繰り返し別れ

March 31 [Mon], 2014, 1:29
「繰り返し別れ」

 スーツの上にシックなデザインのコートを羽織っている彼はとても素敵だ。髭は綺麗に剃られ、髪も整えオールバックにしており、私の思う理想の恋人だった。とても大きなスーツケースを引きながら遠ざかっていく彼を、私はただただ見ていることしかできなかった。何か一言声をかけようとするが、その肝心な言葉が思いつかない。言葉を発そうとし、そして口をつぐむことを繰り返していると、彼はこちらを振り返り、優しく微笑んだ。人ごみに紛れていく彼を必死に目で追い、「彼かもしれない誰か」さえ見失った時、彼はまた後ろの方から現れる。

 彼はシックなデザインのコートを手に持っている。ネクタイは私が誕生日にプレゼントした水色のものを使ってくれていた。いつも生えていた無精髭は綺麗に剃られ、髪も整えオールバックにしており、私の思う理想の恋人だった。
 彼は私の頭をそっと撫でた後、コートを羽織って、腕時計をちらっと見て時間を確認する。もうすぐだ、もうこの時が来てしまったのだ。 
 互いの手を握り、体を引き寄せて、しばらくは感じることのできなくなる愛しい相手の温もりを感じた。これが最後になるなんて思わないように、この安堵がまた訪れることを祈りながら、そっと体を離した。彼は、触れ合っている指先に込められた名残惜しい気持ちを胸の奥にしまい込んで、私から一歩離れた。
 後に離れた手をぎゅっと握りしめ、とても大きなスーツケースを引きながら遠ざかっていく彼を、私はただただ見ていることしかできなかった。何か一言声をかけようとするが、その肝心な言葉が思いつかない。言葉を発そうとし、そして口をつぐむことを繰り返していると、彼はこちらを振り返り、優しく微笑んだ。人ごみに紛れていく彼を必死に目で追い、「彼かもしれない誰か」さえ見失った時、彼はまた後ろの方から現れる。

 彼はやはりシックなデザインのコートを手に持っている。ネクタイは私が誕生日にプレゼントした水色のものを使っており、いつも生えていた無精髭は綺麗に剃られ、髪も整えオールバックにしていた。彼はまさしく、私の思う理想の恋人だった。

 この別れを何度繰り返したことだろう。その度、たくさんの愛しさが体から溢れ出し、そして頬を伝った。彼とこの場所で別れた後、どうなるかなんて知りたくもない。飛行機はとても怖いものだし、一度乗ったら再会できるかどうかなんて分からないのだから。

 私は毎週土曜日、赤いワンピースを着て空港へ向かう。彼との別れをなぞるために。

 メールの着信ボックスは、彼と別れてからまだ一度も見ていない。
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