猪野の東野

September 06 [Tue], 2016, 6:04
あの日光、離れる点しかなかった。そんなふうに思ってここまでやってきた。


嫌いで離れたわけじゃない。憎んで離れたわけじゃない。


けど、贔屓だけじゃ近隣にいられなかった。
牧野の笑みを胸に、自分は身の丈を向けて歩き出した。


社主就任。

「仲間くん、この度はおめでとうございます」

若き社主の生まれに業界もマーケットも大繁栄だった。
あんな世間の興奮とは裏腹に当の本人の自分は冷え切っていた。


牧野を守れなかった自分が悔しかった。
乳児すぎた自分に憎悪がしたのを思い返す。
花沢物産でのし上がるためにジュニアだから2世の中だからという言わせないために自分は死に物狂いで働いた。
気付けば業界からの手加減ない評の所感や政略成婚のコメントが持ち上がる度に傷つきたまに牧野へのアイロニーに自分は気持ちをまわす残余もなかった。


そうして牧野は自分から別れることを選んだ。
それが自分につきだと呟いた。


最後のあの日光、牧野は笑ってみせた。
これは悲しい離婚じゃないよって。
別々の回廊を出向くけれど
仮に離れても想ってると。

ベッドの中で寝入る牧野の容貌をどんどん眺めていた。
これがフィニッシュだと思うと眠れなかった。

笑みをみせた牧野が涙を流して寝言で呟いた。
”1個人にしないで”

それが今も耳から離れない。


花沢物産の社主室の窓から外部を眺めていると
先まで降っていた豪雨がのぼり、雲間から日射しが差し込んでいた。

清々しい雰囲気を感じながら自分の心はきびしく重く鈍色の雲がかかっておるみたいだった。


その時、虹が見えた。

トップにのし上がり、すべてを手に入れたのに何だかはかなくて・・・。

近隣に牧野がいない。


すべてから守りたくて力を塗り付けたのに。
貫き通したいはずの牧野が更にここにはいない。


その現実に心中がちぎれそうなほど痛んです。

「あ、婦人!見て!虹だよ」

「え?」


見上げるというそこには大きな虹がかかっていた。


「虹のオープニングってどこに起こるんだろう?」

「ウフフどこに生じるんだろうね」

「今日はヴァイオリンの講義だから迎えは6機会だからね!いって来る」

「気をつけてね!」

4年生になる子供を習い事に送り出して、見上げるというまったくそこにいらっしゃる虹につくしは心中が締め付けられた。


「仲間・・・見てるのかな?」

喉の深層がぴたっと締め付けられ涙がこみ上げて生じる。


今朝、レポートで知った花沢類の社主就任。
TVに見える花沢類にブレスが出来ないほどバストが締め付けられた。

「社主就任、おめでとう。需要が叶ったんだね。
仲間・・・とうに私の振る舞いなんて忘れたかな・・・」

センチメンタルになってる自分に苦笑いしながら泣いた。



二度と前に進もうと決心したのに
心中だけ立ち止まった通り・・・。
仲間を想って離れたあのところと何も変わっていないのに
かりに想ってももっと仕方の届かない個人なんだと思い知らされる。


「仲間、今も穏やかに微笑んでるのかな?」


仲間がただ幸せであってほしい。
つくしはそう願った。

もしもし牧野・・・目下、運?

世の中に過ぎ行きてるであろう社主就任のレポートで自分を見て
少しは自分の振る舞い思い出してくれてる?


もしもし・・・牧野。
あの機会、選んだ離婚は間違っていたのかな。

もしもし・・・牧野・・・かわいがりてるよ。今も常に。


かりに叫んでもだいたい更にさらに届かない。


1個人、広場に入るってがらんとしたスペースに独り者が身にしみる。
絶えず窓辺に座って笑ってくれていた牧野の伝説が当てはまる。

も近づくと伝説は消えて仕舞う。


更に窓辺にはいない牧野を想い、涙が頬を伝った。


牧野が幸せでいるなら次いでいいと思ってきたのに。
すべてを手に入れた今も心中が晴れない。
牧野がいない自分に何が残っているのだろう。
牧野の悲しみを拭い去ってやれなかったあのところの無力さから望んだ今のトップの座。
すべてを象徴する高層ビルからのシーンにただ悲しみという独り者しか感じなかった。

あれほど望んだ今後だったはずなのに。


「ママー!のろいよ。」

「すまんすまん、ちょい散歩しながら来たら遅くなっちゃった」

公園の縁台で泣いたせいで瞳が腫れていないか確認して
メーキャップを直して招待に来たらいつもより遅くなってしまった。


「聞いてよ、今度の発表会でソロというトリオもするんだよ。
婦人来て受け取るでしょ?」

「無論!カメラもバッチリ用意してるからね。どんな曲弾くの?」

「カノンだよ!婦人の好きな曲だよね」


頭に洩れるのは、あの窓辺で長い右腕の栗色の髪をした王子くんという花沢仲間が弾くヴァイオリンの音調。




「もしもし婦人、トリオ始める仲よしは父も見にくるんだって。
わたしにはどう父がいないの?って聞かれたんだけど、死んじゃったんだよね?」


ビー玉というギンギンしたまぶたで真っ直ぐにつくしを見つめて現れる。


答弁に詰まったつくしはブレスをするのも置き忘れるほど苦悩した。


「あ!まだまだ虹が当てはまるよ!!うわぁ、両方だよ!?どこまで続いてるんだろ?」

走り出した子供の後ろ姿を見つめながらつくしは泣き吐出しそうになった。


物静かで幸せに満ちてるはずなのに心中がえぐられたように痛む。


「類の振る舞い歓喜してる類。二重の虹ですなんて・・・。もしもし、仲間?」

やるせないほどいとしい個人を想ってつくしは虹を見上げてそんなに呟いた。


自宅の窓辺に座り空を見上げてこういう空の下に牧野もいるのだろうか。


「虹が・・・」


二重の虹が出てるのを見て、牧野を想った。
今更、どこかで笑顔でこういう虹を見ていてほしいと。

おんなじ空の下、元気は交差する。
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