すきやき

November 20 [Wed], 2013, 0:50
「康頼は怒るのに妙を得ている。舞(まい)も洛中に並びないが、腹を立てるのは一段と巧者じゃ。あの男は謀叛(むほん)なぞに加わったのも、嗔恚(しんい)に牽(ひ)かれたのに相違ない。その嗔恚の源(みなもと)はと云えば、やはり増長慢(ぞうじょうまん)のなせる業(わざ)じゃ。平家(へいけ)は高平太(たかへいだ)以下皆悪人、こちらは大納言(だいなごん)以下皆善人、――康頼はこう思うている。そのうぬ惚(ぼ)れがためにならぬ。またさっきも云うた通り、我々凡夫は誰も彼も、皆高平太と同様なのじゃ。が、康頼の腹を立てるのが好(よ)いか、少将のため息をするのが好いか、どちらが好いかはおれにもわからぬ。」
「成経(なりつね)様御一人だけは、御妻子もあったそうですから、御紛(まぎ)れになる事もありましたろうに。」
「ところが始終蒼い顔をしては、つまらぬ愚痴(ぐち)ばかりこぼしていた。たとえば谷間の椿を見ると、この島には桜も咲かないと云う。火山の頂の煙を見ると、この島には青い山もないと云う。何でもそこにある物は云わずに、ない物だけ並べ立てているのじゃ。一度なぞはおれと一しょに、磯山(いそやま)へ※(「士/冖/石/木」、第4水準2-15-30)吾(つわ)を摘(つ)みに行ったら、ああ、わたしはどうすれば好(よ)いのか、ここには加茂川(かもがわ)の流れもないと云うた。おれがあの時吹き出さなかったのは、我立つ杣(そま)の地主権現(じしゅごんげん)、日吉(ひよし)の御冥護(ごみょうご)に違いない。が、おれは莫迦莫迦(ばかばか)しかったから、ここには福原(ふくはら)の獄(ひとや)もない、平相国(へいしょうこく)入道浄海(にゅうどうじょうかい)もいない、難有(ありがた)い難有いとこう云うた。」
「そんな事をおっしゃっては、いくら少将でも御腹立ちになりましたろう。」
「いや、怒(おこ)られれば本望じゃ。が、少将はおれの顔を見ると、悲しそうに首を振りながら、あなたには何もおわかりにならない、あなたは仕合せな方(かた)ですと云うた。ああ云う返答は、怒られるよりも難儀じゃ。おれは、――実はおれもその時だけは、妙に気が沈んでしもうた。もし少将の云うように、何もわからぬおれじゃったら、気も沈まずにすんだかも知れぬ。しかしおれにはわかっているのじゃ。おれも一時は少将のように、眼の中の涙を誇ったことがある。その涙に透(す)かして見れば、あの死んだ女房(にょうぼう)も、どのくらい美しい女に見えたか、――おれはそんな事を考えると、急に少将が気の毒になった。が、気の毒になって見ても、可笑(おか)しいものは可笑しいではないか? そこでおれは笑いながら、言葉だけは真面目(まじめ)に慰めようとした。おれが少将に怒られたのは、跡にも先にもあの時だけじゃ。少将はおれが慰めてやると、急に恐しい顔をしながら、嘘をおつきなさい。わたしはあなたに慰められるよりも、笑われる方が本望ですと云うた。その途端(とたん)に、――妙ではないか? とうとうおれは吹き出してしもうた。」
「少将はどうなさいました?」
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