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a / 2010年11月29日(月)
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ブーゲンビリア 頬をかすめ / 2010年11月29日(月)
「リーマス紅茶」「僕は紅茶じゃないよ」「違う、淹れて」「やだ」「ケチ」「うん」「うわあ認めちゃった!駄目だよリーマス認めちゃ!」「え、いやそんなこと言われても」「今のシーンはカットだよ!」「え、何どうしたのトロロ」「とりあえずあれだよね」「どれ」「紅茶淹れてよ」「だから、ヤだ」「何で強調したの今」「イヤだっていうことをトロロに伝えたかったんだよ」「そんなに嫌?」「嫌っていうか…面倒?」「淹れてよ!そこは淹れておこう友人として!」「え、なんかやだ…僕が損しそうな気がして」「飲みたいんだよ今すぐリーマスの紅茶が飲みたいのー」「やだ」「頑なすぎるよ!」「やだ」「んー…じゃあこうしようリーマス」「何?」「私が砂糖を用意する。リーマスは紅茶を淹れる」「すごくやだ」


「35カラットのダイヤが粉々になったくらいに傷ついた」
「傷ついたのレベルを軽々と超えてるよね、それ」

リーマスは鳶色の髪の毛をかるくかきあげながら、薄く笑った。手には骨が浮き出ていて健康そうには見えない。顔は白いけれど、青くはない。私は足を崩した。

「リーマスのケチ」
「ケチです僕は」

トロロも結構ケチだと思うよ、と彼は笑い声を洩らす。瞼は薄く閉じられてて、仰向けに寝そべった体に読みかけの本が開いたままで乗っていた。先ほどまでリーマスが読んでいた本で、私はよく知らない。訊いたら、おそらく教えてくれる。小説ならば登場人物を、論理的な何かだったならばおおよその部分を、彼は教えてくれるだろう。けれど、訊かなかった。ちがう。訊けなかった。彼を目で追うのが、あまりに、忙しくて。

「トロロは何がしたいんだい?」

セーターから出る首はあまりに白くて、私は手をのばしそうになった。伸びすぎのように思える前髪さえ愛しかった。思わず手をのばしそうになる。慌てて顔を背けた。

知られちゃいけない。気づかれちゃいけない。傍にいられなくなるから。

だけど、






「リーマスを押し倒してキスとかしたい、です」

もう、それも、無理なように思えるのだ。
 
   
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まいにち夢を見るんだ 君の夢だよ / 2010年11月29日(月)
「ルーピン、部屋に巨大な虫がいた」
「ふーん」

ルーピンは鳶色の髪をふわりと浮かせて、紙飛行機を折っていた。


「畜生! 私より紙飛行機が大事!?紙飛行機が!」
「え、やだな。そんなんじゃないよ。ただちょっと紙飛行機に興味をそそられるだけで」
「大事なんじゃん!若いからって馬鹿にして!」
「それ僕が老けてると言いたいの?喧嘩売られてると解釈してもいいの?」
「どうせ私はピューリタンだよ…」
「そうなの!?とんだカミングアウトだよそれ…」

少し長くなった髪は後ろで小さく括られている。ハチミツ色のゴムで鳶色の髪によく映えている。どうせシリウスあたりから貰ったのだろう。

「できた」
「…」
「飛ばしてみよう」
「…」
「アボガドおいで」
「…。…どこ行くの」
「上。できるだけ高いところからがいいなあ」
「どこだっていいよ。(ここだって高いよ)」
「なに機嫌悪くしてんの?」
「…してないよ」
「あ、昼食にアボガド出たんだ?」
「…もういいよ」
「アボガド嫌いだもんね」
「もういい つっただろ」

ルーピンはケラケラ笑いながら階段を昇っていった。昇りながらも階段が動くので時折吐きそうになる。ルーピンは既にゲロ済みだそうで、この辺で吐いた、とやっぱりケラケラ笑いながら言った。笑いながら言う事じゃない。

ルーピンはシリウスよりも背は低い。でも私よりは高い。標準だと思う。標準だとは思うんだけど、やっぱり私より高いから足も長い。それでなくても外人はみんな足が長い。そして細い。顔も小さい。足の長いルーピンは前だけを見てスタスタと行ってしまう。だけど、時々振り返って、目を細めながら私が追いつくのを待っていてくれる。


「このへんでいいか」
「すごく微妙な位置なんですけど、さっきよりちょっと高いくらいなんですけど」
「もう疲れちゃったから」
「妥協しちゃ駄目だよルーピン」
「もう無理。走れない」
「そんなアンカーまかされたみたいなこと言わないで」
「まかされた人の気持ちがアボガドにわかるもんか」
「上履き隠されたことのない人に私の気持ちがわかるもんか」
「……」
「…」
「…その、なんていうか、あ、僕も畑のキャベツ盗られたことあるから」
「黙って」
「…ひよこ」
「黙れよ」
「木工ボンド」
「殴るぞ」

ルーピンは困ったように笑いながら、手の中の紙飛行機を見ていた。よく見るとそれは羊皮紙で折られていて、何か書いた形跡がある。

「何 アボガド」
「ラブレターでも書いたの?」
「書かないよ」
「彼女ができたの?」
「違うよ」
「じゃあ作るの?」
「それも違うよ」
「なんだ、違うのか」
「なんでがっかりしてるの」
「…不思議の国のアリス症候群というのがあるらしい」
「え、は?」
「自分の周りとか、自分自身とかが大きく見えたり小さく見えたりするらしい」
「なに、いきなり」
「ふんふん」
「どうした…(ほんとどうした)」
「もう帰ろうよ」
「え、うん」



帰りがけに階段の途中で紙飛行機を奪って、飛ばした。飛ばなくて落ちたけど。
「私ならもっと華麗に飛ぶね」と言ったら「僕なんか煌びやかに飛ぶもんね」と言ってきた。それからケラケラと笑った。

「アボガドは落ちると思うなあ」
「失礼な!」
「後で巨大な虫とやらを退治してあげるよ」
「頼むよ」
「がんばる」
「ほんとにでかいんだよ」
「ふうん、アボガドって随分僕のことが好きだよね」
「そんなんじゃないもんね」
「ふうん」


















「ふんだ」 小さく言ったら、ルーピンはやっぱり笑った。(HAHAHA!とか言ってた)
 
   
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ソロモン、背後を奪われる / 2010年11月29日(月)
ケロケロが夢に出てきた。その日はジェームズとクィデッチで対決して、15対14でジェームズが勝った。ピーターが「時間を長く取りすぎだよ」といって呆れていた。特に珍しいこともなく、スネイプに悪戯して教師をからかって、リーマスが買ったビーンズを食べて殺されかけた。そしたらケロケロは夢の中で俺の箒を取りあげ、なにやらポケットを探ると、マッチだかライターだか、マグルが火をつける装置を取り出して箒に火をつけた。魔法がなければただの木の棒だから、それはもう面白いぐらいにボウボウと燃えた。俺はただそれを見て、綺麗だと思った。「火っていうのは人の心を癒す効果があるんだって」ジェームズがそんなことを言っていたな、なんて考えながら。




次は魔法薬学だから、嫌味が聞きたくないなら早く行ったほうがいい。そうジェームズに言われて頷きながらも、ケロケロを目で追った。ついつい目がいってしまう。それがこの間見た夢のせいだとも気づいている。同じ寮だし、彼女の友人とは前に付き合ったことがある。五日目で別れた。今まで忘れていたことで、ケロケロが夢に出てきたせいで思い出したことだ。面白くない。自分の人生すべて自分の思い通りにいくとは思わないが、今せめてこの生活だけは自分の考えで動きたい。誰かに縛られるなんてまっぴらだ。




スープが意外にもおいしかったので、パンにつけながら食べていると、隣の隣の隣にケロケロが座った。前に付き合っていた友人と一緒に笑顔でスコーンに手をのばした。ジェームズは俺の視線に気づいたようで、「ふーん、へえー」と言ったが、それ以上の追求はしなかった。どうせ後で部屋に戻ってから根掘り葉掘り聞かれるのだろう。うんざりするが、ジェームズのことは嫌いではない。必死でケロケロの声を聞こうと思ったのだけど、今まで名字の声なんて聞いたことがないことを思い出す。聞こえてはいるが、意識して聞いたことがない。ふと目をやるとケロケロはリーマスのほうを見て言った。「ねえ、リーマス。そこのドレッシング取ってくれる?」ケロケロは意外にも低い、落ち着いた声だった。




ジェームズは特に追及はしてこなかった。ただ肩をたたいて「僕の目を見て言えないことはしないでね」とだけ言った。なんのことだと言うと、またまたぁ、とおどけて肩をすくめた。たぶん、彼なりの"気になる奴がいたら絶対教えろよ死んでもな"という意思表示だったのだろう。笑顔で怖いことをやるから本当に油断できない。談話室でリーマスに紅茶を淹れてもらって、飲んでいるとケロケロがやってきた。そのすぐ後に友人が追いかけるように談話室にやってきて、おしゃべりを始めた。ケロケロは笑いながら、友人の話に頷いている。俺はなんだか妙な感覚に襲われて階段へと向きを変え、一歩のぼった。「あ」ケロケロが言って、思わず振り向いた俺は、ばっちり目が合ってしまった。誰と?って、ケロケロと。バツが悪くなってすぐに視線を逸らした。リーマスの不審気な目を追い払って、階段をかけあがる。視界の隅で、ケロケロが顔を赤くしていたことなんて、すぐに忘れてしまうだろう。



 
   
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replica boy / 2010年11月29日(月)
「あ」

「あ」







拝啓 お父さん、お母さん。今日はご報告したいことがあります。











今日は満月で月がいい感じに浮かんでいて、それを見ながら「いい酒だなあ」とマグルなんかは飲んだくれていたりするのだろうと、例の抜け道から明け方近く、人気がないのを理由に悠々と「あぁまた嫌な日が無事にっちゃあ無事に終わったなあ。テスト最終日の気持ちだな」なんて考えながら歩いていたのがいけなかったのだろうか。
だってまさか誰かがそこに待機しているだなんて考えもしなかったし。
今四時半だし。
うっすら明るいけど、まだ夜というか暁だし。

だって、まさか、いるなんて、まさか、おい、助けてジェームズ。←藁にもすがる。


鈴木とか佐藤だそうですねはこっそりと木の陰と柱の影に隠れるようにそこにいた。
僕は、というと乾いた葉を踏みしめながら堂々と歩いていた。

「おはよう鈴木とか佐藤だそうですね」
「え、ん?おはよう…?リーマス、え?」
「早いね」
「うん、いや、え?リーマスも早い、ね」
「うん」
「…うん、……?」

キリキリ と音が聞こえた気がした。


首の後ろに手を添えられているような感じがする。動けない。


「っていうか、リーマス」
「え、ん?な、なに?」
「怪我、してるんだけど、手当てとか…」
「あ、うん、うん、行くよ…医務室に」
「そっか。うん、そうだよね。行くよねそりゃ」
「うん、まあ人として医務室行かないとこれは」
「ついて行こうか?」

「え!いや、いいよ!そんなわざわざつき合わすなんてできないよ!」

「鈴木とか佐藤だそうですねはそこにいてくれていいからね!」
「気持ちだけ受け取っておくよ!ありがとう!」
「あの、ほんとに、ありがとう!でも、うん、一人で行けるから!」








バレた バレた バレた バレた

振り返ることなく急いで廊下を走り抜けた。柱の間から風を切る僕の姿が見えていたとしたら、きっと鈴木とか佐藤だそうですねはまだ僕のことを見ているだろう。その目にどんな表情が映っているかなんて興味ない。きっと驚いたのとがっかりしたのと、そんな感情がぐるぐるとロールケーキのように渦を巻いているんだ。

腕のピンク色をした傷跡からわずかに血が出てきた。
立ち止まってジッと見る。わけのわからない感情に流されるがままに、涙が出た。


キリキリキリと音がする。





医務室に行って、なんだか副作用がすごそうでいて、そうでもない いつもの薬を塗ってもらって、包帯を巻いてもらって、寮へと戻った。
足取りはとてもしっかりしていると言えず、ふらふらと、時折壁に激突しながら歩いた。頭の中にさっきの光景がフラッシュバックしている。ふらふらする。

また泣きそうになって、情けなくって下唇を噛んだ。どうしようもない。




*****




リーマスがいたような、そんな気がしないような。というか昨日の夜に「満月だね☆皆で将来について語らっちゃおうよパーティー」をしていた気がするのだが、いつの間にかみんないないし、リーマスは出てくるし、早足で去っていっちゃうし、どないせーっちゅーねん。


少しばかり頭が混乱していた。思考回路が乱れている。
昨日は少しさむかったから、風邪を引いたのかもしれない。思えばほんの少し熱っぽいような気がするし。

リーマスが必死に駆けていく姿なんて初めて見た。じゃなくて。


ちょっと待って(プレイバック)
昨日は満月で(証拠1)
リーマスは変なところから出てきて(証拠2)
おまけに明け方で(証拠3)
なにより傷だらけのボーロボロだった(証拠4)




「これはまさかアレか!男は狼なのよ〜気をつけなさい〜ってヤツか!?」

(ヤベッ 正解っぽい!私 頭いいな!)




*****




談話室の暖炉の前にポツンと置いてあるソファに腰掛けてみたはいいものの、なんだか落ち着かないのでホットミルクをいれて、ゴクリゴクリと飲んでみた。
それでもやっぱり落ち着かないので、腹筋を鍛えてみたはいいものの、なんだかそれでもやっぱりどうしたもんか、落ち着かないので、部屋に戻って寝ようと思った。きっとみんなが出迎えてくれる。でも鈴木とか佐藤だそうですねも気になる。僕のこれからの学生生活がかかってる。さっきは動揺していたけれど、よくよく考えれば、鈴木とか佐藤だそうですねが誰かに喋ればネズミ方式で皆に伝わって、僕は学校にいられなくなるはずなんだ。

それはマズイ。


「…口封じ」
「え、」
「え、あ…おはよう鈴木とか佐藤だそうですね」
「え、うん、え?おはよう…」
「うん、」
「……うん」


働け僕の前頭葉。


「あのさ、鈴木とか佐藤だそうですね…さっきのアレなんだけど」
「え、あ、うん。そのことなんだけど私アレさ」
「え、なに?」
「あ、いや、そっちから先に」
「いやいや、いいよ。鈴木とか佐藤だそうですね先に」
「いやリーマス先に言いなよ。私は後で」
「いやレディファーストが基本だからイギリスは。どうぞ」
「いや日本では割とレディファーストないから。先にどうぞ」
「遠慮するよ」
「(そんなやんわりと…!)」

「…」
「…」
「鈴木とか佐藤だそうですね…」
「うん、いや、あのさ、あのさ…」
「うん…」
「わ」
「わ、」

「私の友達がリーマスのことが気になるんだって、」
「へ?」
「それで、なんか、取りもって欲しいみたいなこと言われて」
「…」
「どうしようかと思ってるんだけどリーマスはどう?」
「…え?な、なに、が…?」
「その、誰かと付き合うとかそういうアレは…?」
「え、ああ、うん、え?」

だって、何だって?君、見たんだろ?鈴木とか佐藤だそうですねだって、昨日、『今日は満月なのでパーティーをします☆』とか言ってただろう?満月だって知ってたんだろう?じゃあもう気づいただろう?なんで僕に近寄るんだ。やめろやめろ。キリキリ音がする。冷や汗が出る。やめろやめろ僕の前から消えてくれ。

「リーマス?」
「え、うん、あ…」
「え…」
「あのさ、鈴木とか佐藤だそうですね」
「う、ん…?」
「もういいよ」
「え、なに、が」
「もういいよ。知ってるんだろう?」
「もういいよ。僕がここにいること自体間違ってるんだ」
「だからいいよ。正直に言ってくれていいから」

もういいよ。もういいんだ。
ここにいられなくなったって、それはしょうがないことなんだよ。



「私何も見てないからね」
「は」
「なんにも見てないし、聞いてもいない」
「あ、あの」
「熱っぽいから風邪ひいたかもしれないし」
「えーっと、あの」
「意識朦朧としてるからよくわかんないこと口走るかもしれないし、」
「え…っと」
「だからリーマスどこにも行かないでしょう?」

「どこかへ行ったりしないでしょう?」

頼むやめろ、やめてくれ。なんでそんな目で見るんだ。




*****




「だって、僕、狼だよ?」
「男はみんな狼よ年頃になったら気をつけなさいって言われた」
「(誰にだ…)」

鈴木とか佐藤だそうですねは僕の服の裾をつかんだ。そこは例のアレで随分擦り切れてボロボロになって、とても素敵な服ね、だなんて言ってもらえるようなものじゃなかったけれど、でもつかんだ。キリキリと、耳の奥から聞こえていた音はいつの間にか消えていた。
目の前には鈴木とか佐藤だそうですねがいて僕の裾をつかんでくれてる。どうすればいい?嬉しくてしょうがない。

ねえ お父さん、お母さん


「鈴木とか佐藤だそうですね」
「…」
「はなして」
「…すまん」
「いいよ。それから顔をあげないでね」
「え、な、なんで?は、鼻血出そうだから?」
「そう、鼻血出そうだから」
「え、あ、うん、ティッシュあるけど…?」
「うん、ああ、いいや。大丈夫」
「そ、そうか…」

「わ、私も花粉症なので日本にいたときはよくスギ花粉に悩まされたものなんだけど、だ、大丈夫?」

「あー…駄目かも」
「ええええ…!」

涙が出た。早く止まれ。鈴木とか佐藤だそうですねが上を向いてしまう。はやくはやく。でも駄目だ。嬉しくてしょうがないんだ。どうしよう。こんなの知らない。どうすればいい。ねえ、お父さん、お母さん。僕はどうすればいいですか?

はたから見れば異様な光景だった。僕はなんだか涙が止まらないし、鈴木とか佐藤だそうですねは鼻血とは〜とか延々と話しているし。けれど涙が止まらなくて、どうしようもなくなって、鈴木とか佐藤だそうですねの手をひいて彼女の肩に顔を伏せた。鈴木とか佐藤だそうですねがなにか言っていた気がするけれど気にしない。頭の中で声が聞こえた。もういいんだ。もういいんだよ。








 
   
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それでもってトーキー映画のように / 2010年11月29日(月)
ねえ、聞いてリーマス」
「なに」
「私 古典百点かもしれない」
「へえー…よかったね」
「え、なんだよ。それだけかよ。薄い」
「え、いや、だって、さあ」





君はこれ以上ぼくにどうしろっていうんだ ←サブタイトル





モンゴル!はスカートにしわができないようにか、そっと座った。体育館の裏で、テスト明けで、午後で、日差しが強かった。運動部は既に部活が始まっていて、僕はこれから帰りにコンビニに寄らなくてはいけないと考えていた。なぜならお昼がないから。


「モンゴル!はお昼どうするの?」
「…古典は無視か」
「だってさあ、」
「いや、もっと喜んで!嬉しいでしょ!?」
「別に君が満点を取ろうが僕が満点でない限り嬉しくないよ」
「私はリーマスが満点取れば嬉しいよ」
「へー…ありがとう」
「やる気をだせ!若造!」
「そんなこと言われてもね、おなかも空いたしね」


キー ン

ホームランだと、思った。一瞬。でも違ったようで、体育館の壁を覗き込むとレフトあたりが大きく手を振っていた。取ったんだ。モンゴル!はまだ大きく、しかも形の悪い石に座ったままだ。トラックが一台通り過ぎた。フェンスごしにそれが見えた。


「帰らない?」

笑いかけるとモンゴル!はうっとおしそうに、目線を上にあげてコクリと頷いた。
僕はそれに満足して、布製の鞄をそっと、持ち上げた。











続いちゃったりしてね
 
   
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お い で お い で / 2010年11月29日(月)
くるくるくるくるくるくる(エンドレス)羽ペンを回していて、ついに手がつって「いでー!」と叫んだところで、リーマスがいつものあの笑顔でやんわりと「ほら、言わんこっちゃない」と笑った。言わんこっちゃない、って。お前、いつ、どこで、発言してたんだよ。



「リーマス私 今日 誕生日」
「へえ」
「リーマス…」
「へえ」
「…今日 カズシゲの誕生日」
「ええっ!」
「そこかよ!そこで反応しちゃうのかよ!カズシゲって誰かわかんのかよ!」
「ごめん、撲滅☆。ちょっと からかってみただけだから」
「やめてよそういうの!私のハートはガラスでできて 「あ、ちょうちょだ」 聞けよ!!」


リーマスは淡い色をした羽の蝶々にむかって指を伸ばしながら、「おいでおいで」と言った。とてもとても優しい声だった。どうせなら私だってそんな声で呼ばれたいし、そんな目で見られたい。もうこのさい、リーマスにならばパンツ見られたって許せると思った。思ったところでリーマスは絶対のぞかないだろうとも思う。



「撲滅☆、レポートはいいの?できた?」
「よくないです。できてません」
「じゃあ早くやりなさいね」
「はい、お母さん」
「………」
「………」
「………」
「…お母さんのなにが不満でしたか」
「…性別が違うところが…」
「いいじゃんか、そんなの。些細な点じゃんか」
「じゃあこの間撲滅☆が割ったビーカーもほんの些細な点としてマクゴナガル先生に「本当にすみませんでした」わかってくれればいいんだよ」


ぐりぐりとレポートを書きなぐりながら、リーマスのほうを見やると、まださっきの蝶々を見ていた。好きなんだろうか(蝶々が)。欲しいのだろうか(もちろん蝶々が)。そんなに好きならば、言ってくれれば私がとってきてあげるのに。レポートは書けなくても蝶々ならばとってこられるよ。

開け放たれた窓の縁に蝶々がとまった。それから軽くジャンプするように植木の花に近づいて、また、とまった。リーマスは小さく口を動かしている。おいでおいで。

私なら行くよ。呼べばすぐに駆けつけてあげるよ。





「私 今日 誕生日なんだよ!」

なんだか苛々してきたので叫んでみた。蝶々はひらひらと窓の外に帰っていった。リーマスはびっくりした顔でこっちを見ている。蝶々じゃなくて私を見ている。(そりゃそうだ)

「今日 生まれました…!」
「うん」

リーマスは少し微笑んで 「この子しょうがないなあ」 という顔をした。

「うん、知ってるよ」
「え、なんだ、え、知ってるのかよ」
「知ってるよ。何年一緒にいると思ってるの」
「半年です」
「2分の1年」
「だから、半年じゃないですか」
「そうだよ」
「……祝えよ」
「祝いたいよ」


「でも僕も昨日聞いたんだよ」
「へえ」
「撲滅☆が言ってくれないから。誕生日アピールでもしてくれればよかったのにさ」
「(誕生日アピールってなんだ)」
「だからちょうちょ、を」
「生け捕りに?」
「ハッ。……指にとめて撲滅☆に見せてあげようかなあ、なんて」
「(えっ?今っ、『ハッ』って?え?)(ば、バカにされてる…!!)」
「思ったんだけどさあ…」
「(可愛い顔してこの子わりとやるもんだねと…!?)」
「…聞いてる?」
「え、聞いてるヨ!」
「(聞いてないな)」
「(蝶々で私が喜ぶと思ったんだ…)(バカだ…!)」



リーマスは少し考えるような素振りを見せて、ゴソゴソとローブのポケットをまさぐった。飴玉がふたつばかり出てきた。
ひとつを自分の中にしまいこみ、もう一つの赤い包み紙のほうを 「はい」 くれた。


「なに」
「たんじょうびおめでとう」
「(棒読み…)あ、ありがとう」
「うん」
「う、ん?」
「…大きくおなり」
「大きくなります」
「立派な大人になりなさい」
「頑張ってみます」
「もう少し勉強がんばりなさい」
「…え」
「それからテーブルマナーを身に付けなさい」
「…ええ。……。ええええ」


リーマスはにっこり笑うと、椅子から立ち上がって私の頭に手をのばした。
一瞬、突然放たれる光に目がくらみ、プライバシー保護のときの声で『目覚めよ…』とか言われるのかと思ったけれど、そうじゃなかった。普通に頭をなでられた。
(リーマス、私もう子供じゃないんだよ。)そう思ったけれど、いやじゃなかった。少し嬉しかったかもしれない。いや、嬉しかった。そして恥ずかしくもあった。

リーマスはそっと手を離して、またにっこり微笑んだ。

「紅茶を淹れてあげようか、撲滅☆のために」

「…、うん」 言葉につまった。嬉しすぎて。
「どれがいいかな」 どれでもいいです。

リーマスはたくさん茶葉を持っているんだろうか。棚の前で唸ってから、こちらを向いてあの微笑みのまま手招きした。おいでおいで。「おいで、撲滅☆」


いま行くよ。すぐに駆けつけてあげるからね。






お い で お い で









 
   
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LOVE LETTER / 2010年11月25日(木)



図書館でレポートが終わって、そのまま出ようとしたらグイと袖を捕まれ、無理やりに立ち止まらせられる。なんだなんだ、と振り向いてみればハチミツ色の髪に小さな顔をした茶色の瞳の女の子。「あの、」と小さな白い封筒を渡される。反射で受け取ってしまってから、ああ、と後悔したけれど、そこまで思考が行き着くには既に時間が経ち過ぎていた。宛名を見ると『ルーピン先輩へ』と書いてある。そんな馬鹿な。しばらく呆然としていて、これは夢じゃないかと思い込もうとしたけれど、何分経っても白い封筒は私の手の中だ。女の子は立ち去ってしまった。最後に「お願いします」だとかなんとか言っていたかもしれない。質感のいい白い紙は私の中でくしゃりと折れた。





LOVE LETTER







「そんなわけなんだよ、リーマス」
「どんなわけなんだよ」
「だから、なんか、ラブレターが、あの」
「えー、僕別にいらないから、撲滅☆持っていてよ」
「え、えー…(そんな)」
「捨ててもいいから」
「ええええ、えー…」

リーマスは談話室のソファで寝そべりながら本を読んでいた。ちょうど手が届く位置にテーブルがあって、その上に乗っているクッキーをボソボソと食べている。
そのクッキーの横にさっきの白い封筒が置いてあった。

「リーマス」
「なあに?」
「一応、その、読むとかさ…」

ソファがギシっと揺れてリーマスの上半身が背もたれに寄りかかる。顔をしかめて白い封筒に手をのばした。

「めんどくさいな」
「そんな…」
「だって、知らない子だからさ。どうしようかな、知ってる子ならまだいいのにな」
「知ってる子ならいいの?」
「そりゃあ、だって面白いし」
「(面白いのか)ふうん…」
「……なに?」
「…別になんでもないですけど」
「え、なんなの?」
「なんでもないよ。私もクッキー食べるよ」


手近にあった椅子をガタンと持ち上げた。結構重かった。リーマスの傍まで来ると、クッキーの方向へむくように椅子を置く。白い封筒はピリピリと開封されようとしていた。


「撲滅☆、クッキーこぼれてるこぼしてるよ」
「そんなことない」
「いや、そんなことあるって、すごいこぼれてるよ」
「見間違いだよ」
「え、あ、…あ、そう」
「………」
「………」
「……すいません、こぼしました」
「知ってた」
「すいませ…」


カサリと音がするほうに顔を向けると、例のラブレターに目を通すリーマスの姿があった。鳶色の髪が顔にかかって、正直鬱陶しい。さっきまでクッキーまみれになっていたからか、リーマスから甘い香りがする気がする。気にせいだろう。しかもなんだかハチミツの匂いがする。あの女の子の髪の色だと思った。


「…マニュアル通りのラブレターだね」
「ラブレターのマニュアルってなんだ」
「ううん…もっとインパクトが欲しかったな」
「(ラブレターでインパクト…)難しいことを言うね」
「そうかな?」
「そうだよ」
「…僕ならもっとうまく書くよ」
「へえ…」
「信じていないね?」
「信じてるよ」
「じゃあ、いいよ。今度撲滅☆に書くから」
「へえ、……ええええ、いいよ、別に」
「なんで、書かせてよ。うまいよ、僕」
「ラブレター書くのがうまいって自慢にならないよ、いいよ別に、間に合ってる」
「え?なに?撲滅☆貰ったことあるの?まさか」
「まさかって何!まさかってまさか私が貰ったことなんて的なまさかなの!?」
「それ以外に一体なにが?」
「キイ…!」
「で、貰ったことあるの?まさか」
「………キイイ…!」


地団駄を踏む私にリーマスが笑いかけてくる。この笑い方は好きじゃない。誰にでもこう笑いかけるからだ。ハチミツの君にもこんな風に笑いかけたんだろう。そしてあの子は恋に落ちたんだ。いいじゃないか青春じゃないか。ただ、私の目につかないところでやって欲しかった。

リーマスは手紙を丁寧に折りたたんで、封筒にしまいこんだ。それをつかんでグシャリと潰してしまいたかったけれど、そうするには少し勇気が足りなかった。


「………」
「…なに?」
「…どう、だった?」
「なにが?」
「ラブレターが」
「気になるの?無粋だね」
「うっ、…気になるよ」
「へえ、普通だよ。普通に、好きです、と書いてあったよ」
「ど、どうするの?」
「なにが?」
「へ、………へんじ」
「…返事かー、いいんじゃないのかな。付き合ってください、とか書かれてないし」
「エッ!(ありなのそれは)」
「さっきからなんなの、撲滅☆」
「え、えっとー…。………クッキーを食べるよ」
「……。…食べなよ。もっといっぱいあるよ」
「え、いいよ、ここにあるのだけで」
「そう?謙虚だね…」
「(謙虚…?)そうでもないけど」
「…『好きです』ってさ、よく書けるよね」
「え、なんで、」
「だって恥ずかしくないかい?僕、ムリだな」
「へえ、私も、ムリだな」
「もっと遠まわしな表現になってしまう気がするよ」
「へえ、」
「でも、ラブレターはうまいよ!」
「いいよ、そんな自慢は…」

リーマスは自分の身体をソファに沈めながら、ため息をついた。疲れきった、という顔でクッキーに手をのばす。器用に人差し指と中指でクッキーをはさんで、自分の口へと運ぶ。左の手には白い封筒が握られている。

「これがさ、」

リーマスは白い封筒をカサリと私のほうへ見せた。そんなことをしなくても元から見えていたけれど、強調表現だとしたら申し訳ないので、それがどうしたと目線で合図した。したにも関わらずリーマスは目を閉じていて、私の苦労は水の泡だった。たいした苦労もしていないけれど。



「……それが?」
「撲滅☆からだったらよかったのにね」

そう言ってまたため息をついて、私の視線に気づいてにこりと笑った。
それは一体どういう意味だ。
 
   
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プリズム / 2010年11月25日(木)
まず、最初に自転車に乗れなかった。
逆上がりも中々できなかったし、テストだっていい点を取ることは稀だった。五十メートル走は十秒台だったし、ハードルなんて転んだ記憶しかない。唯一泳ぐことだけは得意だったが、それで点数をもらえるわけはない。ドラえもんを見ながら「あ、私に似てるな」と思ったのがのび太君だったとかそういう思い出しかなかった。

それから何の成長もなく、今私は階段の下でうつぶせになって倒れている。
心なしか足が痛い。

血が出てたら泣こうと思って顔を上げると、そこに黒い綺麗に磨かれている靴があって、それが視界に入ってくると同時に嫌な予感がした。背筋が寒くなる感じで、夏にやってるホラー特集を見ているときのそれと酷似していた。
おそるおそる顔を上に持ち上げる。重力がとてつもない力で押さえつけるものの、首は確実に曲がって、顔は確実に上がっていった。ギシリギシリと音がする。黒いズボン、アイロンのかけられたシャツにオレンジのネクタイ。視線がついにその顔に到達したとき、私は正直死にたくなった。死ねないのなら実家に帰らせていただきたくなった。

「お前さ、バカじゃねえの」

綺麗な顔、綺麗な声、ブラックだった。ファーストネームなんて覚えてない。



プリズム





私は急いで顔を背ける。何をしたわけじゃないけれど、恥ずかしくなって立ち上がった。一刻も早くこの場を去りたい。いきなり立ち上がった所為か、ふらり、眩暈がした。眩暈なんて滅多になくて、あっても寝起きのときとかで、私は自分の体を支えきれなくなって少しよろけた。その瞬間、右腕を掴まれる。誰だ、と思ったけれどブラックしかいないんだから、もちろんそれはブラックなのだ。彼は不機嫌そうな顔で、それでも十分綺麗な顔だったけれど、とにかく不機嫌そうに眉をひそめつつ、舌打ちをした。私が一体何をしたというのだ。

「お前さ、階段から落ちていきなり立ち上がるなよ」
「……え?は、」
「だから、いきなり立ち上がると眩暈とかすんだろ?わかるか?」
「え、あ、はい。わかります」
「よし。それでな、一番上から落ちてきてんだろ?骨折とかしてたらどうすんだよ。慎重にやれよ、もっとさ」

え、あ、は、はひ(←噛んだ)とか返事をしながら私は心臓を抑える。右腕はブラックに掴まれたままで、そこから血が逆流してきそうなほどに緊張していた。低くて落ち着いた声をしている。綺麗な声だ。ボキャブラリーがもっとあったなら、もっとマシな、適切な表現ができていたろうにと少し後悔する。こんなことなら毎日の読書に辞典でも読んでおけばよかった。
ブラックはまだ何か言いたそうにしていたが、これ以上何か言われようものなら心臓が止まってしまう。ただでさえ階段から落ちて体が痛んでいるのに、ブラックに話かけられることによって心も痛んでしまうと思った。

ブラックはそれ以上何も言わず、私も話しかけることなんて天気の話題くらいしかなかったので、本当に一刻も早く立ち去りたかったのだけど、右腕は解放されないので私は逃げることができない。早く、早く逃げ出したかった。ブラックもそうだが、ポッターとか、そういうキラキラした人たちとはあまり合わない。道でティッシュを渡す人がいたとして、私は渡されないまま気づかれもしないまま通り過ぎるというのに、この人は渡しているのに気づいていながら顔を上げて無視をするタイプだ。絶対ムリだ。分かり合えない。分かり合おうという気もない。早く帰りたい。早く帰ってなんでもいいから部屋にこもりたい。夕飯だってもういい。ブラックと顔を合わせるくらいなら私は栄養失調になって病院に運ばれることを選ぶ。
なのに腕は掴まれたまま、私の顔は青ざめていく。

「どうした?」
「…え?な、なにが」
「顔色悪いぜ?どっかぶつけたのかよ」
「え、あ、いや、大丈夫で、す」
「ふうん…そうは見えねえけどな」

だったら今すぐ手を離して欲しい。ブラックが手を離さない限り私の顔はどんどん青白くなっていく。そうでなくても引きこもりすぎて肌が白いのに、それ以上白くしたらまるでお人形さんみたいよ、を通り越してまるで霊安室のようよ、だ。霊安室に例えられるなんてとんだ生き恥だ。
私はブラックなんて人たちとは関わりなく生きてきたから、こんなときの対処法を知らない。知りたくもない。こんなどっきりハプニング今回限りにして欲しい。思考はいまだかつてないほどに高速で回転し続けるが、それですら追いつかないほどに 私の心臓は振動を繰り返していた。アドレナリンの出しすぎで死ぬような気がする。寿命がどんどん短くなっている気がする。ついに私の思考回路の片隅で、小さな地球が誕生したとき、頭の上から例の綺麗な声が降ってきた。ドキリ。そのうちアドレナリンだって底をつくだろう。そしたら私は間違いなく、死ぬ。

「ひざ…」
「へ…?」
「ひざ、お前、血が出てる」
「え?あ、(マジですね)」
「足、痛くねえか?大丈夫か?」
「え、は、はい。大丈夫です」
「お前、さっきも言ったぞ、ソレ。それで血が出てるんじゃ信用できねえよ」
「は、…す、すみません」
「なんで謝んの?」
「え、だ、だって」
「いいけどさ。つーか、医務室行こうぜ。怪我してるしさ」

言うなり右腕がグンッ、と引っ張られた。まさか引き寄せられているのか、と考える前に私はブラックに担がれていた。いきなり目の前が黒くなって、それがブラックのローブだということに気づくまでに数秒はかかった。ゆっくり数えて数秒だ。お風呂に入っているときに数える感じで数秒だ。随分長い時間だった。私にとっては長い時間でも、ブラックにとってはやはり普通に数秒だったようで、我に返ったときは既にスタスタと歩き出していた。心地良い振動を感じながら、ブラックの背中は広いなあと考えていた。頭の片隅でビッグバンが発生した。

「え、ば、な、は、離してくださ、い…!」
「え?なんで?」
「な、なんでって…おおおおろしてください!」
「え?なんで?」
「な、な、なんで、って…」
「え、ちょっ、おい。泣くなよ…こっちのほうが楽だろ?」
「…あ、歩いて、いけ、ます」
「歩かれると迷惑なんだよ。どうせまた転ぶんだろうし。っていうか文句言うな。それ以上言ったら張り倒すからな」

威圧感のある声でそう言われれば、何も言えない。私はなされるがままに担ぎ上げられた状態で、医務室まで運ばれた。途中すれ違った生徒に今まで見られたことのない視線をぶつけられたのが、印象的だった。印象的すぎて夢に出てきそうだ。夢に出てきたうえにうなされそうだ。嫌だ、どうせなら高いケーキをたらふく食べる夢とか見たい。

医務室は誰もいないようで、ブラックは勝手に扉を開けて、勝手にベッドに私を下ろす。ヒョイ、とか音がしそうなくらい軽い動作で下ろされて、私の心臓は高鳴るばかりだった。これほど大きな音なのだからきっと相手にも聞こえているに違いない。私はゆっくりとブラックのほうを向く。ブラックは周りを見回していた。それから先生が不在なのを悟ったのか、大きなため息をついた。その動作すらも華があって、私は眩暈がした。早く立ち去って荷物をまとめて家に帰りたい。白アリ駆除したばかりの家に帰りたい。

「足」

私の脳内で、日本に帰って白アリ駆除した家に入って「いやーイギリスってなんか肩こっちゃってさ。やっぱり日本が一番だよ」と言ってるあたりまで妄想が進んだあたりでブラックの声がした。私は現実に引き戻された。

「足、見せて」

幻聴などではないようで、確かにブラックの声はする。発生源は私の足元からだった。しゃがみこんで包帯となにか茶色のビンを持っている。一瞬「ヒ素」とか「麻薬」とかの言葉がワルツを踊ったが、そうではないらしい。日本で言うマキロンのようなものらしい。それなら別に大丈夫だろうと思って、足を出す。ブラックは甲斐甲斐しく世話を焼く。早く帰ればいいのに。こんなものはツバでもつけとけば治るはずだ。足のほうに意識を集中させないようにアンパンマン体操の歌とかを思い出していたのだが、それもなかなかに無茶だったようで、私の心臓は高鳴るばかりだ。そのうちメーターが振り切れる気がする。そしてその時こそ、私の人生の終着駅に違いない。駅員という名の死神に肩を叩かれる日も近い。
ちなみにブラックは指も綺麗だった。完璧ボーイとはこのことだ。

「ん、オッケイ」

私の中の脳内妄想が頂点に達しようとしていたときには既に作業は完了していたようで、ブラックはスタッと立ち上がり、「立てるか?」と手を差し出してくれた。彼の後ろから光がさしているように見えた。半ばボーっとしながら私は手を取る。ブラックはそっと、私を立たせてくれて、それからゆっくりと手を離した。その間中ずっと、彼の後ろから光がさしていた。私の得意な脳内妄想かもしれないと思った。もしくは彼自身が光り輝いていたか。まあ、どっちでもいいような気もするけれど。

「お前いっつも危なっかしくて、見てらんねえ」

ブラックはどこまでも整いすぎているその顔を少しだけ赤らめてそんなことを言った。もしこれが私お得意の脳内妄想だとか白昼夢とかでなければ、これはつまり、ブラックから私に矢印が出ているということだろうか。そんな馬鹿な。私は彼のファーストネームさえ覚えていないのに。

 
   
Posted at 15:23/ この記事のURL
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ひとつ夜を飛び越えて / 2010年11月25日(木)
今日はとても天気が良かった。なので布団を干した。ついでに枕も干した。最近なんだか頭が痒いのでカビとかいるのかもしれない。その可能性がある限り枕を干す必要があると思った。そんなわけで窓際に干しておいた。ちなみに窓は開いていた。全開。

そして枕が行方不明になった。理由はとりあえずわからない。所帯のない枕カバーだけがヒラヒラと風に揺れていて、私は本気で泣きそうだった。日本から来るときに唯一お金と枕を持ってきたこと。悩みを抱えて蹲って枕を涙で濡らしたこと。色々なことをしたなあと感傷に浸りながら、本気で泣きそうになった。とりあえず泣くのは時間の問題なので、あと一時間くらいしたら私はたぶん本気で泣き出す。部屋を探したが見つからない。下に落ちたのかもと思って探したが見つからない。同じ部屋の子が間違えたのかもと思って、ためしに寝てみたがやっぱり違う。なにがどうして枕がないのか全くわからない。日本に帰りたい。

「下に落ちたんじゃねえの」

シリウスに相談するもこの始末。だから駄目なんだお前。

「え、なにが駄目なんだよオイ」
「もういいよ…シリウスに聞いた私が馬鹿だったってことで」
「おいおい、完結すんなよ。っていうか下に落ちた以外考えらんねえじゃんか」
「下探したもん。なかったもん」
「もう一回探してみようぜ。俺も行くから」
「当たり前だろ馬鹿」
「馬鹿じゃねえ」

そしてやっぱりなかった。というかもう既に夜だったので、探すにも暗すぎて探せなかった。明るかったならよかったのかもしれない。でも今はもう暗かった。小さな枕は大きな草むらに隠されてしまったのだ。

「元気出せって」
「…(ぐすっ)無理だろ…」
「あー…ほら、いざって時は俺が腕枕してやるから」
「女子寮入れないだろ…」
「お前がこっち来ればいいんだよ」
「嫌だよそんなん」
「(俺のありったけの優しさが蔑ろにされた瞬間)」

「もうヤダ…日本に帰りたい」
「帰るなよ。帰るくらいなら俺が新しいの買ってやるって」
「(ぐすっ)…うん」

部屋に帰れば何事もなかったかのようにあるかもしれない。そんな願いを込めて部屋に戻ったが、結局なかった。そりゃそうだ。ないものはないのだ。もしかしたら明日の朝、明るくなってから外に出ればあるかもしれない。シリウスの申し出はとてもありがたかったけれど、やっぱり私はあの枕がいい。あの枕でなければ夜を飛び越えられないのだ。私は一人部屋の中で、ゆっくり目を閉じて考える。ああ、どうかどうか。次に目を開けたときにあの子が帰ってきていますように。今はただ、それだけを祈るしかない。


 
   
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