着物への憧れの話

June 11 [Wed], 2014, 0:03
 ひいおばあ様は、遠い東の島国の人だった。私が覚えているのはもうおばあ様の髪が銀色になり、その瞳にうっすらと白い澱が揺蕩っている姿だが、昔の、嫁いできた頃のひいおばあ様はそれはそれは見事な美しい黒髪と、黒い瞳をもっていらっしゃったそうだ。
 私の記憶の中のひいおばあ様は、静かな色のお洋服を身にまとい、緩やかなしぐさで本を開き、私に読み聞かせてくれたり、手ずからお料理を作ってくださったり、お庭で花を剪定していたりなさっていた。
 ただ、ひいおばあ様が読み聞かせてくれる御本はいつも、遠い島国のお話ばかりだった。だから私は古い古い御本の挿絵の中に、美しく優雅で、それでいて私がこの目で見たことのないほど奇妙な服を着た人々の姿を見た。それが『着物』というものだと知ったのは、私に尋ねられたひいおばあ様が私に教えてくださったのだと思う。
「私の故郷はね」
 歌うように語るひいおばあ様のお声を、私は今でも覚えている。
「とても美しいところだったのよ。そして私が着ていた着物はね、やっぱりその美しい国で作られるにふさわしい、美しいものだったのよ」
 幼いころからコルセットを締めて育った私には想像もつかない、布の、布だけで作られた服。身体に沿うようでいて、その全てを押し隠してしまうような服。
 私は、確かひいおばあ様に、その着物を着せてくれるようにねだったことがある。だがひいおばあ様は微笑みながらただ私にこう言った。
「自分のお着物は、まず、自分でお買いなさい。あなたが女性になった時、その時のあなたが一番素敵だと思うものを」
 その言葉に私は何と言いかえしたか覚えてはいない。きっと子供らしくすねて、わがままを言ったのだと思う。それでも、ひいおばあ様は決してその言葉を翻そうとはしなかったのだとも。

 私が、ひいおばあ様が着物を着ているのを見たのはたった一度だけだ。一度だけ。
 ひいおばあ様の葬儀の日のことだった。
 ひいおばあ様をたいそう愛したおばあさまや大叔父様たちがどこからか取り寄せた、良い香りのするおばあ様の故郷の樹で作った棺の中に横たえられたひいおばあ様は、絵本の中で見たような形の着物を着ていた。けれど、色は絵本で見たような色鮮やかなものではなく、ただただ真っ白だった。
 だが、真っ白だというのに、その着物にはやはり真っ白な絹糸で驚くほど繊細な刺繍がしてあったのだ。息をのむような美しさ、目を疑うような繊細さ、色を持たないというのに、世界にある何よりも鮮やかな白は、私の目に焼き付くのに造作もなかった。
 遠い遠い東の国、夢の国、想像もつかぬほど遠いそこでは、黄泉路をゆく人にこんなにも美しいものを着せるのか。こんなに美しいものを着て、この世ではないところへ行くのかと思うと、ひいおばあさまを失った悲しみとは別の、なんだか胸を打つような、奇妙な感覚と涙がこぼれてきた。
 ぐっと胸を締め付ける、あの感動を私はきっと忘れない。

「そういえば知っているかい?街に着物を作ってくれる店ができたそうだよ」
「え?」
「君は確か遠い東の国の服にご執心だったと思ってね。広告をもらってきたんだ」
 そういいながら渡された広告には、昔絵本の中で見た美しい着物が描かれていた。
「あぁ」
 胸を焼く様な想いを抱いて、きよは小さなため息をつく。きっとそこは美しいものであふれているに違いないのだ。









 きよが着物に興味を持つきっかけとなった話を突然受信したので。
 もともとの設定としては遠い遠い東の国の人が先祖で、そこからずっとつながっているのが兎ノ宮の家なので、そのため名前も漢字とひらがなの名前が多いということにはしてあったのだけれど、それだけではよわいかなぁーと思ってたので受信してちょっとよかったかもしれない。
 ちなみにきよの住んでいる屋敷は昔ひいおばあ様の使っていた屋敷をそのまま受け継いでおり、かつお得意様とかもひいおばあ様の顧客を引き継いでいるのできよはひいおばあさまに感謝しきり。

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