戦争で皆死んだわけじゃない

July 18 [Sun], 2010, 13:47


ある戦場-眼前・過去


空が黒い。
生ぬるい風が俺の頬を撫でる。
錆びた鉄の匂いが俺の肺を満たした。
投げ出した俺の手足には無数の傷があり、赤黒い血が固まっている。
それでもまだ俺の体は死ねない。



「おい」


野太い声が俺の耳に届く。
顔を上げてやれば、そいつは別の隊の兵士だった。右腕が無い。
嫌悪に顔をゆがませて、俺を睨みつけているその兵士は、問う。


「貴様は何のために戦っているのだ」

愚問を。


「俺は」

愚かしい考えで。


「死ぬために、ここにいる」
「っ!貴様を見ていると腹が立つのだ!俺たちは望んでもいないのに兵士として召集され!戦地に送り込まれた!俺たちは生き残るために必死だというのに!貴様は!死ぬためにだと!?俺たちを愚弄しているのか!」


兵士は俺の胸倉を掴み、そう怒鳴り散らした。
ゆがんだその顔は、嫌悪を超えて憎しみの色を濃くしている。

「触るな」

俺は胸倉を掴んでいる奴の左手を振り払った。

「誰もが全てお前と同じだと思うな、お前は両親や妻子に涙を流され見送られたのか?必ず生きて帰ると誓ったのか?俺は違う、厄介払いが出来てなによりだと言われ見送られた、必ず死んで帰ると誓った、貴様と同じにするな!」


威嚇の意を込めて最後に怒鳴ってやると、兵士は勢いを失い後ずさる。
その表情はまだ憎しみにゆがんでいるものの、恐怖のようなものが見え隠れした。
俺は奴を愚かだと言うが、俺は奴よりも更に愚かであることを自覚している。

俺は、自分を不幸だと思っている。


「俺が憎いなら殺せばいい、俺が死んで悲しむものなど誰もいない」

そして奴こそが幸福だと、妬んでいる。




「俺は、伍長が死んだら悲しいぞ」

奴の後ろから、聞きなれた声が思いがけず俺の言葉に答えた。
戦場だというのに、やわらかい声。軍曹として足りないはずなのに、兵士から慕われる声。
俺に絡んできた兵士は敬礼すると、さっさと走り去っていく。


「軍曹・・・・」
「伍長、俺は生きたいんだ、生きて帰りたい」


俺と同じ年のくせして、俺よりも多くの戦場を経験している軍曹。
軍曹も幸福なのだ。俺と違って、幸福だというのだ。


「だから伍長、俺の代わりに死んでくれるか?」
「・・・・・・・・・・・・・・・御意」



それが俺の幸福ならば
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