捜査終了

August 10 [Sat], 2013, 15:01
捜査終了

「ではこれより、第3.5回ショコラさんたちのクッキー試食会を始める!」

 むさ苦しく空手サークルのメンバーが、クッキーを中心に輪を作っている。
 私は彼らが集まる前に積まれたクッキーの袋から一枚ずつ取っておいた。あの輪の中には入りたくない。

「総指揮官、3回じゃないんですか?その0.5は何すか?」

「俺が1人で食べた」

 私は今回が初参加だ。クッキーが大量に届けられているのは知っていたが、それに関しては距離を置いていた。
 再三の呼び出しを無視していると、有岡先輩からしつこい着信。

「これ以上任意呼び出しに応じない場合、副指揮官の任を剥奪した上、本部に取りおいている貴殿の教科書を、練習後の空手衣数十枚で包み込む事とする」

 更には、こんな不幸なメールまで来た。

 副指揮官の任云々はどうでも良いが、その後は頂けない。
 練習後の空手衣は汗でびちょびちょで、ものすっごく臭い。

 そんなもので教科書を包み込まれたら、ひとたまりもない。
 よれっとなってくさっとなる。
  注:カルティエ ワイアード
 大学の教科書は高い。高額だ。
 それを質に取られた私は、しぶしぶと部室に向かうしかなかった。

「あ、これいける!」

「うぉっ!にげぇよっこれ。ココアだと思ったらめちゃ焦げてる。おーい、野田副指揮官、これやるよ」

 わっさーとクッキーに群がるメンバーを見ながら、クッキーを試食。明らかに不味そうなのと生焼けなのは取らないで残しておいた。
 空手サークルのメンバーは胃が丈夫なので、多少訳ありでも問題ない。

「いらないし」

「何でだよ!このこげ具合、形の悪さ、ラッピングの趣味の悪さ、そんなものでも差し入れをするずうずうしさ、お前のソウルメイトが作ったんだろ」

 尚も焦げ付いたクッキーを押し付けるメンバーを蹴り飛ばす。
 うぉぉっとクッキーがある場所に倒れこんだそいつは、他のメンバーから不味そうなクッキーを口に押し込まれる刑を受けていた。
 良い気味だ。

「有岡先輩食べないんですか?」

「総指揮官と呼べ。実はな……もうクッキー飽きた」

「1人で食べるからですよ」

 ペットボトルのお茶で口の中を洗いながら、次のクッキーに移る
 スイーツに関しては舌が肥えている私には、どれもいまいちだった。

「お前ら、この中でどれが一番美味いと思った?」

 有岡先輩が輪を上から覗き込んで問いかけると、メンバーは揃って同じクッキーを指差した。
 どれどれっとクッキーを摘む。

 ハートの形にくり抜いてるクッキーは、ホワイトのチョコと、ストロベリーチョコでコーティングされている。
 その上からチョコペンでハートを書いて、アラザンで飾り付けまでしてある。
 
 クッキーの可愛さからいえば、この中で一番だ。

「お!美味い、野田はどうだ?」

「美味しいですけど、多分これ…」

「総指揮官!差出人は、木下優衣さんですよ!あのっ」

 カードを読んで興奮するメンバーたち。
 おぉぉー!と叫んで部内の室温が上がる。

「何だと!木下優衣だと!………って一体誰だ?」

「去年のミスK大ですよ!」

「俺、見たことあるよ〜めちゃまぶい」

「お前…まぶいってめちゃめちゃ死語だな。でも確かに木下さんはマンモス可愛い」

 写真ないのか写真、と有岡先輩が言うと数人がパスケースを取り出した。
 収められているその写真。

「うぉ!これは予想以上のかわゆさ…………諸君!諸君らの努力が実り、早期解決に繋がった。ミシェル=フランソワ、別名スイーツ王子のショコラさんは、ミスK大の木下優衣さんと判明。大至急その旨、王子に連絡すべし」

 全員が携帯を取り出し、ミシェルにメール。
 誰か1人で良いと思うんだけど。

「ミシェルいないのに勝手に決めちゃって良いんですか…?」

 本日、肝心のミシェルは不在。
 当然の正論を言ってみたけど、誰も聞いてない。

「うがー事件解決は嬉しいけど、王子ずりーよ!」

「ちくしょうっ!羨ましす…っ!」

「もてない君たちの気持ちは分かる!だが、これも運命だ。ミシェルはショコラさんと出会うのをずっと待っていた」

「もて男の有岡先輩に俺らの気持ちが分かるもんかーっ!」

 やけになったメンバーが玄武岩のようなクッキーを投げる。
 すこーんと良い音がした。

 有岡先輩は、小麦粉をふるいにかけずに焼いた花崗岩のようなクッキーを投げ返す。

 食べ物を粗末にするな!と言いながら2人を止める私に安山岩のようなクッキーが飛んできた。

「野田にはこれが食いもんに見えんのかっ!?」

「お前も女子にもててるもんな!へっ!俺らモサ男の気持ちが分かるはずねぇ!」

「王子フェイスのミシェル、ワイルドな童顔の有岡、中性的でジャニ系の野田。この3人は俺らの仲間じゃないかんな」

「マジふざけんな」
 
 なんで女の子にもてて、僻まれなきゃいけないんだ。
 去年のバレンタイン、私が獲得数三位だったの未だに根に持ってんの?

「ともかく、ショコラさんは木下優衣さんと判明したわけだ。ミシェルが来たら、クッキーを渡せ」

「もうないでーす!」

「空の袋だけ渡します」

「お前ら…まぁ良い。じゃ、次はミシェルの告白と、その結果を新聞とネットに掲載だな」

「了解しました〜」

 ショコラさん、満場一致で決定。
 ミシェル、クッキー食べていないまま決定。

「おい、野田。ミシェルが木下さんと会うときの仲介を頼むぞ。お前が行くほうが警戒されない。あいつらが行くよりもな」

 木下さんと話す機会とばかりに、誰が木下さんにアクセスを取るか揉めている。
 ドタンバタンと掴み合って、食べ散らかしたクッキーが粉になっている。
 いつか絶対虫が湧く。 

「付き合ってられない」

 あのクッキーは多分、冷凍クッキーシートで作ったと思う。型でくり抜いて、焼けば出来上がりのもの。
 誰が作っても上手に出来る。それこそ小学生でも。

 うーん、ちょっと姑息だなと思ったが、黙秘する事に決めた。
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