Decoy 

April 01 [Fri], 2011, 22:53



彼がストイックに見詰めるそれになりたかった
彼が頬を緩ませる甘く蕩けるそれになりたかった



噛み付いて組み敷いてぐちゃぐちゃになるまで快楽に溺れたい
禁欲的な彼を余裕が無くなるまで追い詰めたい
誰も知らない彼が欲しかった


そんな子供じみた独占欲


貴方をそんな目で見ているなんて気付かないでしょう






―噛み付きたい




左隣の二つ前の席の彼に浅ましい視線を送る


細いくせに程よく筋肉の付いた二の腕
ペンを握る骨張った指先
長めの髪から覗く耳
思わず絞めたくなる様な首筋



全部私のものにして
全部全部誰の目にも触れさせたくない




子宮の奥が熱くなるのを感じながら目を伏せる
今更授業になんて集中出来ない

心臓の音がやけに大きく聞こえる
耳まで、熱い



「…っ、」



唇を強く噛んで厭らしい感情を抑え付ける
こんな汚れた女だと知られたくない













………






やっとの思いで授業をやり過ごす
気付けば教室には帰り支度をするクラスメイトが数人居るだけだった



その中に焦がれる後姿





「ねぇ、宮地くん」



「…む、」




呼び掛ければゆっくりと振り返ってくれた

狂おしいほどの愛しさが込み上がって熱がぶり返す



この卑しさを悟られないように口を開く




「ケーキ、作ったんだ」




目元が嬉しそうに輝きを増す







「だから一緒に食べよ?」




二人きりで、さ











甘い言葉で罠を仕掛ける










籠絡

幸せが宿る 

July 08 [Thu], 2010, 22:08


足早に歩を進めれば、灯りの燈った自宅が目に入る。
あと僅かな距離がもどかしくて気付けば小走りになっていた。


――全く、せっかちなものだ……



玄関の前で呼吸を落ち着かせながら鍵を回せば、中からぱたぱたと聞こえる足音。
夕食の準備でもしていたのであろう、美味そうな香りを纏わせて姿を現したのは



「お帰りなさい、一君」


―愛しい俺の妻


何でピンポン鳴らしてくれなかったの?とむくれる彼女の細い手首を掴んで



「何故廊下を走る?」


走るなと言っておいた筈だが、と彼女を見詰める。


「だって…お出迎えしたかったし…、早く会いたかった、し…」


次第に語尾が小さくなってゆく姿に愛しさを感じつつも俺にも譲れないものがある。
目を伏せ肩を縮こませる彼女に手首を掴んでいた手で柔らかい髪を撫ぜる。




「あんたは無防備過ぎる。鍵の掛け忘れなくなったと思ったら、今度はこれか…」



溜息も吐きたくなるが、これも俺を想っての為。強くは言えない。
…いやしかし、


「身重の体だ、もう一人の身体ではない。」



大事にしてくれ、呟いて頬に唇を寄せる。




「ふふ、お父さんは心配性だねぇ」


頬を桜色に染めた彼女はゆっくりと自身の腹を摩る。
その顔は幼さを残しながらも既に母親の表情を覗かせている。




「……過保護になっても、仕方があるまい…」





耳まで仄かに熱くなるのを感じながらしっかりと抱き締めた。







斉藤さんちの奥さんが妊娠したようです

幸せを紡ぐ 

February 02 [Mon], 2009, 0:00
もう少しで日付が変わる。
自分の誕生日を忘れるほど鈍くはない。
明日も学校はあるから早めに寝ないといけないけど、野球部のメンバーがメールを送ってくるから起こされるだろう。
どっちみち起きているのだから、まだ寝ないでおこう。
幸い、今日はまだ眠気は来ない。


「……」

高等部に進むと同時に買い換えた携帯の受信メールを見返す。
普段あまりメールをしないため、去年の誕生日に貰ったメールにすぐに辿り着いた。
その中でも唯一の保護メール。
2個上の先輩、オレが1年の時の3年生、

中等部の頃から憧れていた女性。



今年も彼女からのメールは届くだろうか。
去年は、0時ちょうどに届いた。
誰よりも早く、一番に届いたメール。
色鮮やかに装飾されたそれからは、彼女の几帳面さが表れている。
ゆっくりと目で追っていくと、今までの思い出が蘇るようだ。

中等部から野球部のマネージャーだった彼女は、誰にでも優しくて、誰からも好かれていた。
オレも、何度も彼女に世話になった。
高等部の練習についていけなくなりかけた時、厳しかったけど励ましてくれた。
球の投げ過ぎで指に肉刺が出来た時、優しく手当てしてくれた。
エースに選ばれた時は、自分のことのように喜んでくれた。

卒業式の時、おめでとうございます、の一言しか言えなかった。
今はそんな過去の自分に苦笑いするしかない。

卒業してそろそろ一年も経とうとしているのに、未だに淡い思い出から抜け出せない。
何かある度に彼女を思い出しては、もっと何か出来なかったのかと後悔する。
彼女の誕生日に送ったメールも随分さっぱりしたものだったな…



「…っ!」



自分の不甲斐無さに落ち込んでいると、不意に手の中の携帯が震えた。
表示された名前は、


「先ぱ、い…?」

『あ!準太?久し振り、今いい?』

「え?あ、はい!大丈夫っす!」



タイミングがいいのか悪いのか。
彼女だった、しかも電話って…
あの頃からずっと変わらない声が耳元で響いてる。


『よかったぁ!電気点いてるから寝てないとは思ったんだけど…』

「は、今先輩どこ居るんすか?!」

『今ね、準太の家の前に居るの。出てきて!』


何言ってるんだ、この人は…
カーテンを開くと、先輩が手を振っているのが見える。


「い、ま行きます!」



寝間着代わりのスウェットの上に上着を羽織ると、急いで部屋を出る。
ドタドタと階段を下りて玄関のドアを開ければ、少し大人っぽくなった先輩がそこに居た。


『久し振りだね、』

「あ、はい…って、何でここに?」


彼女は卒業して県外の大学に進学した筈だ。
そんな彼女が何故ここに?


『ん?もう春休みだからさ、帰省してきた!』


白い息を吐きながらニコニコとする彼女に、胸が高鳴るのがわかる。


『それにね…準太に一番におめでとうって言いたかったの』



下を向いて爪先を見て話す彼女の真意は掴めない。
けれど、これは…



『あ、お誕生日おめでとう準太』

「え、あ…ありがとうございます」


未だ掌に握られた携帯は、0時ちょうどを指していた。
彼女の赤くなった頬は何を示しているんだろう。


『あのね、それでプレゼントがあるんだけどぉ』


貰ってくれる?と聞かれれば、勿論答えはイエス。
ガサガサと鞄から見える紙袋から取り出したのは、濃紺の


「…マフラー?」

『うん、初めて編んだからね…上手くないんだけど』



手編みのマフラーなんて期待しろと言っているようなもんじゃないか。
顔中が熱くなるのは不可抗力だ。


彼女がゆっくりと近付いてくる。
首にかけられたそれからは、少しだけ彼女の香りがした。


『わ!』

「すげぇ、嬉しいっす」



離れようとする彼女の腕を掴んで抱き締めると、一層強く香って頭がクラクラしてくる。
彼女はびっくりしたみたいだったけど、大人しく腕の中に納まってくれた。



「好きです、先輩のこと」

『うん、私も好き』






最近の運命の糸は赤じゃないようだ


甘い午後 

January 30 [Fri], 2009, 21:21

「う、ぁ」



ベッドに凭れて画面に食い入っている隣の彼女を自分の胡座の上に乗っけようとずり、と持ち上げて引き摺ると何とも色気のない声が返ってきた。
腹に手を回すと彼女は抵抗もせずに自分の手を俺のと重ねてきた。
俺のと比べると随分小さくて柔らかい。(そんでもってキレイ、だと思う)
それでも視線は画面の中の男女に夢中なようだ。
少しはオレの方を見て欲しい。



「色気ねぇなぁ…」

「うるさいっ!いきなりでびっくりしたの!」



ほんのりと頬を赤らめる彼女が愛しいと思う。
それはもう、心の奥から。
彼女と居るとじわじわと身体が温かくなっていく感じがする。
ゆっくりと鎖骨の窪みに顎を埋めると、彼女の香りが一層強くなる。
外出しない日は香水を付けないのに、彼女からは甘い香りがした。


「かぁわい」



ちゅ、と子供がするようなキスを赤らんだ頬に落としてやる。
そのまま唇を耳朶に寄せると、腕の中で小さく身じろいだ。
この間プレゼントしたピアスもきちんとしてくれているようだ。
お揃い、っていうのが効いたかな。



「い…今ひる、ま…」
「うん、知ってる」


カーテンは閉じられているけど、そこから漏れる明かりでまだ昼間だとわかる。
それにさっき一緒に昼飯食ったし。

でもなぁ…



「盛っちゃったもんは…しょうがないっしょ?」



さっきまで色気の欠片もなかったのに、ちょっと可愛がってやっただけで顔赤くするし。
思わず頬が緩む。
耳に当たる息がくすぐったかったのか、ゃ、と小さい声が漏れた。

ヤバいさ、キた。




「で、も…映画途中、だし…」

「そんなん後でまた見ればいいさ」



手探りでリモコンを探し当てると、一時停止、そのまま画面を黒く塗りつぶす。
映画の中の男と女もアツーいキスを始めたことだし、




「ちょーっと早いけど頑張っちゃいますか」








甘い午後

Sonnen licht 

September 09 [Tue], 2008, 0:50


穏やかなこの陽射しの様にゆっくりあたたかく進んでいけたらきっと幸せだね。





「う、あぁ…終わらない…」




カレッジにあるオープンカフェの片隅、テーブルにラップトップのパソコンを開いてリズムよくキーを叩く。
けれど、暫くしてその音は止まってしまった。



「大丈夫?手伝おうか?」

「うん…や、まだ頑張る」


ありがと、と小さく笑って彼女はまたキーを叩き始めた。
その音は途切れ途切れだったけれど。



明日提出のレポートを必死に打ち込んでいる彼女。
彼女の『友人』から『彼氏』に漸くポジションチェンジ出来たのはつい一月前のこと。
でも、その直後に始まった試験やレポート提出が原因で二人で過ごせる時間は殆ど、無い。(それがもう悲しいことに)
僕は(珍しく)もう試験もレポートも済ませてしまったので、こうして彼女のサポート役として傍に居るんだけど。
このレポートから解放されれば彼女だって長い休みに入れるのに。


頑張る、か…


彼女の一人で頑張るところは長所だと思うしそこが好きなんだけど、やっぱり好きな子には頼って欲しい。
というか、今彼女が四苦八苦してるレポートの講義は僕が得意にしているものだし、彼女は不得意だった筈。
だから尚更僕を当てにして欲しい、と思う。



「ごめんね、キラ。もうすぐ終わるから」


だからもう少し待ってて、と彼女はこっちを見た。
キーを叩いていた彼女の手には今キャラメルフラペチーノのカップが握られている。
彼女はこのカフェのキャラメルフラペチーノが大好きらしく、関係が変わる前も同じゼミの子と飲んでいる姿を何度も見ている。
ホイップクリームの上にたっぷりトッピングされたキャラメルソースを器用にストローで掬い上げて口に含んでいる彼女は小さな幸せを感じている様だ。
彼女も僕も甘いものは大好きだから。


「気にしないで、僕が傍に居たいだけだから」


彼女は僕の言葉に少し顔を赤らめてはにかんでいる。
今日中には終わるから、と照れ隠しする様に差し入れたメープルクッキーに手を伸ばした。
こういう、彼女の表情は凄く可愛いと思う。思わず顔が熱くなるのを感じた。



「今日中って、これ明日まで提出でしょ?」

「うん。でも、キラはもう試験もレポートも全部終わって休みに入ったんでしょ?」

「珍しくね。トールたちに笑われた」


くすくす笑う彼女に笑わないでよ、と苦笑いをして少しぬるくなったラテを一口。

「ごめんね、でもキラが休みになったんだから一緒に休み迎えたくて…」


ふわり、彼女が微笑むとゆるくウェーブのかかった髪も揺れた。
それは彼女の性格を表している様で、柔らかくてあたたかく…


「って!え?!」


何、もう一回言って!と問い質すと、さぁて続きやんなきゃ、とパソコンに向き直る。
どうやら流されてしまったけれど、ねぇそれってもしかして…



僕の為、なのかな


目の下には少し翳りが見えるから夜通し頑張ってくれたのかも知れない。
疲れているのに僕の為に頑張ってくれている、のかな…なんて自惚れてみたり。



「ねぇ、一人でそんなに頑張らないでさ…もっと僕を頼ってよ」


ゆるく柔らかなウェーブに指を滑らせる。
蜂蜜みたいに、メープルシロップみたいに甘い香りがしてきそうで。

彼女は大きな目を更に大きく開いてぱちぱち瞬きした後、


「うん、ありがとう」


にっこり、と笑ってくれた。



「じゃあ、レポート打ち終わったから確認してもらっていいかな。キラ」

「勿論。よろこんで、」








それはまるで暖かな春の陽射しの様な。







(ねぇ、明日デートしようか)
(…うん!)



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とりあえず赤毛の眼帯兎が最高の嫁。
只今、最高に雑食中。
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