おさかなとちいさなおはな

May 20 [Wed], 2015, 21:42


あたたかい春のころ。

あるところに、川がありました。

川は細く長く、冷たく流れる水はとてもきれいに澄んでいて、たくさんのおさかなが棲んでいました。

そのおさかな達のなかに、一匹のおさかながいました。そのおさかなは生まれたばかりで、他のおさかなよりはまだ

いろんなことを知らないけれど、いつも元気に泳ぎまわっています。

ある日、いつものようにおさかなが水のなかを泳いでいると、ふと、川のへりに咲いているちいさなおはなをみつけました。

ちいさなおはなは、花びらがあかくて、おしべはきいろで、からだはみどりで、太陽の光をいっぱいにあびて、とてもきれいでした。

おさかなは、ちいさなおはなに話しかけました。

「ねぇ。きみ、とてもきれいだね」

おはなは、急に話しかけられたことにおどろきました。でも、すこししてから、おずおずと話しだしました。

「・・・あの、ありがとう。あなたも・・・とてもきれいよ」

おさかなは、じぶんがほめられたことにとてもおどろきました。

「ぼくが?どうして?」

「だって、あなたのからだはお水にぬれて、光っているから。すごくきらきらしているの」

おさかなは自分のからだを見てみました。だけど、水の中にいるおさかなには、自分が光っていることなどわかりません。

「ぼく・・・きらきらしてる?」

「ええ」

「ぼく・・・きれい?」

「ええ」

おさかなは初めてほめられたことがうれしくて、元気に跳びはねました。

すると水がちいさなおはなにかかり、おはなはきゃっとおどろきました。

「あ、ごめんね!」

「ううん、いいの・・・びっくりしただけだから。でも、うふふ、川のお水って冷たくてきもちいいのね」

「うん、すごくきもちいいよ!それに・・・」

「それに?」

「きみもいま、水にぬれて、きらきらしているよ!とってもとってもきれいだよ!」

ちいさなおはなは、あかい花びらをよりまっかにして、小さなこえでいいました。

「・・・・・ありがとう」

その日から、おさかなは毎日ちいさなおはなのもとへ訪れました。

おさかなは泳いでいった場所で見たいろいろな景色のことを話し、ちいさなおはなは楽しそうにきいていました。



夏になり、おさかなは少し大きくなりました。ちいさなおはなは、ちいさなままでした。

「ねぇ、きみはどうして大きくならないの?」

「わたしはもうおとなだから。これ以上大きくはなれないの」

「そうなんだ。ぼくもはやくおとなになりたいな」

「ふふ。いそがなくても、そのうちなれるわ」

だんだんと太陽の光が暑くなり、ちいさなおはなはのどがかわいたといいました。

「まかせて!えいっ」

おさかなは大きく跳びはねて、おはなに水をたくさんかけてあげました。

「きゃっ!うふふ、きもちいい」

ちいさなおはなはうれしそうに笑い、おさかなもうれしくなりました。



秋になりました。たいようの光が弱くなり、すずしくなってきました。

おさかなはあいかわらずとても元気です。ちいさなおはなも、風がふくと気持ちよさそうにゆれています。

「あのね、この前、おおきな鳥におそわれそうになったんだ」

「まぁ。それで、どうしたの?」

「ぼくはいっしょうけんめい泳いで逃げて、川の深いところにもぐってかくれていたら、そのうちあきらめて帰っていった
よ」

「すごい。あなたはとても賢いのね」

「そうかな?」

「ええ。それに勇気があるわ」

ほめられて、おさかなはかおをあかくしました。おはなは、にっこりとわらいました。

「わたし、あなたのお話をきくのが大好きよ。わたしはこの場所からうごけないから、あなたがいろんなことを教えてく
れて、毎日すごく楽しいの」

おさかなは、ちいさなおはなを見つめました。春に出会ったときより、もっとずっとかがやいて見えました。



冬がやってきました。つめたくてさむい冬に、草木は色をなくし、ちいさなお花もまた、だんだんと元気がなくなってい
きました。

おさかなは冷たい風にたえるおはなに、心配そうに話しかけました。

「だいじょうぶ?こごえているね」

「・・・ええ、だいじょうぶ。これくらい、へっちゃらよ」

おはなはそう答えて、それからすこしさびしそうにいいました。

「これからもっとさむくなったら、川の表面がこおってしまうの。そうしたらあなたは、ここへは来られなくなるわ」

「え?そんなのいやだよ、ぼくはきみに会いたい!」

「わたしも、あなたに会いたい。でも、しょうがないことなの」

「だったら、こおるまえにずっとここにいる」

「だめよ。そんなことをしたら、あなたがさむさで死んでしまう」

「でも・・・・」

「だいじょうぶ。春になったら、こおりがとけて、また会えるようになるから。そのときまでわたし、ずっとあなたをまっているわ」

「ほんとうに?ぜったいだよ。約束だよ!」

「ええ、約束」

ちいさなおはなはやさしくほほえんでくれて、おさかなも安心しました。

それからさむさはどんどんひどくなり、とうとう川の表面がこおってしまいました。

おさかなは川の底で、こおりがとけるのをじっとまっていました。なんにちも、なんにちも。



そしてながい冬が終わりをつげ、少しづつあたたかくなってきました。

そう、春がきたのです。

こおりがとけはじめ、外の景色が見えてきました。さかなはまっさきに、ちいさなおはなのもとへと泳ぎました。

おさかなは水から顔をだし、おはなに話しかけました。

「おまたせっ、ほら、会いにきたよ!」

そこには、雪におおわれていてほとんど姿の見えないちいさなおはながいました。

「あれ。この白いものはなに?ねぇ」

おはなは、なにもこたえません。

「ねぇ、どうしたの?どうしてなにも言ってくれないの」

おはなは、なにもこたえませんでした。



あたたかくなり、雪もとけはじめました。おさかなはまいにちちいさなおはなのもとを訪れます。

「おはよう!おひさまがすごくまぶしいね。でも、いい天気だなぁ」

「さっきね、知らないおさかなに会ったんだ。ずっと遠いところからきたんだって!」

「きいて!今日は今まででいちばんはやくここにつけたんだよ!すごいでしょ?」

おさかなはくる日もくる日も、ちいさなおはなに話しかけます。

それでもおはなは、地面にぐったりと倒れたままなにも言いませんでした。

「あのさ、ぼく、はじめて会ったときよりずっと大きくなったとおもわない?ほら!」

おさかなは水のなかをくるくると泳いでみせました。けれど黙ったままのちいさなおはなに、おさかなは泳ぐのをやめました。

水から顔をだし、ゆっくりとおはなに近づきます。

あかいはなびらはしなびて、おしべのきいろい部分はくすみ、みどりのからだはつぶれていました。

きれいだったちいさなおはなは、さむくてつらい冬を経て、ボロボロになってしまったのです。

おさかなはしずかに、ちいさなおはなを見つめます。

「ねぇ・・・。ぼく、おとなになったよ?きみとおなじになったよ。ねぇ・・・・」



おさかなは思い出します。

はじめて出会った春を。

たくさん遊んだ夏を。

かなしいお別れをした秋を。

ずっとまち続けた冬を。

ちいさなおはなの、えがおを。



おさかなは泣きました。ただただかなしくて、さびしくて、なみだが止まりませんでした。



どれくらい泣いたのでしょう。ふと、春の風が吹き、ちいさなおはなを揺らし、花びらが一枚とばされました。

その花びらはゆっくりと空を舞い、やがて川へ落ち、おさかなのすぐ近くに浮かびました。

おさかなはおどろいて、花びらを見つめました。

しなびてしまっても、その花びらは赤くて、とてもきれいでした。

おさかなはそっと ちいさなおはなにキスをしました。

「ありがとう・・・・」




そしておさかなは 旅にでることにしました。

ちいさなおはなが大好きだといってくれた いろんな話をするために

そして旅が終わったら またきみに会いにくるね



そのときまで さようなら。




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