【ハーデス観光 株式会社(霊界ツーリスト)】2

August 20 [Wed], 2014, 8:20
2「第1ハーデス」

二人はあるビルの一室に座っていた。

「新見さん目を開けれますか〜」社長の声だった。

「はい」

「ゆっくり起き上がって下さいね。第1ハーデスに尽きました。
もう一度説明します」

部屋の様子を伺いながら「あっ・・はい、お願いします・・・」

新見は既に身体に脱力感を覚え、どことなくイライラしていた。

「ここはズバリ地獄と呼ばれるハーデス。
人の物を奪う、殺す、平気で嘘をつく、などなど、
当たり前の世界です。

それと、全てのハーデスの人には死がありませんので
殺人で殺されたように見えますが、また動き出しますから、
気にとめないで下さい。とにかくここはどん底の世界です。

私と二人で歩きましょう。できるだけ私から離れないように
歩いて下さいね。

では、ビルの表に出ましょうか?私についてきて下さい」

二人は外に出た。

瞬間、異臭が鼻をついた。外は薄暗く、重く濁った空気感。

高橋は「何度来てもこのハーデスは臭うの・・・でもこれがだんだん
慣れてくるのよね。こちらが地獄に馴染んでくるの」

新見は思わず「臭いッ・・・」声が出てしまった。

そこに後ろから老婆が声を掛けてきた。

「あんた達、見慣れない顔だけどよそもんかい?」

新見は声の主を視て唖然とした。

その老婆は顔の肉が半分そげ落ち、目も片方が垂れ下がり
口は下の唇が垂れ下がり、全体的にどす黒い皮膚が痛々しく感じた。

その時高橋が「あまり凝視しないでね・・・」

新見は一瞬我を忘れるところだった。

二人はそのまま大通りに出て町を歩いた。

「ここが第1ハーデス、一般的に地獄と呼ばれる世界。
このどんよりとした空気、獣のような悪臭、全体が夕方か夜のような暗さ。
でも、そのうち感覚が馴れてきます。このハーデスに同調してくるの。
魂はどんな環境にも同調しようとするのね。どういう訳か調和が基本なの」

「こんな世界でも調和できるんですか?」

「今に解りますよ。コマは何時でも回せるようにして下さい。
では、繁華街らしき所に行きましょう。さっき云ったように目を
出来るだけ合わせないようにして下さい」

二人は歩き出した。

道路にはゴミが所狭しと散らかり、路上で座って呟いている子供もいた。

「おい、姉さん達何処行くんだね?」

横から老婆の声がしたので新見は声の方向を視た。一瞬新見は声を失った。
声の主は一見綺麗に着飾った若い女だった。声の印象からすると
老婆のようなかすれた声だったからだった。

「散歩ですけど・・・」

「ほ〜〜う、良いご身分だね・・・あんたの服、綺麗だね・・
あんたも私達と同じ仕事しないかい・・・稼げるよ。

な〜〜に、ただ男と寝てやるだけでいいのさ」

新見が「いえ、私達は結構です。失礼します」


「ちょい、待ちな・・・私が稼げるようにしてあげるって
言ってるだろうが・・・何か文句あるのかい?」

「いえ、ですから・・・」

新見の話の途中で高橋が遮った。

「姉さん、ごめんね。こいつここに来たばっかで、
何にも解っちゃいないんだよ。これとっといて」

高橋はお金らしき物を、そっと女に掴ませた。

「そうかい、解ったよ。気が変わったら何時でもおいで。
この辺にたむろしてるからさ」

高橋が「はい、その時には姉さんを頼りますんで失礼します」

二人はその場から離れた。

「何なんですか?あの人は?」

「新見さん、これが第1ハーデスなんです。ここではあれが
当たり前の世界で、あれはまだ良い方です」

「あれが良い方なんですか?高橋さんが彼女に渡したあの
紙はお金ですか?」

「そう、ただの紙だけどね。あの人にはお金に映って見えるの。
地獄の沙汰も金次第っていう言葉は本当なんですよ」

二人はまた歩き始めた。その時パンと何かが弾く音がした。

「今の音は何ですか?」

「うん、あれは拳銃ね。ここでは普通の出来事なんです。
こちらでもヤクザの抗争をやってるの。彼らは死んでも死んだ
自覚がないの。だからああやって毎日毎日抗争をやってるのよ。
毎回死んでるの。何年も何十年も毎日毎日その繰り返し。

あれ、あの男視てごらんなさい、今拳銃で撃たれるわよ。
そして1回は死ぬの。しばらくすると起き上がってまた抗争
しはじめるの。私の視る限り何年もああやって繰り返してるわよ」

「死んで、また生き返るんですか?」

「言ったでしょ、ハーデスは観念の世界で肉体がないの。
時間が無いから何時も今なのよ。本人が気付くまで続くの」

「何回も何回も撃たれるんですか?」

「そう、何回も何回も気が付くまで続くのよ。因みにあの男は私が
最初に視たのが、人間時間で8年前だった。今だにああしてるのよ。

私、あの人と話したことあったんだけど、あの人が生きてるのは
明治の終り頃なの。だから今でも明治だと思ってるの」

「明治???」

「そう、新見さんの感覚だと時間は直線だという意識ですが、
ハーデスは時間という概念がない世界なんです。

新見さんが考えてる一本の直線としての時間軸というのは、本当は今の
地球だけの常識で、実は毛糸玉のように絡まってるの。

昨日と10年前が隣り合わせになってる、それが時間軸が
無いハーデスの感覚なの。

明治のヤクザ間の抗争がいまだに続いている理由です」

「何か時間って頼りないんですね・・・」

「頼りないというか、本来、時間は無いと言った方が正解です。
今の新見さんが住む地球だけに
時間の存在があるんです。

月と太陽が時間というものを作りだしたのかもしれませんね。
因みに次元が上のハーデスでは、月は用を足してません。
夜が存在しないから」

「もう少し歩いてみたいです」


「はい、かしこまりました。じゃあ行きましょう」

二人は通りをさらにすすんだ。

「あれは何ですか?」

指さす方向には、一人の男を中心に大きな円陣を組む集団があった。

「ああ、あれは詐欺集団の打合せです。あの中心の男がボスで、
周りが子分なの。スリの手ほどきをしてるのよ」

「あんなに公然とやってるんですか?」

「それがこのハーデスの面白いところなの。彼らはこちらが
目に入ってないのよ。遠くを見るという視界を持ち合わせてないの。
目の前のことしか考えてないから、遠くは見えてないの。

視界というのは心の広さも関係してるのよ。目先のことばかり
という言葉があるでしょ?まさに書いて字のごとし。

だからあの集団はこちらを視るという作業が出来ないの。
本当は見えるのよ、自分で見えなくしてるだけなの。
ハーデスの世界って面白いでしょ?」

「本当ですね。心の在り方ってハーデスの世界でも重要なんですね」

「重要というか最重要です。行ないについては今度生まれる時に
カルマという形で補えるけど、心の在り方は今しかないの」

「高橋社長、詳しいですね」

「何年もハーデスやってると黙ってても身につくのよ。
もう少し歩いてみましょう」

「このハーデスって警察は存在するのかしら?」

「良い質問ね、あるわよ・・・覗いてみる?」

次の瞬間、違う町に変わっていた。

「正面にあるあれが警察よ」

「あっ!本当だ、警察署だ。どういう事取り締まるのかしら?」

署の中から二人の人相の悪い警官が出て来た。

そこに、ひとりの老婆が現われ警官と会話をしてたと思った瞬間、
ひとりの警官が声を張り上げ「馬鹿言ってんじゃねぇぞ、
この糞ババァが・・・」そう言い終らないうちに足で
老婆を蹴ってしまった。

新見は咄嗟に「あっ、危ない」と言ってしまった。

もうひとりの警官が気づき、新見の方に向ってきた。

「おい、お前・・・今なんて言った?もう一度言ってみろ」

「危ないって言いましたけど」

「ほ〜〜う、誰に向って言ったんだ?・・・えっ・・こ〜ら」
警官は威圧してきた。

そこで高橋は「何時もすいませんね・・この女、まだこの世界
馴れてないんです。

今日の所はこれで旨いもの食って下さい。私から言って
聞かせますから。すいません」

高橋はまた紙を警官にそっと渡した。

「おう、あんたツアー会社の社長さんだったな・・・いつも、
出来の悪い観光客相手に大変だな。まっ、頑張れよ」

そう言って二人の警官は何事もなかったように立ち去った。

「もうひとつ教えておきます。このハーデスの存在は他人に情を掛ける、
愛情を掛ける、助けるということが無いんです。
だからこのハーデスに居るんです」

新見はなんとなく理解できた。

と同時に、人間界はここと比べると良い世界だと痛感した。

また歩き出すと新見が「社長さんよ、来た時と違って段々と
臭いが消えてきません?目も幾分馴れてきたみたいだけど」

「新見さんがこのハーデスに馴れてきてるんですよ。
あそこの鏡を見て下さい」

建物の曇ったミラーガラスに自分の姿を映してみた。

そこに映っていた自分の姿は変貌していた。目が見開き気味で
自分でもその様相に愕然とした。

「いったいこれはどういう事だ、おい社長さんよ、
ちゃんと説明しなさいよね・・・あんたに責任取れるのかい?」

新見の意識も第1ハーデスに同調し始めていた。

「解りました。責任取りましょう・・・」

そう言って例のコマを取り出し「これと同じ物が
新見さんのポケットに入ってるので、出して回して下さい。
そうしてくれたら私が責任をとりますから」

新見はなにかブツブツ言いながらコマを回した。

コマは回り続け、全然勢いに変化が現われなかった。

それを視ていた新見は、ふと・・・これはハーデス世界だ・・
自分の立場が瞬時に理解できた。

その様子をみた高橋は新見の手を握り、最初に来た部屋に移動した。

「新見様、これで第1ハーデスは終了いたします。
続きまして第2ハーデスにこのまま移動します。

目を閉じリラックスして下さい」
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