魔法工学の聖地

September 21 [Mon], 2015, 15:23
「さて、そうなると、許可証をどうするか、だ」
『いつも身に着けていられる物がよいでしょう』
「そうだな……」
 老君の提案に仁も頷き、それでは何がいいかと考える。
「ジン兄、指輪、腕輪、ペンダントなんかは、どう?」
 エルザの提案。仁はそれでもいいんだが、とまだ難色を示す。
「俺としては、その人その人特有の何か、にしたらと思う。他の人が持っていたら不自然なもの。それなら、更に安全性が上がるんじゃないかな」日本秀身堂救急箱
「なるほどな」
「くふ、ジン、それならボクは眼鏡、がいいね」
 真っ先に決めたのはサキ。なるほど、今のところ眼鏡はサキだけの物、他者が使うことはまずありえない。
「うん、いいなあ。そうしたら、サキは眼鏡で決まりだ」
「ジン兄、私はこれにする」
 仁に貰った魔力過多症を防ぐ腕輪を嵌めた手を見せてエルザが言った。
「うーん、そうか。それじゃあエルザはその腕輪にするか」
 これもまた、他の者は使えない魔導具であるから識別にはぴったりだ。
「ラインハルトたちはどうしようか」
 まあ急ぐ物ではないので、じっくり考えることにする。
「そうすると、エドガーはここの生まれだからいいとして、アアルとネオン、それにノワールを登録する必要があるな」
『いえ、御主人様マイロード、アアルさんは御主人様マイロードの魔力パターンを持っていますから大丈夫です。ですが、エドガーさんはここの生まれとはいえ、作ったのはエルザさんです』
 老君が指摘した。仁はなるほどと思い、ネオンとエドガー、それにノワールをどうするか考える。
「一番手っ取り早いのは識別用の魔結晶マギクリスタルを埋め込むことだな」
 要は、仁の魔力パターンを持っていれば大丈夫なのである。そう考えると、この方法が手っ取り早いし、確実である。
「じゃあこうしよう」
 仁は呟いて、老子に魔結晶マギクリスタルを持って来てもらう。それを手で弄びながら、
「ベルチェ、ネオンの制御核コントロールコアを交換したいんだけど、いいだろうか?」
 とベルチェに尋ねた。
「多分今までより性能上がると思うんだが。……あ、性格とか知識はそのままだから」
 ベルチェはちょっと考えて答えた。
「ええ、そう言うことでしたら、是非。ネオン、いいわよね?」
「はい、べるちぇさま。れーこさんのごしゅじんさまがまちがったことをするはずないですから」
「それはありがとう。期待に応えられるよう頑張るよ」
 仁は全員を今いる食堂から隣の工房へ移動する。
 作業台にネオンを横たえ、魔力を切ってから改造に着手する。
「えーと、エルザ、頼めるか?」
 早速エルザの出番である。ベルチェそっくりの自動人形オートマタの服を脱がしたりするのは憚られたのである。
「うん、わかった」
 エルザはてきぱきと作業を行っていく。胸部皮膚などの外装を外したところでようやく仁の出番だ。
 制御核コントロールコアを交換し、隷属書き換え魔法対策も施す。
「ついでだから骨格も硬化ハードニングと強靱化タフンをかけなおしておこう」
 などと呟きながら、てきぱきと作業を進めていく仁である。
「お、おおお!?」
 一切の遠慮無く、いつも通りの速度で作業を進めていく仁を見て、ラインハルトは仰天していた。
 そんなラインハルトがふと横を見ると、食い入るようにしてみているエルザの姿が。その目は真剣そのもので、驚いている様子は無い。
 ああ、エルザは仁のこんな姿をいつも見ていたのだな、と直感するラインハルト。同時に、エルザが魔法技術者マギエンジニアとして成長した理由を悟る。
 そんなことをラインハルトが考えているうちに、仁は礼子に手伝って貰いながら、改造をほぼ終了してしまっていた。
 胸部皮膚を戻し、服を着せ直したのはエルザである。
「よし、これで終わりだ。隷属書き換え魔法対策、制御核コントロールコアのグレードアップ、骨格の強化。これでいいだろう」
 所用時間約10分。もっとも、隷属書き換え魔法対策用のシールドケースなどは標準部品として在庫しているため、作業がより手軽になっているのだ。
「ネオン、『起動』」
「はい」
 起き上がったネオン。
「どうだい、身体の具合は? 上手く制御出来ているかな?」
 ネオンは、自己チェックするための手順を行い、問題ない事を確認した。
「はい、ジン様、調子は上々です。ありがとうございました。ベルチェ様、これからもよろしくお願い致します」
 制御核コントロールコアの処理速度や処理能力が向上したおかげで、喋り方も流暢になっていた。
「まあネオン、発音もきれいになったわね。これからも頼みますわ」
「はい、ベルチェ様。こちらこそどうぞよろしくお願いいたします」
 本質は変わっていないので、ベルチェもすぐに新生ネオンに慣れることだろう。
「よし、エルザ、エドガーに、いま俺がやっていた隷属書き換え魔法対策を施してごらん」
「うん、わかった」
 礼子にシールドケースなどの対策部品を一式用意して貰い、エルザはエドガーの改造を始めた。
 仁と同じ手順で進めていく様を見て、ラインハルトの顎が外れそうになる。
「ううん、わかっていたつもりだが、エルザ、成長したな……」
 嬉しげな、そして僅かに悔しさが混じる声でラインハルトはエルザを褒め称えた。
「……ありがとう、ライ兄」
 エルザも、尊敬する従兄にそう言われ、嬉しそうだ。
 仁よりは時間がかかったが、40分くらいで改造を終えたエルザ。
 最後の仕上げに仁が魔結晶マギクリスタルを埋め込んでやる。『魔法記録石マギレコーダー』だ。仁の魔力パターンを持つため、これが識別の鍵となる。
 全て終え、確認した仁はエルザに微笑みかける。
「よく憶えたな、エルザ。文句なしだ」
 仁からも褒めてもらえたエルザは、顔を紅潮させ、にっこりと微笑んだ。
「ああ、エルザ、君もいい顔で笑えるようになったねえ、いいことだ」
「ええ、本当ですわね。エルザさん、いいお顔してますわ」新曲美
 その笑顔を見たサキもベルチェもエルザを褒めたのである。そのため、より一層顔を赤くするエルザであった。

 さて、仁はといえば、エルザがエドガーを改造している間に、ノワールの胸部に『魔法記録石マギレコーダー』を埋め込んでいた。
 以前ラインハルトが統一党ユニファイラー対策のために黒騎士シュバルツリッターを改造した時はシールド構造だけで、魔法記録石マギレコーダーは未実装だったからだ。
 ともあれ、これで、従者ゴーレム・自動人形オートマタたちは、問題なく転移門ワープゲートを使う事が出来る。
 残るはベルチェとラインハルト。
「やはりお2人に似合うのは指輪じゃないかと思うんだが」
 と仁がいえば、
「うん、私もそう思う」
 とエルザも賛成する。
 そこで仁とエルザは、保護指輪プロテクトリング、いや『守護指輪ガードリング』を作る事にした。
「『変形フォーミング』」
 エルザがデザインも含めて指輪作製を担当し、
「『書き込みライトイン』」
 仁が魔導式マギフォーミュラを書き込む。
 以前の保護指輪プロテクトリングは、半丸形の断面を持つ丸い指輪だったが、今度は違う。
 表面上側にはランドル家の家紋である向き合ったレーヴェ(ライオンに似た動物)が、そして表面下側にはラインハルトとベルチェそれぞれの名前が刻まれていた。
 それを見たラインハルトはまたしても目を丸くした。
「ううむ、さっきも言ったがエルザ、お前、いい魔法技術者マギエンジニアになったな。もし足りないものがあるとすれば、それは経験だけだ」
「ライ兄、ありがとう」
 再度の褒め言葉に、エルザは頬を染めながら礼の言葉を述べた。
「お前がこれほど才能があったとはな。僕が教えてやればよかったよ」
 そうすればまた違った運命に巡り会っていたろうに、といったラインハルトは首を振り、言い直す。
「いや、もし、なんて言っても仕方ないことだな。お前の今が幸せで、そしてこれからも幸せになれるなら、それが一番だ」
 ラインハルトとベルチェに指輪を渡すエルザ。サイズの微調整はラインハルト自ら行った。
「ありがとう、ジン、エルザ。大事にする」
 全属性の高品質魔結晶マギクリスタルから作られた指輪は虹色に輝いていた。

「さて、これで全員転移門ワープゲートを使ってここに来ることができるようになった。それでも当面、老君の指示に従ってくれ」
「わかった」
「わかりましたわ」
「うん、わかった」
 ラインハルト、ベルチェ、サキは揃って頷いた。
「さて、それじゃあサキもラインハルトもこの工房をとりあえず使ってくれ」
 東西8メートル、南北15メートルほどもある第一工房であるから、仁も入れて3人で使っても十分な広さがある。
「居室が必要なら3階に空き部屋がたくさんあるから」
 仁は、これでようやく先代が目指した研究所のあり方、つまり魔法工学マギクラフトの聖地に少しは近づけたかな、と満足感を憶えたのである。

蓬莱島にて
 翌日、仁は予定通りに、ラインハルト、ベルチェ、サキを蓬莱島へ連れていった。エルザとエドガーは言うまでもなく、アアルやノワール、ネオンも一緒だ。
 蛇足ながらハンナは、お客様が来ているのだからと自ら断り、カイナ村に残った。
 崑崙島を割愛して蓬莱島へ連れていったのは、ベルチェとサキを仁が信用したからに他ならない。
 もちろん、何が来ても蓬莱島は揺るがないという自信もあったのだが。

「ここが、俺が師匠から受け継いだ『蓬莱島』だよ」
 転移門ワープゲートの並ぶ広間に転移するなり仁は言った。
『お帰りなさいませ、御主人様マイロード。そしてお客様方、ようこそ蓬莱島へ』
 老君の声が出迎えた。
「ジン、あの声は誰なんだい?」
 不思議そうな顔でサキが尋ねた。ベルチェも同じく、どこから声がしたのかきょろきょろしている。
「この蓬莱島全般を統括している魔導頭脳、『老君』だよ。言うなれば自律型ゴーレムの頭脳をうんと高性能にしたものさ」
 そう説明されたサキは概念としての理解は出来たようだが、ベルチェは駄目だったようだ。
 そんなベルチェを見かねたラインハルトが小声で説明していたのだが、いつまでも転移門ワープゲート室にいても仕方ないので、仁は声を掛けて一行を外へと導いた。

「ようこそいらっしゃいました」
 転移門ワープゲート室を出た場所が玄関ホール。
 そこには、まず老君の移動用端末『老子』、ソレイユとルーナ、5色ゴーレムメイドのリーダー5体、陸海空軍のリーダー各1体、職人スミス1、そしてバトラー1が一行を出迎えていた。
「うわあ……」
 絶句するサキとベルチェ。以前蓬莱島に来たことがあるとはいっても、これだけゴーレムが揃っているのを見るのはラインハルトも初めてである。
「すごいな、ジンは……もう1国に匹敵どころじゃないな」
 仁の保有する潜在的な力が、国を軽く凌駕していることを感じ取ったラインハルト。
「ジンが友人だったことが心から喜ばしいよ」

 そんな一幕もあったが、まずは玄関ホールを抜けて前庭へ。
「うわあ、広いね。ここがジンの研究所か……うらやましい限りだね、まったく」
 表に出たサキはあたり見回しそう言った。
「ジン様、あれは何ですの?」
 ベルチェが指差したのは仁の家。平屋建ての日本家屋である。
「ああ、あれは俺の家です。蓬莱島にいるときはあそこで寝起きしてます。日本風の家なんですよ」
「変わってますのね」
「今夜はあそこに泊まっていただく予定ですので、後でご案内します」
 そう言った仁にベルチェは、その中途半端な敬語はやめて、ラインハルト様と同様の話し方をして欲しい、と言う。
 仁がラインハルトの顔を見ると笑って頷いた。V26即効ダイエット
「わかった、ベルチェ。……これでいいかい?」
「はい、それでお願いしますわ。わたくし1人だけ、他人行儀なのは寂しいですもの」
 仁は笑顔でそれに答えた。

「さて、それじゃあ、観光旅行らしく行こうか」
 仁は礼子に頼んで、車庫から自動車を出してきて貰った。
 エルザやラインハルトたちと旅に出る直前に開発した4連ゴーレムエンジンで動く自動車だ。
「お、おお、ジン、これは!?」
 軽銀のボディにゴムタイヤ装備で6人乗り。製作時から少し手を加えられていて、サスペンションはゴーレムアームになっているし、制御核コントロールコア内蔵による自動操縦に切り変える事も出来る。
「自動車、というんだ」
 飛行機を使うことも考えたが、さすがにオーバーテクノロジー過ぎると、珍しく自重した仁であった。
 それに、蓬莱島をゆっくり見て貰うには地上を行く方がいいとも言える。
「さあ、乗ってくれ」
 6人乗りなので、アアル、エドガー、ネオン、ノワールはもう1台の自動車で行くことになる。島内での移動用に同型の物が3台作ってあった。
 そちらの運転は礼子に任せた。なんとなくネオンが嬉しそうに見える。
「お父さま、お弁当です」
 ソレイユとルーナが大きなバスケットをいくつも積み込んでいく。お昼が楽しみだ。
 カイナ村を出たのが朝8時、時差が約2時間なので今は10時半くらい。
 研究所から、目的地であるタツミ湾までは約25キロ。時速30キロくらいでゆっくり走るのにはちょうどいい距離だろう。
「それじゃあ、出発」
 整地し、硬化させた道路は走りやすい。川沿いに着けられた道は緩やかにカーブしながら海を目指していく。
 川と言っても幅は20メートルから30メートル。対岸も良く見える。
「あら、このあたりは麦畑ですのね」
「おお、向こうは果樹園か。ペルシカらしい実がたくさん生っているなあ!」
 ちょっとした田園風景、ドライブにも適したコースである。何体かのメイドゴーレムが草取りなどの作業をしているのが見えた。
「おや? この辺は湿地かい?」
 道は湿地帯にさしかかる。そこには田植えしたばかりの稲、いや『禾のぎ』が。
「あまり見たこと無い植物だな……いや、まさか?」
 ラインハルトが、そこに植えられている作物に気が付いた。
「ジン、もしかしてこれは禾のぎかい!?」
「ご名答。稲、つまり禾のぎだよ」
「いったい、いつの間に……いや、ジンのことだしなあ」
 1人納得するラインハルトであった。

 道は緩やかに下っていき、1時間弱で海が見えてきた。それを見て一番はしゃいだのはサキである。
「お、おお! ジン、あれって、海なんだろう!? うんうん、広いね。青いね!」
 車から乗り出すようにして眺めている。
「危ないぞ。もうすぐ着くからおとなしくしてろ」
 仁が注意するとサキは照れたような顔をしてシートに座った。
「くふ、お恥ずかしい。ボクは国から出た事が無かったものでね。まあ故国にも海はあるわけだが、そんな遠くまで行ったこともなかったしね。トスモ湖周辺くらいしか知らないんだ」
 そう言ったサキはエルザをかえりみる。
「エルザはポトロックでゴーレムボートレースに出たって言ってたね」
「うん。あの時は楽しかった。ライ兄の船とローレライで、私が操縦して。……でも、ジン兄のチームに負けたけど」
 懐かしそうな顔で話すエルザ。仁もポトロックを思い出す。ラインハルトもそうだったらしく、
「ああ、懐かしいな。思えば、あの競技が無ければ、ジンと出会うことも無かったんだな」
 と、海を見つめながら言った。
 そうこうするうち、自動車は海辺近くに到着した。礼子達が乗る後続車もすぐに到着。
「ああ、なんだか匂うね。これが海の匂いなのかな?」
 サキは小走りに浜辺へと駆けていく。アアルが後を追う。仁たちも少し遅れてそれに続いた。
「礼子、運転ご苦労さん」
 歩きながら仁は礼子の頭を撫で、労う。礼子はいつも以上に嬉しそうだ。触覚が付加されたことで、より仁を身近に感じられるようになったからだろう。
「れーこさんにうんてんしていただけてうれしかったです」
 ネオンもベルチェにそんな話をしている。同じくエドガーはエルザと何か話していた。
 黒騎士シュバルツリッターノワールはラインハルトの横を寡黙に歩んでいる。
 先行していたサキは砂浜に足を踏み入れ……こけた。砂に足を取られたらしい。
「サキ様!」
 サキの顔が砂に触れる一歩手前でアアルがサキを支えた。
「アアル、ありがとう。くふ、ちょっとはしゃぎすぎたようだね」
「おーい、サキ、大丈夫か!」
 ラインハルトも心配して声を掛けた。サキは手を振って答える。
「ああ、ボクは大丈夫だよ。アアルが助けてくれたからね」
 そして海を見つめるサキ。その顔は実に満足そうな笑みをたたえていた。
「うーん、聞いたとおり、水平線が丸いね。この世界ってやっぱり丸いんだね……」
 仁もラインハルトも、サキもベルチェも、もちろんエルザも、この世界が丸いということを知っている。が、知っているのと実感するのはまた別だ。
「本当に丸いですわ……」
 ベルチェも海を初めて見たらしく、感慨深げに呟いた。V26V速效ダイエット
「ああ、早く外輪船を作りたくなったよ」
 工作馬鹿の面目躍如、ラインハルトが口にしたのはそんなセリフであった。

独り立ちの条件
「魔法技術者マギエンジニアとしての独り立ち?」
 聞き返したラインハルトだが、次の瞬間には仁の意図するところを掴んでいた。
「なるほど、エルザをショウロ皇国に認めさせ、帰国出来るようにしたいんだな?」
「え」
 ラインハルトのセリフに、当のエルザが真っ先に反応した。
「ああ。今のままだと、エルザには帰国する機会が巡ってこないだろうからな」
「ジン兄。……私……」
 悲しげな顔をして何か言いかけたエルザを、仁は遮って説明する。
「勘違いするなよ、エルザ。なにもエルザを追い出そうとかそういうことじゃない。ただ、いつまでもこそこそしているというのは良くないからな」
「ふうん、なるほど。ジンも考えたものだね」
 感心したようなサキの声。
「ああ。サキのお父さんが、駆け落ちしたあと、錬金術師として大成したからこそ、結婚を認められたと聞いてさ」
「ふ、なるほどね。少なくとも一流の魔法技術者マギエンジニアなら、子爵令嬢よりもずっと、自分の意志を尊重してもらえるだろうからね」
 そこへベルチェの声が入る。
「そうですわね、一流の魔法技術者マギエンジニアともなれば、国からの援助も期待できますし、爵位のない貴族よりも社会的基盤はしっかりしますわ」
 仁はサキとベルチェの発言を聞き、自分の考えが間違ってないことに確信を持った。
「ジン兄……」
「エルザ、今のエルザは逃げ出したままだ。堂々と帰国し、堂々とここへ帰ってくればいい」
 仁はエルザに微笑みかけた。エルザも仁の意図を理解できて、ようやく愁眉を開いた。
「……うん、わかった」

「それにしても、ジン様」
 少しだけ顔を顰めたベルチェが仁に話しかけた。
「今の言い方は良くないですわ。状況から見て、エルザさんに何の相談もなく、ジン様が決めて、いきなり今、口にされたのでしょう?」
「う、うん」
「……それではエルザさんが誤解しかねませんわ。自分が邪魔になって追い出されるのか、と思ったとしてもおかしくない流れでしたもの」
「……」
 返す言葉もない仁。
「はあ、ジン様には、女心をもう少しわかって欲しいものですわね」
「……ごめん」
 今は謝るしかない仁であった。
「わたくしにではなく、エルザさんに謝って上げてくださいまし」
 言われた仁はエルザにも謝ったのである。
「……ごめん、エルザ。言葉が足りなかった」
「ううん、ジン兄が私のこと考えてくれてたからこそだから」

 今のエルザは亡命者だ。犯罪とまでは行かないが、己の意志で国を捨てたという扱いになる。
 ショウロ皇国の法によれば、確固とした理由があったことを証明しない限り、帰国は許されない。
 もし帰国すれば、その者に待っているのはーー国外永久追放の刑である。
 利己的な理由で国を捨てたのだから当然の処遇と言える。

 だが、エルザが、その才能を伸ばすため、仁という魔法技術者マギエンジニアー名誉魔法工作士オーナリー・マギクラフトマンに弟子入りし、国に貢献できるだけの技術を得るためだった、と証明出来たら。
 亡命は許され、エルザは晴れて魔法技術者マギエンジニアと認められる。そうなれば、家のためという理由で無理矢理嫁ぐ必然性は無くなるのだ。
「うん、だから、必要なら、俺がバックアップする。堂々と帰国して、皇帝陛下に謁見しろ」
「え、え?」
 いきなり皇帝陛下、という単語が出てきてちょっと面食らうエルザ。だが、ラインハルトは仁の言葉を更に補足する。
「そうだな。高性能な自動人形オートマタを作れるというならもう一流だ。今のエルザなら、間違いなく陛下のお言葉を賜ることが出来るだろう」
「……」
 いきなり話が進められて、困惑するエルザ。そのため、何を口にするべきかわからないでいた。
「エルザ、あなたはまだ若いのですから、国を捨てる、という悲しいことをいつまでも続けていてはいけませんよ。ジン様もラインハルト様もお力を貸してくれると仰っています。それに応えるのがあなたのすべきことですよ」
「でも……母さまは?」
「私は……もういいのです。元々私はエゲレア王国の出身ですしね。今更ショウロ皇国に帰った所で……」
 それを遮ったのはやはり仁。
「いや、ミーネだって大丈夫さ。ミーネは、イサカナートでエルザと共に『統一党ユニファイラー』に攫われた。ラインハルト脅迫の道具にされかかったんだな。で、逃げようと暴れたため、ミーネは頭を殴られ、腹部をナイフで刺されてアスール川に投げ込まれた。それを俺が救って、面倒見ていただけだ。……ほら、何も問題無いだろう?」
「ジン様……」
「ああ、そうだな。僕も証言できるよ」
「ラインハルト様……」
 2人からの温かい支援に、ミーネは目頭を押さえた。
「そうそう、もし証人がもっと必要なら、ミーネを治療してくれた治癒師、『サリィ・ミレスハン』を連れてきてもいいし」
 とうとうミーネは嬉し泣きを始めてしまった。
 静寂が漂う。それを破ったのは幼い声。
「おばちゃん、だいじょうぶ?」
 ハンナだった。静かに涙を流すミーネを心配して掛けた言葉。それを知っているミーネは微笑んだ。
「大丈夫よ、ハンナちゃん。悲しくて泣いてるんじゃないから。嬉しくて泣いてるの。あなたのお兄さんの優しさが嬉しくて」
 そう言ってハンナの頭を優しく撫でるミーネであった。

 しかし、エルザとミーネが故国に帰るとしても今日明日の話ではない。御秀堂養顔痩身カプセル第2代
 準備も色々とあるだろうし、出来ればショウロ皇国内での根回しもしておきたい。
 それより何より、今回はラインハルト夫妻の新婚旅行なのだから、深刻な話は一旦切り上げることにした。
 今後、仁とラインハルトで詰めていくことになる。

      

「ほう、変わった城だなあ!」
 仁と共に二堂城へ移動したラインハルト夫妻。サキとエルザも一緒である。
 今は、1階にある食堂で軽い食事を済ませた後、2階を見ているところ。
「ジン様、本当に珍しいお城ですわ。これって、クライン王国式なんですの?」
 ベルチェも興味津々に尋ねてくる。
「いや、これは俺の郷里の城なんですよ」
「ジン様の郷里っていいますと、どちらですの?」
「ニホン、といいます」
「ニホン……」
 ラインハルトとエルザは知っているが、ベルチェとサキは初めて聞く国の名である。
「ジン、ボクも寡聞にして知らないな。どの辺にある国なんだい?」
 仁はどう答えようか、と少し考えた末に、少しおどけた調子で言った。
「うーん、そうだな。とても遠い場所にある国、かな。行こうとしたら1000年くらいかかるほどに」
「くふ、それは遠いね。とてもとても遠いね」
 サキも仁の表現が冗談だと思い、調子を合わせて言った。

 3階に登り、執務室、そして図書室へ。サキにもまだ見せていなかったため、ラインハルトと2人して本に引き付けられていた。
 子供向けの本もあるのだが、工学魔法についての本や、素材について解説した本を手にとって興奮している。
「ジン、こ、これは!? すごい内容だ! 初級篇と書いてあるが、上級篇の間違いじゃないのか!?」
「ジン、この本って、いったい誰が書いたんだい? 半分以上……いや、大半がボクの知らないことばかりだよ!」
 老君がそれらしくでっち上げた本だ、と言うわけにもいかず、
「えーと、師匠が遺してくれた本の写本だよ」
 などと誤魔化さざるを得なくなった仁であった。

「5階は俺の寝室とかがある、プライベートフロア。6階は展望台になっている」
 階段を登りながら仁が説明。若干息が切れている。
「4階は?」
「うーん、何と言ったらいいかな。いざという時のための予備というか……」
 トラップフロアと言ったら引かれるのではないかと思った仁は言葉を濁した。
 そんな仁の様子を見て、話しづらいのだろうと察したラインハルトはそれ以上尋ねてくることはなかった。
 5階はさらっと済ませ、6階へ。
「おーっ、これはいい眺めだ!」
 東西南北それぞれに窓があり、四方を眺められるので、ラインハルトとベルチェは子供のようにはしゃいだ。
 何度目かになるエルザとサキも、やはりここからの眺めは気に入っており、窓から窓へ、変わる景色を楽しんでいた。
「あれがエルメ川、その向こうがトーゴ峠。西は針葉樹の森だな。東は広葉樹の森で、花も咲けば実も生って、村になくてはならない場所さ」
「ふむふむ、畑からだけじゃないんだな」
 頷くラインハルト。いずれ治めることになる村のことを考えているのかも知れない。
「北がカイナ村だな。その向こうの低い山は薬草が採れる。その向こうに行くと土系統の魔結晶マギクリスタルが採れる場所がある」
「ジン様、奥の山に光って見えるのは氷河ですの?」
 意外なことにベルチェは氷河のことを知っていた。ショウロ皇国からは氷河がかかるような山は見えなかったのだ。
 そうだ、と返事をしながら、ちょっと意外そうに思う気持ちが顔に出ていたのか、
「以前本で見ましたの。実物をこの目で見られて嬉しいですわ」
 と、ベルチェは仁に言った。
 夕暮れが近付くまで一同は展望台からの眺めを楽しみ、話に花を咲かせていたのである。

 夕食は二堂城の食堂で。
 クライン王国風料理に舌鼓を打った後は、例のペルシカジュース。
「ううむ、これは美味い!」
「美味しいですわ、ジン様!」
 和気藹々と、カイナ村の夜は更けていった。韓国痩身一号
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