山田あかねの一喜一憂日記

片思い、始まる

2004年10月10日(日) 01:12
まずい、とてもまずいことになっている。

常夏のハワイから戻ってみると、東京は雨ばかりだし、知人は亡くなるし、低気圧に押しつぶされて、さえない気分ですごしていたのである。このまま朽ち果てていくのかしら、それもいいか、と。

ところが。物事というのは突然、変容を遂げるものだ。
もともと、惚れっぽく、すぐ、ひとを好きになる。ちょっと優しくされると、ああこの人は私のことが好きなのね、と思い込む、まことにおめでたい性格ではあった。が、しかし、それも昔のこと。
ここ数年は、(いえ、ここ1年はでした)、文学に操をたてることにして、節制していたのである。

 80年代、かの浅田彰先生は、「逃走論」のなかで、以下のようなことをおっしゃっていた。
〜これからの時代は、マルチな人格が流行る。(スキゾって呼んでたかな)、一兎を追う者は二兎を得ず、というけれど、五兎でも六兎でも追って、みんなまとめてつかまえればいいのである〜と。
(註*記憶に従って書いたものであり、このような意図であったと思うけど原文ではない)
 いわく、それまでの日本人的思考では次の時代を生き残れない、みたいなことを提唱され、拍手をもって迎えられたのである。
 それから時は過ぎて、私は知るのである。
やはり二兎を追っていては一兎も獲れないことを。五兎も六兎もまとめて獲れるひとを、この世では天才と呼ぶのだ。

 それでなんの話かというと、私のような凡人は、残り少ない人生、やりたいことをひとつひとつ仕上げていくしかないと決意したのだった。だから、この1年はとにかく、本を出すことに集中し、他はもう、全部おあずけ状態にしていた。そして、本は出ました。
そのせいでしょうか、望んだものが手に入ると、入った途端に次のものが欲しくなるのですね。そんなわけで、最近は空虚な日々が続いていたのでした。ほしいものがほしいと。

そして、ある雨の日、それは私の前に差し出されたのでした?
ふらっと入った映画館には、観客はまばらで、いつも最後部に座る私からは劇場中が見渡せた。上映時間開始まであと数分のところで、前方の扉が空き、そのひとが駆け込んできました。

「あっ、あのひとは・・」

 そのひとと最後に会ったのはおよそ5年前であったのに、私は一瞬にしてそのひとを見つけることができました。彼は私に見られていることなど全く解せず、片手に持ったコーラと(男のくせにダイエットペプシが好きだったんだ)大きな書類鞄とびしょぬれの傘を持て余しながら、せわしなく、最前列に座りました。そう、彼は映画を一番前の席で見るのが好きだった。映画は最後部座席でと決めている私と対立し、たった一回のデートでは、別々の席で映画を見たのだった。確か、あの時見たのは・・。

 そんな記憶を辿りながら、すでに自分がこれから始まる映画の内容より、クレジットロールが流れた後、劇場を後にする人の流れに逆らって、最前列に向かう私、小さな声で、でもはっきりと、彼に話しかける最初の言葉、ふりかえる瞬間の彼の表情などに過剰な期待を寄せてしまっていることを痛いほど感じていたのでした。バカか。

そして、残酷で優雅な1時間51分が過ぎ、今年ベネチアグランプリをとった映画はクレジットロールと不吉なメインテーマを流し始めたのだった。私は席を立った。もちろん、そのひとの後ろ姿に声をかけるために。

「父、帰る」は、12年ぶりに戻ってきた父親とちょっとひねくれた息子の再会の物語である。私たちも5年の歳月を経て、ここで再会するわけだが、もうちょっとレンアイ気味の作品のあとで会いたかったものである。だいたい、この作品の結末は悲惨である。私たちの再会をすでに予言するかのごとく?とすでに、ひとりで暴走する私。治ってない。想像力過多の病。ときめく心を抑え、一歩、一歩、そのひとに近付くのでした。

そのひとはクレジットは最後まで見るタイプ。これは私と同じ。彼の後ろの席に滑るように座り、クレジットが流れ終わるのを待つ。長いじゃないか、これ。と、むかつきつつ、最初の言葉を吟味していたところ、思っても見ないことが起きた。ほんとにもう、ラブストーリーは突然に、である。彼が、なんの予告もなし、監督名が出てくる前に、振り返ったのである。ああ。

こうして始まった、みっともない片思いのてん末を以後、ご報告します。うう。
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作家・TVディレクター・映画監督
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