後編 

2006年03月29日(水) 22時55分
目の前には田園風景が拡がっている。ちゃんと草木の匂いもするし、風も吹いている。
天井があるはずなのに、青空と太陽も照りつけているではないかっ。
ひょっとしてさっきまでのは白昼夢で、僕はずっとここに居たんじゃないだろか?と疑って振り返ると乗ってきたエレベーターがあるからやっぱり現実だ。
なんて状況がつかめないままフラフラと畦道を散歩してみることにした。土の匂い、カエルの鳴き声…なつかしい…
路の脇に小さな同じ形の農家がぽつぽつ見えてきた。誰か居るのかな?近寄って覗いてみるよう。
すると、701号室702号室…と言うように部屋番号がふってあるじゃあないかっ。しかも普通のマンションにある鉄製のしっかりしたドアが付いている。
ひょひょっとしてもしかしてこれが新居なのでは? と僕はインターホンを押す。
ピンポーン ピンポーン
宇田さんが出てきた。
「やあ、いい天気だね…」やはりそうか、ここはマンションなんだ。
都会に居ながらにして田舎の空気が味わえる、都会に徒歩0分の田舎のマンション…否、マンションの中の田舎…ああ…頭がデタラメになってきた…
部屋の中も外見からは想像できないくらい普通のマンションだった。外の天候や太陽なんかも人工的に調節して日々変わるんだってさ…。雨降ったり…
良いのか悪いのか分からないけど、すごい所に引っ越したんだなあ、宇田さんは。
しばらく話をしてお茶を呼ばれて帰ったのでした。

前編 

2006年03月23日(木) 22時56分
宇田さんから葉書が届いた。

なんだろうと思ってなかを読んでみると、新しいマンションに引っ越したのでまた遊びに来てください。
というような内容のお知らせだった。
「引っ越したぐらいでこんなの送ってくるなんて珍しいな。でも学校を卒業してから一度も連絡を取ったりしていないし一度行ってみようかな。」

そんな思いつきで彼女に連絡を取り、次の日曜に会う約束をした。
そしてその日曜日、僕は葉書に書かれた住所を辿って彼女の新居を訪れた。
ははあ、この大きな建物は見たことがあるぞ。だけど総合レジャー施設というような雰囲気であって、マンションだとは知らなかったなあ。

そんなこと考えながらとりあえず玄関から入ってみる。
1階は広々した玄関というか、特に何があるわけでもないフロアだった。案内図を見てみたら2階は結婚式場になっている。あとはショッピングフロアだったりとか何やらかんやら様々なフロアが階ごとに分けられていて、上層階が住居スペースになっているみたいだった。
ここで買い物も出来てしまうし、いろんな施設が揃っているから下手をすればこのビルの外に出る必要がなくなってしまうかも知れない。
そういえば各階ごとに世界が分かれているゲームとかアニメがあったなァ〜たしかこんな話だった。
虹が出るんですよ、虹が。ああ…話が遠ざかってゆく……

妄想を繰り広げながら僕はエレベーターで宇田さんの住んでいる階まで昇っていく。階に着いたらゆっくりと扉が開き、なぜか眩しい光が差し込んできた。だんだん光に眼が慣れてきて僕は驚いた。

第十話 家へ帰ろう 

2006年02月03日(金) 22時03分

そんなこんなで準備もOK。だけど炊飯に使ってしまった為に薪が残り少なくなって、肝心の「肉」を焼くぶんの燃料がなくなってしまった。
考えたすえ、軍手を投げ込んだ。さすがは綿100%よく燃える。とか感心している間に今度はその業火によって肉や野菜のいくつかは炭になってしまった…悲しい。全員未だ腹ペコのまま、網の上に残った二本のトウモロコシを一口づつまわして行くことにした。ひとかじり ふたかじりとまわすにつれて、段々と早さが上がっていく。皆、自分が誰よりも少しでも多く食べたいものだ。
すると突然、なにを血迷ったのか、智がトウモロコシを掴んで走り去った。「なにやっとんじゃ〜こらあ〜」僕らも直ぐに後を追って倒れ込んだトモをメッタ打ちにした。殴る蹴るの暴行。
ちなみにその時も奴はモロコシにかじり付いて放さなかった。

そうこうしているうちにだんだんと我に帰っていった僕らは、萩もが居ないことに気付いた。
はて?それで皆で見回ってみた。すると、萩モは驚いたことに手洗い場の影の所でちょこん とそれは小さく小さくなってもう一本のモロコシをしがんでいた。
その小デビルの様な風貌が気の毒になって、ばかばかしく思えて、しばらく笑いが止まらなかった。
食べ物の恨みは恐ろしいというけれど。

その翌日、僕らは滋賀県を抜けて家に帰った。
それはもう大変な道のりだった。強い日差しに照りつけられて喉が渇く。それで飲み物を買って水分補給をしながらなんとか夕方頃には家路に着いた。残金は全員合わせて数十円しかなくなってた。
この旅行はほんとに計画性がなかったし無茶苦茶な旅だったけど、そんな思い出のほうが心には残るものなんだろう。夕暮れはだんだん深くなって、やさしく僕らを包んだ。
完。

第九話 腹ペコ坊やにボンカレー 

2006年01月28日(土) 22時00分

昼前にはスーパーマーケットに到着した。
二日目の夜は盛大に焼き肉とずっと前から決めてた。それで半額セールの肉を発見したけど、肉が焼いたような色で明らかに腐りかけ…もしくは腐っているみたいだった。かなり怪しかったけど残金が残り少なくなってきてるので、その肉と野菜を買い込んだ。(あとでその野菜は炭に…)
買い物を済ませてひと休憩。昼食用に買っておいたバナナをほうばりながら正午の時報を聴いてちょっと泣いたあと、また自転車を漕ぎだすのだった。
キャンプ場に戻って来たらすっかり夕方の気配が漂っていて、いつの間にか利用客でいっぱいになってごった返していた。
肉が腐ってしまう心配もあるので、さっそく夕飯の準備に取り掛かる。
僕と萩モは炊飯を、尚と智は火起こしをそれぞれ分担して用意をする。お米と野菜たちをきれいに洗いに来て何かが落ちているのに気付く。その美しく洗練された独特のパッケージのデザインがキラリ目に飛び込んで来た。
「ボンカレー 甘口」置いているのではなく、「落ちている」という自分勝手な類の解釈でそいつを拾うと、火起こしの二人のほうに小躍りしながら駆けていって見せびらかす。まるで英雄のような扱いだった。この時点で鍋がないことには誰も気付いていない。

全てがうまくいく筈だった。腹が空いて蠅がブンブン顔の周りを飛び回っている状態が気にならないほどに頭はぼうとしていた為か正常な判断ができなくなっていた。
と、その時、「君達ここにあったカレー持ってってない?」と誰かが言う。
そっと視線を傾けると大学生2人が立っていた。こいつ、なに初めから決め付けて疑っとんねん!と言いかけたのを遮る形で 「すんません、持ってます。」と萩モがアッサリ白状したのだった。
落ちてると思って と同時に付け加えたが、逆効果だ。彼らは明らかに疑いの目をこちらに向けて立ち去って行った。ここでカレーを作る為の鍋すらも持ってない事も思い出した。
これじゃどうにもならないぢゃないかっ。う〜む気まずい…

第八話 そんなこともあるかも知れない 

2006年01月25日(水) 22時57分
自分以上にブチ切れている萩もを見ていたら不思議と冷静になってきた。
いくらなんでもタダは無理かと踏んだので尚と僕は一策を講じた。
「まぁまぁ萩モ、ちょっと落ち着けよ?
でも、たしかに何時に行くとは言ってなかったですがね、予約してんのに居てはらへんのもおかしな話や思うんですわ。ですから、タダとはいいません。せめて半分くらいにしてもらえんやろか?」
と迫るが、それなら泊まらんでええ。と逆ギレされ、敢えなく撃沈。
さらに立場が逆転してしまい、テントと火を起こす為の薪を普通に買うことで話がついた。それらを倉庫から出してきて、支払いを済ますとおばちゃんはさっさと帰ってしまった。大人は恐ろしい。

キャンプ場にぽつり取り残された僕らは大急ぎでテントを組立てると、直ぐに辺りの森林に夜が覆い被さってきて、漆黒の闇が僕らを包んだ。危うくテントを組み立てられなくなる所だった。
懐中電灯と焚き火を点けて、どかっと夕飯の支度をする。といっても固形スープと白ごはんだけだったんだけれど…。
何しろ今日はどっぷりと疲れたので泥のように眠る。さんざんな一日だったけどすごく充実していた。

次の朝 しゃっきり目覚めると、キャンプ場にはべつのテントが立っていた。とりあえず先輩面をして練り歩いたあと、川で軽く泳ぐ。それから食事の材料を調達しに行く。何やらキャンプらしくなってきた。
で 何処まで買い出しに行けばいいのかさっぱり分からないので山を降りた所にあるガソリンスタンドの兄さんに訊いた。近くにあるんだけど、ちょうど 今日が定休日なんで、ここから10キロほど向こうにスーパーマーケットが一軒だけあるらしい。
それで、せっせと自転車を漕ぎだした。なんにもない。ただ緑の上を走るアスファルトと青い空があるだけ。まあ そのうち着くだろうってな気持ちで走り続ける。どんどん風景が通り抜けていく…どんどん心は透明になっていった。

第七話 おばちゃんは好きですか? 

2006年01月20日(金) 0時51分

こうしてようやく目的地である久多キャンプ場に到着した訳だけれど、見渡してみれば人気がない…もっと見渡してみても誰もいない。
さらに予約していたはずなのになぜだか管理人がいない。公衆電話があるのですぐに皆の10円玉を集めて、キャンプ場の管理人直通の連絡先に電した。だけど繋がらなかったので、書いてあるもうひとつの番号に掛けてみる。
ジリリリリ…!?次の瞬間、僕らの背後にある管理室の室内にある電話が虚しく鳴り響いた。
間もなく留守電が応答して4枚しかないうちの10円玉が1枚吸い込まれていった。
もう考える元気もなく、もうあかん…皆ただ呆然とした。
。もう時間は六時頃だからあと一時間もすれば真っ暗になるだろう。おまけに熊出没注意の洒落た看板が盛り上げてくれるぜ 大将。 ひとつ手を思い付いた。

困ったときには110番。

「…はい、京都府警です。」「助けて下さい!今とあるキャンプ場では大変な事件が起こっています…!」
もうこの時間帯になると、なんでもできるテンションになっていた。
待っている間に一応ダメもとで最後にもう一回だけさっきの管理人の番号にもう一度だけ電話してみたら、掛かった。おばちゃん声ではぁい、もしもし などとちょい眠めの声を聞いた瞬間にぽちっと例のスイッチが入った。
「こっちゃ大変な思いして来てんスよォォ!なんで誰も居ないンすかあぁぁぁあ」想いのたけをぶつけて、早くこっちに来て欲しいと言って電話を切るとすぐパトカーが来た。ほんまにスンマセンでした連絡が付いたので大丈夫です。と謝って引き取ってもらった。それから五分もしないうちにママチャリを軽快に滑らせて管理人のおばちゃんは登場した。
カーン。それが始まりのゴングだった。もう僕らは全員戦闘モードで、おばちゃんにグイグイ噛付いていった。なかでも萩モのキレ具合は凄まじい。なんたってどさくさに紛れてキャンプ場と貸テント代金をタダにしろと襟元をつかんでいく勢いだ。この男、輝いている…

第六話 とってもお高いボンカレー 

2006年01月15日(日) 21時51分
そうやって彷徨っているうちに民家で経営しているお茶屋さんを見つけた。
もう朝からなにも食べないで走り続けてきたから腹ペコなんで迷わず入った。ちょうど食べる物もあって、僕らは四人ともカレーを注文した。価格は830円。なんでやねん。高過ぎやろ とは誰も言わなかった。
背に腹は代えられないという状況だ。待っているあいだにどうしようかと話していたら、ふと、暖簾の隙間から四つのボンカレーをグツグツと茹でているのが見えた。ただでさえお金が無いのにやってくれるやんけと額に青筋を立てていたら、萩モが外に留めてある軽トラックを指差して「あれ、乗せてもらおう」と切り出した。少々殺気立っていた。
帰ることもできないし、幾ら進めば着くのかも分からない軽く追い詰められた状況のなかで僕はどこかこの危うさを楽しんでいた。萩モも少しずつ野生の力を解放し始めている。
ここまで来たらやるしかない。ジャンケンをしてから店の主人に頼み込んだ。もはや駄目とは言わせないような魂の叫びでこれを押し切る。

それで荷台に揺られて20〜30分。山の上にひっそりと久多キャンプ場はあった。
「ありやとやんしたぁ〜!!」「がんばりや〜」
僕らは喫茶店のおじさんに送ってくれたお礼を言って別れたのだった。智が何かお礼をしたいと言って住所を教えてもらっていた。素直に大喜びして雄叫びを揚げる。

第五話 火照った肌にはタイガーバーム 

2006年01月14日(土) 10時53分


そこからは標高に悩まされる。鞍馬寺より先は勾配の登坂続きで、ものすごいしんどさだった。おまけにじんじんするくらいの暑さで、タイガーバームを手足に擦り込んでほてりを抑えながら自転車をこいだ。このころ僕は部活の練習でうだるような暑さのなかを毎日走っていたから体力には自信があった。当然自分がこの峠を一番に登りきるものだと思っていた。だけど実際は最下位。先頭を走っていた尚に続く萩モはすでに見えず、ついさっきまで一緒にいた智でさえ前を走っていく…悔しい。「どうしてあんなポッキー脚のやつに抜かされるんだろう」なんて考えていた。思考が体力をさらに奪っていく。頭の中真っ白状態で必死にペダルを踏んだ。頂上あたりで湧き水が溢れていて、そこでみんな待っていた。もうひと休憩入れた後、また漕いだ。
もうすぐ目的地に着くのだろうという雰囲気のなか頂上から見渡す景色を胸一杯に吸い込んでまた一気に坂を下る。この時僕の頭の中に描き出されていたのは「疲れたなあ〜いや〜遠かった!あの花背峠を登ってる時どうなるかと思ったわ」などと語り合っている感動の場面だったんだけど、
幾ら漕いでも着かない。というより、なかば道に迷っているせいもあって、あとどれくらい走れば辿り着くのかすらもまるで見当が付かない。徐々に夕暮の気配が漂い始めてカラスの一羽もかーと気を利かすものだからついにみんな、黙りこくってしまって最後には萩モが泣き出した。もう静かに帰りたい…

第四話 お金がなくても進むのさ 

2006年01月10日(火) 23時40分

そしてとうとうテストも終了し、いよいよ出発だ。
集合時間に遅れないように、みんな前日から尚の家に泊まり込んでた。それにしてもゆうべはほとんど眠れなかったから体調は万全じゃなかったにもかかわらず、走り出しは好調 天気も快晴だった。しばらく気持ち良く1号線を走ってたら久御山のあたりで尚が何か言ってる…え?財布を忘れたと言い出した。ひとり五千円と決めたから、二泊三日の予定で全員合わせても二万円しかない。だけどこんな事もあろうかと僕は念のために五千円余分に持ってきてるから計画的には問題ないと尚を説得してまたペダルをこぎだす。
まあ計画段階での予算が安すぎたと後になってから気付くんだけど…。ともあれ、むちゃくちゃ遠いと思っていた京都市内には思っていたよりすんなり入れた。
「なんや?京都ってむっちゃ近いやん!こら、ゆっくり走らんと早く着きすぎるで。」とか言ってた。だけどこの後、血ヘドを吐く思いをすることになる。見方がよく分からなかったから地図帳を持ってない。道行く人やたばこ屋のオバちゃんに訊きながらとりあえず鞍馬天狗の伝説が残る鞍馬寺を目指して、昼飯までにできるだけ距離を稼いどこうと思いっきりペダルをこいだら、悠々昼頃には鞍馬寺に到着した。
良いペースだと思ってた。でも気付いてみたら人里離れてしまって食べるところなんかどこにも見当たらない。あっても観光客向けの料金が高めの蕎麦屋くらいのもんだった。
「まあまあ、どんどん進んでってコンビニとかあったら何か食べようや!」…ていうか、進むほどにますます何もなくなっていく。

第三話 出発前夜 

2006年01月09日(月) 0時35分
 そしてテスト期間に入った。僕は不思議な技術をもっている。それはテスト勉強を一分たりともしていなくても答案用紙が配られた瞬間に自信が湧いてくるのだ。まあ、内容は伴ってないから当然ながら数日後には大変なことになるのだけれど…
「ふん!わからぬわ!」そんな感じでテストも無事終わっていよいよと言うところで大変なことが発覚した。「自転車なくなくない?」
尚と僕は持ってるけど智と萩モが持ってない。見た目にママチャリではカッコが付かない。一台は弟のマウンテ ンバイクを借りればいいけど、あと一台というところで尚がデッカイはさみ持ってきて、
「なんか駅のウラにいっつも留まってるやつあるわ」と提言した。見に行ってみたらブルーのマウンテンバイクに鍵がかかっていた。そいつを尚のはさみで一刀両断。これでOK いつでも出発できる。
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