしたいい感じに出来ていたのに比べ、工程が間違っていたのか、夫のはスプーンも立たない硬い塊があるかと思えば、その塊の中は妙に柔らかく首を傾げるばかり。

何とか2人とも箸休めの佃煮やお漬物と共に流し込んでやっと苦渋の昼食が終わりました。

レンジを利用するのは簡単でいいですが、やはり回り道でもフライパンがいいね、という結論でした



さて今回は吉村昭氏の得意とする医家伝の中の1冊『暁の旅人』をご紹介します。

吉村昭氏は私が尊敬する作家の1人で、著書の大半は読んでいて、ブログでも何度か取り上げていますが、医家伝のレビューは初めてです。


著者の医家伝を簡単に挙げてみると

『日本医家伝』では日本初の人体解剖を行った山脇東洋や「解体新書」の前野良沢、日本初の種痘に貢献した中川五郎治など12人の日本の近代医学の先駆者の生涯を描いています。

{本}『白い航跡』では明治時代の陸海軍軍人の最大の病死の原因である脚気の予防法を確立した東京慈恵会医科大学の創立者高木兼寛の生涯を描いています。

{本}『冬の鷹』では「解体新書」で名声を博した杉田玄白とは対照をなす地味で地道な前野良沢の孤高の姿を描いています。

{本}『雪の花』では異国から伝わった天然痘の苗を私財を投げ打ち生命を賭して故郷福井に持ち込んだ町医者笠原良策の苦難の人生を描いています。

{本}『光る壁画』は時代的に前4作から離れますが、戦後の日本で世界で始めて胃カメラの研究・開発に成功したカメラ会社の技師曽根菊男の情熱を描いています。


出版社に頼らない著者自身の足による地道で誠実な調査や関係者へのインタビューは他に類を見ないほど定評があり、多くの読者を惹きつける所以でもあります。


登場人物のあからさまな感情表現を避け、第三者の目で見た冷静かつ好意的な外見観察によって内面を表現する文体は特徴的で、どの作品を読んでもまさに吉村氏のものとわかるほど。


文芸評論家の磯田光一氏が「彼ほど史実にこだわる作家は今後現れないだろう」と評された言葉が真実であるとうなずけるほど史実に対する綿密で幾重にも確証を求めた結果文に起こす態度には敬服します。



さて前置きが長くなりましたが、本書『暁の旅人』は著者が亡くなる前年の2005年に「群像」編集部より依頼を受けて執筆されたものです。


前述の『日本医家伝』でも採り上げたことのある松本良順の真率な生き方に魅力を感じた著者は、出版社からの依頼を機に本格的に調査し執筆したという経緯を本書のあとがきで書いていらっしゃいます。


1832年に大蘭方医の次男として生まれ、幕府の奥医師である漢方医の嗣子となった松本良順が長崎へ医官としてやってきたポンペのもとで実証的な西洋医学を日本人として初めて学び、江戸に帰還した後緒方洪庵の跡を継いで西洋医学所頭取として徳川幕府に仕え、西洋医学を日本に広めることに多大な貢献をした様子がつぶさに記されています。

それと時を同じくして起こった維新に巻き込まれ、幕臣として朝廷軍から逃れるために幕府方の会津に渡り戦傷者の治療に専念するも束の間、会津落城の危機に瀕して山形や仙台に逃亡、そこで知り合った武器商人であるスイス人スネルの船で実父の住む横浜村に戻りますが、ついに禁固刑で囚われの身となります。


出所後の良順は山形有朋に請われ、軍医頭や軍医総監として新政府に仕えながら、ポンペに学んだ知識を基に洋式の病院を開設すべく奔走し、陸奥宗光など篤志家の援助を受け今日の順天堂大学病院の基礎を築くことになるのですが、その波乱に満ちた生涯の最後は妻や息子たち肉親にも先立たれ孤独の中で終止符が打たれます。


江戸から明治になる激動の幕末をひとりでも多くの人々を助ける医療を求めて歩み続けた日本近代医学の開祖の孤高の生涯に深く胸を打たれます。


このような作品を目にすると、先人の血の滲むような努力の上に私たちの今の生活が成り立っていることを思い知ります。


余談ですが、この松本良順の生涯に別の光を照らして描いた作品があります。

司馬遼太郎氏著『『胡蝶の夢』

読み比べてみるとまた別の発見があるのではないでしょうか。
  • URL:https://yaplog.jp/ashy_ashy/archive/337
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あべさん

☆初めまして。
コメントありがとうございます。
あべさんのURLの作品拝見させていただきました。
飯坂温泉が故郷でいらっしゃるのですね。
飯坂温泉といえば松尾芭蕉が奥の細道の途中に立ち寄ったのが有名ですが、松本良順も逃亡の合間に立ち寄られたのでしょうか。
機会があれば揮毫を見てみたいです。
February 16 [Sat], 2013, 21:36
暁の旅人 読みました。
淡々とした描写の中に、医療の持つ使命に誠実であろうとした男の情熱が浮かび上がってきます。私の故郷飯坂温泉の鯖湖の湯の外壁にも、この松本良順の揮毫が飾られてます。どんな人か実は今まであんまり知りませんでした。
さわやかな作品でした。
                                       仙台在住、幕末マンガ家
February 15 [Fri], 2013, 15:39
VIN
トコさん

☆コメントありがとうございます。
冷たいご飯があったので今日は私がフライパンチャーハンを作りました〜。
「さすがVIN!」と夫におだてられました、主婦暦が長いだけなのに。

この作品は亡くなる前年に脱稿しているので遺稿に近い作品だと思いますが、下調べの腕は衰えることなく反映されていていつもどおりに吉村作品という感じでした。
もうこの頃は舌がんを患われていたのではないかと思うのですが。
March 29 [Sun], 2009, 16:41
トコ
電子レンジは、時間を間違えるとコチンコチンに固くなってしまいます。特にデンプン質なものは固くなりますね。やはり、チャーハンはフライパンがいいようです。

吉村昭の作品は好きで特にVINさんアップのものはほとんど読んでいますが
「暁の旅人」は読んでいません。幕末の医師ものは、興味があります。リストアップしておきます。「胡蝶の夢」も折があったら読むつもりです。
March 29 [Sun], 2009, 16:05
VIN
sine_waveさん

☆再びコメントありがとうございます!
うちの夫もsine_waveさんと同様、司馬遼が好みです。
吉村より司馬のほうが男性好みなのでしょうか。
私も比べてみて司馬の方が活力が与えられるような気がします。
March 28 [Sat], 2009, 20:38
 吉村 昭の本はぼちぼち読んでいますが、説明が細かすぎてよっぽど腰をすえないとしんどいです

 司馬遼太郎なら読みやすいので、胡蝶の夢を先に読んでみようかと思います。
March 28 [Sat], 2009, 20:35
P R
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平凡な日々を過ごせる幸せを実感できる年齢になった平凡な主婦、子どもたちも自立して夫と2人のスタート地点に戻っています。 「今日がいちばんいい日」を心に刻みながら他の人々のさまざまな人生を読書の窓から覗く楽しみを味わっています。
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