死者と共にある生(Ballet for Life)

June 15 [Sun], 2008, 23:01
 バレエ好きの友人に言った。
 「バレエ・フォー・ライフを見に行きたいけど、ベジャール先生がいないと思うとどうしようかと」。
 友人「今ならまだベジャール先生の何かが残っているけど、そのうち無くなるかも知れないよ」。
 そこで行くことにした。

 「バレエ・フォー・ライフ」は以前にも見たことがある大好きなバレエだ。クイーンの音楽(と一部モーツァルト)に振付けたものだ。テーマは「死者の蘇り」。エイズで早世したジョルジュ・ドンとフレデイ・マーキュリーに捧げられた作品だ。
 と言っても初めて見た時は、ヴェルサーチの色鮮やかな衣装に包まれた、若い肉体の踊る輝きに魅了された。死がなんて明るいのだろう、と思った。

 今回はもっと死について考えていた。それは何よりも作者のベジャールがもうこの世にいないと言うことを誰もが考えていたせいだろうが。全編を「不在」が覆っていた。

 白いシーツの下から出てくる死者達。シーツをくるくると丸めて赤ん坊のように抱く。死の向こうに生があるということなのだろうか。
 初演のジル・ロマンの役(悪魔のような、狂言回しのような)は若いダンサーが踊っていた。その他のキャストも前とは全く違う。前ほど踊りはインパクトを感じない。途方に暮れた子供のように見えるのは、こちらの先入観のせいだろうか。
 一方で、死の悲しみは良く伝わってくる。病院のベッドに寝かされた若者2人が手を差し伸べ合い、看護師に引き離されるような踊りも、ひどく悲しい。時に、彼らの動きはロボットのようにぎくしゃくしている。
 ベジャールは、7歳の時に亡くなった母の死を、80歳で死ぬまで抱えて生きて来た。自分よりはるかに年下のジョルジュ・ドンも死んでしまった。その絶望の向こうに軽やかな明るさを見つけたのだろうか。
 ドンの映像「ニジンスキーー神の道化」。何度見ても心が穏やかではいられない鬼気迫る映像。彼の演じるキリスト、ニジンスキー。それが終わり、最後に死者達はゆっくりとあの世に去って行く。

 最後は「ショー・マスト・ゴー・オン」の音楽に乗せ、ベジャール先生がダンサー達とともにゆっくり歩いて来たのだ、でも彼はいない、とすでに泣きそうになっていたところに現芸術監督のジル・ロマンが登場。そして、一人ずつダンサー達が出てくる。ジルと抱き合い、手を取り合い‥まるでベジャールのように。そこで、何かがぷっつり切れ、私は号泣した。
 夢のように何度もカーテンコールが繰り返され、終わったのに立ち上がれない。大半の人が席を立ち、ようやく少し気を取り直すと、私のほかにも座っている人が何人かいた。静かに余韻に耽っているようだった。

 私はベジャールの日本のお葬式に出たのかな、と思った。
 ダンスというものは、心の奥底を時にえぐり出す。
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