描きたい物語@ 

August 19 [Sun], 2007, 23:34
アンジェラ
マンハッタンに似た、
寂しくて世界で一番冷たい風が吹く街に、
クリスチャンって男がいた。

クリスチャンは赤ん坊の頃に親に捨てられた。
彼を拾って育ててくれたのは教会のシスターたちだった。

クリスチャンが12のクリスマスに、
タバコ屋の手伝いの帰り、一切れのケーキが入った箱を抱えて、
粉雪が街灯に照らされて光の粒になる中を
息を切らして走っていた。

「みんな、驚くだろうなぁ。」
「ギリギリまで隠しておいて…
讃美の後に、アンジェラに開かせてあげよう。
一番小さくて、一番天使みたいだもの。」

ふと、
クリスチャンの目の前が真っ白になった。

色とりどりのロウソクが並ぶ
フライパンみたいに大きくて真っ白なケーキが
クリスチャンの目にとまった。

「あれを、
一人で食べるんだ。」

大きなケーキを前に、
満足げに笑みを浮かべた少年が窓の向こうにいた。
少年の両脇には同じように満足げに頷く両親がいた。

「三人で食べると、どんなにか美味しいんだろう。。。」

レストランを通り過ぎたクリスチャンの足どりは重たかった。

孤児院で帰りを待つみんなの顔が浮かんだ。
ジョー、マルコ、サイモン、シスターアンナ、
マリア、ベティ、

アンジェラ。



クリスチャンは路地裏に向かい、
ゴミ箱のすき間にしゃがみこんで、
抱えていた箱を開いた。

むわっと甘い香りが漏れる。
とたんに、
唾と涙が一緒に出た。
野良犬の糞尿の匂いと、腐った肉の臭い、湿ったホコリの臭い。
それと一緒に、

甘い甘い香りを吸い込んだ。

舌に雪みたいなスポンジが、ふわっと溶けた。
舌がしびれる。
美味しいのに、
涙が
ボロボロ、後から後からあふれてくる。
「ごめんなさい。ごめんなさい。」
皆の顔が次々に浮かんでは、
涙ににじんで消え、
また現れた。
「どうしたら、
どうしたらいいんだろう。」

教会の前にたどり着いた時には、
辺りはすっかり、真っ暗になっていた。
抱えていた箱は、もう残っていなかった。
重いドアノブを押した。

「どうしたらよかったんだろう。」

「神さま、ぼくは悪い子です。」

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