last episode 夢の終わり 

2005年12月24日(土) 23時11分






 聖なるその日…



 島は夢の終焉を迎えた。










 ミールの誤認識で生まれた、

普通ではありえない、奇跡。




 けれど、それは、確かに"虚像"ではない…



優しい奇跡…。 ――"黄泉がえり"…。


















  『あなたが、そこにいた…。』




 そして、確実に『何か』を残した、人々の心に…。








 それは、単なる"夢"ではなかった…。









 生まれては別れに向かう私たちの為に








 齎された奇跡は、甘く、優しい、暖かな温もりだったから…。











  



  だから、生きていく、私たちは…この島で…。












  願わくば、暖かな祈りが、総ての人に、届きますように…








   Happy merry Christmas...!!



(by.登米 諦)

episode‐14 行ってらっしゃい 

2005年12月24日(土) 19時42分
「クリスマスね」

「ああ」

「今日で最後なんでしょう?」

「・・・あ、って・・・・」

どうして、それを知っているのだと慌てる道生に弓子は穏やかに微笑んだ。
一体、私を誰だと思っているのよと胸を張って
えばる様な仕種は強がっている様にも見えるし、
何処かで諦めていたのかもしれない。
弓子は道生に編みかけのセーターを見せると、苦笑を浮かべた。

「結局、最後まで仕上がらなかったの」

「お前って不器用だからな」

俺に比べればという道夫に弓子は、曖昧に目線を伏せる。
ポタリ・・・・ポタリ・・・・
落ちてゆく彼女の雫を、今の道生には拭う事も出来ない。
弓子は長い息を吐くと、「ありがとう」と道生に告げた。

「ありがとう?」

「子供を・・・一度だけでも、『お父さん』に会わせてあげたかったの」

「・・・弓子」

「それが出来ただけでも贅沢かな」

例え、今、彼が此処にいるのは『システムエラー』だとしても
その事を人は『奇跡』と呼ぶのではないだろうか?
それに『システムエラー』と片づけるよりも、
『奇跡』と名付ける方が素敵な気が弓子にはする。
乙女チックな彼女の発想に苦笑を浮かべると、
道生は「好きだよ」と弓子に告げた。

「でも、お前が俺に・・・・」

最後まで紡ごうとした言葉に弓子は首を振る。

「あの子のお父さんは、日野道生。その人しか居ないの」

「・・・・弓子」

「それで、私の夫も道生しか居ないのよ」

「・・・ありがとう、弓子。行ってくるな。体に気をつけろよ」

「うん。道生もね」

まるで朝の見送りの様に、弓子は道生に手を振り翳す。
行ってらっしゃい。
そして、どうか、気をつけて。

(by.柊清夏)

episode‐13 その名を今一度 

2005年12月23日(金) 18時16分

すまない、と、誰にあやまっていたの。
ねぇ、史彦――――。


薄暗い工房。ここで自分はいくつもの存在を作り出した。
あるものは茶碗になり、あるものは湯飲みになった。
史彦に、フェストゥムについて語ったのもここだった。
自分にとっての家であり、家族と過ごした大切な時間だった。
心から愛していたわ。
史彦も、一騎も。
だから守りたかったの。
この島を、この世界を。
自分を必要としてくれる、自分が此処に居る、証を。
――そんな場所で。
自らの存在が偽りであると、認めたくなどなかった。
「……そうか」
久しぶりに会った愛しい人は、記憶にある人と違っていた。
「最初におかしいと思ったのは、溝口君と出会ってからよ。ミョルニアという名も、彼から聞いた」
逢いたくなどなかった。けれど逢いたかった。
迷って迷って、最後に此処に来たのは伝えることがあったせい。
この島で起きている、ミールの誤認識、それを正す必要があったせい。
「酔ってるのかと思ったわ。何を言われているのか、解らなかったから」
それがなければ、逢いに来なかったかもしれない。
「けれど、違うのね。見ることも聞くことも、時の流れが違うのよ」
ちらりと見かけた一騎は、私が知っている姿より遥かに成長していた。
「――調べたわ。私が知らない時の流れ、その間に起こった出来事」
まだ何も疑わなかった、目覚めてすぐのときはまっすぐ家に帰るつもりだった。
それは恒例のロードワークの最中だったから、そうすることがなによりも自然な事。
いつものルートを外れて、海辺に寄ろうと思ったのはただの気まぐれ。
「そして知った。すぐに納得出来ないのは当然のはずなのに、疑問も持たず受け入れてしまった。
……思えば、それもミールのせいね」
偽りの世界を壊す、切欠となる気まぐれ。
「私は、もっと深く、調べることにした」
時の流れを埋めた時点で、調べるのをやめればよかったのか。
そうすれば、苦しむことなく貴方に逢えた?
いいえ、貴方に逢うために、私はなおも調べたの。
人は変わってゆくもの。未来を、紡いでいく存在。
私は貴方と、未来を紡いでいけるのか、と。
「そして、辿り着いた」
「誤認識、だと?」
「そうよ」
顔を上げた。
一滴だけ流れてしまった涙は、経緯を話すうち消えてしまったから。

episode‐12 最哀の時 

2005年12月23日(金) 18時08分
『逢えます、よ』
そう彼女は言った。
けれど逢わなければいいと思う自分が居た。


「すまない」
薄暗い工房で、飾ってある写真に向かい呟く。
そう遠くないうちに会う予感がしていた。
自分の勘は、紅音ほど正確ではなかったが、それでも外れないと確信があった。
システムエラーにより帰ってきた人々の情報は、アルヴィスで全て把握している。
それはコアとなった乙姫の力でもあったし、純粋にアルヴィスの情報収集力の賜物でもあった。
そのなかに紅音の名前があるのも、確かな事実。
なにより、溝口にうけた報告がある。
『紅音ちゃんに会った』
どこか覇気のない声音で告げられた言葉に、心動かされなかったとは言わない。
ミョルニアが紅音の名を語った時の衝撃程ではないにせよ、複雑な心境になったのも事実だ。
複雑――そう、複雑だ。
「昔の俺なら、どうしただろうな」
写真の中の紅音は、優しく微笑んでいる。
あの頃のまま、フェストゥムではなくそのままの紅音だというのなら、逢いに行ったのだろうか。
それとも受け入れきれずに、身の内に潜む荒れ狂う感情のまま、頑なに逢おうとしなかったろうか。
今はどちらの自分も想像出来はしないが。

「変わったのね、史彦」

ゆっくりと振り向けば、過ぎ去った日と変わらない、紅音の姿があった。

「お前は、変わらないな」

そして変わってしまった、自分がいる。

episode‐11 虚 

2005年12月20日(火) 9時16分
生と死の循環システムエラー。
どうして、彼が此処にいるのか、喜びだけを感じていた気持ちが
エラーという事を知って、弓子に虚を抱かせてしまう。
それでも、アルヴィスの一員としては、帰ってきた彼の事を
調べなければならず、幾つかの装置を道生の体から逸れない様に
再度、確認をすると、弓子はモニターを眺めた。
・・・変わらないじゃない。
思わず、そんな声が漏れてしまう。
画面が出している数値は、生前の道夫とさほど、変わってはいない。
システムエラーなどではなく、道生は初めから自分の隣に居たのではないかと
貧相な想像を働かせて、弓子はコーヒーを口にした。
この現象には、何があるのか。
それが分かった時、自分はどうなるのだろうと
考えの悪循環に首を振った。

「お〜い、弓子。子供が泣いてないか?」

「えっ・・・あ、ああ!忘れてた」

「しっかりしろよ。『お母さん』だろう?」

「本当ね」

弓子は道生の体に付いている機械を取り外すと、
そこの椅子に座っててと言い残して、子供の元へと行ってしまう。
道夫は自分の手を何度かグーパーと動かすと、
曖昧に微笑んだ。

「大丈夫だよな。・・・・まだ」

(By.柊清夏)

episode‐10 力 

2005年12月17日(土) 18時30分
次々と現れる、もう、失われたはずの人々。
アルヴィスの総力を挙げ、乙姫ちゃんの協力を仰ぎ、この事態は生と死の循環システムエラーであると判明した。
判明はしたが、それを正す術を私達は持たなかった。
今は帰ってきた人々のデータを解析するしか、自分に出来ることは無い。

episode‐9 葛藤 

2005年12月16日(金) 2時05分


沢山の人に、会った。


千鶴ちゃんも、溝口君も、


少しだけ年を取って、いた。


年月を重ねていた。





そのことに、ほんの少しだけ、寂しさを感じる。


どうして、私は、このままなんだろう。


そんな疑問も、心の片隅に引っかかっていたけれど。


そんなこと、大したことじゃ、無いと思ってた。




『そろそろ…なのかしら…』

心の中で、そう思う。


この不思議な現象は、もう直ぐ、終止符が打たれるはず。


それがまだ…何時のコトか、詳しいことは全然わからないけれど。


きっと、直ぐに…



直ぐに。


そうすれば、きっとまた、私は、私ではなくなってしまう。

自分ではない別の誰かに、"戻ってしまう"




その前に、会いたい人が居る。



(ねえ、史彦。


 私は、あなたに逢いに行ってもいいのかしら?)




会いにいって、そして、どうしようというの?


自問自答。



(ねえ、史彦。一騎は元気?)

アナタが育ててくれたのよね。元気な姿を、見た…声は、掛けなかったけれど。

ほんの少し、不器用そうで、でも、ちいさくはにかんだその表情は、少しだけ幸せそうにも見えた。

アナタが、育ててくれたのよね、優しい、人に。




ねえ、史彦?

あなたに逢いたい。

あなたの中に、私はもう、居ないのかしら…




ひょっとして


…その心には、もう既に、新しい人が居るのかしら。




…嗚呼、そのことを、私は、祝福できるのかしら…



解らない。


けれど、逢わなければ、何一つ、変わらない気がした。


終止符を打つためにも。






あの日。


「ねえ、千鶴ちゃん。」



去り際に、本当は告げたかった言葉。


『史彦のコト、よろしくね。』


どうしていえなかったんだろう。





総ては、これから始まって。


そして、総ては、これから、結末を迎える。


episode‐8 cigar bitter3 

2005年12月14日(水) 7時04分
死を踏み越えたからこそ、今の生が在る。

俺たちは過去に囚われちゃいけない。
今を死に物狂いで生きなきゃいけない。
それが、死んでいったものへの弔いってものだから。


俺は、会いたいのか―?
…分らない。


「珈琲、入れようか。―もう、このまま起きてるーよね」
甲洋が言った。
「…ああ。頼む」
応えてから、溝口はふと辺りを見回してみる。
いつの間にか薄暗かった店内に日の光が注こめていて、
窓の外では甲高い鳥達の鳴き声がしていた。
もう一日を始めねばならない時間だ。徹夜分を寝直している暇はない。
焼酎で勢い付けようとしていた睡魔も、この一杯ですっかり消えるだろう―

カウンターに立った甲洋は、慣れた仕草でやかんを火にかけ、
匙3杯ほどの豆を入れたコーヒーミルにスイッチを入れた。
豆が挽けるのを静かに待つ―佇んでいるだけのその姿は―
なぜだろう、それだけでも絵になる光景に見えた。

伏せ目の表情が、溝口の記憶の内の”誰か”と重なる。

『…溝口君』

その時―どこからか"彼女”の声が聞こえた気がした。
(止せ)
溝口は自身を戒めた。
(一瞬の夢…あれは、そう思うべきことなんだ―)
やがて、香ばしい珈琲の匂いが店内を満たし始めた。
『溝口君』
再度その声が聞こえる。
今度は溝口はそれに誘われるまま、ゆっくりと瞼を閉じた−


episode‐7 cigar bitter2 

2005年12月11日(日) 18時08分
「それで火傷してたら…世話無いよね」
「…立派な”節約お父さん”の図、だろが」

episode‐6 cigar bitter 

2005年12月11日(日) 11時22分
朝焼けに染まる紅い海を見る時。

そこが世界の一端でしかないことを、そして、
オレ達が世界の流れの一滴でしかないことを思い知る―

『溝口君…? やだ、貴方ちょっと老けたんじゃない?』

お前さんが変わってないんだ
―なぁ、アカネちゃん…



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