綾華1 

October 06 [Mon], 2008, 13:26
ねえ。

運命って信じる?



あたしはあるって思うな。



パパとママの下に生まれて、愛されて育って。

いい事もいやな事もたくさん経験して

うれしい事は糧に、悲しい事は乗り越えて。



そして、今あたしがここに居るって事も

なにか大きな歯車のなかの小さな一片なんだと思う。



だから


「やっと逢えたね」

そう言って巡り合える瞬間を

ずっと、待ってる。








***

「…だったんだよね!ってちょっと綾華、聞いてる?」


楽しそうなおしゃべりが中断され、一人の少女に視線が集まった。


「え!?。。。。あ、ごめん」

「もう、ぼーっとして。どうせ昨日も遅くまで飲んでたんでしょ」


少女の反応に、友人の1人がため息をつく。




 長い夏休みも終わり、後期の授業が始まったばかりの校内。

その一角にあるカフェテリアは、たくさんの人で溢れかえっていた。


 もう通い慣れた大学。田舎である事も手伝って、決して大きくはない校内は伸び伸びとした空気が流れている。


歴史が無いといえばそれまでだが、

出来たばかりの大学は校舎が新しく、まるで大きな大きな病院の様な印象を受ける。


また様々な設備も整っており、学生にとっては過ごしやすい環境が整っていた。


 特に1階にあるカフェテリアには多くの生徒が集まり、食事や自主勉強、友人との談笑など、自由な時間を過ごすのだ。



 その例に洩れず、指定席とばかりにカフェテリア窓際の席を陣取り、

女の子3人が他愛ない話に興じている最中だった。


 その中の1人、綾華は慌てて顔を上げた。

動きに合わせて柔らかそうな黒髪が揺れる。


(いけない!ついうとうとしちゃった)


 外は少し肌寒いとはいえ窓からの日射しは暖かく

心地よさにつられて、少しうたた寝をしてしまった様だ。


「疲れてるみたいだねー。そんなに遅くまで飲み会してたんだ?」

「っていうか合コンだったんでしょ?さては気に入った人居るんだー!?」

「綾華は惚れっぽいからなぁ」

「面食いだしね」


 アハハ、と面白くて堪らなそうに笑いながら、友人2人が綾華を冷やかした。



 綾華は乱れてしまった髪を直しながら少しだけ不機嫌になる。


「そんな言い方しなくてもいいじゃん。」

「えーだって、男欲しくて無理に飲み会行ったんでしょ?体悪くしても知らないよ?」


 友達のきついもの言いに、綾華は少し俯いた。


「まあそうなんだけど。そういう事じゃなくて、あたしはただ…!」

「ただ何?」

「……なんでもない」

「…ふうん?」



自分の事を理解して欲しい気持ちと、どうせ分かりっこないという思い。


両極端な2つの感情は境界が曖昧で、何かの拍子に表と裏が入れ代わってしまう。


 さっきまでの楽しい気分が急にしぼみ、代わりにイライラするような、少し寂しいような何とも言えない気分になる。


2人の友人はと言うと、とっくに興味が失せたのか


何か別の話をしながらクスクス笑っていた。



(まぁ、いいんだけどね)


2人の会話に入る気になれず何となく携帯を開くと、時刻はとっくに3時をまわっていた。


それを見るなり、綾華は慌てて荷物をまとめ始めた。


焦るあまり、さっきまで感じていた苛立ちが吹き飛ぶ。

「いっけない!あたしもうバイトの時間だから行くね!」

「おー。行ってらっしゃい」

「頑張ってねー」



 友人達の声に見送られ、綾華は足早にカフェテリアを去った。


その足取りに無駄はなく、真っ直ぐ駐車場へと向かう。


 10月の初め。あんなに暖かかった室内からでは想像できないほど、冷たい風が吹き付けてくる。


脱いでいた薄手のコートを羽織りながら車までたどり着くと、何を思ったか綾華は空を見上げた。


その口からはふっと笑みが零れる。



 空は高くどこまでも澄んで、太陽が眩しい。


まるで、何かいい事が起こる前触れのような。



そんな晴れ晴れとした空だった。
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