同人小説

September 08 [Tue], 2015, 14:20

 

「なんで皆、主さんに意地悪するのさ。」


 夕餉の席。この本丸の刀剣男子が一同に会するその場所で、事情を知らぬ浦島虎徹がぽつりと言ったその一言に、その場にいた誰もが言葉を失い、静まり返った。

















 俺が顕現された本丸は、刀剣乱舞 衣装なんだか妙な本丸だった。


「俺は、浦島…
 ってあれ? 大丈夫?!」


 俺が、刀剣男子として顕現されて一番初めに見たものは、床に倒れこんだ男の人と、その傍らで慌てふためく狐だった。
驚いて駆け寄る。狐はどうやら政府の式神らしい。狐は、この倒れている男の人は審神者で、顕現に霊力を使い果たしたようだと教えてくれた。
「ねぇねぇ! 主さん!?」
彼を抱き起すも、顔色も悪くぐったりとしていて、眼鏡越しの瞳は固く閉ざされたままだ。式神に促されるまま彼を背負って運ぶ。細身な見た目の通り軽かった。式神の後を追って着いた部屋で、どうにか彼を布団に寝かすことができた。


 それからしばらく俺は眠ったままの彼の顔を、式神と一緒に覗き込んでいた。高く昇っていた日がすっかり暮れてしまった。審神者はずっと目を覚まさない。大丈夫だろうか?
 この式神はこんのすけというらしい。こんのすけの話では、彼は引継ぎの審神者で、俺が初めて顕現した刀のようだった。俺が受取箱に仕舞われたままなのを見て、顕現してみようという話になったらしい。
「審神者様は、あまり霊力の豊かなほうではなく、鍛刀はできません。それでも依代に降ろすのみならばと思ったのですが……」倒れてしまわれました。そう言うとこんのすけは再び心配そうに審神者の顔に鼻を近づけた。
「そっか…。」
目を覚まさない審神者を見る。確かに感じる霊力は多くはないが、とても落ち着くものだった。早く彼と話してみたいな。俺は審神者が目覚めるのを楽しみにしていた。

 ふと、これまで他の刀剣男子の姿を見ていない事に気付いた。
「ところでさ、他の刀剣男子はどこにいるんだ?」
「それは……」
こんのすけが言葉を濁す。すると廊下から人の気配がした。
 そっと障子を開ける。そこには俺の姿をみて驚いて目を丸くする短刀の姿があった。その手に夕餉のお膳を持っている。審神者に持ってきたのだろうか。見た目からして粟田口の短刀のようだ。彼はしばらく固まった後口を開いた。
「あんた、一体……。」
「俺は浦島虎徹。ついさっきここに顕現されたんだけど、主さんそれで倒れちゃったんだ。
君は――」
「大将!!」
彼は俺の話を途中まで聞くと、慌てて部屋の中に入っていった。横になっている審神者を見るとさっと顔を青ざめさせて駆け寄る。俺は彼と一緒に審神者の顔を覗き込んだ。するとずっと目を覚まさなかった審神者が、一連の物音に小さく唸り声を上げた。やっと気が付いたのかな!
 ゆっくりと目を開けた審神者はしばらくぼんやりしていたが、覗き込む俺たちの顔にピントが合った途端「わっ!」っと声を出して飛び起きた。
短刀と共に間一髪で頭突きを回避した俺は、枕もとを慌てて探っている彼に、そっと眼鏡を差し出す。
「どうも…。えっと」
「俺は浦島虎徹。 主さん鍛刀部屋で倒れてたんだよ。具合は大丈夫?」

主さんは驚いたように目を丸くすると、おもむろに傍らにいた式神を抱き上げて喜びだした。
「こんのすけ! 俺、やったぞ! 顕現できた!」
「審神者様! しかし、倒れてしまうようではだめです。こんのすけは肝が冷えました。」

 しばらくして主さんは俺たちの存在を思い出したのか、はっとしたように振り返る。興奮で頬を上気させていた顔から、すっと表情が消えていく。その瞳からは少し怯えるような色が見えた。
え、なんだ。主さん。どうしたんだ。

 急に沈黙が落ちる。俺は助けを求めるように隣の短刀を見た。
彼も審神者と同様に硬い表情をしている。
「……。勝手に俺たちが拾ってきた刀を顕現させちまうのには感心しないな。」
俺はその言葉に驚く。さっきまで心配そうにしていたのに、急にどうしたんだ? 主さんはその言葉に俯いてしまった。彼は俺の肩を軽く叩いて立ち上がった。
「まぁ、新入り。俺っちが案内するぜ。ついてきな。」
 俺は状況がつかめなくて、その短刀と主さんの顔を見比べる。主さんは俯いたままだった。結局、彼に促されるまま部屋を後にする。

――――それが俺と主さんの短い初対面だった。




 俺は、粟田口の短刀、薬研に連れられて本丸の中を歩いた。さっきの主さんへの対応をみていて、どんな心の冷たい奴だと思っていたが、話をすると薬研はとてもさっぱりした気持ちのいい性分なのであろうことが伺えた。更にひっかかりを覚える。
「ねぇねぇ。主さんともっと話さなくてよかったの?」
「ああ……。」
薬研は苦虫を噛み潰したような表情をした。なにか言い辛い事情があるのだろうか。
彼はそのことについて触れてほしくないようだった。
 そのあと夕餉の席で、俺はここには刀剣男子が40振もいることを知った。その中には蜂須賀兄ちゃんも長曾根兄ちゃんもいる。皆はじめは俺の姿を見ると驚いていたが、快く迎えてくれた。
(主さんとは、またちゃんと話せるかな!)
多少の引っ掛かりは残るものの、俺は人の身を得て、新たに始まる本丸での生活にワクワクしていた。



 でも主さんと話すことができたのはあれきりで、それ以降ほとんど関わることなく過ごしていった。皆、主さんのことを聞くと言葉を濁す。会いに行こうとしたら、他の刀剣たちにやんわり止められてしまった。俺は主さんになんとか会えないかと本丸中を歩き回ったが、主さんは食事のときも一緒じゃないし、一日のほとんどを執務室で過ごしているようだった。


 ようやく主さんに再び会うことができたのは、俺が初めて出陣した日だった。初陣の俺に合わせて出陣する戦場を選び、錬度の高い長曾根兄ちゃんが付いてきてくれた。おかげで負傷することもなかった。
人の身を得て、自分自身を振るうというのは、なんとも言えない高揚感がある。長曾根兄ちゃんがよくやったとほめてくれた。俺はちょっと嬉しくなった。一緒に頑張った亀吉を撫でながら、帰還するみんなの後についていく。
 しかしそこで俺はみんなの異変に気付いた。もう帰還するというのに、不思議な緊張感が漂い、皆ソワソワとしている。なんだ? まだ敵が出るポイントがあるのかな?
 結局それから敵と遭遇することもなく転送ゲートを抜けて本丸に戻ってきた。それでも皆ソワソワしたままだ。俺が不思議に思っていると、ゆっくりとこちらに近づいてくる姿に気付いた。 
(主さんだ!)
ようやく彼に会えたのがうれしくて、一歩踏み出そうとすると、硬い表情をした長曾根兄ちゃんに止められた。なんで?
声がギリギリ届くくらいの距離まで来て、主さんは立ち止まった。主さんはやっぱり少し不安そうな顔をしている。
なんとも言えない空気が流れる。そして主さんはためらいがちに口を開いた。
「出陣、おつかれさまでした。……怪我は、ありませんでしたか。」
後半は俺の方を見ながら言った。俺が初めての出陣だって知っててくれたのかな! 
興奮気味に言葉を返そうとしたときだった。
「今回も怪我人はいないよ。」
部隊長だった歌仙兼定が短く返した。そして話はもう終わりだというように歩き出した。
皆もそれに続く。俺も長曾根兄ちゃんに腕を引かれて立ち止まっていられなかった。主さんは一人その場に残される。俺が戸惑って長曾根兄ちゃんを見上げると、長曾根兄ちゃんはガシガシ頭をかいて、何も聞くなと言ってきた。背後を振り返ると主さんはすでに執務室のほうに歩き出していた。
 
 皆、なんで主さんに冷たくするんだよ!
まるで主さんがいじめられてるような状況に、思わず亀吉をぎゅっと抱きしめた。







 今日の馬当番は薬研と一緒だ。俺は馬に餌をあげながら、庭の方を見て機会をうかがっていた。あれから二度出陣を繰り返して、俺は学んだんだ。主さんは俺たちが出陣から帰ってくるのをいつも池のほとりで待っている。後から知ったが、みんな出陣帰りに主さんが出迎えに来ると知っていたようだった。しかしなぜソワソワしていたのかは分からなかった。
 
 そろそろか。第一部隊が出撃してしばらく経った。すると主さんがゆっくり歩いてくるのが見えた。
(来た!)
薬研もそれに気付いたようだ。馬にじゃれつかれながらもチラチラと庭の方をうかがっている。
ずっと不思議に思っていた。あんな態度を取られるのに、主さんはどんな思いで俺たちに会いに来ているんだろうか。
馬の世話ももう終わる。俺は行動に移すことにした。
「お先に失礼! 俺ちょっと行ってくる!」
「お、おい!」薬研は俺を一瞬引き留めるが、言葉に詰まったのか、ややあって諦めたようだ。

 主さんはしゃがみこんでボーっと池を眺めていた。近づいてくる俺に気付いて、少し驚いたようだったが、また無表情で池に視線を落とした。俺は主さんの隣に同じようにしゃがみ込む。
「ねぇ、主さん。なにを見てるの?」
「……鯉。」
やや間があったが一応は言葉を返してくれた。
「鯉がすきなの?」
「……。」
彼はその問いかけには答えず、ただ池を眺めているだけだった。
俺の主さんはとっても物静かだ。……悪く言うと、口下手なのかな。

 しばらくそうして主さんの隣に座っていると亀吉が勝手に肩から降りて、よじよじと主さんの足の上に乗った。
俺はちょっとひやひやしたが、彼はそれをじっとみて、どかすでもなくまた池に視線を落とした。
なんだか聞きたいことが言い出せなくて、沈黙が落ちる。嫌な感じじゃないけど。

 そこに数人の足音が聞こえてきた。出陣していた部隊がもどったのかな。
すると主さんがすっかり足の上でくつろいでいた亀吉をそっとどかして立ち上がった。どかされた亀吉が俺のほうへゆっくり戻ってくる。主さんは少しの間、それを目で追いながら、ちょっとためらうように下を向いた後、一度目をぎゅっとつぶって意を決したように顔を上げた。そして帰還した部隊に近づいていく。俺はその背中をただ見ていた。

 それから主さんは少し出陣部隊と言葉を交わしたあと、そのまま離れのほうにとぼとぼ歩いて行った。……あの様子を見るに、追い返されたのかな。俺は、何とも言えない気持ちになって、しばらくさっきの彼と同じように池の鯉を見つめていた。


「ねぇ主さん。俺たちと一緒にご飯は食べないの?」
ある日の正午、一人執務室に向かう。主さんは執務室の障子を開けて庭を見ながら、とてもおいしそうにご飯を食べていた。突然訪れた俺のその言葉に、箸がぴたりと止まる。
彼は眼鏡越しの黒い瞳で、こちらをじっと見つめて言った。
「……俺と、ご飯、食べたいですか?」
「……俺は主さんとご飯、食べれたらいいなって思うよ。」
主さんはしばらく手を止めたのち、また食事を再開した。俺はそのまま執務室の前の縁側に座り込む。細い体なのに、もりもり勢いよく食べていく。本当に、おいしそうに食べる人だなぁ。

 ややあって主さんは食べ終わったようだ。なにから話そうかな。言葉を選んでいると、主さんのほうが先に口を開いた。
「……お気持ちだけ。ありがとうございます。 浦島さん。」
浦島さんは、この本丸に来たばかりなので、みんなと食べてください。
主さんは、そう言うと少しはにかんだような笑顔を見せた。
――――みんな、これを見れないなんて、もったいない。
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