【SANGA(神々の戦い)】 15

August 14 [Thu], 2014, 6:26
15、「ね」

 シバと摩耶は朝早くから事務所に詰めていた。

シバはフウキの残した言葉の意味が気になり、

摩耶とフウキの言葉の意味を考えていた。

何故このタイミングで「これが最後になるので一気に引揚げますから」
・・・これはどういう意味だろう?


その日の昼頃、事務所にフウキが訪れた。

「シバさん、摩耶ちゃん、昨日はお疲れ様でした」

フウキは、いつもと変わらぬ様子で椅子に腰掛けた。 

摩耶が口火を切った「フウキさん昨日、これが最後になるので
一気に引揚げますからって言ってましたが、どういう意味なんですか?」

「うん、影の支配者エレボスのターゲットはズバリ、 
僕、宮園風輝なんだ。

このままだとSANGAの存続に係わってくる可能性がある。

だからSANGAとの係わりを絶とうと考えての言葉なんだ」

シバが「まだまだ我々にはフウキ君が必要なんだけど」

「シバさん、摩耶さん。僕は永遠に、さよならをする訳ではないんです。

ほとぼりが冷めるまでの間、僕は僕で旅をしながら僕独自のやり方でやっていきます。

今、芽吹いたばかりのSANGAという花の芽を刈り取りたくないんです。
どうか解ってやって下さい」

摩耶が肩をふるわせて泣いていた。

その摩耶を労るようにシバは震える摩耶の肩に優しく手を乗せていた。

シバが言った「摩耶ちゃん、後の事は僕達6人が協力して頑張ろうよ。

そしてフウキ君の帰る場所を守ろう!」

摩耶はシバの言葉に目を赤くしながら頷いた。

「じゃあ、しばらく留守にしますので他の皆さんにも宜しく伝えて下さい」

フウキはSANGAの事務所を後にした。

フウキは名前を「フレイ」と改名し旅に出た。

天界サンガは風の宮の神官フレイの名前だった。

フレイは四国の徳島にいた。

徳島市内の南新町でフレイは商店街の閉まった後、

商店の軒先に小さなテーブルとイスを置いて座っていた。

テーブルの上には「相談に乗ります」とだけ書かれていた。

恋愛の相談が多くあったが、フレイの目的は相談の内容にあるのではなく、

縁のある相談者を待っていた。

「あのう、チョット宜しいですか?」20代の男性であった。 

「はい!どうぞ」 

「相談事というか、宗教の事なんですが宜しいでしょうか?」 

「はい、どんな事ですか?」

「昔からこの町は真言宗の檀家が多く、僕の家も代々そうなんです。

でも今、結婚を前提に付き合っている彼女の家は熱心な法華教なんですね。

その教義の中に真言亡国で(家の柱)つまり当主が弱いとかで
向こうの両親が結婚に反対してるんです。

僕はハッキリ言って宗教の事は解らないんですがどう思われますか?

そして今後どうやれば上手くいきますか?」

「はい!ズバリ結婚と宗教は関係無いと思います。

問題はあなた達がどうありたいかという事です。

宗教って人間が幸せになる為の心の指針の様なものです。

結婚の障害になる様な宗教は本当に真の宗教と言えるでしょうか?

別の言い方をするなら、お二人が本当に結ばれたいのなら、
自分達はどうあるべきか。

が大事な事ではないでしょうか?結婚するのはお二人です。

家系ではありませんし、まして親でもありません。

宗教などもってのほかだと思います。どうでしょうか?」

「そうですが、親が・・・」 

「結婚するのは?」 

「自分達です」

大切なのは?」 

「自分達です」

「誰の為の結婚ですか?」 

「自分達の為です」

「もう、結論は出ているようですね。結婚は自分達の為にあるんです。

因みに彼女の名前と生年月日は?」 

「レイカです。昭和59年12月18日です」

「はい、彼女は冷え性ですから、根菜類を多く食べて身体を温め、

そこを克服出来たら子宝に恵まれます。

言葉の意味が解りますか?・・・お幸せに!」

「な・何か吹っ切れました!勇気が湧いてきました!
ありがとうございます!」

男性の顔は明るくなり暗闇に去っていった。

「いらっしゃいませ」今日二人目の客である。
年の頃は25歳くらいの女性だった。 

「あのね、私ね、由美子って言います。

何をね、やったらいいでしょうか?」

「面白いね!君は何が好きなんだい?」

「オムレツと半熟卵です」

「そっか。じゃあ、おでんの卵は?」

「好きです。あとダシ入りの厚焼き卵もね」

「でも君、オムレツにはなれないよ。
半熟卵にもね。さあどうしようか?」

「・・・???」

「僕が聞いたのは君が何をしている時が一番好きなの?って事さ」

「ギターです」

「ギターか・・チョット待ってね。君の生年月日は?」

「昭和62年2月28日の14時30分です。何秒頃か解りませんけど」

フレイは彼女の左上を視て優しい声で言った「君はどんな曲が好きなの?」

由美子は目を輝かせながら言った「ビートルズが好きですね。

あとサイモンとガーファンクルやELPもね」

「君、本当に音楽好きなんだねえ」

「はい、大好きです。特に昔の歌が・・・でも父と母がね、
あんまりやってはいけませんと言うんですねね・・・」

「何でかな?」

「私がね、一生懸命やるとね、時間が解らなくなって気が付くとね、

1日くらい経ってたりするのね。それだから母に怒られます」

「何で怒るの?」

「私、学校もね、アルバイトもね、ギター弾くと休むんですね・・フフフ」

由美子は自分で言って笑った。 

「君、音楽やってる時って何処に行ってるか解る?」

「な、な、何で解るんですか???初めて聞かれました!」
由美子は目を丸くしながら話し始めた。

「あのですね、その場所はね、

全部が音っていうかリズムっていうか気持ちいい香りのする場所なんですね。

そこで曲を作ると楽しいです。

昨日もね、晩ご飯食べてから曲作りしたんですね。

気が付いたら朝ご飯の時間だったりしました」

「そっか。由美子くん、君は花梨っていうミュージシャン知ってるかい?」

「はい、彼女の歌は好きですね」

「そうか。じゃあ今度はギター持ってきて
僕に何曲か聞かせてほしいな。出来るかい?」

「私の家、すぐそこなんですね。今でもいいですか?ね?は〜〜い!」

由美子は話しもそこそこに駆けだして行った。

30分程して由美子はギターを背負ってやってきた。

その後ろには両親が心配そうな顔をして同行してきた。 

「やあ、早かったね」

「御両親も一緒に来ましたね」

「今晩わ。僕はフレイと申します。

今日初めて由美子さんとお会いしまして、

彼女の作った曲を聴かせてってお願いしました」

フレイはにこやかに頭を下げた。

「で、ご両親は彼女の作った曲を聴いた事ありますか?」 

母親が言った「この娘はいつも自分の部屋でギターを弾きながら

歌ってますから聞いてますが、何か?」

「正式に目の前でという意味です」

「いいえ」

「それでは、ここで一緒に聞いてみませんか?」

「聞くのは良いですが、彼方はいったいどなたさんですか?」

テーブルの上を指さして「僕はみての通り、人と会話をする会話士です」 

「会話士??」2人は怪訝な顔をしていた。

そこに由美子が「歌っていいですかね?」

フレイが言った「いつも通りに歌ってね」

「はい!」

最初の曲はAマイナから始まる、しっとりとしたバラードだった。

次はアルペジオでテンポのいい曲だった。

最初は多少の恥じらいもあり緊張した様子の由美子だったが、

その後は完全に音楽の中に入ってしまった。

気が付いた時、周りには30人程の若者が聞き入っていた。 

30分程で歌い終わり由美子は我に返った。

そこには見慣れない人達が大勢いて由美子は驚いた。

商店街中、由美子への賞賛の拍手が響き渡り、アンコールの声が上がっていた。

その光景を目の当たりにした両親は狐に摘まれたか、

別世界に迷い込んだかのように思えた。

「どうでしたか?由美子さんの初舞台は」フレイが尋ねた。

父親が「とにかく今は驚きのひと言です。

この娘は小さい頃から表現が下手でした。

それでギターを抱え、ひとり部屋に籠もりストレスを
発散してるんだとばかり思っていました。

そこで見ている妻も、私と同じ気持ちだと思います」

母親は目を潤ませながら由美子を見ていた。

「ところで、彼方は以前からあの子を知っているんですか?」

「いいえ。今日ここで初めてお会いしましたが」

「何故あの娘が歌を作ってる事など知ってるんですか?

恥ずかしながら親も知らない事なんです」

「僕が会話士だからです」

「会・話・士ですか?」

「はい!言葉以外でも会話は出来るんです。

相手の心の声と会話するんです」

「由美子の心の声は何と?・・」

途中で由美子が近寄って来て話しは中断された。

歌い終わり観衆も引け先程とは変わり静かな商店街に戻っていた。

その後3人はフレイに頭を下げて帰っていった。

その別れ際、由美子は満面の笑みを浮かべながらフレイに手を振っていた。

その印象的な微笑んだ絵はフレイの心に残った。

二日後、由美子が顔を出した。

「先日は、どうもありがとうございました」

「どういたしまして。ところで両親とちゃんと向き合って話しをしたかい?」

「はい!もう私の全行動に対して口出しはしないようにするから、

自分のやりたい事をやりなさいと言われました」

すっかり口癖の「ね」が治っていた。

「そうかい!理解してもらってよかったね。それで、これからどうする?」

「私、音楽に関係する仕事をしてみたいです」

フレイはメモ用紙にSANGAのアドレスを書いて由美子に渡した

「じゃあ、ここに摩耶さんという君と同じくらいの娘が居るから電話して、

花梨の関西・四国方面でのコンサートスケジュールを聞いて
直接会いに行くといい。

フウキからの紹介って言ったらいいよ、相談に乗ってくれるから。

後は君次第だよ。

これだけは憶えておいてね、由美子さんは頑張らなくていい。

君らしくいればいい」

「どういう意味ですか?」

「分かりやすく言うと・・・自分流!

僕はまた違う街に行くからね。また何処かで会おう」

その後、由美子は神戸ドームコンサートに来ていた花梨の楽屋を訪ねていた。

「初めまして。私は由美子と言いましてミュージシャンを志しています。

徳島でフレイさん、いやフウキさんと知り合いまして、

花梨さんを紹介いただきました」

「そうですか。で、彼は元気でしたか?

今、何処に居るんですか?」

「今はもう徳島を出て、行き先は解りません」

「そうですか。で、由美子さんは何をなさってるの?」

「曲を作ってます」

「そうですか・・で、今日は何処に泊まるんですか?」

「神戸から徳島へバスで帰ります」

「せっかくだからコンサートを見て、

私達の宿泊するホテルに泊まりませんか?

ついでに打ち上げも付き合ってよ。

フウキさんの話しを聞かせて」


楽屋から出た由美子を会場へスタッフが席に案内した。

由美子がフレイという人物の一角に触れた瞬間だった。

コンサートは2時間半で終了した。

由美子にとって初めて見るコンサートであり、

花梨の発するバイブレーションに触れたのであった。

最初、涙を必死にこらえていたが、

周りは当たり前のように涙を流していたのを確認すると、

こらえる必要性が無い事に気付いた由美子はこらえるのをやめた。

こんな感動は初めてだった。

「花梨さんって凄い!」と心から思った。

コンサートも終わり、2人は大阪ミナミのホテルにチェックインした。

花梨が「ホテル代は私が払うから遠慮しないでね。

じゃあシャワーを浴びて11時にロビーに来てね」

「はい」由美子にとっては夢のような一時であった。 

「おまたせ。それじゃあ行きますか」

一行30名は難波の料理屋で打ち上げをして、

二次会はカラオケ店に移動した。

大きな部屋で二次会は行われた。

挨拶は花梨が勤めた「今日は大変お疲れ様でした。

二次会も盛り上がりましょう。

今日は徳島から私の友達の由美子さんも参加です。

大いに飲みましょう。乾杯!」

あれだけのコンサートを作り上げた
メンバーだけあってパワーも凄かった。

途中メンバーのマコトがマイクを取った。

「それでは花梨ちゃんのお友達にここらで一曲お願いします」

「さんせ〜〜い」声を上げたのは花梨だった。

「はい。私はギターの弾き語りでいいですか?」
バンドのメンバーからギターを借りた。

「じゃあ、私の作った曲で(風)を歌います」

側から小声で「おい、あの娘、素人だろ?プロを前によくやるよな。

最近の女の子は大胆というか怖いもの知らずというか・・」 

チューニングを終えた由美子が「風、お聞きください」

風はフレイに披露した想い出のバラード曲だった。

歌い始めて間もなく、ざわついていた会場に静寂が走った。

聞こえるのは由美子の歌声とアコスティックギターの調べだった。

素人の女の子がプロの集団を黙らせた瞬間だった。

はじめは緊張していた由美子だったがそれも束の間、

曲とギターと由美子がひとつとなった。

由美子の心の中には心地良さ以外、何も無かった。

歌い終えた瞬間、怒濤の様な歓声と拍手が響いた。

花梨とは違った意味で「凄い!」皆が認めた瞬間だった。

そのままアンコールをもらい、結局3曲歌う事になった。

一番喜んだのは花梨であった。

「さすがフウキさん。強烈な人を送り込んできたのね」

翌朝、ロビーでコーヒーを飲みながら花梨は

「昨日のあなた、決まってたわよ。

プロの集団を一気に独り占めしたんだから。

音楽やりたいんでしょ!

東京に出てきなよ、落ち着くまで私のマンションに住むといいよ。

そうしなよ、それに、あんたの云うフレイの別の顔も見てみない?

今、私がこうして歌っているのはフレイさんのおかげなのよ」

「そうですか。フレイさんて凄い人なんですね。

私、父と母に相談して花梨に連絡します。

私の心は決まってるからお世話になると思いますが、

その時はよろしくお願いします」

「待ってるね」2人は大阪を後にした。 

スタッフの1人が「花梨ちゃん、昨日のお友達は?」

「徳島に帰りました」

「あの娘、面白い娘だったね。磨いたら絶対に光るよ」

「そのうち上京するので宜しくお願いします。

あの娘、私の師匠からの預りものなの」

「任せてよ。彼女は天賦の才がある」
スタッフの目は未来の由美子の姿を描いていた。


それからひと月後、由美子は上京し花梨のマンションで世話になった。

SANGAにも顔を出し会員仲間とも直ぐに馴染んだ。
  • URL:https://yaplog.jp/10382222/archive/16
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