アメリカ語と英語

May 22 [Thu], 2014, 17:59
アメリカ語のカラミティといふのは厄病神のことださうですが、どこか日本語の趣もあるやうです。私の風邪の神様は波止場の近くまで送つてくれましたが「どうぞお船が沈没しますやうに」と呪咀を吐ひて、カツ/\と踵の音を立てながら帰つてゆきました。
 波止場まで来なかつたのは、私の若い友人達が見送りに来る事を知つてゐるからです。
 私にも遠い昔に青年時代があつて、大きな船で外国へ出稼に行つた経験があります。その船にくらべて、別府航路の船の何とチマチマしてゐることよ。それでゐてチャンと船なのです。ドラも鳴りますし、出帆の汽笛も鳴るのです。すると眼と鼻の先にゐる人々が、船と陸からテープを投げ合ふのです。
 私の若い友人達は、私がさういふ事を好まないと思つてゐるのか、だまつて突立つてゐるだけで、誰もテープを投げませんでした。
 船はむやみに夜光虫をひつかき廻しながら陸を離れました。私は頭の上の天の川を一寸眺めただけで、すぐ船室に横たはりました。眼をつぶると一つの顔が見え、心の中の風邪はしだいに重くなるやうでした。
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