2017年版『ダックテイルズ』考@ 86年版と比較して変化したこと

May 09 [Wed], 2018, 0:54
皆さん、こんにちは。
1980年代、日本でも放送されていた『ダックテイルズ』。
それが2017年になり、全く新しいシリーズとなって帰ってきました。
著作権がらみの問題で画像をこのブログに掲載できないのが残念なのですが、このブログをご覧になっていらっしゃる方の中には、86年に製作された旧シリーズをリアルタイムで観ていたという方も少なからずいらっしゃることと思われます。
2017年バージョンでは、かつての可愛らしさはそのままに、より現代的な絵柄で『ダックテイルズ』が蘇っています。
私も何とかこの作品を観られるようになり、現在7話目まで観ているのですが・・・ここまで観てきて、旧シリーズと比較して変わった点、また私自身が作品について考えたことについて、お話ししたいと思います。


1.絵柄・声


まず、これはぱっと見てすぐにわかることなのですが・・・絵柄が大幅に変わりましたね。
非常に今風のアニメっぽい絵柄になり、ぐっとモダンな画風になりました。
動きや色彩もぐっと垢抜けましたし、作画・動きなどのクオリティも「さすがはディズニー」と思わせるだけのものがあります。
『フィニアスとファーブ』『小さなプリンセスソフィア』『ミッキーマウス・クラブハウス』など、最近のテレビ作品には日本でも人気のあるものが多いですが、そうしたものと比較しても、『ダックテイルズ』は出色の出来映えです。
現代の子どもたちが観て、非常に楽しめるものだと思います。
80年代の旧シリーズを観ていた人には、キャラクターのデザインに関しては、最初は違和感があるかもしれません。
ヒューイ・ルーイ・デューイを演じる声優陣も、旧シリーズでは女性が演じていましたが、新シリーズでは男性が演じており、そのあたりにも抵抗のある向きもあるでしょう。
しかし絵柄や声に抵抗があるというのが理由でまだ観ていない方は、是非、一度キャラクターが実際に動いているところをご覧になって頂きたいと思います。
意外にキャラクターの愛くるしい雰囲気は、昔と変わらない、いやそれ以上と言っても過言ではないくらいです。

2. 新キャラクターが増えた!

ウエビーの新しい友達リナや、IT実業家(と思しき)マーク・ビークスなど、旧シリーズには登場しないオリジナルのキャラクターが出てきています。
皆それぞれ個性的で楽しい。
シリーズ中、どれだけ新しいキャラクターが出てくるか、非常に楽しみですね!

3. キャラクターの性格づけ

キャラクターの性格に関しては、旧作と比べると非常に変化しました。
まず、旧シリーズではほぼ三位一体といってよいほどそっくりで、いつも3人で1人であるかのような印象を与えたヒューイ・ルーイ・デューイですが、新シリーズでは見た目こそよく似ているものの、個性がはっきりと分かれるようになりました。
優等生タイプで頭脳派のヒューイに、楽して得したい、現代人の悪いところがそのまま出ている(けれど可愛くて、不思議に憎めない)ルーイ、好奇心旺盛で考えるより先に行動してしまうタイプのデューイと、性格の差が結構出ています。
個性が全然違うので、旧シリーズのように必ず3人一緒に登場するわけではなく、3人のうち2人だけが登場する回もあります。
私は旧シリーズのファンでもあるので、やっぱり全員一緒に出てきて欲しいんですが・・・製作者はストーリー運びや作画の上で、最も適切と思われる判断をした結果、敢えて3人一緒に出さなかった回もあるのだと思われます。

他にも描かれ方の変化したキャラクターは、何人もいます。
新シリーズにもウエビーが登場しますが、このシリーズでの彼女は冒険好きでアクティブ、しかもヒューイ・ルーイ・デューイを上回るほどの頭脳と身体能力を持った女の子。
ただし周囲からは変わり者と目され、そのことにコンプレックスを抱いています。
そして彼女の祖母であるメイドのビークリーさんも、以前はふくよかな体つきの優しいおばあちゃんでしたが、新シリーズではがっしりとした筋肉質の体格を持つ敏腕メイドとなっています。
スクルージの最大のライバル・グロムゴールドに関しては、旧シリーズでは悪人ぶりが際立っていましたが、新シリーズではちょっと見た目も太って可愛い感じ。
やっていることは悪辣ですが、どちらかというと、憎めない悪役という印象になっています。

今回のキャラクターの性格づけの変更ですが、個々のキャラクターに関していうと、旧シリーズと比べて紋切り型の表現がなくなり、非常に個性的になりました。
ただその一方、旧作で描けたキャラクターの造形ができなくなった面はあるでしょう。
例えば、今シリーズに出てくる女性は、皆例外なく賢く、身体能力が優れています。
彼女たちは性格的にも非常に強く、アグレッシブな印象すら受けます。
旧シリーズでは優しい女性たちが沢山登場しており、ウエビーもビークリーさんも優しい性格でした。
今は恐らく、以前より更に政治的適切性に配慮しなくてはならなくなったため、優しく大人しい女性を子ども向けの娯楽作品で描くことが非常に難しくなっているのだろうと推察されます。
残念なのはそうした流れの中で、キャラクターそのものは個性的になったものの、人物の描かれ方は、旧シリーズよりも寧ろ硬直的になってしまっていることです。
基本的にイケてないキャラクターがいないのが新シリーズで、そういう意味では残念な面もあります。

旧シリーズでは今とは全く違い、いつも自分そっくりの人形を抱っこし、ぬいぐるみとお茶会を楽しんでいたウエビーをはじめ、太った眼鏡の少年ドゥーファスなど、所謂イケてない部類である子どものキャラクターが存在していました。
旧シリーズのウエビーは、身体能力においても知恵においてもヒューイ・ルーイ・デューイに劣っていましたが、彼らの知力や体力をもってしても解決できない窮地を、意外にウエビーの優しさが救うエピソードもありました。
また、不器用でイケてないけれども心優しいドゥーファスが、蛮勇を振り絞ってジュニア・ウッドチャックの子どもたちをピンチから救い、表彰されるエピソードも、未だに印象に残っています。
旧シリーズでは、イケてない側に分類されがちなキャラクターにも価値を置いており、人物の描き方は紋切り型の面もあったものの、多彩な価値観を視聴者に示してくれていたように思います。
しかし今シリーズでは、そうしたキャラクターがいなくなってしまったのが残念です。

ただ、今シリーズでは一人だけ、イケてなさを一身に引き受けているキャラクターがいます。
それは旧シリーズにも登場していたものの、その回数が非常に少なかったドナルド・ダックです。
新シリーズでは運が非常に悪くて、損な役回りをしてばかりの彼ですが、子どもたちからは慕われています。
そして、新シリーズに登場する女性のキャラクターが見せることのない母性的な優しさを見せるのが、唯一男性である彼なのです。
他にイケてないキャラクターがいない分、優しいけれど唯一イケてないドナルドが大活躍する第6エピソードには、大分気持ちが救われました・・・が、彼は今後、どんな活躍をみせてくれるのでしょうか。
非常に期待しています。

補足

過去に放送された『ダックテイルズ』の各エピソードの詳細については、星屑りんさんのスクルージおじさん&ダックファミリーblogに詳しい(但し、ネタバレしない程度に)記載があります。
キャプチャ画像もある上、星屑りんさんは原作コミックにも詳しい方なので、解説も大変楽しい内容です。

バークスのコミック集 Secret of Hondorica 

January 02 [Tue], 2018, 7:13


2018年最初にご紹介する本は、Fantagraphics Books, Inc.から出ているディズニーのコミック、ドナルドダックの"Secret of Hondorica"。
作者はカール・バークスです。
この作品集、50年代の半ば頃に書かれた作品群を集めたものなのですが・・・実はこの時期、マッカーシズムの嵐がアメリカ中を吹き荒れていた頃で、漫画も検閲の対象になっていた時期だったのです。
勿論ディズニー漫画も業界の自主規制ルールに則っていたわけですが、このルールのために廃業したり、職を失ったりした漫画関係者が当時沢山いたとのことです。
そのなかで、風刺的作風を得意とするバークスも苦労したことと思われますが、よくぞ彼はこれだけの作品群を描ききりました。
バークスの作品は、今読むと長閑な良い作品が沢山あるのですが、それでもバークスは、子どもが寝る前にドナルド漫画を読み聞かせていた母親から苦情の手紙をもらったことがあるそうです。
それに対し、彼が返事を自ら書いていたというのが驚きですが・・・今でいうと、SNSで炎上しかけて本人が出てくるといったような感覚でしょうか。
しかし、漫画が規制されて多くの漫画家が職を失っていた時代とはいえ、まだSNSなんてないですからね、政情がどうであるにしろ、のんびりした時代ではあったのでしょうね。

頭も悪くないしアイディアもある、それなのに何故か物事がうまくいかないドナルドの人間らしさが、これでもかというほどよく出た作品群です。
最後には「僕って役立たずだな」とドナルド本人がぼやいて締めくくられる作品も散見されますし、賢く行動的な甥っ子たちを見て、「僕って一体何なんだろう・・・」と、カッコ悪い大人の代表みたいなドナルドが落ち込むシーンの見られる作品もあります。
しかし、どんなに物事が裏目に出ても、ドナルドは決してへこたれないんです。
次の作品ではまた、前の作品同様、突飛なアイディアを思いついてはドタバタやっています。
時には甥っ子たちとのレースにどうしても勝ちたくてズルをしようとするあたり、大人気ないドナルドなんですが、そのあたりがとても魅力的でもあります。

特に10ページの小品”The Olympic Hopeful”は、そんなドナルドが最後に幸福な結末を迎える話として、私はとても大好きです。
ダックバーグからオリンピアンを出そう!と意気込む街の人々に見守られるスポーツ競技会。
そこへ運動なんか全然得意じゃないのに、何故か志だけは高いドナルドが出場してしまうのです。
「おじさん、スポーツは全然ダメなのに!」とドナルドを揶揄する甥っ子たちですが、他の体格の良いスポーツマンたちがひょんな理由で脱落する中(例えば、母親に「こんなことしてないで試験勉強よ!」と連れて行かれるなど)、どの競技でも下手糞そのもののドナルドが勝利を収めてしまうのです。
しかし鍛えていない身体はへろへろだし、大勢居る観客は不満の野次を飛ばすしで、ドナルドは散々。
そうこうするうち競技場を嵐が襲ってきて、司会者も観客も他の選手も、皆家に帰ってしまいます。
そして嵐の中、1500メートルを走りきるのは(というより、へとへとで「歩ききる」に近い)、ドナルドひとりということに。
サポート役の小さい甥っ子たち以外、誰も見守る者もないなか、ドナルドはトラックの上に倒れこむようにゴールインします。
そして後日。
ドナルドが自宅で寛いでいると、ラジオから、結局ダックバーグからオリンピアンを輩出することはできなかったというニュースが聞こえてきます。
恥ずかしそうなドナルドでしたが・・・。
甥っ子たちは「最後までやり遂げたのは、おじさん一人だけだよ!」といって、ドナルドに手作りの優勝カップを渡すのです。
そしてこの作品は終わります。


この話、よくよく読むと何も報われてはいないんです。
ドナルドはものすごく努力したけど、競技の途中から既に、彼自身にも自分が自信過剰であったことや、現実の壁の厚さが、嫌と言うほど見えています。
努力しても現実に阻まれ、他人から嘲笑われ、最後はグロッギーになりながら折角ゴールのテープを切った挙句、見ている人なんか誰もいないんです。
けれども最初はドナルドをバカにしてた甥っ子たちが、最後に彼のことを誇らしく思うくだり、私はとても大好きです。
諦めず最後まで、カッコ悪くても努力することの素晴らしさ、美しさがよく出た作品で、この作品集に最もぴったりな作品だったと思います。

英語の難易度: ★★☆☆☆
元々児童向けとはいえ、絵本のように簡単というわけではないのですが、本編は絵にリードされてすらすら読めます。
但し解説は大人向けです。

Walt Disney's Uncle Scrooge: The Lost Crown of Genghis Khan (Fantagraphics)

November 03 [Fri], 2017, 16:22


社会風刺に満ちた作風が特徴のカール・バークスの本領が、遺憾なく発揮された作品集です。
バークスはディズニーの漫画の中でも、ドナルド・ダック及びスクルージ・マクダックが登場する作品の祖といえる人で、日本ではあまり知られていないものの、世界的に最も有名な漫画家の一人です。
この作品集では、主に1956年から57年に彼がものした作品が収録されています。

バークスの場合、作風に最も勢いがあったのは40年代後半から50年初頭のキャリアの最初期で、その後1954年、55年頃にややトーンダウンしているような印象を受けます。
この「ややトーンダウンしている」というのは、あくまでも私の個人的な感覚なのですが、小野耕世先生のドナルド指南本『ドナルド・ダックの世界像』(1980)によると、丁度50年代半ば頃、アメリカでは娯楽作品における政治的適切性が問われ始めたという背景があり、丁度その時期と一致しています。
小野先生によると、この頃既にディズニー社は、コミックを含む作品の製作に関するマニュアルを作成していたようなのです。
当然バークスもその影響を受けていたわけで、ディズニーのキャラクターを使うのはやめ、オリジナルのキャラクターを使ってより自由に作品を描こうかと思っていた時期さえあったようですので、かなり彼としても「やりづらい」と思いながら仕事をしていたことでしょう。
バークスの心境にどのような変化があったのかはわかりませんし、ただ単に仕事が多かったというだけの理由かもしれないのですが、このあたりの作品の中には、筆致が荒くなっている作品も散見されます。
しかしもう少しあとの作品を収録したこの作品集では、かつての丁寧な筆致が戻ってきている感があります。
作風に関しても一皮剥けたというのか、風刺を得意とする作風はそのままに、良い意味で落ち着いている印象を受けます。

とはいえ表題作を含め、最も面白い作品の中には現代の読者の目から見ると明らかに(特に人種問題の観点から)政治的適切性に欠けるものがいくつかあり、これらは今同じ内容で新しく描くことは絶対にできないであろうと思われる作品群です。
大自然の中で暮らす原住民たちが、必ずしも醜く愚かに描かれているということはない(意外にバークス作品の場合、初期の作品でも原住民がこのように描かれているものは少ない)のですが、彼らがルソー的「聖なる野蛮人」として描かれていると言われればそのようにも読めますし、如何にもそこが植民地主義的だと言われれば、そのようにも読めなくはありません。
こうした作品は今となっては扱いが難しいと思うのですが、今読むのであれば、そういった政治的視点を敢えて捨て、作品の面白さを純粋に味わいたいものです。

今これらを敢えてを子どもに読ませることには賛否両論があるでしょうが、中でも"Land of Pygmy Indians"は、優れた文明批判として読む事が出来る良作だと思います。
大気汚染の激しいダックバーグを離れ、人っ子一人いない大自然の中に居を移そうと考えるスクルージ(とはいえ、この環境の悪化も欲得ずくの彼が齎した工業化によるもの)ですが、彼は美しい自然の光景を目の前にしながらも、地下や湖の底に眠る天然資源とその価格のことばかり考えています。
その守銭奴振りは、如何にもカール・バークスらしいナショナル・グラフィックの写真のような美しい自然の描写、可愛らしい動物たち、そして体は小さいが智恵に満ちた原住民たちとは対照的です。
終盤では、科学技術を持ち、智恵者の側かと思われたスクルージたち(現代的アメリカ白人)が、原住民の機転によってダックバーグへ追い返されます。
しかし当のスクルージには、実は自分たちがしてやられたことに気付く由もありません。
この辺りは非常に皮肉なストーリー展開で、如何にもバークスらしい文明批判と思います。

それにしてもこの作品集、バークスが得意とした比較的長い30ページ前後の作品だけでなく、1頁ものの短いギャグ漫画にもきらりと光るセンスが溢れる名作揃いです。
バークスはストーリーテラーとして、非常に真摯な人だったのでしょう。

さて、気になる英語の難易度ですが・・・。
1950年代あたりの世相が反映された内容なので、作品だけ読んでも面白いのですが、是非解説までたっぷり読んで理解したいところです。
(ごく一部ですが、解説がないと理解しがたい作品もあります。)
絵があるのでストーリーを大まかに追うのはそれほど困難ではありませんが、風刺的寓意を汲み取るには、台詞はやはりしっかり読んだほうが楽しいです。
一部英語のネイティブ話者であっても、北米大陸出身でなければわかりづらいのではと思われる語彙もありますが、それも作品の雰囲気として味わいたいものです。

Uncle Scrooge and Donald Duck: The Treasure of the Ten Avatars (Fantagraphics Books, Inc.)

October 01 [Sun], 2017, 4:23


皆様、こんにちは。お久しぶりです。
久しぶりにTDRに行きたい・・・と思わないでもないのですが、何となく足の向かない私。
あまりマイナスなことは言うべきではないようにも思うのですが・・・ここ数年のTDR、私の記憶の中のワンダーランドTDRとは大分かけ離れてきていて、既に単なる商業施設に近いものとなっているのでは、と思うことが増えています。
これまではほぼ、1年に2度くらいの割合でTDRに出かけていたのですが、ここ数年、インターネットで事前予約しないと楽しめないレストランや娯楽が増え、行く前から疲れてしまうようになりました。
しかも行った当日は、昔と比べても更に混雑が酷く・・・大好きなディズニーのスターたちを間近で見られるのは嬉しいのだけれど、露骨な商業主義を見せ付けられることも増えて、かつて楽しんだあのTDRはもうないのかな、と寂しい思いをすることが多くなりました。
そんな中、私が寂しい思いをせず、かつての大好きだったTDRの雰囲気が楽しめ、更にその世界を広げてくれるのが、コミックの世界なんです。
特にDon Rosaの作品は、世界観の広がりにおいて、素晴らしいディズニーらしさ、即ち冒険やロマンのスピリットを持っていると思います。

それにしてもDon Rosaは不思議な漫画家です。
Rosaと同じく、手塚治虫がカール・バークスの影響を受けたことは有名ですが、手法や技法の上でバークスの影響を多大に受けたものの、キャラクターやプロットに関しては独自の発展を遂げた手塚氏と、Rosaは非常に対照的です。
というのも、Rosa作品は手塚作品と違い、バークスと全く同じキャラクターを使い、バークスが作り上げた設定を更に掘り下げる形で発展してきたからです。
それどころか、Rosa作品においては、ストーリーに至ってもバークス作品を下敷きにしたものさえ数多くあります。
しかしそれにも関わらず・・・Rosaの作品は手塚作品、そして元祖であるバークス作品以上に、オリジナリティ溢れるものに仕上がっているのです。
このあたりが非常に不思議ですし、Rosaという作家の凄みだとも思います。
カール・バークスの大ファンで、彼の作品をコピーするこことから始まり、アマチュア漫画家としてまずはスタートを切ったRosaですが、それだけに彼は作品への思い入れが強く、キャラクターへの愛情も非常に強い作家であることが特徴です。
だからこそ彼は、創作において独自の工夫を労を厭わず凝らすことができるのでしょう。
Rosaの作品の主人公そのものは元々いたディズニーのキャラクターであり、彼のオリジナルではない上、元祖であるバークスの影響も色濃いのですが、それでも彼の作品は強烈なオリジナルとして眩い光を放っています。


これまで読んだ中でも、この作品集は特に素晴らしいの一言でした。
バークスのファンであったDon Rosaらしい、キャラクターへの愛が溢れた作風ですが、歴史物とSF(或いは、その組み合わせ)というRosaの最も得意とする分野の作品がたっぷり収録されており、非常に充実した内容です。
特にスクルージの「幸運の1セント」を狙う宿敵の魔女マジカ・デ・スペルの魔法により、スクルージとドナルドだけ重力の働く方向が変わってしまうという奇抜なアイディアの作品"A Matter of Some Gravity"は圧巻。
重力のバランスを変えるのが、魔女が使う魔法のステッキというあたりはファンタジー的な設定ですが、重力のねじれを描いた絵がリアルで見事です。
普通に絵を見ているだけでも、まるで遊園地のトリックハウスに入っているときのような身体感覚に陥り、非常に不思議な気分です(軽い眩暈すら覚えます!)。
出だしはファンタジーでもこのあたりの描き方は非常にリアルで、もともと大学で理系の学部にいたRosaらしく、SFらしい仕上がりとなっています。

もうひとつ印象的な作品は、スクルージが若き日の冒険を懐古する"The Vigilante of Pizen Bluff"。
Don Rosaは精密な時代考証による歴史漫画も得意としていますが、この作品では実在の歴史的人物とスクルージが共演するという、何ともスケールの大きな設定が魅力です。
スクルージといえば若かりし日、カナダはユーコン川付近のゴールドラッシュでその莫大な富の礎を築いたことで有名ですが、このエピソードは丁度その前後の物語といえます。
この物語では、なんとスクルージはあのバッファロー・ビルの興行に加わるのですが、狙撃の名手アニー・オークリーやアパッチ族の英雄ジェロニモまでも登場し、何とも楽しい作品に仕上がっています。
このあたり、映画『アニーよ銃をとれ』や西部劇が大好きだった私は、わくわくしながら読みました。
この作品自体は非常に楽しい大冒険活劇なのですが、作品の終わりには、古き良き西部開拓の時代は既に終焉を迎えており(作中スクルージが懐古しているのは19世紀終わり頃)、既に娯楽の中にしかそれを体現するものがなくなっていること、そして開拓時代の冒険心を肌で知る人々は既に歴史の遺物になっていることが語られ、非常に印象深いものです。
その過去の冒険心は、今後の世代に受け継がれていくのだ・・・と言いながらスクルージの肩を叩くバッファロー・ビルの姿が心に残る作品でした。

他にも紹介しきれないくらい、印象深く素晴らしく、そして楽しい作品が沢山収録されているので、これはディズニーコミックのファンなら是非とも読んでおきたい1冊になっています。
日本ではインターネット書店などで手に入りますので、少々お値段は張りますが(2017年9月現在、大体日本円で3500円前後)、是非とも読みたい作品です。
実はこのシリーズ、即興で訳してあげるのですが息子が大好きで・・・そのうち彼が自力で読めるようになるといいな、と思います。
残念ながら英語版しかなく、しかもDon Rosa作品の台詞回しは豊かなニュアンスを伝える複雑なものも多いです。
しかし絵を見ているだけでも古き良き、そして同時に新鮮な驚きを与えてくれるディズニーの世界が十二分に楽しめますので、英語初心者の方も、是非お手にとってご覧になることをお薦めします。

Walt Disney's Donald Duck: The Ghost Sheriff of Last Gash

May 13 [Sat], 2017, 22:44


いつものFantagraphics Books, Inc.から、カール・バークスのドナルド漫画をもう一冊。
カール・バークスといえば、32 pagerといわれる32ページ構成の漫画のなかに優れたものが非常に多く、こうした作品群の中には、バークスが得意とする冒険ものが多く含まれます。
これらの中には、アメリカの歴史に取材した迫力ある作品や、秘境を舞台とするスケールの大きな作品が多く、現代も優れた作品として高い評価を得ているものが多いです。
ただ、今回ご紹介している巻に掲載されている作品は、ほぼ全てが10 pagerと呼ばれる10ページ構成のものとなっており、こうした作品はドナルドと3人の甥っ子たちとのスラップスティックを描いたホームコメディ的なものが殆どです。

書かれた年代は、どの作品も1954年から55年です。
54年に描かれた作品群のほうが、勢いのある作風のものが多いです。
この時期の作品は、バークスとしても脂の乗った時期の作品には違いないのですが、55年初出の作品の幾つかに関しては、作風としてはやや控え目なものもあります。
控え目とはいっても、殆どの作品は大変妙味に溢れたものですが、巻末の解説で、他の作品に比べれば駄作ともいえるのではないかという評価を下されているものも少数ながらあります。
手塚治虫先生と小野耕世先生の貴重な対談によると、バークス作品は1950年以降作風がトーンダウンした時期があったそうですので、丁度そうした時期に差しかかっていた頃の作品かもしれません(『手塚治虫対談集3巻』p.99を参照)。

しかし、ヤングアダルト・成人向けコミックの市場は成熟しているものの、意外に優れた児童漫画が新しく出てこない現代の日本人の目から見ると、これらの作品は、児童漫画として非常にクオリティの高いものと思います。
どのエピソードもバークスらしい奇想、起承転結のプロットの妙に彩られており、10ページという短い中でよくもこれだけ楽しい要素を詰め込めるものだと思うと、もう見事というより他ありません。
如何にもありそう、でも絶対ありえない・・・といような、おかしなことが次々起こり、それが意外な結末を迎えるのが、バークス風コメディの典型ですが、10ページものの漫画にはそうした特長がぎゅっと凝縮されていて、このあたりはスケールの大きな32ページものの漫画にはない魅力だと思います。
特に111ページ目から掲載されている"Travelling Truants"という作品などは、バークス漫画におけるドナルド・ダックの、良識はあるが大人気ない思考パターン、そこからくる行き過ぎた行動がよく出ている作品として、小野後世先生が著書『ドナルド・ダックの世界像』でご紹介している作品でもあります。
ファンとしては何とも感慨深いもので、長年「いつか読める日も来るかしら」なんて思っていた作品だっただけに、ちょっと涙が出そうでした!

そしてこの巻にはもう一つ、異色な作品が含まれています。
それは181ページから掲載されている、"Donald Duck Tells About Kites"という作品です。
この作品はドナルドが甥っ子たちに凧の作り方を教えるという内容なのですが、安全に凧揚げをするためのルール(例えば、電線の近くでは凧揚げをしない、凧を作るときは、タングステンなど金属を原料に含む素材を使わないなど)が漫画の中で解説されており、啓蒙的な意味合いで描かれたことは明らかです。
実はこれ、1950年代に電力会社の依頼を受けて子供向けに書かれた啓蒙漫画であったらしく、簡易冊子として刊行され、なんと学校などで配布されていたというのです。
この冊子そのものを保存していた人はあまりいなかったんじゃないかと思いますが、今当時のものが残っていれば、ものすごいお宝といえるのではないかと思います。

1950年代アメリカの素敵なコメディ漫画、ディズニー好きな方にも、そうでない方にも、アメリカ文化に興味のある方には、是非お薦め致します!

参考文献: 
Carl Barks "Walt Disney's Donald Duck: The Ghost Sheriff of Last Gash" Fantagraphis Books, Inc. 2016
『手塚治虫漫画全集393 別巻11 手塚治虫対談集(3)』 講談社、1997
『ドナルド・ダックの世界像―ディズニーにみるアメリカの夢』 中公新書、1999

注)この記事の内容は、筆者による洋書紹介ブログ『ほんのほん♪』の最新記事と重複しております。

The Magic Kingdom Collection

March 10 [Fri], 2017, 7:59


皆様、こんにちは。
今回は今年1月に発売された、ディズニーランド開園60周年記念TPB "The Magic Kingdom Collection"をご紹介します。
こちらのTPBはいつもご紹介しているFantagraphics Books, Incからではなく、近年雑誌を含むディズニー系のコミックを沢山出しているIDW Publishingという出版社から出ているものです。
こちらの出版社は2015年から雑誌に加え、お手頃な価格のTPBを沢山出版しているところで、ディズニーのコミックを読んでみたいけれど、いきなりコレクター向けのFantagraphicsの本は手が出しづらい・・・と思っている方にも、是非お薦めです。
ただ、Fantagraphicsがバークス、ローザ作品の出版にほぼ専念しているのに対し、IDWのほうはドナルド・ダックの新聞漫画で有名だったタリアフェローや、英語圏以外の作家の作品(英語に翻訳されている)を多く出版しているようです。
作風がかなり違いますから、どちらが好みかは読む人次第といったところだと思います。
尚、今回ご紹介する作品集は、日本ではインターネット書店などで手に入れることができます。

今回ご紹介する作品集は、バークス作品2作を含む1950年代後半から1990年代前半までの作品が7作収録されているのですが・・・特徴は何と言っても、全てのエピソードの舞台がディズニーランドだということ!
ディズニーのキャラクターが、ディズニーランドを散策する様子をコミックで見ることができるなんて・・・なんだかミッキーやドナルドたちと一緒にディズニーランドを楽しんでいる気分で、ファンとしては夢のような作品集です。
デンマークやイタリアなど、英語圏の作家以外の作品が英語で読めるのも嬉しいところ。
すみません、今日の画像は、デジカメの電池がなくてスマホで無理やり撮影したために、画面の一部が光まくってますが・・・以下、作品の一部をご紹介しますね。


"Fantastic River Race" これはカール・バークスによるもので、1957年の作品です。
グランマ・ダックとディズニーランドでマーク・トウェイン号に乗るスクルージが、故郷スコットランドからアメリカへ渡った若かりし日、物資を運搬する蒸気船の船長として活躍した冒険の日々を思い起こす漫画。
なんとビーグル・ボーイズ(先代)とその息子たち、そしてジャイロ博士の祖父ラチェット・ギアルース(見た目はジャイロにそっくり)も出てくる、とても楽しい作品ですよ!
この作品ではラチェットがスクルージのパートナーとなり、得意の機械いじりで彼を助けるのですが・・・ボイラーでパイを焼いたりと、突飛なアイディアマンっぷりは、さすがジャイロのお祖父さんです。



 
"Donald and Mickey in Frontierland" 作者はPete Alvarado。1971年の作品です。
『カントリー・ベア・シアター』の熊たちが総出演という珍しいコミックです。
熊さんたちのコンサートが聴きたくてシアターへ向かうミッキーとドナルドですが、ピクニックがしたいビッグ・アル、アーネスト、テディ・バラがこっそり抜け出してしまっていて・・・。
開演がもう近いのに!
ミッキー、ドナルド、ヘンリー、そしてアライグマのサミーは、3人を連れ戻しに急いで出かけるのですが、これが上を下への大騒ぎに。
逃げる3人が、逃亡中のボートや馬車の上でもサンドイッチを食べ、結局ピクニックを楽しんでいる暢気な味わいが何とも言えない良い作品です。
ミッキーやドナルドの筆致や表情も、どこか懐かしくて可愛らしいです。



"Red Rogue's Treasure"Paul Halas , Unn Printz-Pahlson原案、Bictor "Vicar Arriagada Rios絵。
1992年、この作品集の中では新しい作品ですが、絵柄が非常に洗練されています。
どうでしょう、このタイトルページを見ただけで、もうわくわくしてしまいますね!
実はこれ、デンマークの作品なのですが、英語で読めるというのが大変嬉しいです。
『カリブの海賊』へやってきたドナルドと甥っ子たち、スクルージが、同行しているデイジーに、かつて宝の埋まった島でマジカ・デ・スペルや海賊たちと対決、見事宝物を手に入れたときの冒険談を語って聞かせます。
この作品ではマジカが憎めなくて面白い。
箒で空を飛んだり、女海賊に変身したり、魚に化けて海を泳いだり・・・勿論最後は散々な目に遭ってしまうんだけど、ちょっとだけマジカになってみたいと思ってしまったのは私だけ?!(笑)



そしてこちら、異色中の異色作"Incredible Disneyland Adventure"。
イタリアの漫画で、1985年のものです。
原案はAngelo Palmasという人ですが、描いたのはGiorgio Cavazzano。
Cavazzanoは日本ではあまり知られていませんが、イタリアのディズニーコミックアーティストとして、ファンの間では有名な人です。
軽妙かつ太目のタッチの絵柄が独特ですね。
この絵を見て分かるとおり・・・実はこれ、本物のミッキーが「ミッキーの被り物を被ってディズニーランドで働いている従業員」と協力し、みんなのお給金をくすねようとするピートとその仲間たちから、賃金を取り戻そうとするという(!)異色の冒険談です(笑)
キャラクターの「中の人たち」が大勢登場する漫画でありながら、ミッキーはやはりミッキーとして存在していて、夢を壊すような漫画ではないあたりが秀逸です。
作品の最後に、作者の国であるイタリアの子どもたちが、ディズニーランドでミッキー(本物)に尋ねます。
「どうしてミッキーは、どんな国の言葉も話せるの?」と・・・。
ミッキーさん答えて曰く、「たぶんそれは逆でね・・・それは君たちが、想像力という言葉を理解しているということなんだよ」
何とも素敵な会話ではありませんか。感動してしまいました。

何作かご紹介しましたが、他にもこの作品集には、素敵な作品が沢山収録されています。
描かれた年代が20世紀後半ということもあり、この作品に登場するディズニーランドは少しレトロで、大人世代には懐かしく、若い人には新鮮なディズニーランドだと思います。
ディズニーランドが大好きな皆さん、是非お手にとって、読んでみてくださいね。
もっとディズニーランドが好きになること請け合いです!

それでは、また近いうちにお会いしましょう!

参考文献: IDW Publishing "Disney Donald and Mickey: The Magic Kingdom Collection", 2015

Uncle Scrooge and Donald Duck:The Universal Solvent

December 24 [Sat], 2016, 2:47


みなさん、こんにちは。
今日は'Uncle Scrooge and Donald Duck "The Universal Solvent"'をご紹介します。
この本は、こちらのブログではすっかり御馴染みとなったFantagraphics Books, Inc.から出版されたDon Rosa Libraryの6巻目に当たるもので、今回も前回までと同様、大人のファンのコレクションに相応しい出来の本です。
装丁の美しさ、カラーの漫画の彩色の美しさ、印刷の美しさもさることながら、作者であるドン・ローザ本人による作品解説が巻末にたっぷり入っています。
中には、ボツとなって本編として過去に収録されてこなかった、貴重なオリジナルアイデアを示す下書きも。

Rosaは大学時代に理系の学部に在籍し、また歴史に詳しいコミック作家です。
それだけに、SF作品と史実をベースにした作品には独特のリアリティがあり、Rosaの最も得意とするところです。
そうした作品が沢山収録されているこの巻は、エンタテインメント性に富むと同時に、ファンを唸らせてやまないお宝といえるでしょう。
この巻には、主にローザが1994年から1995年にかけてものした作品が収録されているのですが、この頃になるとローザはファンアートのクリエイターという立場から一転、一日に8時間は漫画を描くことに費やしていたそうです。
プロとしての意識が芽生え始めたのもこの頃らしく、筆致もこなれてきています。
丁寧さや緻密さはそのままに、キャラクターはより表情豊かに、可愛らしく描かれるようになっています。
スクルージやドナルドは勿論なのですが、特にヒューイ・ルーイ・デューイの愛くるしさには目を見張るものがあります。

この巻の特徴は、何と言っても作品のバラエティの豊かさです。
まず巻頭は、1994年に発表された、ドナルドダックの60歳の誕生日記念作品。
もしドナルドがいなかったら、スクルージ伯父さんの運命をはじめ、周囲はどう変わっていたか・・・というお話。
やっぱり僕が生まれてきたことには意味があったんだ、と、仲間たちに誕生日を祝ってもらいながら納得するドナルドが微笑ましい、素敵な作品です。
他にも、スクルージとマジカ・デ・スペルの攻防に、クロイソス王の宝を求める大冒険が絡む歴史物、ジャイロが発明したダイヤモンド以外の全てのものを溶かしてしまう薬が原因で起こる騒動を描いたSFものなど、完全にオリジナルの作品は、どれも素晴らしいものばかり。
でも・・・ローザといえば、やはりバークス作品の後日譚も読みたいところですよね。
この巻には、それもしっかり収録されてます!
バークスの描いた50年代の名作"The Golden Helmet"の後日譚"The Lost Charts of Columbus"は、地球規模の歴史物でもあり、一大スペクタクルです。
また・・・自身の作品"Life and Times of Scrooge Mcduck"の、追加エピソードと見られる作品”Scrooge Mcduck in Hearts of the Yukon"も、この中には収録されています。
この作品、とても印象深い素敵なエピソードですので、そのうちじっくりとご紹介したいのですが・・・今日はとりあえず、これが"Life and Times of Scrooge Mcduck"で幾度も触れられているけれども直接的には描かれない、あのゴールディとの関係について描かれた、秀逸なラブストーリーであることのみ、記しておきます。
この作品は、もう文学的といっていいと思います。
ゴールディというキャラクターが最初に登場した、バークスの名作”Back to the Klondike"と、是非併せて読みたい作品です。

今回もバラエティ豊かな作品を揃え、漫画家としてのドン・ローザの手腕の凄まじさを見せ付けたこの巻。
Fantagraphics Books, Inc.は今後も続刊を刊行予定ですのですので、ファンとしては目が離せませんね!

Life and Times of Scrooge McDuck

November 21 [Mon], 2016, 8:53


皆様、こんにちは。
今回はかねてよりこちらのブログでご紹介してきた、バークスの後継ともいうべき偉大なコミックアーティスト、ドン・ローザ氏の代表作をご紹介致します。
その名も"Life and Times of Scrooge McDuck"。
この題名は単体の作品についたタイトルではなく、スクルージおじさんを主人公とした連作に与えられたタイトルで、これらの作品群には、スコットランドでの幼少期から渡米、そして世界一の大金持ちとなるまでのスクルージおじさんの生涯が描かれています。
実際の史実に基づいた作品を得意とするドン・ローザの才能が遺憾なく発揮された作品群で、スクルージというキャラクターを通じ、アメリカを中心とした世界の近代史をも振り返ることのできる、大変スケールの大きな素晴らしい作品群です。


一時は絶版になっていた"Life and Times of Scrooge McDuck"。
実は私がこの作品群を知ったのは、『スクルージおじさん&ダックファミリーblog』を通してのことで、管理人の星屑りんさんによる紹介文を読めば読むほど、是非これは現物を見てみなければという思いが強まっていきました。
"Life and Times of Scrooge McDuck"シリーズ自体は、最初に出版されたのが1990年代前半ですから、バークス作品のようにめちゃくちゃ古い作品というわけではありません。
それでもこの作品群は長らく絶版となっていたため、ファンにとっては記念碑的シリーズであるにも関わらず、入手困難となっていました。
このシリーズを集めた本はネットショップで万単位の価格で取引されていることが多く、とてもじゃないけど手が出せない・・・と悲しく思っていたものです。
実は星屑りんさんに、「そのうちFantagraphicsあたりが復刊して下さらないものでしょうか・・・」と、こぼしたことがあるのを記憶しているのですが・・・。


しかし私のぼやきが、嬉しいことに、なんと今年に入って本当になったのです!
現在"Life and Times of Scrooge McDuck"はFantagraphics Books, Inc.から刊行されているハードカバーのシリーズ”The Don Rosa Library"に収録されており、現在はamazonや紀伊國屋書店など、インターネット書店を通じ、比較的容易に手に入れることができます。
"Life and Times of Scrooge McDuck"が収録されているのは、同シリーズの第4巻及び5巻。
しかも、著者ドン・ローザ本人による各作品の解説が巻末についているという、ファンなら是非揃えておきたいものです。
価格は日本円で一冊あたり3千円台前半で、少し値段が張りますが、装丁も大変美しく、中は勿論フルカラー。
スクルージおじさんのファンであれば、シリーズ中この2冊だけでも、揃えておかれることをお薦め致します。
(尚、このシリーズにはドン・ローザの作品が時系列で収録されているため、"Life and Times of Scrooge McDuck"以外の作品も一部収録されています。)


"Life and Times of Scrooge McDuck"を読むと、スクルージを一人の人物として捉え、彼を通してこれだけの深みとスケールを備えた物語を描いたドン・ローザの手腕にひれ伏したくなります。
スコットランドの没落貴族の家庭に生まれ、貧困の中で育つ少年時代のスクルージ。
彼があの伝説のアイテム「幸運の10セント」を手にするところから、家族を養うために渡米し、更に富を求めて世界中を旅し、老年期にダックバーグへ落ち着くまでの物語を読むと、スクルージ・マクダックというキャラクターが、これまでとは違ったふうに見えてきます。
富を掴みかけるもチャンスに見放されたり、時機を逃したりと、若き日のスクルージはかなり失敗もしているのですが、タフネスだけは人一倍。
アメリカで蒸気船の運転手として活躍し、銅の鉱脈を掘り当て、有名なカナダ北部のゴールドラッシュのみならず、オーストラリアのゴールドラッシュにも駆けつけ、北極、アフリカ、はては極東地域でも富を築き・・・。
世界一の金持ちになろうと野心を燃やすスクルージの数々の冒険譚は痛快ですが、ドン・ローザは各キャラクターの心情を描くことも、決して疎かにはしません。
徐々に成功して大金持ちとなり、得たもの、失ったもの、そして変わらないタフネス・・・。
スクルージが何故スクルージとなりえたのかが緻密に描かれ、ファンにとってはまさにサーガと呼べる作品群です。
また、物語の中では、これまでバークスが明示してこなかったあらゆる主な人物との出会いも数多く描かれており、マニアックなファンにとっては楽しみも2倍、3倍となること請け合い。
仇敵ビーグル・ボーイズとの初めての対決、永遠のライバルフリントハート・グロムゴールドとの出会い、そして酒場のスターになる前の、あのゴールディも登場します。


尚、このブログでは敢えて触れませんが、"Life and Times of Scrooge McDuck"の各エピソードの詳細が知りたいという方は、是非星屑りんさんのブログ『スクルージおじさん&ダックファミリーblog』をご覧になることをお薦めします。
こちらのブログは日本語で「スクルージおじさん」と検索すると、トップに出てくるサイトなので、ご存知の方も沢山いらっしゃると思いますが、スクルージおじさんのことに関しては、恐らく日本で一番詳しいサイトなのではないかと思います。
"Life and Times of Scrooge McDuck"のことだけでなく、こちらのブログでは網羅できないヨーロッパ製のコミックなどにも詳しいですので、是非お薦め致します!


"Life and Times of Scrooge McDuck"はこれほどまでに完成度の高い作品なのに、どうして日本語の翻訳版が出ないのか、日本の子どもたちがアクセスできないのかということを考えると、少し寂しくもあります。
我が家の8歳の息子には、ほぼ全てのストーリーを即興で訳して読んであげたのですが、物語の壮大さ、スクルージおじさんの痛快さに大喜び。
こんな良作、日本の子どもたちにももっと読んでもらいたいのですけれど、コミック市場の内需がこれだけ発達した日本だと、やっぱり海外作品の翻訳出版は難しいのかもしれません。


とはいえ、ファンにとってはこれらの作品が英語で、しかも日本にいながらにして読めるというだけでも、もう天にも昇るほど嬉しいことです。
ドン・ローザ作品集は、まだまだこれからFantagraphicsから刊行されるようですので、そちらも楽しみですね!


謝辞
『スクルージおじさん&ダックファミリーblog』の星屑りんさん、ブログのご紹介を快諾して頂いて、本当にありがとうございました!


映画『ジャングルブック』

September 20 [Tue], 2016, 5:50
素晴らしいの一言の映画でした。
この夏、家族全員で『ジャングル・ブック』(キプリングの原作)を読みました。
本で読んだ美しいジャングルの世界が目の前に広がっているのを見ると、寒気がするほどわくわくしました。
小学生の息子も含め、「この素晴らしい小説の世界を、本当に実写で表現できるのか」という疑問を抱いていたのですが、本当に本当に、この作品は『ジャングル・ブック』映画の決定版と言ってもいいと思います。


70年代に製作されたディズニーのアニメ版では、原作のストーリーの枠の一部だけを抽出し、あとは陽気なディズニー風味で味付けしたような作品でした。
映画としてはよく出来ており、特に音楽は素晴らしかったのですが、原作とは雰囲気も物語そのものも、随分かけ離れたものでした。
今回の実写版は同じディズニーが製作したものですが、アニメ版の良さ(主に音楽)を取り入れながらも原作も尊重した作りとなっており、アニメ版のファンにも原作小説のファンにも、嬉しい作品となっています。


原作の『ジャングル・ブック』は、モーグリ少年がメンターや親代わりの動物たちの助力を得ながらジャングルの掟を守り、大人になっていく壮大なビルドゥングス・ロマンですが、主役のニール・セティさんはその過程を非常に上手く演じていたと思います。
序盤で登場する彼は可愛らしい男の子ですが、終盤にはきりりと表情が引き締まり、大人の男性のように見えました。その彼を母狼が誇らしげに見つめる場面は、強烈に印象に残っています。


児童文学が原作となった映画では、『ハリー・ポッター』シリーズなども素敵ですが、こちらの作品のほうがテーマに重層性があり、見応えがあります。子供たちには、生きる上で重要な要素が沢山詰まったこの映画を堪能し、そのあとは是非、原作も読んでほしいと思います。

素晴らしいの一言!ドン・ローザのコミックTreasure Under Glass

November 26 [Thu], 2015, 8:11
皆様、こんにちは。お久しぶりです。
最近読書にハマっておりまして・・・ディズニーのこと、沢山書きたかったのですが、ちょっとブログの更新のほうはお休みしてました。
私は本に関しては、特に古典文学が大好きで・・・お休みしている間に、Penguin版の"The Arabian Nights"、"Moby-Dick"、"The End of the Affairs"などなど、名作もたっぷり読んだのですが・・・勿論、ディズニーのコミックも忘れていませんでしたよ!

今回ご紹介するのは、つい2、3ヶ月前に発売された米国Fantagraphics Books, Inc.出版のハードカバーコミックです。
そう、こちらのブログではすっかり御馴染みのFantagraphicsですね(笑)
今回はドン・ローザ著”Uncle Scrooge and Donald Duck"シリーズの中の、"Treasure Under Glass"をご紹介します。



ちょっと画像が小さくて残念ですが、このグラデーションをつけた美しい色彩の表紙をご覧あれ。
これだけでもローザらしい冒険譚を想像して、わくわくしてしまいますね!

この巻の特徴は、ローザのコミック作家としての才能が余すところなく発揮された、あらゆるジャンルの名作が揃っているということ。
表題作"Treasure Under Glass"など、ローザお得意の実際の歴史的事物から着想を得た作品。
”On Stolen Time"”The Duck Who Fell to Earth"(このタイトル、デヴィッド・ボウイのファンにはたまらないでしょう)などのSFもの。
”Return to Xanadu"”War of the Wendigo"”Sooper Snooper Strikes Again!"など、先達バークスのストーリーの後日譚となっているもの。
どれもが珠玉の作品ばかりで、コミックライターとしてのローザの手腕には、ただただ驚かされるばかりです。

個々の作品については、また後日近いうちにご紹介できればと思っているので、ここではその前段階として、巻末の解説で示されるドン・ローザ本人の談も交えながら、この本に収められたエピソードの全体的なご紹介をしておこうかと思います。

ローザ本人は、このシリーズの前の巻でも何度か述べているように、歴史冒険ものを得意とするコミック作家です。
それも全く架空の歴史をオリジナルで作り上げたり、バークスのように現実のカリカチュア、パロディとしての歴史的事物を設定として示すのではなく、実際の歴史的背景に依拠した事物から着想を得ています。
ローザの作中では、バークス作品と同様、ドナルドやスクルージたちはダックバーグという架空のアメリカの都市に住んでいることになっていますが、ローザは作品の時代背景を1950年代と明示しており、そうした点からも、彼がバークスをはじめとするほかの作家たちと異なるスタンスで作品を描いていることがわかります。
おそらくローザ本人にとっては、ドナルドもスクルージも、実在した人物と同様のリアリティを持つキャラクターなのではないでしょうか。
彼の作品設定からは、かつては一人のファンであった彼自身の、キャラクターに対する愛が感じられます。

ローザは歴史的事物を扱う作品を描く一方で、先に述べた通り、SF的な作品も多くものしていますが、これらの作品もまた、独特のリアリティに裏打ちされています。
彼のSFは、荒唐無稽な「ありえない」SFではなく、いかにも現実にありそうと思わせる具体的なギミックに満ち満ちています。
特に低年齢の読者向けに(作品そのものは、十分大人の鑑賞に堪えうる名作なのですが)、重力の法則などをキャラクターに説明させている箇所などもあり、非英語ネイティブ(及び文系)の私などにも非常に勉強になるのですが、それらの説明が決して退屈にならず、作品に信憑性を与える道具立てとして効果を発揮している点には、是非注目したいところです。
これらのSF作品には、1950年代アメリカという作品背景と矛盾するという理由で、ローザ本人は必ずしもお気に入りでないものもあるようです。
しかしどの作品も、理系大卒のローザらしい理論・設定構築の巧みさ、そしてキャラクターの性格付けに見られる卓越したユーモアに彩られた、大人が読んでも非常に楽しい作品ばかりです。

そして忘れてはいけないのは、先達バークスの作品の後日談ともいうべき作品です。
これらの作品は、元の設定がバークスであるという点で、完全なローザのオリジナルというのとは少し違うと思われるかたもいらっしゃるでしょうが、これらの作品にこそ、ローザの真骨頂が見られると思います。
バークスのオリジナルの設定や世界観をぶち壊しにすることなく、更に発展的な物語を描くローザの手腕に、読者はただ敬服するばかり。
決してバークスの真似ではないんです。
あくまでローザらしさが溢れているのですが、バークスの作品の良さもまた思い起こさせてくれる、ファンにとっては本当に嬉しく、有難い作品群です。
ローザによると、完全にオリジナルの作品を作るより、こうした名作の後日譚を描くほうがよほど難しいということなのですが、これほどの完成度を目の当たりにすると、それもまた納得です。
更に、この巻に収められている「後日譚」作品には、コールリッジの詩など文学作品が引用されているものもあり・・・英文学ファンにも嬉しいですよ。

先達バークスとローザの作品を比較すると・・・。
バークスは、例えば有名なアンデスの四角い卵のエピソードに見られるような荒唐無稽なギミックと、社会風刺に満ちた作風が特徴です。
彼の描くダックバーグは、現実のアメリカに代表される文明社会のカリカチュアともいうべきものですし、主人公たちが旅する未開の冒険の地も、アメリカ人の目に映る未開の地という意味で非常にパロディ的です。
ドナルドやスクルージも、人間のパロディ、カリカチュアとしての側面が強く、バークスが示すユーモアは、キャラクターの性格に依拠するそれというよりも、まずは設定ありき、内容ありきのユーモアです。
一見子供向けの他愛のない作品のようでも、所謂ブラック・コメディのようなものもあり、テレビ放送開始や冷戦など、時事問題を扱ったような作品も散見されます。

バークスの場合、絵の筆致もローザと違ってかなり軽妙な印象を与えます。
バークスは元々、ディズニーの動画アーティストとしてキャリアをスタートさせた人で、アマチュア漫画家からプロになったローザと異なり、元々プロ、しかもアニメ関連の仕事から漫画に転向した人です。
筆致にもそれを思わせるところがあり、無駄のない線と動きを感じさせる背景、キャラクターの一瞬の表情を捉えたような、一種アニメのドナルドやスクルージを彷彿とさせる愛らしさが特徴です。

それに対し、ローザはファン向け雑誌に投稿していたアマチュア作家から始めたからなのか、とにかくマニアックなまでに丁寧な作風が特徴です。
物語の設定も、一作ごとに描きたい内容に合致するよう設定を作っていた(というふうに、私個人には読める)バークスと異なり、まるで煉瓦で家を作るように、緻密に計算され、構築されています。
彼は設定にも凝りますが、バークスとの違いは、キャラクターに対する思い入れ。
バークスはあくまで、自身が描く内容を巧みに表現する役者としてキャラクターを位置づけているような印象を与えますが、バークスファンであるローザにとって、キャラクターは実在の人物同様の愛すべき存在。
バークスの作品に比べ、キャラクターの心理や関係性、性格にユーモアの核が置かれていることが多く、全体的な作風も、風刺的なものなどはありません。
ただただファンとして作品を愛し、プロの作家として大好きなキャラクターの漫画を描くことを愛する、そんなローザの境地が伝わってくるような作風で、そこにこそローザらしさがあります。
それだけに、絵の筆致もマニアックなほど細かく・・・本人も「ここまで細かく描くことないんだけど」と巻末で述べていたりして、描くのは大変でしょうが(楽しくもあるんでしょうけれど)、見るほうはとても楽しい。
緻密な筆致には、バークスにはない魅力があります。

先達バークスとその後継者ともいうべきローザ。
二人はどちらも、素晴らしいコミックアーティストで、それを十二分に実感させてくれるこの本は、本当に素敵な本です。
まさにダックファン必見。
残念ながら、一般書店では海外コミックを扱う大きな書店でも扱っていないことが多く、手に取ってみることは難しいディズニー作品ですが、この本だけは、ファンなら是非とも揃えておきたいものだと思います。
今ならインターネットで日本にいながらにして手に入るので、本当に有難い時代になったと思います。

参考文献:
Don Rosa Uncle Scrooge and Donald Duck "Treasure Under Glass" Fantagraphics Books, Inc. 2015





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こんにちは!楽しいことを探すのが大好きな、ディズニーファンのYuminです。
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