「好き」と一言(2) 

2006年04月11日(火) 22時32分
「……ごめん、待たせちゃった。」
 HRが終わると同時に教室を走り出して、約束の場所に到着してから早20分。まぁ、勘の良い司の事だから、その気持ちを考えれば仕方ない事だ、って思える。
「いや、突然呼び出したのは俺の方だし。悪いな、急で。」
「ううん、特に予定もないし構わないわよ。
 ――それで、どうかしたの?」
 にこり、と微笑み、普段通りに振る舞う司。
 そんな司の気持ちが嬉しくて、思わず抱きしめたい衝動に駆られる。
 けどその腕を理性でなんとか止めて、手を握りしめる。抱きしめるのは今じゃない。それは司の気持ちを、返事を聞いてからだ。
「……突然の事に驚くかもしれないけど、俺、司の事が好きなんだっ!」
「わっ! 私もっ!」
「……え?」
「だから、私もコージくんの事が好きなんですっ!」
 司の顔が耳まで真っ赤になってる。
 それだけで、司の言葉が嘘じゃない、って、真実だ、って思い知らされる。
「……俺、今、世界一幸せかも……」
 ノロケかもしれないけど、だって、マジで司ってば可愛すぎるし、そんな言葉が聞けるなんて思ってもみなかったし。
 けど、やっぱり司は俺の想像以上で、
「――なら、そのコージくんに告白されて嬉しい私は、宇宙一の幸せ者ねっ!」
「……そこは張り合うところか?」
「良いじゃない! だって本当に幸せなんだからっ!」
 そう言って笑った司の顔は本当に幸せそうで。
 見ていた俺は、もっと幸せな気持ちになっていた。



 翌日。俺と司の事は、コータローと遙子のわざとらしいまでのヒカヤシによって即行で学校全体に広がっていた。
 けど、
「……感謝、かな、やっぱ?」
「……だな。」
 いたずら好きなキューピットに、俺たちは苦笑しあうしかなかった。

「好き」と一言(1) 

2006年04月11日(火) 22時31分
 その一言が言えなくて、ずっと立ち止まってた。
 司の事が凄く大切で、想いを告げたらあいつが困るんじゃないか、って言えなかった。
 けど、それは違うのだ、と諭してくれたのは親友の幸太朗と、そいつの彼女で且つ司の親友の遙子。わざわざふたりがセッティングまでしてくれたんだから、それは事実なんだろう。
 そう行き着いて、俺は勇気をもらったんだ、って気付いた。気付いたから俺は、告白する勇気が出たんだ。



 その日はなんだか、朝から遙子の様子がおかしかった。けど、それは幸太朗くんと喧嘩した、とかじゃなくて、もっとこう、面白がって隠し事をしてるような、ちょっと楽しそうな感じでもあるし、でも不安を隠しきれないような、そんななんとも形容しがたい感じ。 だからかな、すごい気になったけど聞けなかった。聞いたら、損しそうな予感もしたし。
 けど、そんな時だった。
 ヴヴヴヴヴヴ
 机の上でケータイが踊る。すぐ止んだから、どうやらメールみたい。誰からかな? なんて思いながら開いたら、
(コージくんっ!!)
 嘘みたいだけど、本当にコージくんからだった!
 驚きすぎて動揺しつつも、本文を読む。とそこには短く、“放課後、裏庭で待ってる”とだけ。
 けど裏庭っていったら、昼休みは絶好のランチスペースだけど、放課後は校舎の陰になるから訪れる者は少ない。そんなところで待ってる、なんて、
(――えええええっ!?)
 思わず声に出して叫びそうになるのを必死で堪えながらも、私はその期待を振り払えずにいた。

声を聴かせて 

2006年03月23日(木) 17時47分
音が、な い
んだ


声を聴かせて


コージくん?

そんなよそよそしく云うなよ
いつもの呼び方じゃない

コージくん?

なんか哀しいことでもあったのか?
まるでことばに涙がたまっているみたいだ

コージくん、

泣きそう だ
大切 な君が


守ってあげたい大切な君が


こ え が聴きたい

――コージ!

ああ、その声だよ
でもどこか緊張してる
どうしたんだ?

逢えない日でも声が聴きたい

せめて、せめて、

どれ程願っていたのだろうますます貪欲になっていく自分
――汚い
こんな自分
司につりあう筈もない
司弥百合は「高嶺の花」。
彼女がそう呼ばれて2年目。もしかしたら、もしかしたら。俺のことをすきでいてくれているのかもしれない、そんな自画自賛の海を毎日泳ぐ。
声が聴きたい、自分の名をあの性格の良い、そして整った身体からその魅惑的な唇から呼んでほしい。

――RRRRR

びっくりした。
俺のケータイが着信を知らせる。画面は―司弥百合―高鳴る鼓動を抑えケータイをとる。

ああ かみさま お れはつみ 深い にん げんですか?

「もしもし」
「コージ?」
「うん、俺だよ。どした?」
「あのね。あのね」

珍しく戸惑う声。
そして俺の待ち望んでいることばが発せられて。

「――こ、声が‥‥聴きたく、なって、」

(俺もだよ)

そう云いたくなった

かみさま、俺はもう止められない、みたいです

高鳴る鼓動 

2006年03月21日(火) 21時41分
「――またあんた、告白してきた子、フッたんだって?」
「人聞きの悪い。きちんとお断りさせて戴きました。」
 部活終了後、部室で着替えている最中にかけられた声。だがあからさまに直球に、そんな風に聞いてくる人間を、弥百合はひとりしか知らない。
 振り向き様に、溜め息混じりに答えれば、そこには案の定というかなんというか、弥百合の親友である遙子の姿が。
「あのねぇ、弥百合。あんたがそんなんだから、いつまでも“高嶺の花”だの“アイドル”だの、ってイメージが消えないんだよ?」
「判ってるわよっ!」
「ほら。ホントはこんなにも自分の感情に素直なのにね。
 ……どうしてそれを、他の人にも見せないかなぁ?」
「それは、その……」
 親友の言葉に、思わず詰まる。
 恋人でもないのに、勝手にこんな事を思うなんて馬鹿げている。
 正直に本当の事を告げれば、遙子はきっとそう言うだろう。いや、間違いなく言うな、うん。だからこそ、言いたくはないのだけれど、このままではきっと、いつまでも食い下がってくるに違いない。
 弥百合は心の中で小さく息を吐くと、内緒だからね、と声を潜める。
「……だって、不公平だな、って思って。」
「は? 不公平?」
 何の事だか判らない、といった様子で問われた声に、弥百合は無言で頷く。
 それから、頬を赤らめて少しの沈黙の後、だって不公平なんだもの、と呟く。
「……だって、いつも私ばっかり彼の仕草にドキドキしたりしてるんだもん。コージくんにも、少しでもドキドキと胸を高鳴らせて欲しいな、って。それでもし、ね、本当にもしも、なんだけど、気にしてくれたら良いな、って」
「なるほどね。それで私と奴の前だけは素になるわけか。」
「遙子の彼氏の前でも素出してるけど?」
「……。あ、そういえばそうかも」
 暫くの沈黙の後、何かに思い当たったのか、なるほど、と呟く。
 遙子の彼氏である幸太朗と、噂のコージが親友同士である事もあり、良く4人で行動する機会がある。確かにそういう時の弥百合は自然にしていた。
 遙子としては、己の彼に対しても心を開いてくれている、という事は有り難いと思う。しかし、弥百合の健気ともいえる努力にも、良い結果が返ってきて欲しい、と思う。
「……頑張れ、弥百合。」
「ありがと、遙子ちゃん。」
 きゅっ、とお互いに抱き合いながら、そう囁きあった。

さりげない仕草 

2006年03月19日(日) 8時25分
ふわり。ふわり。
風に舞う弥百合の長い髪。

(出来るのなら触れてみたかった)

ぱっちりとした弥百合の、引き込まれそうな知的さが宿る深い瞳。

(閉じ込めてしまいたい)

彼女のさりげない仕草のひとつひとつがこころを締め付けた。

(いつから欲張りになったんだ俺)

以前までは傍にいることが出来ればそれでよかった。しかし今は違う。
独占したくなった。誰にも渡したくない。

(こんな俺は俺じゃない)

「コージ、先生が呼んでたよ」

その無邪気な眼でこちらを見る弥百合。

「一緒にいこ。手首ぐらい掴んだって何にも思われないよね」
「え?」

そう云ってさりげない仕草で俺の腕をつかんだ司の指の綺麗さに息を呑んだ。

人込みの中に(2) 

2006年03月16日(木) 22時17分
「――つか、弥百合っ?」
 駅のホーム。
 次の特急に乗りそびれまいと、ホームはたくさんの人で溢れ返っていた。
 そんな中でも、弥百合の姿を見つけたコージはその細い腕を掴む。
「……コージくん。どうして?」
「そりゃ、こっちの台詞。こんな時間までどうして」
「部活、長引いちゃって」
 部長云々の話は省き、短く告げる。言ったところでどうにもならない事は判っていたからだ。
 それよりも今、弥百合が気懸かりなのはこれから来る特急電車である。この電車の次に来る特急は、3本の各停が出発した後である。
 だからこそ皆、この機を逃すまいと必死になっている訳なのだが。
「――あ、来た」
 騒々しい音を立ててホームに滑り込んだ電車に、人込みと共に電車に流れ込む。
 いくらかこの駅で下車した人がいるといっても、やはり元からの人数が居た事もあり、かなり窮屈なのが現状である。
 その証拠に、先ほどまではあれほど寒かったのに、今はうっすらと額に汗が浮かぶ程度には蒸し暑い。
 ――ガタンっ
「っ!」
 大きな音がして、電車がカーブに入る。
 音に比例するように車体が傾く。そして流される人。
 押しつぶされる、と覚悟して瞳を瞑る。だが、いつになっても訪れない圧迫に恐る恐る瞳を開ければ、
「――コ、コージくんっ!」
 思わず声を上げてしまってから、慌てて口を塞ぐ。
「やだっ、コージくんっ! 私なら大丈夫だからっ! 手を離してっ!」
 右手に吊革を、左手に弥百合を。
 満員電車のこの状況では、自分のバランスをとる事すら難しいはずなのだが、その状況で人ひとりを支えるのは、そうたやすい事ではない。
 しかしコージは、大丈夫、と左手の中の弥百合に微笑みかける。
「――大丈夫。好きな子くらい守ってみせるから。」
 ガタガタンッッ!!
「……ごめん、コージくん。今、なんて?」
「いや……何デモナイ。」
 幸か不幸か、コージの言葉に電車の音が重なり、弥百合の耳には届かない。
 何でもない、と平常心を装いながら返すコージ。
 だがそんなコージの不振な様子にも気付かぬほどに舞い上がっていたのは弥百合で、
(……ずっとこのままで居られたら良いのに……)
 コージに身体を預けながら、心中でそっと呟いた。

人込みの中に(1) 

2006年03月16日(木) 22時16分
(……あぁ。どうしてミーティングが長引いた日に限って、先生に捕まらなきゃいけないんだろう……)

 そりゃ、3年の先輩も引退した今、新しい部長を決めなきゃいけないのは判るけれど。人気があるから、って推薦する側の気持ちも判るけれど。
 けどだからって、何も初雪が降るかも、なんて天気予報で騒ぐような日に行わなくても良いんじゃないか、って話で。
 しかも、そんな日に限って遙子は用事があって部活を早退しているし。
 踏んだり蹴ったりだと思いながらも、いつもより遅い帰り道を、駅に向かって歩いていた。



(――あ。)
 ファーストフードの2階席。
 駅へ向かう人込みの中に、見慣れた姿を発見し、思わず飲んでいたコーラを吹き出しかけた。
 いつもならとっくに帰路についているはずなのだが。一瞬、見間違いかと思ったが、やはりそれは本人で。
「――悪い。先帰るわ。」
 がたり、と席を立つ。
 共に居た友人たちが制止の声を上げるが、知ったこっちゃない、とばかりに空に近い鞄をひっつかんで、慌てて後を追った。

横顔 

2006年03月13日(月) 9時23分

(ただ、たったそれだけでしあわせだと感じてしまうの)

「司」

(あ、真面目なときの低い声だ)

「何?」

すとんと弥百合の隣の席へ座るコージ。

「気ぃ使わなくて平気だからな」
「え?」

たった一言。それだけ云ってコージは黙ってしまった。真摯な横顔。なんでも解ってるから、そんないい方向へ意味をとってしまいそうな顔。
見惚れてしまいそうな自分の心に鍵をかけて弥百合はコージを見つめた。

「なんかひとに聴いたの?」
「いや」

(やっぱりコージにはかなわない)

「有難うコージ」

真っ直ぐ前を向いたまま、コージは下を向いた。
その表情が複雑で。弥百合には読み取れない。

「心配すんな。俺は平気だから。何を云われても」
「‥‥‥うん」

(しあわせだと感じてしまうの。コージがいるだけで。横顔をみているだけで)

「真面目だからな、俺」
「十分解った」
「そっか」

初めてコージの顔に笑みが浮かんだ。

(すきだなぁ)

「弥百合」
「なぁに?」

自然にコージに答えられる自分がいた。

こっちを向いて 

2006年03月12日(日) 22時45分
 司様だの、お姉様だの、と自分が騒がれている事は自覚している。
 それに対して、悪い気はしない。好かれていると判っているのは嬉しいものだ。
 けれど、それで疎まれているのも知っている。お門違いだとは思うけれど。
 ……私個人としては、



「――いっその事、告ってみたらいいんじゃない?」
「遙子ちゃんっ!?」
「どうせ弥百合が“好き”って言えば、誰だろうと即答するわよ!」
「遙子ちゃん!?」

 親友の遙子の言葉に、弥百合が声を潜めて諫める。
 確かに、遙子の言葉は嘘にはならないだろう。弥百合にもそうなるだろう、という自覚はある。
 だがそれをしたら、今まで弥百合に向けられた以上の妬みや憎しみといった感情を、相手に向けられる事になる。
 それで相手に迷惑をかける事になるなんて、そんなの弥百合には耐えられなかった。

「……私はただ、少しで良いから振り向いて、こっちを向いていてほしいだけ。」

 ただそれだけ。
 それだけの事。

「もっと望んだって良いのに……」
「望んだら、あの人はきっと困ってしまうから。
 そんな顔見たくないもの。笑って、私を見ていてほしい。それで十分。」

 それだけで満たされる。
 だから告げないの、この想いは――

その笑顔が 

2006年03月12日(日) 16時46分

(その瞳が水滴に彩られるのをみた)

「司‥‥?」

弥百合は席に座ったまま、隠しもせず、ただ静かに涙を流していた。
その画が余りにも崇高で、言葉が震えた。

「何?コージ」
「い、いや、その‥‥なんて云うか‥‥泣いてるのか?」

弥百合は瞳についた滴を払い、笑って見せた。

「誰が泣いてるって?」
「いや、見間違いだ」
「そうよ」

立ち尽くしたコージの脇を弥百合は颯爽と過ぎ去ろうとした。

「司‥‥‥み、弥百合!」

びくっ、と反応する弥百合。すかさずコージは弥百合の手首を握った。

「お前に何があったか、なんて知らねえ!でもお前を泣かせるヤツは許さねえ」

弥百合は驚いてコージを見つめる。

「俺はいつでもお前の見方だ!泣きたくなったら俺んとこ来い。泣くのも笑うのも自由だ」
「‥‥有難う」

弥百合が帰った後、コージは思い切り頭を抱えた。

「なんつー恥ずかしいこと云ったんだ」

(だって君の笑う顔がすきだから)