虹色の虫 後編 

August 26 [Wed], 2015, 13:20
18 斎場
  『白鳥家』の文字が書かれた灯籠には明か
  りが灯され、斎場外に等間隔で並べられて
  いる。
  喪服を着た人々が斎場の中に入っていく。
  斎場では僧侶が献花台の前に座り、木魚を
  叩き、お経を唱えている。
  その後ろで綾人と響が席に座っている。
  二人は俯いている。
  響は口元をハンカチで押さえている。
  綾人は太ももの上の拳を強く握っている。
響 「ねえ、丹羽くんは?」
  綾人は頭を横に振る。
参列者A「かわいそうに。
 まだお若いのに……」
参列者B「ストレス性の心臓病だったとか」
参列者C「中学校のときにイジメを受けていた
 って。
 それで高校にも通っていなかったって話よ」
  最善列で座っていた美華絵はそれを聴い
  て遺影を見上げる。
  めぐりの顔を見ると、眉間にしわを寄せる。
  お経とともに斎場内に屋根を打つ雨の音
  が聴こえる。
美華絵N「雨……」
  空は鈍色で覆われて、激しい雨が降ってい
  る。
  斎場入り口には翔が一人立っている。
  雨で全身が濡れ、顔を雨が流れていく。
  翔は斎場内をずっと覗いている。
  翔の背後にある道路の反対側に黒いセダ
  ンが停車する。助手席と運転席から黒いス
  ーツの服の男が出てきて、一人が後部座席
  を開け、一人が傘をさす。
  後部座席から姫冠が出てくる。
  姫冠は道路の向こう側に立つ翔に気づく。
  歯を強く噛み、眉を吊り上げて駆け出す。
男A・B「お嬢!」
  横断歩道を渡り、翔の肩を掴む。
  肩を掴んだ手を引き、翔の体を表にすると、
  もう片方の手で翔の顔を殴る。
  翔は力なく倒れる。
  男たちが二人に走り寄る。
  姫冠は殴った態勢のまま荒い呼吸を繰り
  返し、肩を揺らす。
  姫冠は力を抜き、膝から崩れ落ち、翔の制
  服の裾を掴む。
姫冠「あんたが……あんたがいなきゃ!
 あたしじゃダメなのに……!
 なのに、なんで、なんで!
 おまえはこんなところでなにやってだ!!」
男A「お嬢……」
  姫冠から目をそらす翔。
翔 「(口角を上げて)水嶋先輩、もう……勘
 弁してもらえませんか」

19 学校・体育館
  体育の授業、女子がバスケットボールをし
  ている。
女生徒「響!」  
  響が他の女子生徒からパスを受ける。
  ドリブルをして相手チームをかわす。
  ゴール前までやってくると、ボールを両手 
  で持ち、高く跳ぶ。
  シュートの構えに入り、ゴールリング目が
  けてボールを放つ。
  ボールはリングに当たらずにネットをく
  ぐる。
  しかし、着地時に片足を挫く。
  響は地面に倒れこむ。
女生徒「響!」
  周りの生徒たちが響に走り寄る。
  ゴール下でボールが跳ね続けている。

20 同・保健室
  二人の女生徒が響の肩を担ぎ、ゆっくりと
  響を椅子に座らせる。
晴子「はい、ありがとう。
 二人は授業に戻りなさい。」
女生徒たち「はーい」
響 「ふたりともありがとう」
  女子生徒たちは響に手を振って保健室を
  出て行く。
  晴子は冷蔵庫を開けて製氷機を取り出す。
  製氷機の氷をポリ袋に詰めていく。
晴子「(袋に水を入れながら)それにしても、  
 山吹さんが怪我するなんて珍しい。
 しかも、体育で。
 丹羽くんと碧山からは運動得意って聞いた
 けど」
響 「ちょっと最近調子があんまりよくなくて」
  晴子は蛇口をひねり、水を止める。
晴子「白鳥めぐりさんのことかしら?」
響 「(目を見開いて)どうして橙巳先生がめ
 ぐりちゃんのこと知ってるんですか?」
晴子「この街では結構有名な話よ。
 特に、私たち教師っていう人種にはね」
響 「……先生、その話詳しく聞いてもいいで
 すか?」
 晴子は振り返り、響に向きかえる。
晴子「私は当事者じゃないから概略くらいしか
 知らないし……。
 そもそも、丹羽くんや碧山くんが話そうとし
  ないことを勝手に話すっていうのもどう
  なんだろ」
響 「(晴子の目を見て)私、めぐりちゃんの
 友達です。少なくとも、私はそう思っていま
 す。
 丹羽くんと綾人くんもそう。
 だから、知りたいんです。
 私はこれ以上誤魔化されたくないんです。
 三人の友達で居たいんです」
  晴子は微笑む。
晴子「いいわ。
 でも、さっき言った通り私はこの目で見てき
 ていないから私が聞いた話が全部かどうか
 わからないし、本当かどうか確証もない。
 それでも構わないなら」
響 「お願いします」
  晴子は頷く。
晴子「白鳥めぐりさんのお父さん白鳥さんは県 
 議会委員で、白鳥さんのお家はもともとこの
 あたりでは有名だったの。
 多分、周りよりも裕福だったろうし、そう見
 られていたと思うの。
 そういうのを気に食わない子たちもいた。
 そして、イジメは起きた。
 以外にも、それは教師によって早い段階で見
 つけられたらしいの。
 けれど、それがいけなかったのね。
 指導を受けた生徒たちはその反発でさらに
 イジメを行った。
 しかも、今度は教師に見つからないように。
 大人たちが気づいたときには彼女はストレ
 スで倒れていた。
 新聞とか、少しだけだったけどテレビのニュ
 ースでも報道されてた。
 本当にちょっとだったから、意識して見てな
 いと憶えてないだろうけどね。
 学校側はかなりのバッシングを受けていた
 し、記者会見もしたりで大変だったみたい。
 私が知ってることはこれくらいかな」
響 「ならどうして……」
晴子「ならどうして、丹羽くんと碧山くんはイ
 ジメを止めようとしなかったのか」
  響は二回頷く。
晴子「あのとき、あそこにいた彼らにしかわか
 らないことがきっとあると思う。
 だから、丹羽くんはあんなにぼろぼろでここ
 に運ばれてくるんだと思う。
 彼が最初に運ばれてきたとき、私はどうした
 のと聞いた。
 そしたら彼は「これがめぐりとめぐりの大切
 な人たちへの罪滅ぼしなんだ」って、呟いて
 た。
 めぐりという名前を聞いてあの事件のこと  
 だってすぐわかったわ。
 他人が簡単に触れていい内容じゃないのも。
 だから、あれ以来聞かないようにしてるの」
  晴子は響に氷と水の入ったポリ袋を口を
  縛って渡す。
響 「ありがとうございます」
晴子「うん、二人のことよろしくね」
響 「え?」
晴子「私は他人だもの。
 あの子たちの中に深くまで入ってはいけな
 い」
響 「私だって他人です」
晴子「それでも、割って入っていく。
 それが友達よ」
響 「それが間違いだったとしてもですか?」
晴子「全部含めて青春よ」
響 「(目を晴子から逸らして)こんなの全然
 甘酸っぱくないよ」
晴子「そうね。
 本当は青くなんてないのかもしれない。
 ううん、青だけじゃないのかもね。
 個人差はあるだろうけど、きっと、いろんな
 ものでいっぱいで、だからこそみんな迷うの」
響 「先生はどうしたんですか?」
晴子「(満面の笑みで)もうわすれちゃった!」 

21 公園
  翔がブランコに座り、地面を見ている。
  翔の他に公園で遊ぶ子供たちと、集まって
  会話している保護者たちがいる。
  保護者たちが翔を睨む。
保護者A「制服着てるから学生なのかしら」
保護者B「まだ午前中よ」
保護者C「やだ、不良?」
遥 「おにいちゃん!」
  翔が顔を上げると、目の前に遥がいる。
翔 「遥くん、ひとり?」
遥 「うん、お母さんお仕事なの。
 なんか、元気ないね」
翔 「(微笑んで)そうかな?」
遥 「(視線を落として)……手」
翔 「手?」
  翔は自分の太ももの上で組んでいる手を
  見ると、小さく震えていることに気づく。
翔 「あれ、なんでだろ?」
  翔の全身が震えだす。
  翔の瞳から涙がこぼれ、地面を濡らす。
遥 「(翔の頭を撫でながら)おにいちゃん、
 泣かないで」
翔 「子供に慰められるなんて、ダサいなー」
遥 「あ、そうだ!」
  遥は肩がけのポシェットから二羽の紙で
  折られた鶴を取り出す。
遥 「(鶴を差し出して)これあげるから元気
 だして」
  翔は差し出された鶴を受け取る。
翔 「鶴?」
遥 「病院でね、おねえちゃんにもらったの!」
翔N「看護師さんのことかな?」
翔 「(遥の頭を撫でながら)ありがと」
  遥は満面の笑みを浮かべる。
  そこに姫冠と男二人がやってくる。
  公園で遊んでいた子供たちは男たちを見
  て保護者の元に駆け寄っていく。
  逃げていく子供たちを見て、男Aはため息
  を吐き、男BはAの肩に手を乗せる。 
  三人は翔の元までやってくる。
  遥は翔の背後に隠れる。
翔 「なにか、御用ですか?」
姫冠「面貸しなさい」
  踵を返してひとり公園を出て行く。
男B「すまんね、いつも」
翔 「いえ。
 でも、今日はきつそうですね」
男A「だろうな、心して殴られてくれよ」
  翔はため息をつく。
遥 「おにいちゃん!」
翔 「(遥の頭を撫でて)ちょっと行ってくる。
 すぐ戻ってくるから」
  翔は鶴の羽をまっすぐにし、鶴を制服の胸
  ポケットに入れる。
  翔たちは公園を後にする。

22 路地裏
  男たちが翔を殴っている。
  姫冠は男たちの後ろで腕を組んでその光
  景を見ている。
  翔が倒れこみ、一旦手を止める。
  男たちは肩で息をしている。 
  翔の目は腫れあがり、唇から血が流れてい
  る。
男A「お嬢、もう今日はこの辺で」
姫冠「あまい、あまい……」
男B「お嬢?」
姫冠「あんたら、あまいのよ!」
  姫冠は男たちの間を割って入り、片足を後
  ろに振り被る。
  そして、翔の顎を蹴飛ばす。
  翔は奥に吹っ飛ぶ。
  姫冠は翔に近かより、翔の顔踏みつけよう
  とする。
  しかし、男たちが姫冠の腕を片方ずつ掴み、
  体を後ろに引きずる。
男A「お嬢!」
男B「さすがにやりすぎです!」
姫冠「(ジタバタともがいて)なによ、あんた
 たち!
 放しなさい!」
美華絵「その男たちの言う通りだ。
 水嶋は少しやりすぎだ」
  姫冠と男たちが後ろ(表の道)を振り返る
  と、腰に手を当てた美華絵が立っている。姫冠「柴田先輩?」
  美華絵は三人の横を素通りし、倒れている
  翔の元までやってくる。
美華絵「大丈夫……ではないな。
 酷い顔だ」
  美華絵は翔の背中に手を回し、上半身を起
  こさせる。
美華絵「まだこんなことが続いていたとは……」
  姫冠を睨む。
翔 「み、みかねえ。
 これは……」
美華絵「こら、しゃべるんじゃない。
 立てるか?」
  美華絵は翔の肩に手を回し、立ち上がる。
  姫冠とすれ違いざまに一度止まる。
美華絵「このことは君の祖父に言わせてもらう」
姫冠「そんなの卑怯だ……」
美華絵「卑怯?
 それは君の方だろう?
 彼にこんな仕打ちをしておいて、めぐにバレ
 たらとは思わなかったのか?
 それとも、同族嫌悪……いや、自己嫌悪と言
 った方が正確か。
 君も許せなかったのかな?」
姫冠「そうやってなんでもわかったふりをして
 ……。
 先輩こそ、白鳥さんに対して後ろめたいこと
 があるんじゃないんですか?」
美華絵「(引きつった笑いで)そうかもな……」
姫冠「なんなら、私が白鳥さんから聞いた話、
 彼に聞かせましょうか?」
美華絵「さて、なんのことだかな」
  翔を引きずって美華絵が去っていく。
  去っていく二人の後ろ姿を姫冠は見えな
  くなるまで見続ける。
姫冠「あなたも、そうやってなにもなかったこ
 とのように目を背けて続けるんですね」

23 学校・保健室
  保健室の中に晴子と響がいる。
  響は椅子に座り、足首に氷と水が入ったポ
  リ袋を当てている。
  晴子は机で仕事をしている。
  不意に晴子の後ろの窓がノックされ、晴子
  と響は注目する。
  窓の外には美華絵と美華絵に肩を担がれ
  た翔が立っている。
  晴子が窓(縦長)を開ける。
晴子「美華絵さん!
 それに、丹羽くん!?」
美華絵「お久しぶりです、橙巳。
 学校にもいかない不良の生徒をお届けに来
 ました」
響 「丹羽くん!?
 その怪我……また!?」
晴子「とりあえず、ベッドに寝かせましょう!」
  靴を脱ぎ、窓(縦長)から入ってベッドに
  翔を寝かせる。
晴子「(翔の体を触って)今日は一段と酷いけ
 ど、骨は折れてなさそうね」 
美華絵「やはり、よくこんな風に運ばれてくる
 のですか?」
晴子「え、ええ」
美華絵「そうですか」
晴子「そういえば、どうして、柴田さんが丹羽
 くんを?
 どういう知り合い?」
美華絵「幼馴染です。
 もうひとりの幼馴染の危篤状態にも葬式に
 も来なかったこのどうしようもない馬鹿を
 たまたま見つけたので連れてきました」
晴子「そのもうひとりの幼馴染って、白鳥めぐ
 りさん?」
美華絵「ご存知だったんですか?」
晴子「ううん。
 でも、時期が時期だもの。
 検討くらいつくわよ」
美華絵「(響を見て)ところで、今日碧山は来
 ているか?」
響 「いえ……」
美華絵「そうか……」
響 「綾人くんがどうかしたんですか?」
美華絵「いやなに、翔を運ぼうにも重くてね。
 女の私だけでは無理だと思って碧山に電話
 したんだ。
 翔が学校に行ってないのなら、碧山も来てい
 ない可能性があると考えたんだが、でなかっ
 た」
響 「友達がなくなってみんなショックなんだ
 と思います」
美華絵「そうかもしれないな。
 なんにせよ、先生、あとはお任せします」
晴子「いいの?
 たまたまとか言って、実は翔くんを探してた
 んじゃないの?」
美華絵「まったく、先生は恐ろしい人だ。
 そうだとしても、そんな状態では話すことも
 できませんから」
晴子「変わらないわね、あなたは」
美華絵「これでも、変わろうと努力したのです
 がね……」
翔 「みかねえ……ごめん」
美華絵「微笑んで」高校生になってもまだまだ
 手がかかるな」
  窓際で靴を履く美華絵。
美華絵「(お辞儀をして)それでは、失礼しま
 す」
  美華絵は窓を閉め、去っていく。
響N「私は、学校に来ている。
 来ちゃってる……」

24 河川敷(回想)
  美華絵(小学生)が走っている。
  翔(小学生)と麦わら帽子をお被っためぐ   
  り(小学生)が川辺に並んで川を覗いてい
  るのを少し離れたところから見つける。
美華絵「あ、かけ……」
  翔の名前を呼ぼうとするのを途中で止め
  る。
  翔とめぐりは肩が触れている。
  その場で二人を見ながら立ち尽くす美華
  絵。
美華絵N「私の入るスペースは、なかった」
  美華絵は俯いてひとり引き返す。
(回想・終)

25 河川敷・夕方
  河川敷で子供たちが遊んでいる。
  河川敷の上からそれを眺めている美華絵。
  そこに歩いてくる綾人。
綾人「(頭を下げて)ども」
美華絵「その様子だと携帯を見ていないようだ
 な」
綾人「携帯?」
美華絵「おまえに何度も電話したんだ」
綾人「すいません。
 何か急ぎの用でしたか?」
美華絵「……翔がまた襲われた」
綾人「ああ、水嶋も相当堪えてるだろうから翔
 の顔が酷くなってそうだ」
美華絵「誰の仕業か知っていたのか」
綾人「まあ、たまたま現場を見ただけですけど」
美華絵「ならなぜ……」
綾人「翔自身がそうさせてくれって言ったんで
 す。
 こんなことくらいしか自分にはできないか
 らと」
美華絵「(眉を吊り上げて)まったくあいつは
 ……。
 水嶋も水嶋だ、翔を殴ったところでなにも変
 わらないというのに……」
綾人「翔と水嶋は知っていてなにもできなかっ
 た……そう思っているんですよ。
 実際そうだったのかもしれないけど」
美華絵「……なら、気づけなかった私たちには
 なにができるだろうか、なにができただろう
 か?
 知らなかったんだと言い訳をして、平然とめ
 ぐに笑いかけ続けていた私たちは……」
  綾人は眉間にしわを寄せ、肩を上げる。
綾人「(拳を握って)白鳥はもう、いないん
 だ……!」
美華絵「……そうだな。
 私たちはもう、めぐに謝ることすらできない」
  しゃべり終わるとすぐにその場を去って
  いく美華絵。

26 学校・夕方
  保健室、ベッドで翔が寝ている。
  保健室には西陽が入り、オレンジ色に染ま
  っている。
  翔が目を覚まし、上半身を起こす。
翔 「……どれくらい寝てたんだろ?」
  扉が開かれ、晴子が入ってくる。
晴子「お、起きたわね。
 体はどう?」
  翔はベッドから抜け出して立ち、肩を回す。
翔 「痛くないわけじゃないですけど、普通に
 家には帰れそうです」
晴子「驚くべく回復力ね……」
翔 「(笑って)慣れてますから」
  晴子はため息をつく。
晴子「あんまり無理しちゃダメよ」
翔 「(引きつった笑みで)あははは……」
晴子「誤魔化さない!」
翔 「す、すいません」

27 公園・夕方
  翔が道を歩いていると、公園に通りかかる。
  公園の中でひとりブランコに乗っている
  遥がいることに気づく。
翔 「遥くん!?」
  遥の元へ走り寄る。
  体を屈め、遥と目線を同じ高さにする。
遥 「(泣き出して)お、おにいちゃああああ
 ん!!」
  勢いよく翔に抱きつく遥。
  翔の体が少しよろめく。
翔 「おっと!
 どうしたの?
 こんな遅い時間までひとりで遊んでちゃダ
 メじゃないか」
遥 「……言った」
翔 「(首を傾げて)遥くん?」
遥 「おにいちゃん、すぐ戻ってくるって、ち
 ょっと行ってくるだけだって言った!」
  翔、S(シーン)21フラッシュバック。
翔 「あ!」
  翔は遥の肩を掴み、少し離す。
翔 「ごめん」
遥 「(袖で涙を拭いながら)戻ってきてくれ
 たから、いい」
  翔は立ち上がり、遥に手を差し出す。
翔 「送って行くよ、一緒に帰ろう?」
遥 「(目を赤くして、笑顔で)うん!」

28 河川敷・夕方
  夕日が半分沈んでいる。
  翔と遥が手をつないで河川敷の道を歩い
  ている。
  翔は歩きながら、空を見上げている。
遥 「おにいちゃん、ずっとお空見てるね」
翔 「……あの空の向こうに、大事な人がいる
 気がするんだ」
遥 「人はお空を飛ばないよ?」
翔 「……そうだね、人は空を飛ばない。
 だから、今までもずっと側にいたんだ。
 なのに、僕は……」
遥 「おにいちゃん?」
翔 「ごめん、変なこと言ってるね」
遥 「でも、遥も鳥さんみたいに飛べたらなっ
 て思うよ!」
  翔はポケットから白鳥を取り出して、太陽
  にかざす。
遥 「鶴さんは飛ぶの?」
翔 「本物は飛ぶけど、折り紙の鶴は飛ばない
 よ」
  鶴が日差しで助けびっしりと書かれてい
  る文字が浮かび上がる。
翔 「あれ、これ便箋?」
  翔けるは『翔へ』と書かれているのに気づ
  く。
  翔は足を止める。
遥 「おにいちゃん?」
翔 「遥くん、この鶴誰からもらったの!?」
遥 「病院お泊まりしてるおねえちゃんだよ。
 でも、もういないんだあ。
 お家に帰ったんだって」
  翔は鶴をじっと見つめている。

29 住宅街・夕方
  翔と遥はマンションの前に立っている。
翔 「ここ?」
遥 「うん」
  遥がマンションの入り口まで駆けていく。
遥 「(大きく手を振って)ばいばい!」
  翔は小さく手を振り返す。
  遥の姿が見えなくなると、翔は元来た道を
  戻る。

30 河川敷・夕方
  川辺に翔が立っていて、川を見ている。
  手には二羽の鶴。
  翔は鶴を開き、便箋に戻す。
めぐりN「翔へ
 未来の私はちゃんと自分の手で渡すことが
 できたでしょうか。
 できているといいなー。
 でも、翔は意外と頑固なところがあるから、
 最期まで来てくれていないかもしれません。
 それはとても悲しいことだと思いますが、そ
 れは私への罰なのかもしれません。
 私は翔がいじめを受けていたことを気づい
 てあげられませんでした。
 翔は私に仕打ちしてきた人たちに酷い仕打
 ちをされていたんだよね。
 誰から聞いたかは秘密です。ばらすと後で怒
 られそうだから。
 その人にあの人たちに私への行為を黙認し
 ろと脅されていたことも聞きました。
 だから、翔が私を無視したことは仕方ないこ
 とだったと思います。
 でも……」
  翔の背後からめぐりの声が聴こえてくる。
めぐり「(嗚咽混じりに)ずっと、私のこと
 を見て欲しかった!
 私のこと、もっと気にして欲しかった!
 私はここだよ、いつも翔の側にいたよ!
 ずっと、翔の隣にいたんだよ……。
 私を見てよ!
 目を逸らさずに、ちゃんと私を見てよ!!」
  翔は振り返る。
  しかし、そこには誰もいない。
  手に持った便箋を握りつぶす。
翔 「(空に向かって)あああああああぁぁぁ
 ぁぁぁぁぁぁぁ!!」
  河川敷の上から翔の姿を綾人が見ている。
綾人「どうどうと泣ける理由があるおまえが羨
 ましいよ」

31 中学校(回想)
  教室。
  メガネをかけ、おさげの姫冠が席に座って
  いる。
  内股気味の膝の上に手を置いて、俯いてい
  る。
生徒A「あの子のお家ヤクザらしいよ」
生徒B「マジ!?」
生徒A「ほんと、ほんと。
 あの子と同じ小学校だったって友達が言っ
 てたんだって」
生徒B「こえー!
 近づいたら小指切られっかも」
生徒C「私、あんまり近づかないようにしよー」
  姫冠は拳を強く握る。
× × ×
  屋上。
  姫冠がひとりでお弁当をつついている。
屋上の扉が開く。
  扉の開く甲高い金属音に姫冠の肩が跳ね
  る。
  屋上にめぐりが入ってくる。
  周りを見回しているめぐりをちらちらと
  見る姫冠。
  姫冠の目線に気づくめぐり。
  姫冠の元に歩み寄ってくる。
めぐり「あの……」
姫冠「な、なんですか?」
めぐり「(手に持った弁当見せながら)ここ、
 いいですか?」  
  姫冠は黙って頷く。
めぐり「ありがとうございます」
  めぐりは姫冠の隣に腰を下ろす。
姫冠N「なんで隣……」
  弁当を広げて食べ始めるめぐり。
  姫冠も昼食を再開する。
めぐり「あの……。
 いつも、ここでお昼食べてるんですか?」
  めぐりの問いかけに眉間にしわを寄せて
  怪訝そうにする。
姫冠「まあ。
 あんまり、クラス好きじゃないんで」
めぐり「ここってあんまり人来ないんですか?」
姫冠「今日初めて人を見ました」
めぐり「とってもいい場所ですね」
姫冠「あの、あなたはなんでこんな場所に来た
 んですか?」
めぐり「お昼食べに、ですけど?」
姫冠「そうじゃなくて!」
めぐり「誰にでも居づらい場所と時間ってある
 と思うんです」
姫冠「意味わからないんですけど」
めぐり「(満面の笑みで)つまりは友達がいな 
 いということです」
姫冠「そんな、笑顔で言われても……」
  姫冠はため息を吐く。
めぐり「よかったら、名前、教えてもらえませ
 んか?」
姫冠「……水嶋」
めぐり「下の名前は?」
姫冠「てぃ、姫冠」
めぐり「てぃあら?」
  姫冠の顔が真っ赤になる。
  体育座りをして、膝に顔を埋める姫冠。
  笑うめぐり。
姫冠「わ、笑うな!」
めぐり「すいません、つい。
 あ、もしかして、みかちゃんが言ってた水嶋さんって姫冠さんのことですか?」
姫冠「みかちゃんって誰ですか?」
めぐり「柴田美華絵、私の幼馴染なんです」
姫冠「ああ柴田先輩」
めぐり「みかちゃんもそうですけど、その道の
 人はみんな面白い名前ですね」
姫冠「私は、別にヤクザじゃないし。
 親がつけた名前だし」
めぐり「私はいい名前だと思いますよ」
姫冠「あ、あなたの名前は?」
めぐり「私は白鳥めぐりです」
姫冠N「こうして、屋上は私だけの場所じゃな
 くなった。
 でも、嫌な気はしなかった。
 その人は、お昼になると、私と同じように屋
 上にくるようになった。」
(回想・終)

32 学校・校舎裏
  翔の前に姫冠と男二人。
男A「すまんな、坊主」
男B「俺らにもこの人についてかなきゃいかん
 理由があるんだ」
  振り被り、翔の頬を殴る男A。
  翔の体がよろめき、後ろに倒れそうになる
  が、翔は足で踏ん張り、その反動で男Aの
  顔面を殴る。
  男Aは仰向けに倒れる。
男B「てめぇ!」
翔 「お相子だよ。
 むしろ、いつも一方的に殴られてるんだ。
 やり返したって文句はないだろ!」
  翔は再び殴ろうと拳を突き出すが、男Bに
  手で止められる。
男A「(立ち上がりながら)なんだか知らねえ
 が、ようやくやる気になったか坊主!」
  翔と男たちは殴り始める。
  その後ろでたじろぐ姫冠。
姫冠「なんで、なんでよ……」
× × ×
  校舎裏へと駆けつけてくる美華絵、響、晴
  子。
  そこには怪我をして倒れた翔。
響 「丹羽くん!」
翔 「みんな、なんで……」
響 「昼休みが終わっても帰ってこなかったか
 ら、もしかしたらと思って」
晴子「あなたたち!
 これは暴行罪ですよ!
 それと、不法侵入!」
美華絵「私は警告したはずだ、ただの脅しでは
 ないぞ!」
男B「お嬢!
 ここは一旦ずらかりましょう!」
  男Bの言葉を無視して翔に近寄る姫冠。
男A「お嬢?」
姫冠「(倒れている翔を見下して)早く立ちな
 さいよ、続きよ」
晴子「水嶋さん、なに言ってるの?」
姫冠「みんなが、白鳥さんが許しても、私はあ
 んたを許さない。
 誰もなにもしないなら私が……」
美華絵「誰も悪くない。
 もし、過ちがあったとしても……時効だ」
姫冠「時効?
 なによ、それ……。
 そうやって言い訳をつけて、自分を正当化し
 て、そうして忘れていくの、白鳥さんのこと
 を?
 そんなの、許さない!
 認めない!
 私は、私は……」
  翔は歯を食いしばり、立ち上がる。
響 「丹羽くん?」
美華絵「そんな体で立つんじゃない!」
翔 「忘れなんてしない、忘れてなんてやるも
 んか!」
  涙を流しながら翔を殴り始める姫冠。
  しかし、力はだんだん弱くなっていき、翔
  の制服を掴む。
  翔にしがみついたまま泣く姫冠。
翔 「僕は……僕はもう、目をそらさないって
 決めたんだ」

33 同・保健室
  翔は椅子に座り、晴子に治療されている。
  その隣には電話をかけている響。
  姫冠は床に体育座りしていて、その前に美
  華絵が仁王立ちして姫冠を睨んでいる。
  男たちの姿はない。
響 「ダメ、通じない」
翔 「綾人?」
響 「うん。
 最近学校にも来てないし、心配で……」
美華絵「碧山なら、一昨日あったぞ」
響 「どこでですか!?」
美華絵「河川敷だ。
 だいぶ堪えていたよ」
翔 「というかみかねえ、大学は?」
美華絵「高校と違って、大学は行っても行かな
 くてもいいんだよ」
翔 「絶対嘘だ……」
響 「(胸を張って)柴田さんは私が呼んだん
 だから!」
美華絵「山吹さんに感謝しなさい。
 下手したら死んでいたぞ」
翔 「(笑って)さすがに死にはしないでしょ?」
  静かになる室内。
翔 「ええ!?」
美華絵「誰も気づかれない内に消されていた、
 なんて可能性もある」
  翔は姫冠を見る。
  姫冠は舌打ちする。
姫冠「もっと早く消しておけばよかった」
  翔はため息を吐く。
翔 「勘弁してよ……」
姫冠「(翔の目を見て)あんたも、そういうの
 を望んでるんでると思ってた」
翔 「そうだったのかも。
 殴られているだけで、それが償いになるのな
 ら、きっと楽なんだって。
 そんなこと、けしてないのに……。
 本当はどうしなきゃいけなかったのかって
 ことを考えないように目を瞑っていたんだ」
晴子「正解とか間違いとか、そういうのはきっ
 とないのよ。
 あるのは、選ばなかった方への未練だけ」
姫冠「でも、今日のあんたは違った。
 殴り返してきた。」
翔 「後悔を全部潰していけるとは思わないよ。
 でも……それでも、なにもしないで過ぎてい
 くのはもうたくさんだ。
 だからもう、逃げないって決めたんだ」
姫冠「そんなことじゃ、きっと許されない」
翔 「(めぐりからの手紙を取り出しながら)
 そうかもしれない。
 それでも、めぐりに言われたことは直そうっ
 て。
 そう思ったんだ」
美華絵「(笑って)おまえとめぐは時々、思い
 もよらないことをする」
翔 「みかねえに、僕らのことでわからないこ
 とがあるの?」
美華絵「(S(シーン)24フラッシュバック)あるさ…
 …。
 人の内面は計りしれないことをよく痛感さ
 せられた」
翔 「そういえば、めぐりに僕の中学のことバ
 ラしたの美華絵でしょ」
美華絵「なぜ、そう思う?」
翔 「今の返事が証拠だよ。
 僕が中学のときどんなことをされていたの
 かは綾人にも言ってない。
 知っているのは僕本人と、それを彼らに強引
 に聞き出して、めぐりにバラした犯人だけだ
 よ」
美華絵「私をはめたのか。
 おまえというやつは……」
姫冠N「私が知らない……白鳥さんが丹羽翔を
 責められない理由。
 私は間違っていたのかな?」
響 「丹羽くんたちが中学の頃、本当は何があ
 ったんですか?」
晴子「山吹さん、それは……」
翔 「いいんです、先生。
 響ちゃん、綾人にも話したいんだ。
 だから、綾人がちゃんと立ち直るまで待って
 ほしい」
響 「うん。
 そうとなったら、早く綾人くんを引っ張って
 こなきゃ!」
晴子「きっと時間がいるわ」
姫冠「それでも、逃げてはいられない。
 そういうことでしょ?」
  翔は頷く。
響 「(笑って)逃げない、逃げないって、な
 んだかめぐりちゃんが敵みたい」
翔 「めぐりを忘れたりなんかしない。
 できないよ。
 僕らのちょっとした会話の中にもめぐりは
 いる。
 歩く道にも、眺める川にも、見渡す街にも、
 めぐりは僕らのすぐ側にいるんだ。
 だから、きっと誰も忘れさせてなんてもらえ
 ないよ」
  翔はみんなに笑いかけたあと、窓から空を
  見上げる。
響 「めぐりちゃんって走って追いかけてきそ
 うそうだもんね!」
姫冠「白鳥さんは意外と頑固」
美華絵「意外どころか、一点の凹みもない筋金
 入りの頑固だ。
 特に翔のこととなると……」
翔N「鳥が飛んでいた。
 でも、そこに彼女はいない。
 僕は、以前のように空を見ることをやめた。
 だって人は飛ばない。
 彼女は空にはいない。
 いつも、そこにいる」
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